人の旅を笑うな ~ベトナムの水辺の村へ~

ちょっとだけ垣間見た川と湖のほとりの暮らし

54 閑散とした森のホテルで

2017-03-30 07:10:00 | ラック湖 お話
言われるまでもなく、ガーデンの木陰のベンチに座る。涼しくて心地いい。ベンチに座って、このホテルをキャンセルできないかということを考えた。
けれどアゴダから引き落とし手続きがされる。あるいは、このホテルにチェックインしたままさっきのモーテルに泊まってしまうということも最悪ありかもと考える。少なくとも明日の宿はさっきのモーテルにしよう。早速電話する。
「はい、泊まれます」と言って名前も聞かれず切れるのでもう一度かけ、名前を言って念を押す。いわゆる安宿系のところは行き当たりばったりでそのときその場にいる客を入れるから不安なのだ。予約完了。

ほっとして、周りを見回した。ほどよい密度で高い木が生え、下は芝生や草地になっている。木陰のベンチから湖が見える。園内は遊歩道がめぐらされている。が、誰も遊んでいたりしない。
この広い庭園をこのように手入れするのは相当大変だろう。レストランもやたら広いけれど客はなく閑散としている。この施設、大丈夫なのだろうか。

どうしてこのホテルはこんなに客がいないのだろう。宿泊サイトにちゃんと載っているのに。さっきのモーテルは載っていなかったのににぎわっていた。不思議だ。経営次第でこんなに差が出てしまう。このホテルをこのまま維持していくのはきっと困難だろう。来年営業しているかどうかすら分からない。レストランには3、4人のスタッフがいてぶらぶらしている。受付には2人のスタッフがいる。そのほか、庭を掃除する人などがいる。経費がかかりすぎる。

と、余計なお世話なことを考える。きっとこのホテルの経営者は大金持ちで、趣味でこのホテルをやっているだけなんだろう。


トイレを探した。フロントの向こうの、1階建の長屋みたいな建物の奥にみすぼらしいトイレらしき小屋があるのが分かる。行くついでにその長屋をのぞき見る。不潔ということではないが、あまりきれいとも思えない。1つの部屋にベッドが3つあり、誰かが泊まっているのか、黒ずんだシーツはぐしゃぐしゃに乱れている。タオルなど投げ出してある。誰もいない。

私が泊まるのはこのどれかの部屋なんだろう。かなりぞっとする。さらに、トイレに行くと、汚くはないけれどあまり心地よくない手動水流し式。シャワーも同じ。インドネシアで一番安価なみすぼらしいドミトリーに近い。

「ここに泊まるのはいやだ」とはっきり思った。

値段も結構いいのに、この設備はないだろう。何よりエネルギーが感じられない。どうしよう。とにかく、今日もさっきの象のいたモーテルの方に泊まろう。
電話を取って、かける。1回ベルを鳴らしかけ、すぐ切る。まだ迷っている。

迷い、迷って、もう一度かけようと電話を手にしたそのとき、受付女性が呼びに来た。お部屋の準備ができました、と。

私はいやな顔をしていたと思う。傲慢ないやな客に見えただろう。事実、見えただけでなくそのものだったかもしれない。不安な顔のまま、とりあえず部屋を見せてもらおうと思って女性についていった。




市場にて


近くのカフェ

53 今度こそ、本当のラックリゾート

2017-03-29 07:10:00 | ラック湖 お話
ベトナム南部、ラック湖。旅7日目の午前。

もうラックリゾートに行くのがめんどくさいので、ここに泊まってしまいたかった。でも宿泊サイトで予約したのでその料金は引き落とされる。そんな無駄遣いはしてはいけないことだ。ぐっと我慢して私が予約した本当のラックリゾートに向かうことにした。

遠いと言われたのでバイクタクシーに乗る。20,000ドンだと言うので10,000ドンにしてと言ってみるがだめだ。ベトナムのバイクは負けない。定価なのだ。バイクは私が元来た道を走り出した。

そして、最初にバスの運転手に指差されたあたりの学校の横を曲がる。そこからほんのわずかのところのゲートの前でバイクは停まった。
最初に湖畔の向こうに見えていた建物がそうだったのだ。写真の角度が違ったから宿泊サイトのと違って見えただけだ。学校までほんの少し歩けば、ラックリゾートの看板が見えたからすぐに行けたのだ。しかも20,000ドンは少し高すぎる。1kmぐらいだ。疲れてなければ余裕で歩ける距離だ。


正しいラックリゾートは、正しくリゾートだった。フォンディエンのミーカンビレッジを思い出した。ミーカンビレッジのようにけばけばしくもないし派手に営業してもいないけど、人の暮らしから切り離された森林公園だった。日本にいて高原のリゾートに行くのだったらそういう雰囲気は歓迎だ。けれど、私は人の暮らしを見に来た。こんな静かな、誰も来ないようなところに滞在したくない。さっきのモーテルは地元の人が普通に住んでいるロングハウス村に接していて、人の暮らしの中にあった。市場も近かった。それに活気があった。エネルギーを受け取ることができた。

ああ、こんなところに来てしまった……。

とにかく予約してあるんだから、手続きしなくては。
門の横の受付棟に行くと、英語が分かる30代ぐらいのあまり愛想のよくない女の人がいて、パソコンで予約をチェックし、困惑しているようだった。

ああ、予約が通ってなければいいのに。それか、予約は入っているけど二重予約か何かで、申し訳ありませんが本日はだめです、と言ってくれないかな。心はすっかりさっきのモーテルの方に行っていた。

受付の女性はしかめっ面をして言った。「すみません、今、男の人が1人いて、まだ掃除が終わっていないので今すぐには入ってもらうことができない」。

時計を見て早すぎることにやっと気づく。チェックインタイムは確か2時だと宿泊サイトに書いてあった。まだ9時だ。そんな朝早く来て入れるなんて思っていない。朝4時から活動しているから9時なのに午後2時ぐらいに感じていたのだ。

「ごめんなさい、早く来すぎたわ。気にしないで。午後でいいですから」と言うと、「いえ、少しだけ待ってください」と。ホテルの場所が分からなくてさんざんうんざりした気分だったから、私はすごく怖い顔をしていたんだろう。受付女性の顔もこわばっている。そして「園内を見て回っててください」のようなことを言った。


民家の前に干してあるトウモロコシ

52 にぎわうヴァンロン・モーテル、スタッフの賢い女の子たち

2017-03-28 07:10:00 | ラック湖 お話
ベトナム南部、ラック湖。旅7日目の午前。

市場からさらに進むと、また驚いたことに、木造の高床式ロングハウスが並ぶ小さな集落があった。子どもたちも鶏たちも走り回っている。『地球の歩き方』には高床式ロングハウスのある村のことがさも珍しそうに書いてあるけど、別に探さなくったって普通にあるみたいだ。

その先の湖畔に大きなゲストハウスらしき建物があった。庭には白人客がたくさんうろうろしていて、ぴかぴかの大きなバイクもたくさん停まり、ベトナム人ガイドみたいな人が黒いジャンバーを着てキメている。そして、ふと見ると、象が走っている……!
庭先にはレストランがあり、木にはバナナがぶら下げてある。旅行者のたまり場になっているようだ。やっと着いたのだ!

看板を見るとVan Long Motel と書いてある。エコツーリズムとも書いてある。グーグルマップではそこがラックリゾートだった。『地球の歩き方』のラックリゾートもそこだ。別名なんだろうか。近くにいたベトナム人ガイドらしき人に聞いてみた。すると、湖の向こうを指差して言った。「ラックリゾートはあの丘の向こうだよ。遠いよー」。元来た方だった。

……疲れた。
全く間違いだらけの地図だったのだ。
一体どうなっているのか全然わけが分からない。引きずっている荷物が、本当にお荷物だ。


けれど、せっかくそこに来たので料金を聞いておこうと思う。
レストランの奥に行き声をかけると、驚くほど英語がよく通じ、話もよく通じ、てきぱきした、しかもかわいい子が出てきた。若い女の子が3人ぐらいいて、その中のリーダー格だと思われる子だ。

リーフレットを見せながらすらすらと説明をしてくれる。ドミトリーはわずか100,000ドン(520円)。象に乗るツアーだの、ボートに乗るツアーだの、いろいろなプログラムも用意されている。

話しているうちに、彼女は突然熱心さが増して、部屋を見て行かないかと言う。私が一眼レフを首から下げていたので雑誌か何かの取材だと思ったのかもしれない。それで、レストランと同じ棟の250,000ドンの素敵な個室も見せてもらった。木枠の窓があってかわいいカーテンがついている。
けれど、100,000ドンのドミトリーは伝統のロングハウスで、ベッドがずらりと並び、トイレはきれいな洋式のが部屋の中についていてとても快適そうだ。シャワーは別棟で普通に床が地面と同レベルの、それしか仕方のないシャワーだったけれど、そういったことにはもう慣れた。私は一気にそこが気に入った。あまり好きではない、観光客が入れ替わり立ち替わり出入りしている場、だけれど、活気があってエネルギーに満ちている。

そして何より驚いたのは、ここのスタッフたちがみんな驚くほど利発で話が通じやすいことだった。ベトナムに来てこんなに話の通じる所は初めてだ。大都市ホーチミンでも、カントーでも、あまり人々との意思疎通はパッとしなかった。けれど山岳少数民族の村と言われているこんな奥地で、こんなに話の通じやすい人たちがいる。ここの子たちには田舎っぽさが全然ない。むしろ都会に来た気がした。

私は彼女に、ここの子たちはみんなこのあたりから来ているのかと聞いた。全てがそうとは限らないが、彼女自身はこの近くの出身だそうだ。






51 レタスいっぱいの朝の麺 湖畔のパラソル

2017-03-27 07:10:00 | ラック湖 お話
ベトナム南部、ラック湖。旅7日目の午前。

トランクをひきずって宿泊サイトの地図の方に向かった。歩道は四角いコンクリートのタイルがぼこぼこしていて、トランクのキャスターが壊れないか心配だ。やっぱりいわゆるバックパッカーのようにリュックの方がいいのかなと思う。でも重い荷物は結局背負えなくてかえって身動きが取れなくなることは経験済みだ。それにリュックは水や衝撃に弱い。コロコロしたり背負ったり両方できるやつがいいかな。うーん。と考えながら歩く。

大通りにはいくつも店が並んでいる。たくさんのサラリーマン風の男の人たちが麺を食べている店がある。行政マンっぽい感じの制服を着た人が多い。その隣にも麺屋はある。そっちの客は若い男の子が2人だけで、しかもその家の子みたいな空気だ。ここはやはりお客の多い店の方に入る。おなかがすいていたわけじゃなかったけど、地元の人が集まっていると同じことをしてみたくなる。
店の客たちが興味深そうに私を見た。私は同じものをくださいと頼んだ。



麺と一緒にレタスを細かくちぎったものが皿に山盛り出てきた。生はキケンなのでそれをあまり多すぎないように麺に入れてよくかきまぜて熱を通して食べる。特においしいとも思わないがまずいわけでもない。



食べ終わって、またトランクを引きずって店を出た。
通りは広く、コンクリートで舗装されて全体に白っぽくほこりっぽい。両側に広々と敷地をとった大きな四角い建物がある。ところどころに店舗もある。車はそこそこ通る。スマホの宿泊サイトではこの大通り沿いに宿の場所がポイントされていた。けれどどんなによく見てもホテルらしきものは全くない。もう一度確かめると、グーグルマップには「ラックリゾート」という文字がまたしても違う所に書いてあった。なんだ。間違いだらけじゃない……! 腹を立てながら今度はその文字のある方を目指した。

大通りから入った湖畔に近い道の方へ行く。湖に面した歩道にカラフルなパラソルが並び、椅子が出ている。そこで冷たいデザートや飲み物を出している。なかなか心地良さそうだ。そこから裏通りに回ると、むしろこちらの方が人がたくさん歩くようだ。学校に近いし、昔から使われていた道っぽい。そこには学校帰りに気軽にオヤツを食べるようなお店や、荒物屋さんなんかが並んでいる。

さらに進むと驚いたことにそのあたりが町の中心部だった。市場に生鮮食品や雑貨など何でもあり、市場の回りにも小さな古い商店が並ぶ。インドネシアでもよくあるような、見慣れた東南アジアの風景だった。


50 平原を走るバス。ラック湖畔のかわいい家

2017-03-26 17:40:00 | ラック湖 お話
ベトナム南部、ブオンメトー。旅7日目の朝。

6時ぴったりにバスが来た。この店の隣がバスの出発点で、バスはその車庫に眠っていたのだった。私はおばさんにお礼を言って、出てきたバスに乗る。あの青年が言ったようには誰も私をラック湖に連れて行ったりはしない。でもそれでいいのだ。

バスは中学生や高校生っぽい子を積みながらのどかな道を走って行った。広々した平原だが遠く左の方に低い山並みが見えていた。山は驚くほど木がまばらで肌色の地面がむきだしになっていた。

1時間ほど走ると、右側に薄く広がる湖に濃いピンク色のハスが咲いているのが見えた。写真を撮りたい。けれどラック湖に行けばきっともっと見られるだろう。
しかし、それがラック湖だった。すぐに私は降ろされ、向こうがラックリゾートだと指差された。


指差された方には、低い山を背後にして、大きなきれいな建物があった。学校のように見える。それはホテルではないだろう。そこより左の方に目を移すと、湖畔にリゾートホテルらしい建物が見える。けれど、宿泊サイトで見た私の予約したラックリゾートという宿とは違う建物のようだった。
スマホで宿泊サイトの地図を確かめてみた。すると、ラックリゾートは違う所を示している。
なんだ。バスの人の言うことは当てにならなかったんだ。

バスを降りたところに簡素できれいな家がある。まだ7時半だ。ゆっくりやればいい。そう思ってのんびり家を眺めることにした。

1軒はれんが造りで、全体の色調がまとまっている。家の向こうにすぐ湖がある。
もう1軒は木造だった。そのかわいさに惹き付けられて、カメラを向け、いろいろなトリミングで撮った。家を見て、ファインダーを見て、また家を見て、ファインダーを見て、パシャパシャとやっているうちに気づいた。驚くほどきれいに庭が掃き清められているのだ。隅から隅までその家はきれいだ。庭にはいい感じで木があって木陰を作っている。歩くところに舗装用のブロックがかわいらしく敷いてある。向こう側には木で柵をかわいらしく組んである。鶏が庭先を歩く。庭の横には菜園がある。その向こうに湖が見える。絵本のようだ。










湖畔の田んぼはほとんど湖に浸かっていた。日本ではこういう自然の岸辺は北海道にでも行かなければめったに見られない。自然の岸だから湖を田んぼとして利用できるのだ。
湖に舟を浮かべて魚を獲っているらしき人。ハスの花。穏やかな光景だ。