街はクリスマスモードです。異教徒の祭りのから騒ぎや歳末商戦に取り込まれるほどお人よしではないけれど、この季節になると取り出して聴き来たくなるアルバムです。その一枚、「アヴェ・マリア~レオンタイン・プライス クリスマス名唱集」です。1950年代から70年代を中心に活躍したアメリカの黒人のソプラノとカラヤン指揮ウイーンフィルという極上の組み合わせ、ほんとにほんとに見事です。プライスはカラヤンに見いだされてヨーロッパにデビューし、「カルメン」はじめ、カラヤン・オペラに欠かせないプリマドンナとして多くの音源、映像を残しています。
このレコードは1961年の録音、30代半ばのみずみずしい声が聴かれます。選曲がすばらしい。「ジングルベル」などのような子どもじみたクリスマスソングではありません。そういう意味での「清しこの夜」や「もみの木」は収録されていますが、それらすら、プライスの歌唱とウイーンフィルの弦がおりなす清澄・敬虔な雰囲気は比類なく、ましてや、シューベルトとグノーの「アヴェ・マリア」、モーツァルトの「アレルヤ」にいたっては宗教音楽でしか味わえない敬虔さと美しさの極致です。たとえば、シューベルトの「アヴェ・マリア」。ウイーンフィルの合奏が1コーラスをたっぷりと奏でた後のプライスのソプラノの入りの絶妙さは言葉にできません。
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もう一枚、「マヘリア・ジャクソン/きよしこの夜」です。マへリア・ジャクソンはプライスよりも15歳ほど年上の黒人ゴスペルシンガーです。アメリカの黒人でこの人の名を知らない人いないといわれたほど。つまりゴスペルの女王です。現在よりも黒人一般の境遇が厳しかった時代にこの人の歌に魂の救済を求めた人たちが如何に多かったかは語り草です。マヘリアのクリスマスソングは従って、讃美歌そのもの、胸に迫るものがあります。
「もろびとこぞりて」「ホワイト・クリスマス」「きよしこの夜」など耳になじみのメロディも強烈なゴスペル・フレージングによって、黒人の悩みと苦しみの表出となり、祈りと救いの情感となって深く深く胸に迫ります。