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災害(利用型)資本主義

2012-05-15 16:27:19 | 近況
災害(利用型)資本主義の展開
「衝撃と恐怖」作戦は、-迅速な支配を達成するために-という副題が付くアメリカの軍事政策だ。この軍事戦略が新自由主義者の経済政策に転用された。大災害・戦争などで、人々が茫然自失になっている間に、一気に市場化を達成するという「災害資本主義」の概念を聞いた。(文責・編集部)

ショック利用し、一気に新自由主義化
増税・年金カット・TPP参加は、典型的発動

神戸大学国際学部・科学史  塚原東吾さん

ショック ドクトリン
「災害(利用型)資本主義」とは、カナダのジャーナリストであるナオミ・クラインが、米国の新自由主義の展開戦略について名づけた概念です。ソ連崩壊、天安門事件、9・11とイラク戦争、スマトラの津波、ハリケーン・カトリーナなどを契機として、アメリ カ主導で新自由主義政策が導入されてきたプロセスを「災害資本主義」というキーワードを用いて検討したものです。大きな事件・自然災害・戦争などを利用して新自由主義的政策を一気に進める手法を、「災害(利用型)資本主義」と名づけました。

9・11のショックを利用して、アフガニスタン・イラクを侵略していった過程などは、その典型と考えられます。

ナオミ・クラインは、チリのピノチェットによるクーデターと独裁、そして経済の新自由主義化(1980年代)をその起源と考えているのですが、冷戦崩壊の直後から、中国やロシアに一気に資本主義を展開させたことも、災害資本主義の枠組みで議論しています。

しかし、厳密にこの概念を検証するなら、1990年冷戦終結の前後での新自由主義の変質に注目する議論もあり、捉え方は様々です。私自身も、歴史概念、政治的概念としては、どこに焦点を当てればいいのか、正直なところでは迷っています。

ただ、直近の歴史を、①冷戦終結以降、②9・11以降、③3・11以降、と区分した場合、この概念は有効です。特 に日本の場合、③3・11以降は、災害利用型資本主義が加速すると思っています。

社会の軍事化と経済の市場化
災害資本主義の特徴は、軍事化と経済の民営化・市場化です。今回の震災で信頼を回復したものが2つあると、政治学者=イーサン・マークは日本人に向けて行った統計結果から判断しています。それ は、自衛隊と天皇です。

緊急時の救援活動によって自衛隊への無条件の信頼が醸成され、既成政党への不信が募ったこともあって、若い人も含めて天皇への信頼感が高まっているというのがマークによる見解です。

自衛隊への信頼が激増しているのが、10代など若年層だそうです。避難所などでのテレビのインタビューで「大きくなったら、自衛隊に入って人を助けたい」と語る子どもの姿が映し出されています。

しかし、自衛隊が災害支援のための組織なら、武器を捨てなければなりません。自衛隊は、8月末から9月にかけて北海道で大規模演習を行ったのですが、11月には北海道の部隊が大規模に九州に行く転地演習も計画されています。これは、1台で50㌧ もある戦車を100台も移動させるもので、東北で救援活動をやっていることばかりが宣伝されましたが、そんな重たいものを遠路はるばる運んで、一体どうしようというのでしょうか。今回の災害が、自衛隊の格好のアピールになったこと、軍事演習の言い訳になっていることは、見逃せません。

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公共事業復活と民・自大連立
増税・年金カット・TPPの加速などは、3・11後の災害資本主義の典型的な発動です。政府による放射能の除染活動が大規模に取り組まれようとしていますが、これが公共事業の再興に繋がっていく可能性があります。



神戸の「復興」とは、公共事業による神戸の揉欄でした。ゼネコンと行政によるブルドーザ効果は、道路を通すために破壊された家々をさらに押し潰し、すでに壊されていたコミュニティを根底から破壊しました。いい例が、使い物にならない「神戸空港」です。神戸の開発行政にとって震災は、既存の開発計画を一気に推し進めるまたとないチャンスとなったのです。

今回も、復興の名の下に何が行われるか、私たちは、注意して見ておかなければなりません。建設業界や地元経済界は、この「巨大公共事業としての復興」に、生き残りを賭けています。しかし、神戸の時がそうであったように、 地元にお金が落ちるのではなく、市場化=自由競争の名の下に、地元企業を押しのけて東京のゼネコンが復興事業をもぎ取り、地元にはお涙のおこぼれ程度にしか、お金は落ちてこないのが現実です。



「災害を利用する」明確な意図もった政策集団
9・11と3・11は、自由主義路線の展開という意味では、意図的に狙われていたものであり、災害は「機会として利用された」と思います。



シカゴ学派の領袖である、ミルトン・フリードマンの著作で、こうしたことはあからさまに語られています。同氏は、「真の変革は、危機状況によってのみ可能となる」と その著作のなかで述べており、自由市場経済を提唱する経済学者たちは、「市場改革を実現させるには、天災・人災を問わず『大災害』が不可欠である」と書いています。

すなわち災害資本主義は、自由主義の名の下に国家が経済をコントロールする巨大なシステムで、19世紀のレッセフェール(自由放任)資本主義や、20世紀前半のものとは 全く異質な資本主義です。

アメリカの主流経済学は、金融工学を含め、総じて金融資本主義を広げるための役割を担ってきました。

こうした手法の最終部隊がIMFであり、かつては資本主義的な過度の競争や景気の浮沈の激しさに対する防波堤だったはずですが、いまやそこも、シカゴ学派の影響下にあります。新自由主義は強力 な政治イデオロギーであり、また経済戦略ともなっています。危険きわまりないものであると言っていいでしょう。

日本では竹中平蔵氏などをはじめとするアメリカ系の経済エリートたちが、そのエージェントの代表格だと考えていいと思います。



我々は、「復興」のかけ声の下に開発主義的なテクノクラシーを進めようという懲りない確信犯を相手に、震災の経験や歴史を語らなくてはならないことを、肝に銘じるべきでしょう。


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