ホテルに戻った後、ベッドに横になりながら二人はあることについて相談していました。
「やっぱ気になるよな」
「うーん、でも$20やろ、安すぎる気がしてちょっと心配やな」
「でも危ないところじゃなかったら行ってみてもよくないか?」
「そうやな、なかなか経験できることじゃないしな」
実はホテルの目の前にある小さなストリップのこと。入場料が$20でビールが$7。知らない土地でこういった娯楽の店に入るのはいささか危険な気がするのですが(昼間もぼったくられそうになったし)、とはいえいい年の男二人がこのままおとなしくミルクを飲んで寝るわけにもいかない。
念のためホテルのフロントの人に「あそこ大丈夫か?」と聞いてみた。フロントの人はこっちも見ずに「大丈夫だ」(愛想ないやつだな)。H田は「うん、大丈夫そうだな」とすっかり行く気満々。ひろきちは「本当に大丈夫かな」と少し警戒したのですが、余分な現金は持たずにクレジットカードも置いて行けば大丈夫だろう、と二人で乗り込むことにしました。
店の中は結構広くて、だいたい想像してた通りでした。ところどころにピンクやブルーやグリーンの派手な照明があり、全体的に薄暗くいかにもという感じ。ステージの中央にはポールが立っていて、客席は丸テーブルが10席ほどありました。まだ7時過ぎでしたがすでに客がたくさん入っていて、みんな楽しそうに連れと酒を飲んでました。ちょうど一つのショーが終わった後なのか、ステージには誰もいませんでした。席に案内され、ビールを注文。運ばれて来たビールをお互いのグラスに注ぎ合って、「じゃ、カンパーイ」と一口飲みました。
二人は完全に落ち着きを失っていました。キョロキョロしたり、「このビールで$7は高くないか?」などとどうでもいいことを言いながら、早く始まらないかな、とそわそわしていました。ようやくステージの照明が明るくなり、テンポのいい音楽が流れ始めました。椅子に座り直してステージの方を見ると、ステージの脇から下着1枚だけのトップレスの小柄な白人のダンサーが現れました。この瞬間、それまで持っていたストリップのイメージが完全に間違いだったということが分かりました。ストリップといえば、加藤茶の「ちょっとだけよ~」が定番だし、大学の先輩から聞いた日本の温泉街のストリップ劇場の話はまさに加藤茶の世界そのものだったのですが、今ここで見ているのはまったく別物。プロのクオリティのダンスにダンサーの美しいヌードが加わった、それはそれは立派なショーでした。代わる代わる現れるダンサーはみんな美人でスタイルがよく、そしてダンスがうまい。二人ともステージに釘付けになっていましたが、たまに顔を見合わせては「すごいなー」と言い合いました。
ショーが終わり、二人は完全に圧倒されていました。「凄かったなー」とショーの余韻に浸っている時、ダンサー達が今度はガウンかなにかを羽織って客席にやって来ました。彼女たちは各テーブルに行ってなにか言っているようでした。
「あれ何言ってるんやろ?」
「さあ・・・」
そうこうしているうちに、自分たちのテーブルにも一人のダンサーがやって来て、H田に何か言いました。
「何て?」
「いや・・・$20でプライベートダンスを見るかって・・・」
「え?プライベートダンス?」
「うん、なんかあっちに個室があるらしい」
「・・・」
どうするんだろうと思っていると、H田は「No thank you.」と言ってプライベートダンスを断ってしまいました。その後ひろきちにも聞きに来たのですが、同じく「No thank you.」と断ると、ダンサーはおもいっきり不満そうな顔をして去ってしまいました。
「なんやねんH田、行けばよかったのに」
とからかうと、
「いやあ、さすがにちょっと怖かったわ」
と言うので二人で笑いました。
「しかしあんなに露骨に嫌な顔せんでもなあ・・・」
と言いつつ、プライベートダンスを断ったのがちょっと気まずくなって、早々に店を出てホテルに戻りました。シャワーを浴び、これからのアメリカでの予定などについていろいろと話しをしていると喉が乾いたので、深夜まで開いている近くのドラッグストアまで飲み物を買いに出かけました。当時日本ではドラッグストアなるものはなかったので、薬局とスーパーがくっついているのには妙に違和感を感じたのを覚えています。
プラスチックバッグをぶら下げてホテルの近くまで帰って来たとき、背の低い痩せた黒人の男が後をつけてくるのに気付きました。その黒人はひろきちたちが気付いたのを見て、何か話しかけて来ました。
「おい、急げ」
「おう、もうすぐホテルや、さっさと中へ入ろう」
早足でホテルに入って振り返ると、さっきの黒人がガラス越しにこっちに手を合わせて何か必死に話しかけていました。彼は肩からぶら下げたカバンから新聞を取り出して、そしてまた手を合わせました。新聞を買ってくれと言ってるのか。手を合わせて何度も何度もお願いするような仕草をするのを見てかわいそうにはなりましたが、やっぱり怖かったので結局買わずに部屋に戻りました。それまで必死になって物を買ってくれなんて言われたこと無かったのでちょっとして衝撃でした。彼にとってはあれが生活のための唯一の手段で、飯を食うために必死になって新聞を売っているんだろうな。もしかしたら家族もいるかもしれない。そう考えるとなんか切なくなって、それからしばらくは彼が手を合わせる仕草が頭に残りました。
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「やっぱ気になるよな」
「うーん、でも$20やろ、安すぎる気がしてちょっと心配やな」
「でも危ないところじゃなかったら行ってみてもよくないか?」
「そうやな、なかなか経験できることじゃないしな」
実はホテルの目の前にある小さなストリップのこと。入場料が$20でビールが$7。知らない土地でこういった娯楽の店に入るのはいささか危険な気がするのですが(昼間もぼったくられそうになったし)、とはいえいい年の男二人がこのままおとなしくミルクを飲んで寝るわけにもいかない。
念のためホテルのフロントの人に「あそこ大丈夫か?」と聞いてみた。フロントの人はこっちも見ずに「大丈夫だ」(愛想ないやつだな)。H田は「うん、大丈夫そうだな」とすっかり行く気満々。ひろきちは「本当に大丈夫かな」と少し警戒したのですが、余分な現金は持たずにクレジットカードも置いて行けば大丈夫だろう、と二人で乗り込むことにしました。
店の中は結構広くて、だいたい想像してた通りでした。ところどころにピンクやブルーやグリーンの派手な照明があり、全体的に薄暗くいかにもという感じ。ステージの中央にはポールが立っていて、客席は丸テーブルが10席ほどありました。まだ7時過ぎでしたがすでに客がたくさん入っていて、みんな楽しそうに連れと酒を飲んでました。ちょうど一つのショーが終わった後なのか、ステージには誰もいませんでした。席に案内され、ビールを注文。運ばれて来たビールをお互いのグラスに注ぎ合って、「じゃ、カンパーイ」と一口飲みました。
二人は完全に落ち着きを失っていました。キョロキョロしたり、「このビールで$7は高くないか?」などとどうでもいいことを言いながら、早く始まらないかな、とそわそわしていました。ようやくステージの照明が明るくなり、テンポのいい音楽が流れ始めました。椅子に座り直してステージの方を見ると、ステージの脇から下着1枚だけのトップレスの小柄な白人のダンサーが現れました。この瞬間、それまで持っていたストリップのイメージが完全に間違いだったということが分かりました。ストリップといえば、加藤茶の「ちょっとだけよ~」が定番だし、大学の先輩から聞いた日本の温泉街のストリップ劇場の話はまさに加藤茶の世界そのものだったのですが、今ここで見ているのはまったく別物。プロのクオリティのダンスにダンサーの美しいヌードが加わった、それはそれは立派なショーでした。代わる代わる現れるダンサーはみんな美人でスタイルがよく、そしてダンスがうまい。二人ともステージに釘付けになっていましたが、たまに顔を見合わせては「すごいなー」と言い合いました。
ショーが終わり、二人は完全に圧倒されていました。「凄かったなー」とショーの余韻に浸っている時、ダンサー達が今度はガウンかなにかを羽織って客席にやって来ました。彼女たちは各テーブルに行ってなにか言っているようでした。
「あれ何言ってるんやろ?」
「さあ・・・」
そうこうしているうちに、自分たちのテーブルにも一人のダンサーがやって来て、H田に何か言いました。
「何て?」
「いや・・・$20でプライベートダンスを見るかって・・・」
「え?プライベートダンス?」
「うん、なんかあっちに個室があるらしい」
「・・・」
どうするんだろうと思っていると、H田は「No thank you.」と言ってプライベートダンスを断ってしまいました。その後ひろきちにも聞きに来たのですが、同じく「No thank you.」と断ると、ダンサーはおもいっきり不満そうな顔をして去ってしまいました。
「なんやねんH田、行けばよかったのに」
とからかうと、
「いやあ、さすがにちょっと怖かったわ」
と言うので二人で笑いました。
「しかしあんなに露骨に嫌な顔せんでもなあ・・・」
と言いつつ、プライベートダンスを断ったのがちょっと気まずくなって、早々に店を出てホテルに戻りました。シャワーを浴び、これからのアメリカでの予定などについていろいろと話しをしていると喉が乾いたので、深夜まで開いている近くのドラッグストアまで飲み物を買いに出かけました。当時日本ではドラッグストアなるものはなかったので、薬局とスーパーがくっついているのには妙に違和感を感じたのを覚えています。
プラスチックバッグをぶら下げてホテルの近くまで帰って来たとき、背の低い痩せた黒人の男が後をつけてくるのに気付きました。その黒人はひろきちたちが気付いたのを見て、何か話しかけて来ました。
「おい、急げ」
「おう、もうすぐホテルや、さっさと中へ入ろう」
早足でホテルに入って振り返ると、さっきの黒人がガラス越しにこっちに手を合わせて何か必死に話しかけていました。彼は肩からぶら下げたカバンから新聞を取り出して、そしてまた手を合わせました。新聞を買ってくれと言ってるのか。手を合わせて何度も何度もお願いするような仕草をするのを見てかわいそうにはなりましたが、やっぱり怖かったので結局買わずに部屋に戻りました。それまで必死になって物を買ってくれなんて言われたこと無かったのでちょっとして衝撃でした。彼にとってはあれが生活のための唯一の手段で、飯を食うために必死になって新聞を売っているんだろうな。もしかしたら家族もいるかもしれない。そう考えるとなんか切なくなって、それからしばらくは彼が手を合わせる仕草が頭に残りました。
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海外だと最低限のお金だけカバンに入れてく私・・・
とてもそんな場所に入れな~い!!
と言いつつ・・・。
ショーならちょっと見てみたい誘惑にかられたりして
さすがに女の人は・・・入らないか
夜中にドラッグストアまでブラブラ買い物に出かけるのも今から思えば
かなり危険です。
でも鈍感だったおかげでいいもの見れました。女性にもおすすめですよ。
ラスベガスとかのショーだったら女性でもOKなんじゃないですかね。
機会があればぜひ!