1月12日 雪
やや粗めの雪が降り続く。
午前中、小雪の中を20分ほど散歩しただけで、一日中室内で過ごした。雪が積もって、車
を動かすのが億劫だったからである。買い物にも出なかった。
夕食にはあてがあった。2日前に買った、わけのわからない冷凍の魚がある。これをフライ
にして食べればよいのではないか、と。
買ったのは、知人のすしやさんの近くにある小さなスーパー。ギリシャ人の親父が売り子を
している。前に、おひょうのような魚を売っていて、それを買おうと思ったが残っていなかっ
た。で、代わりにわけのわからない魚を買ってみたのである。
Langaryggロンガリュッグという名前。直訳すると「長い背中」になる。日本語では想像もつか
ない。ソードフィッシュSwordfishがメカジキというようなわけにはいかない。
カットされているのでもとの形はわからない。切り身ではあるが、みたところはタラに似てい
る。背中と思われるほうに薄茶色の縞模様が斜めに入っている。
しかし、タラならTorskトシュクと書いてあるはず。スウェーデンの先輩友人も、この魚は知ら
ないと言った。
1キロ129クローネだったか(約2000円)で安くはない。
しかし袋には切り身が3切れ入って、重さは900グラム強。ふたりなら、ゆうに二回分の食
事ができる。1キロもないから、一回分にすれば1000円弱。安いとは言えないが、まあ許
容範囲ではないか。
おまけに、ここの魚はアイスランドから来ている。大手のスーパーには出ていない商品で、そ
れもまた買う動機になった。アイスランドの魚がまずいわけがない、と思うのである。ギリシャ
人のスーパーに置いてある、というのは不安材料であったけれど。
しかしビニール袋には、この魚がアイスランドから来たものとあり、アイスランドの漁船が北
海の東で捕獲したもので、鮮度の良いものを冷凍している、まがいものではない。
それをIceland ResponsibleFisheries「アイスランド有責漁場」というような、組合だか何だかが
ギャランティーすると明記してあった。
ウキペディアをみると、英語ではCommonlingとあり、日本語はなかった。中国語ではX鱈とあ
った。Xは「魚へんに予といつくり」の文字で、何と読むのかわからない。
タラの仲間で、写真を見るとタラとウナギの中間のような魚。大きいものでは1,5メートルに
もなる。深海魚で、かなりの雑食らしく、高価な魚ではなかったらしい。
スウェーデン語で関連のCommonlingから調べて、一時はカワメンタイまでたどりついたが、こ
れはちょっと違っていた。
カワメンタイは、ストリンドベリのサーガを訳しているときに出てきた魚で、これも当時、調べる
のに手間取った。それで名前を知っていたが、Langaryggではなかった。カワメンタイはスウェ
ーデン語ではAlkusaだった。アタマのAlはウナギであったけれど。
で、もう一度英語からスウェーデン語、ラテン語だかの学名など、ひっかきまわしたら、スウェ
ーデン語でLingという名前が出てきた。日本語に翻訳したらリンと出て、これを英語で見たら
Bluelingになった。
で、これを日本語に翻訳をかけたら、ブルーホワイティングにたどりついた。日本ではミナミダ
ラという呼び名らしいとわかった。
ブルーホワイティングのところに写真が出ていて、何だこの魚なら知っていた。
奇怪な顔をした魚。これなら鮮魚を扱う大きなマーケットでよく見る魚ではないか。砕いた氷の
床に、ずらり並んだ魚の中でいちばんグロテスクな魚。体調メートル前後あって、とぐろを巻く
ように置いてある。胴体は写真よりもっと太かったような記憶がある。
しかし、たしかにLangarygg「長い背中」ではある。
まさか、この魚とは思い及ばなかった。
しかし、フライにしたらうまかった。昔、日本でよく食べたオヒョウに案外近かった。
タラは、かすかに癖があり、それも悪くはないが、自分はオヒョウのほうが好きで、しかもこれ
はオヒョウより多少しっとり感があって、それもよかった。白身でもパサついた魚はイマイチと
思う。揚げ方もよかったのだろうが、満足のいく食感だった。
もともと、オヒョウのような、こちらではヘッレフルンドゥラHalleflundraというが、それに似た魚
を探していたので、これは当たりだった。オヒョウは高値なのである。
さすがはアイスランド。期待にたがわぬ魚であった。
道は後にできる
じつは前日、友人を試食に誘ったのだが、しり込みされて「まず、ご自分で試して…」と、遠慮
されていた。
まあ、わけのわからない深海魚で、何でも食べるような品のない魚で、昔は安くて人間は食べ
ていなかった、などという"憶測”が飛ぶ魚。遠慮か敬遠か、微妙なところではあったけれど、こ
れではっきり「うまい魚」と伝えることができる。
そして世界は自分と別のところで動いている、と思うしかない。ロンドンもパリも遠くなった。