人の旅を笑うな ~ベトナムの水辺の村へ~

ちょっとだけ垣間見た川と湖のほとりの暮らし

27 女主人のホームステイ、アンビン島を後にする

2017-02-17 07:10:00 | アンビン島


ベトナム南部、ヴィンロン、アンビン島。旅4日目の午前。

10時過ぎだったか、宿に帰ってきた。頭が少し痛い。揚げバナナを3つも食べたせいだろう。写真のことが頭をよぎった。宿の近くの垣根の道の風景がとても美しいのにさっき気づいたのだが、撮り忘れていたのだ。けれど撮りに行く気にもなれない。
昨日と同じ朝食を食べる。今日は砂糖を入れないでと頼んだコーヒーにお湯を継ぎ足しながら飲む。
本当に風が心地いいテラスだ。快適だ。しかし頭痛はどんどんひどくなっていく。

このホームステイではたくさんの人を雇っている。それを若い女主人がきりもりしていて、大したものだと思う。朝早くから掃除をするおばさんや女の子が2人ぐらいいる。この日はシーツを縫う子もいる。洗い場で肉を切っている子もいる。一人の女の子は気が強く、今朝はとんでもなく機嫌が悪くて見るからにむくれており全然仕事をしていないが、英語ができるので会計係や客への応対、夕食の有無を聞いたりする接待係をしている。バイクで客を送り迎えする男の人や、初日に会っただんなさんがいる。女主人はほぼ台所にいて料理を取り仕切り、場を離れないようにして全体を見ている。ついでに子どもの世話をしながら、いつも笑顔で穏やかでいる。親しみやすく頭がとてもよさそうで英語もでき性格がいい。本当はとても忙しいのだろうけど、そんな様子を見せない。すばらしい!

会計をすませた。女主人が対応してくれ、バイクで送ると言う。船は何時かと聞くと、いつでも、とのこと。いつのまにかバイクマンが登場した。船着場まで風を切って走る。

船着場に行くと舟はもう来ていて、すぐ乗り込むことができた。切符は誰も売っていなかった。どうやら無料らしい。この船は常時行き来していていつでも乗れるのだ。動く橋みたいなものだ。バイク専用というわけでもないらしい。

大量のバイクと自転車の群れと一緒になって、今日は私は一人でこの橋のような船に乗り込んだ。






岸近くを行く船は野菜を積んでいる。売りに行くようだ。



26 アンビン島の市場、揚げバナナの作り方

2017-02-16 07:10:00 | アンビン島
ベトナム南部、ヴィンロン、アンビン島。旅4日目の朝。

起きるのがつらい。6時には市場に行きたかったけれど、つらい。
7時30分頃起床。今日はこの島を出る日だ。最後に市場を見ておこうと思う。

また自転車を借りて市場へ行くと、店じまいを始めている人もいたけれど、何とかそれらしい光景に出会うことができた。バナナやすいか、野菜を売る店がある。

市場の角には今日もフランスパン屋がいたが、今日は若い男の人が売っている。角にはバナナを揚げて売っている女の人がいる。ペットボトルを縦割りにしたものを皿にして、そこに水溶き小麦粉を流し、縦に薄く切ったバナナを入れて、静かに油の中に滑らせる。うまい工夫だ。1個買ってみる。2000ドン(14円)。すごくおいしい。また2個買って食べる。





揚げバナナ屋さんの隣にはコーヒーなどの飲み物屋さんらしき店。小さな椅子とテーブルが並べてある。コーヒーを買って座らせてもらいたいのだけど、買い方が分からない。立ったまま揚げバナナを食べているとお店のおばさんが「座ればいいのに」みたいなことを言っている(多分)ので、座らせてもらう。

食べながら周りの様子を眺める。パジャマを普通の服として着ている人がいる。ベトナムではよく見る。たぶん軟らかくて着心地がいいからなのだろう。いろいろなパジャマがあるものだと思う。






25 行かなきゃ。

2017-02-15 07:10:00 | アンビン島
ベトナム南部、ヴィンロン、アンビン島。旅3日目の夜。

ホーチミンのほこりっぽさ。それと比べるとここはずっとましだ。乾季だから乾燥はしているのだろうけど、大都会とは違う。ホーチミンでは木々はほこりをかぶっているけど、ここでは木々がほこりを吸い取っている。いや、木々がほこりを吸い取るわけはない。けれどここの木々はみずみずしい。

相変わらず思う。ずっとこの島にいたい。しばらくこの宿に滞在していたい。ここは快適でリーズナブルでおいしいものが食べられる。島はかわいらしく等身大で、気候は暑すぎず、寒くもない。

でも、メコンの水上マーケットも気になった。一番有名なのはカイランの水上マーケットだが、その近くにもっとマイナーでもっと素朴なフォンディエンの水上マーケットというのがあるらしい。昔から一番有名なもの、一番人気のあるもの、一番大きなものよりも、マイナーなものを好んできた。多くの人が集まるポピュラーなところに恐怖感やらうっとうしさやらを感じてる。フォンディエンに行きたい。

この島に留まれば快適だろう。でも、私は休息をしに旅に出てきたわけではない。人々の暮らしを見て、撮って、知るのが私のしごとだ。それを稼ぎのタネにしているわけではないけど、私自身がやろうって自分で決めたことなのだ。

やっぱり行かなきゃ。スマホを手に取った。宿泊サイトを探す。そして、長い間探して水上マーケットの近くの宿をやっと選び出してポチした。残念ながらホームステイ的な小じんまりしたところはなく、それなりにホテルっぽいところだ。

それにしても、果たして私はこの島で人の暮らしを見たといえるだろうか。言えるわけがない。わずか1日だ。そして景色を見ているだけだ。やはり言葉ができないと厳しい。
ベトナムで見たい場所がもっともっとたくさんある。その実感がやっとふつふつと湧いてきた。
今度は言葉を覚えてこなきゃと思う。


24 象耳魚の生春巻き・メコンデルタのディナー

2017-02-14 07:10:00 | アンビン島
ベトナム南部、ヴィンロン、アンビン島。旅3日目の夜。

すっかり暗くなっている。大きく張り出した庇の下に明かりが灯り、デッキのテーブルで私は見ず知らずの男の人3人と料理を囲んでいる。右隣にたしか米国人の兄さん、その向かいはその友だち。向かいはヨーロッパ人のの中年男性で、はげた男性によくあるタイプの陽気な人だ。ペラペラの英語の3人と片言の英語の私は、たどたどしく言葉を交わしながら夕食を共にしていた。

宿には18時に帰ってきた。かなり暗くなっていた。夕食は18時半からだと言い渡されていたので急いでシャワーを浴びる。そして一人でテーブルにつこうとしたら、この席に案内されたのだ。有無を言わせず相席ってのは旅をしていて初めてだ。

若干ぎくしゃくしながらテーブルを囲む私たちの前に、最初に出てきたのはやや怖い顔をした魚の唐揚げ。おなかを下にして目をむいたまま立っている。皿の上にぐったり寝転がったりしていない。目の横のひれにははっきりしたひれが扇子のように開いてとげとげしている。それが丸ごと1尾、私のものらしい。向かいの男性にもだ。けれどなぜか隣の若者には2人で1尾だ。目の前の1尾を私一人のものにしていいいのか、気になって仕方ない。

若い女主人が来て食べ方を教えてくれる。まず箸で魚の身をほぐす。ナプキン立てみたいなケースに入った乾燥ライスペーパーを1枚取り、ボウルの水にさっとくぐらせて手の上に広げ、そこに素早く魚の身と千切り野菜を載せて、パパパッと包む。それを手に持って、甘酸っぱいたれを付けて食べるのだ。おお、これが生春巻き! 日頃田舎に住んでいるのでエスニックな料理店になど行ったことがなく、もうずっと前から日本でもポピュラーな生春巻きを、私はよく知らないのだ。パクリと口に入れると、魚の揚げ具合も良く、おいしい。



付け合せに、かぶの白鳥。見事な包丁さばきでかぶを切り刻み形を作ってある。きゅうりと人参を薄く切って花のようにきれいに並べたものもある。こういうアートっぽい盛り付けはこの宿のオリジナルではなく、ベトナム料理の定番なのだと後で知る。飾り切りって日本だけのものかと思ってたのに、やられた!

揚げ魚とは別のメインディッシュ的なものとして、鶏肉を大きくぶつ切りにしたののカレー味の煮込み。揚げ春巻。それに白いご飯、インゲンのソテー、それと人参だったか……。

生春巻きがとてもおいしくて、私は次から次へと食べた。向かいの席の中年男性は何度やってもライスペーパーが手にべったり貼り付いてしまい、春巻きがぐちゃぐちゃになる。私は笑う。彼も笑う。そして慣れない箸を使いながら再度チャレンジする。またベタベタになる。ほんとに不器用。私がすばやく春巻きを作ろうとすると、「君、ゴハンを巻こうとしてるだろ?」と冗談ぽく言ったりする。

鶏肉は1切れで十分だ。中年男性もそんなに食べなかったので、残りをすべて隣の2人組にあげる。これで魚の割り当ての少ない分のお返しができたのかなと思う。



実は今日もディナーを食べないつもりだったけれど、朝、気が変わったのだ。島ならではの魚などがお得に食べられるのかもと思ったから。正解だ。わずか10万ドン(520円)でこんなすばらしい夕食が食べられたのだ。前日のホーチミンのばかげた値段の炒飯を思うと、ほんといまいましくなる。
魚は象耳魚といってこのあたりの名物料理らしい。

ライスペーパーは十分にあって、途中休憩していたら、スタッフがペーパーを下げようとした。「ダメダメ」と私は言って再びひたすら生春巻きを食べ続けた。生春巻きバンザイ! 最後に南国のフルーツ。

ヨーロッパ人の中年男性は親しみやすく、いろいろ話しかけてくれたし、隣の若い2人も感じがよかった。一人で食べるよりずっといい! そして、こういう料理は1人じゃ食べにくいから、相席にしてしまうシステムに賛成!
すごく楽しくて、しみじみと幸せ。
またここに来たい。


23 島のへそと、反対側の農園地帯

2017-02-13 07:10:00 | アンビン島
ベトナム南部、ヴィンロン、アンビン島。旅3日目の午後。

宿には20台ぐらいもの自転車があり乗り放題になっている。気前のいい宿だ。15時15分から自転車で島を回る。

小径をしばらく行くと道が広くなって、大きな学校があった。その前に食堂が3軒ぐらい並ぶ。町の中心部的な雰囲気だ。しかし人ごみはない。さらに行くと市場のための場所があるが、今は閑散としている。その角でフランスパンを売る2人の女の人。1つ買う。3000ドン(156円)。大きな木の下でココナツの実を売る人がいて、その向こうにはかなり大きな川が流れている。

川にはしっかりしたコンクリートの橋が架かり、自動車が何台も通る。向こう岸の堤防にはトラックがほこりを上げて走っている。
島で一番大きな通りだろう。きっとここが島のヘソだ。

縦横無尽な水路にはときどき木造の小舟が水に埋もれるように休んでいる。まるで使ってなさそうに見えるけれど、多分使っているんだろうと思う。

水路沿いの小道を行く。小道から小さな橋で水路の向こうの家に入るようになっている。家は軒を連ねるということがない。庭があり、木々があり、鶏がいる。小さな小屋が向こうにあるのは、トイレとシャワールームだろうと思う。
どの家も、庭から水路へは2段ほどの階段を下る。水路に面して流し台があり、水場もある。水場の横には台所小屋がある家もある。その開いたドアの奥の暗がりに鍋などが見え隠れてしている。

落ち着いた整然とした集落を抜けるとバナナなどの果樹園があった。



今度は反対に、島のへそから比較的高台になったところを自転車でぐんぐん進んだ。明るく開けてさんさんと日が降り注ぐ。農園が広がっている。小松菜のような葉野菜の菜園が小さな空き地に作られている。家族の食べる野菜をできるだけ自給しようとする心意気。そして、みんな庭先をとてもきれいにしている。
60、70代の女性が菜園の手入れをしていた。ササゲを採っている。私が興味を示すと、「これを見て!」とゴーヤーの棚を指し示した。菜ものもよく育っている。土は黒っぽい。

ポンポンポンポンポンとやさしい音が近づいてくる。ちょっと大きい水路を舟が行く。エンジン付きの舟であっという間にさかのぼっていく。

自転車で走り回っていたら、あっという間に夕暮れが迫ってきた。まずい、帰らなきゃ。暗くなってしまう。市場の裏らしい路地裏のにぎわっているところも通り抜ける。道はほとんど分からない。地図もない。暗くなってくる。やみくもに走るだけだ。どうせ方向音痴なのだ。

そうだ、GPSがあるんだ。見ると、ちゃんと出発地点も分かる。ときどき見ながら走った。これがなかったらどうなっていただろう。GPSなど持っているのは今回が初めてだ。今までは途方に暮れて片言で人に聞いていた。人々は大騒ぎしながら教えてくれていた。それが旅だったといえばそうだ。便利になればなるほど、人は人と話さなくなっていく。人が一人で生きていける社会というのはつまらないものなんじゃないだろうかと思う。
とにかく、たどり着いた。