瘋癲北欧日記

第二の人生 つれづれなるままに

怪魚?を食う

2015年01月13日 | グルメ


1月12日 雪


やや粗めの雪が降り続く。
午前中、小雪の中を20分ほど散歩しただけで、一日中室内で過ごした。雪が積もって、車
を動かすのが億劫だったからである。買い物にも出なかった。


夕食にはあてがあった。2日前に買った、わけのわからない冷凍の魚がある。これをフライ
にして食べればよいのではないか、と。
買ったのは、知人のすしやさんの近くにある小さなスーパー。ギリシャ人の親父が売り子を
している。前に、おひょうのような魚を売っていて、それを買おうと思ったが残っていなかっ
た。で、代わりにわけのわからない魚を買ってみたのである。


Langaryggロンガリュッグという名前。直訳すると「長い背中」になる。日本語では想像もつか
ない。ソードフィッシュSwordfishがメカジキというようなわけにはいかない。
カットされているのでもとの形はわからない。切り身ではあるが、みたところはタラに似てい
る。背中と思われるほうに薄茶色の縞模様が斜めに入っている。
しかし、タラならTorskトシュクと書いてあるはず。スウェーデンの先輩友人も、この魚は知ら
ないと言った。


1キロ129クローネだったか(約2000円)で安くはない。
しかし袋には切り身が3切れ入って、重さは900グラム強。ふたりなら、ゆうに二回分の食
事ができる。1キロもないから、一回分にすれば1000円弱。安いとは言えないが、まあ許
容範囲ではないか。
おまけに、ここの魚はアイスランドから来ている。大手のスーパーには出ていない商品で、そ
れもまた買う動機になった。アイスランドの魚がまずいわけがない、と思うのである。ギリシャ
人のスーパーに置いてある、というのは不安材料であったけれど。


 しかしビニール袋には、この魚がアイスランドから来たものとあり、アイスランドの漁船が北
海の東で捕獲したもので、鮮度の良いものを冷凍している、まがいものではない。
それをIceland ResponsibleFisheries「アイスランド有責漁場」というような、組合だか何だかが
ギャランティーすると明記してあった。



ウキペディアをみると、英語ではCommonlingとあり、日本語はなかった。中国語ではX鱈とあ
った。Xは「魚へんに予といつくり」の文字で、何と読むのかわからない。
タラの仲間で、写真を見るとタラとウナギの中間のような魚。大きいものでは1,5メートルに
もなる。深海魚で、かなりの雑食らしく、高価な魚ではなかったらしい。

スウェーデン語で関連のCommonlingから調べて、一時はカワメンタイまでたどりついたが、こ
れはちょっと違っていた。
カワメンタイは、ストリンドベリのサーガを訳しているときに出てきた魚で、これも当時、調べる
のに手間取った。それで名前を知っていたが、Langaryggではなかった。カワメンタイはスウェ
ーデン語ではAlkusaだった。アタマのAlはウナギであったけれど。

で、もう一度英語からスウェーデン語、ラテン語だかの学名など、ひっかきまわしたら、スウェ
ーデン語でLingという名前が出てきた。日本語に翻訳したらリンと出て、これを英語で見たら
Bluelingになった。
で、これを日本語に翻訳をかけたら、ブルーホワイティングにたどりついた。日本ではミナミダ
ラという呼び名らしいとわかった。


Blauleng.jpegウキペディアより


ブルーホワイティングのところに写真が出ていて、何だこの魚なら知っていた。
奇怪な顔をした魚。これなら鮮魚を扱う大きなマーケットでよく見る魚ではないか。砕いた氷の
床に、ずらり並んだ魚の中でいちばんグロテスクな魚。体調メートル前後あって、とぐろを巻く
ように置いてある。胴体は写真よりもっと太かったような記憶がある。
しかし、たしかにLangarygg「長い背中」ではある。


まさか、この魚とは思い及ばなかった。
しかし、フライにしたらうまかった。昔、日本でよく食べたオヒョウに案外近かった。
タラは、かすかに癖があり、それも悪くはないが、自分はオヒョウのほうが好きで、しかもこれ
はオヒョウより多少しっとり感があって、それもよかった。白身でもパサついた魚はイマイチと
思う。揚げ方もよかったのだろうが、満足のいく食感だった。
もともと、オヒョウのような、こちらではヘッレフルンドゥラHalleflundraというが、それに似た魚
を探していたので、これは当たりだった。オヒョウは高値なのである。


さすがはアイスランド。期待にたがわぬ魚であった。


道は後にできる

じつは前日、友人を試食に誘ったのだが、しり込みされて「まず、ご自分で試して…」と、遠慮
されていた。
まあ、わけのわからない深海魚で、何でも食べるような品のない魚で、昔は安くて人間は食べ
ていなかった、などという"憶測”が飛ぶ魚。遠慮か敬遠か、微妙なところではあったけれど、こ
れではっきり「うまい魚」と伝えることができる。


そして世界は自分と別のところで動いている、と思うしかない。ロンドンもパリも遠くなった。
 


ヘラジカステーキ

2014年12月21日 | グルメ

12月20日 晴れ


ストックホルムでは数少ない、日本人の経営する「SUSHI」屋で、オーナーのYさん、友人
のTさんと4時間くらい話し込んでしまった。

お二人は、スウェーデンに40年以上滞在し、Yさんなどは国籍までスウェーデンに代え
てしまったほど、なのでいろんな情報を聞かせていただける。
スウェーデンへ新入りの私は、あれこれ相談に乗っていただき、その都度、貴重なアドバ
イスを受ける。ありがたい存在である。

この日も、いろいろ初耳を伺ったが、とりあえずひとつ、病院の待ち時間について面白い
話があった。


「この国の病院では、患者が30分以上待たされたら医療費は払い戻されるんですよ」
聞き間違いかと耳を疑う話だった。
「いやあほんとですよ。ワイフがかかりつけの担当医がいる。彼は名医なんだけど、その
分、会議などが重なったりして、診察予約時間に間に合わないことがある。で、一度30
分間くらい待たされたら、その日の医療代は払い戻してくれたんですよ」
「そうです。30分待ったらタダになるのね」とYさんも、笑顔で相槌を打たれた。

そう言えば、自分の予約では、待たされた経験がない。
一度、10分くらい遅れたのが最長の待ち時間だった。医者としても30分以上、患者を待
たせておくわけにはいかないのか、と納得がいった。


ところで、夕食はヘラジカのステーキだった。

前日、ヘラジカのアントレコが届いた。1,5キロくらいのブロックの肉。北のルレオから、
連れ合いの親戚が送ってくれたのだ。

ヘラジカは、この国ではAlg(エリィ)という。
もう30年くらい前になるか、ルレオに行ったとき、親せき宅でヘラジカのシチューをごち
そうになったことがある。じつにうまかった記憶が舌に残っている。
親戚の御主人が、猟期にはハンターになり、彼の仕留めたヘラジカの肉だった。

その後、ストックホルムのレストランでステーキを食べた時には、脂分がなくパサついた
感じで、うまいとは思わなかった。肉か料理の腕か、どっちかが悪かったのだろう。


それで、では自宅ではどう料理しようか。

ネットで検索して、ローストビーフ風にするのがうまそうだった。これだとパサつかなく、ジ
ューシーになったと、北欧在住の日本人のブログにあった。
しかし、肝心の肉の部位が書かれていなかった。
どこを煮込みに使うのか。牛や豚ならスネ肉あたり。アントレコはへたに煮込んだら固く
なってしまう。これでは参考にならない。



悩んだ末、ステーキに決めた。フライパンでなく、グリルパンで焼く。

2センチほどの厚みの肉に、日本酒を刷毛でぬって塩コショウした。酒を塗ると、肉が柔
らかくなり臭みが取れる、と信じているからだ。
うまくいかなかった場合を想定して、グレービーソースを作っておく。肉をフライパンで焼
かないので、玉ねぎと小麦粉、バター、鳥のブイヨンと日本酒でつくった。
ソースがあれば、肉の触感がごまかせる。


どれくらいの時間、焼けばよいか。
テキストもなく、いい加減のカンで焼いた。片面を、まず2、3分。焦げ目がついたところ
で、90度位置をずらして、さらに1,2分、それから引っくり返して今度は2分くらい。
焼き過ぎたら、パサつくだろうという、恐怖に近い心配があるので、慎重に長すぎないよ
うにと言い聞かせて焼いた。

第一陣は、それで案外うまく行った。ミディアムレアとレアの中間くらいの焼き加減にな
った。


第二陣は、さらに時間を短縮してみた。
一枚は、超レアの仕上がり。これがよかった。焼けているのは表面から1,2ミリ。中は
血が滴るほどの赤みを残して、焼いたというより温めたという程度の焼き加減。これで
十分に肉のうまみを味わうことができた。

馬刺しに近い味がした。


牛のサーロインとは比べられないくらい、脂身はなく、肉の強い味はしない。ヒレ肉に比
べても味は弱い。よく言えば上品な味だった。
魚でいえば、海水魚でなく渓流の魚という感じだろうか。


トナカイの肉よりは上質。鹿の肉との違いはよくわからない。

鹿は、30年くらい前、栃木のたしか一柳閣という旅館で、刺身をいただいた。時期外れ
であったが、迷い鹿が飛び込んできたとかで、特別に提供された。
旅館の経営者は、かつてロッテで活躍した八木沢壮六氏の兄弟筋であったと思う。
八木沢さんはコーチ時代に取材したことがあるが、口の堅い人だった。野球のことは話
さないが、ゴルフの話になると専門はだしの解説をされて、閉口した。




そういえばヘラジカは英語でムースという。

野村監督がヤクルト監督時代、アリゾナ・ユマキャンプで、「わしな、メジャーの連中から
ムース言うあだ名をつけられたことがあるんや」と言った。
「知っとるか、ムース。ヘラジカ言うんや。大きくてな、何やもっさり動くらしい。わしが、ゆ
っくり動くもんやからそんなあだ名つけたらしいわ」


何の拍子で、ムースの話になったのか。そこは記憶にないのだが、「ムース」と言って、含
羞の色を浮かべられたのは、なぜか強く印象に残っている。


ヘラジカのステーキを食べながら、監督はいま何をしているのかと思った。