Harukoの濾胞性リンパ腫日記【B細胞 Ⅳ期 B症状 50歳代後半 】 2008年4月28日~

悪性リンパ腫の入院日記。多くのリンパ腫病のうち濾胞性(低悪性)リンパ腫の総合情報サイトを目指して行きます。

移植片対宿主病(GVHD) その1

2008-06-19 16:53:42 | 副作用と対処法
造血幹細胞移植の副作用:移植片対宿主病 2006年10月08日

1.移植片対宿主病(Graft-versus-host Disease:GVHD)とは
Graft-versus-host Diseaseの略で、日本語では「移植片対宿主病」といいます。同種移植を受けた場合にしばしばみられる合併症で、移植片に含まれるドナーリンパ球が、患者さんの体そのものを「よそ者」とみなして攻撃する厄介で複雑な免疫反応のことです。心臓移植や腎臓移植等で「拒絶反応」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、GVHDはその逆の反応と考えればわかりやすいでしょう。

人の体には、自分の体でないものは体の外に排除しようとする働きがあり、臓器移植の場合には、他人の臓器を体外へ排除しようとする反応が起きます。これが拒絶反応といわれるもので、免疫応答を弱める免疫抑制剤といわれる薬を使って、この反応がひどくなりすぎないように治療します。造血幹細胞移植の場合には、患者さんの体に入れる細胞(“移植片”と呼びます)である造血幹細胞が少数のため、強い移植前治療を用いて患者さん本人の免疫力を非常に弱めておかないと、移植片が容易に体外に排除(拒絶)されてしまいます。拒絶を免れてドナーの造血幹細胞が患者さんの体の中で根づくと、やがて増えてきます(これを “生着(せいちゃく)”と呼びます)。移植片である骨髄、末梢血あるいは臍帯血(さいたいけつ)中には、ドナー由来のリンパ球がたくさん混在しています。このリンパ球は生着を助けるために大切です。また、生着した後に増えてくると、今度は免疫力をしっかりと回復させる大事な働きをします。強い移植前治療により、患者さんの免疫力は著しく低下しますので、外部から侵入した微生物や異物に対して無防備な状態にあります。ドナー由来のリンパ球は、この弱った免疫力を回復させて患者さんを感染症から守るほかに、体の中にまだ残っている白血病細胞にも追い打ちをかけるのです。



3.移植片対宿主病(GVHD)は軽度のものなら発症したほうがよいか
GVHDは重症になると、移植後の合併症の中でもかなり厄介な合併症になります。しかし、GVHDが適度に認められたほうが、もとの病気の再発も少ないといわれています。GVHDと同様な攻撃反応が、移植後に残存しているがん細胞に対して向けられるからです。移植後に白血病などの再発が抑えられる可能性があるこの反応を、「GVL効果(移植片対白血病・リンパ腫・骨髄腫効果)」といいます。この効果は、患者さんに害を及ぼす合併症ではなく良い反応といえますが、一方では、GVL効果があってGVHDのない状態がどの程度の頻度で起こるかに関しては、十分な知見が得られていません。したがって一般的には、GVHDによる臓器障害という悪い側面と、GVL効果による再発減少という良い側面の相反する反応のバランスが重要と考えられています。GVHDを発症した患者さんが、GVHDが起きなかった患者さんに比べて良い治療成績を示すことは、一部の患者さんだけに限られるようです2)。

なお、進行期の造血器がんの患者さんに対する血縁者間移植では、軽い急性GVHDを発症したグループの治療成績が、発症しなかったグループよりも優れていたという解析結果があります。あまりひどいGVHDが出てしまうと、合併症で治療成績が下がってしまいます。しかし、軽い程度の急性GVHDが出た場合には、GVL効果の良い面が引き出されたことを反映していると考えられます。したがって原則としては、GVHDをしっかり抑制することが、良い治療成績を出すためには大切と考えられています。



5.マイナー組織適合性抗原
移植片対宿主病(GVHD)を防ぐために、患者さんとドナーの方の白血球の型(組織適合抗原、HLAと呼びます)を可能な限り合わせてから移植を行うのが一般的です。HLAを合わせる理由は、リンパ球がHLAの違いを最も鋭敏な指標にして、その細胞がよそ者か否かを区別するからです。しかし、リンパ球は高度に訓練された免疫担当細胞であるため、HLA以外の患者‐ドナー間の微妙な違いも認識します。ヒトの体を構成するタンパク質をつくり出すもととなる遺伝子には、個人による多様性(これをSNP(スニップ)といいます)が存在することが知られています。その結果、タンパク質を構成するアミノ酸の並び方にも小さな違いが発生する場合があります。そのような、個々のヒトで相違するアミノ酸の並び方をリンパ球が識別して反応することを、「マイナー組織適合性抗原」と呼んでいます。HLAを厳密に合わせた同胞間でもGVHDがみられるのは、このマイナー組織適合性抗原の相違によるものです。ヒトのマイナー組織適合性抗原は、数百種あると推定されます。個々人の間で意味のあるマイナー組織適合性抗原は異なり、それぞれのHLAに特有のマイナー組織適合性抗原があります。したがって、レシピエント‐ドナー間で個々にマイナー組織適合性抗原を適合させることは非常に困難で、GVHDがどうしても一定の確率で生じることになります。最近では、日本人によくみられるHLA型に関連するマイナー組織適合抗原が、複数明らかにされています。


6.移植片対宿主病(GVHD)は予防可能か
同種移植では拒絶とGVHDを予防するために、強い免疫抑制作用を持つ前治療を行い、移植後は免疫抑制剤を使用します。多くの場合、拒絶は防ぐことができますが、GVHDを完全に防ぐことは困難です。予防法を強くすることにより、GVHDを押さえ込もうとする試みがあります。日本での保険適用はありませんが、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)やアレムツズマブ等を移植前治療中に併用する「GVHD予防法」です。このようなGVHD予防法を用いた移植の研究報告では、GVHDの発症頻度は確かに低くなっていますが、免疫の力を弱めすぎて感染症と再発が増加する結果、これまでのところ最終的な生存率は改善されていません。そのほか、欧米では種々の薬剤が試みられています。有望なものもありますが、結論を出すにはまだ早い段階です。現時点では、重症のGVHDがどの程度発症するかという予測に基づいた防止策が選択されています。例えば血縁者間と非血縁者間では、後者のほうが高い確率でGVHDが発症することが判っているため、一般に、より強い予防法が選択されることが多いです。その他、HLAが一致していない場合、妊娠歴のある女性ドナーから男性患者さんへ移植する場合、患者さんの年齢が高い場合等では、重症GVHD発症のリスクが高いとされています。


7.移植片対宿主病(GVHD)予防法の実際
実際の移植現場ではGVHD予防のため、移植日前後から長期間、免疫を抑える薬剤を使用します。最も多く使われるGVHD予防法は、シクロスポリンあるいはタクロリムスに、メトトレキサートを併用した方法です。メトトレキサートは、欧米では移植後1、3、6、11日目に用いられることが一般的です。重症の急性GVHDの頻度が少ない日本では、口腔粘膜の障害や骨髄回復への影響を懸念して、11日目を省いた方法もよく用いられます。シクロスポリンやタクロリムスの投与量は、有効で安全に使用できる血中濃度が維持できるように、週に2~3回程度、血中濃度を調べるための採血を行って調節します。血中濃度が低ければ急性GVHDのリスクが高くなり、高すぎると腎障害などの有害事象が起こりやすくなります。また、内服投与や分割点滴投与の場合には、次の薬剤投与直前に採血して血中濃度が最低となるときの血中濃度(トラフ値)を指標とするのが一般的です。シクロスポリンあるいはタクロリムスは、急性GVHDがなければ原則として移植後2~4ヵ月目ころからゆっくり減量していきますが、減量の速度は副作用が出やすいかどうか、再発しやすいかどうかなども考慮しつつ、個別的に判断されることが一般的です。また、中止の時期に関しては、慢性GVHDが出現しなければ、移植後180日前後が目標とされることが多いようです。シクロスポリンやタクロリムスの副作用には、腎障害の他に中枢神経障害(けいれん、視力障害、意識の混濁(こんだく)等)、高血圧、むくみ(浮腫(ふしゅ))、微小血管障害、高血糖、多毛等があります。他の薬剤との相互作用も多く、血中濃度に影響し腎毒性を増強しますので、併用薬剤については主治医とよく相談してください。また、グレープフルーツは薬の血中濃度を高くしますので控えましょう。

シクロスポリンとタクロリムスのどちらを用いるかは、患者さんごとに決められています。両者を比較した臨床試験などの結果、タクロリムスのほうが急性GVHDを抑える力は強いことが判っていますが、生存率には大きな差がありません3)。HLA-DNA不適合非血縁者間移植とHLA不適合血縁者間移植では、タクロリムスを使ったグループのほうが生存率が高いために、タクロリムスを使用するのは妥当です。しかし一方で、タクロリムスは免疫抑制効果が強いために、移植片対白血病(GVL)効果を弱めて、白血病再発リスクや感染症リスクを高める可能性があります。


8.急性移植片対宿主病(急性GVHD)の発症頻度
日本造血細胞移植学会の集計データによると、III度以上の重症の急性GVHDは、HLA適合同胞間移植では約8%に、HLA適合非血縁者移植では約13%に起こるとされています4)。欧米での移植成績と比較すると、日本人ではGVHDが比較的軽症にとどまる場合が多いことが知られています。また、年齢が高いほど重症GVHDの頻度は高くなると考えられていますが、非血縁者間移植例ではその影響が少なくなっています。移植片による違いも大きく、末梢血幹細胞を用いた場合は発症頻度が高く、臍帯血移植では低く、特にHLA不適合を含む臍帯血移植におけるIII度以上の重症急性GVHDの頻度は約8%です4)。

GVHDの激しさの程度(重症度)は、症状が現れている器官の数とどの程度までその器官が侵されているかをもとに判断し、急性GVHDは軽度(I度)、中等度(II度)、重度(III度)と危険域(IV度)に分類されます。世界の国々において、同一の基準で急性GVHDの重症度を評価しています。日本造血細胞移植学会のガイドラインも、それに従って作成されています5)。


9.急性移植片対宿主病(急性GVHD)の症状
最初の症状としては、原因不明の熱が続いたり、皮膚が赤くなったり、発疹(ほっしん)が現れることが多く、ひどい場合には皮がむけたり、水ぶくれができたりすることがあります。肝臓の細胞が破壊され、黄疸(おうだん)が出て体がだるくなり、重症の場合には、肝臓の機能が低下して意識が薄れることもあります。胃の症状としては、吐き気や、食欲がなくなり、腸管が攻撃されると大量の水様下痢便や血が混じった便(血便)が続いて栄養不全となり、いずれも重症になると患者さんは死に至ることがあります。急性GVHDが発症している期間は移植後早期のため、移植前治療による臓器障害や、免疫抑制剤などの薬剤による影響(治療関連毒性と呼ばれます)がみられる時期と一致します。また、サイトメガロウィルスなどの感染症も高頻度に合併する時期です。それらによる症状や所見は、一見、急性GVHDの臨床像と類似するものがあり、臨床的に鑑別が困難になることがあります。免疫抑制剤による微小血管病変などの場合には、急性GVHDに対する予防や治療が逆効果のことがあります。このようなことから、皮膚や大腸粘膜を生検して組織検査を行うことが確定診断、鑑別診断、治療方針決定に重要であるため、患者さんに検査への協力をお願いしなければなりません。



11.急性移植片対宿主病(急性GVHD)治療の適応
急性GVHDの治療は、一般にその重症度に従って決定されます。基本的にはI度のGVHDは様子をみるか、皮膚病変に対して局所ステロイド外用を行います。II度以上の場合には、予防的に用いている免疫抑制剤に加える形でステロイド剤をはじめます。しかし、発熱を伴って急激に進行する例やHLA不適合移植等では、I度のGVHDでも治療を考慮します。また逆に、II度であっても様子をみる場合があります。例えば、下痢が起こった場合を考えてみます。その原因、もしくは原因の一部が、移植前に行われた放射線や化学療法による消化管の粘膜障害、移植後のサイトメガロウイルス性腸炎、あるいは移植後TMA等によるものと考えられれば、ステロイド剤の開始を控えます。これらが原因の場合は、ステロイド剤は有効でないばかりか、逆に悪化させてしまうかもしれないからです。



12.急性移植片対宿主病(急性GVHD)治療の実際
まず、すでに投与している免疫抑制剤(シクロスポリン、タクロリムス)の濃度が、適正な範囲内に保たれていることを確認します。次にステロイド剤を投与し、反応がない場合には、さらに強力な免疫抑制剤投与も検討します。しかし、これらの薬剤療法によって日和見感染症(ひよりみかんせんしょう)が増加したり、GVHDとは直接関連のない臓器合併症が出現する場合があります。ステロイド剤による治療としては、患者さんの体重1kgあたり1~2mgのプレドニゾロン、あるいはメチルプレドニゾロンを約2週間程度投与し、その後ゆっくりと減らしていく方法が一般的です。日本は、欧米と比較して反応性は良好といわれています。ステロイドを漸減している間にGVHDが再燃した場合は、ステロイド剤の増量を考慮します。ステロイド剤による治療にもかかわらず悪化する場合、治療開始後7日経過しても変わらない場合、あるいは治療開始後14日目の時点で効果が不十分と判断された場合等には、治療法の変更を検討します。多くの施設において、患者さんの体重1kgあたり2mgのステロイド剤に反応しない場合には、ステロイド抵抗性急性GVHDと考えます。その頻度は、日本人では全体の10~15%です。このような場合、「ATG(ウマ由来のリンフォグロブリン(R)、ウサギ由来のゼットブリン(R))」、「ミコフェノール酸モフェチル(MMF:セルセプト(R))」、「インフリキシマブ(レミケード(R))」等、次の候補となる薬剤の使用が検討されます。しかし、いずれも重篤な副作用が知られていて、確実な効果を期待できるものはありません。また、残念ながらこれらのうち、日本でGVHDの治療薬として保険適用のある薬剤はありません。







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