詩はここにある(櫻井洋司の観劇日記)

日々、観た舞台の感想。ときにはエッセイなども。

映画『散歩する侵略者』

2017-09-23 21:11:38 | 日記
市川猿之助のスーパー歌舞伎Ⅱ『空ヲ刻ム者』の作・演出をした前川知大の「散歩する侵略者」を黒沢清監督が映画化。長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己らの出演。

宇宙人が地球を侵略するかもという状況なのに会話劇として物語が展開。生活感あふれる日常生活の中に宇宙人と地球人の夫婦がごはんを食べていたりと、宇宙人の地球侵略がどこまで本気なんだろうと思わせる。

宇宙人の先遣部隊が三人いて、地球人の頭の中にある「概念」を盗んでいく概念泥棒という趣向。様々な「概念」を取り込むことで宇宙人が人間を知るようになる。

「家族」「仕事」といった「概念」を人間から次々と取り上げていき・・・。散歩しながら「概念」を探すという設定なので「散歩する侵略者」ということらしい。デザイン会社の社長がセーターを「純一がけ」していたのがおかしかったけれど、「仕事」の概念を失って子供になってしまうのには心動かされました。

教会を宇宙人が訪ねる場面があるけれど、応対した牧師はコリント人の手紙13章から有名な「愛は忍耐強い。愛は情け深い。ねたまない。愛は自慢せず、高ぶらない」と説く。普通なら牧師から「愛の概念」を奪い、奪われた牧師は「愛の概念」が欠落したまま生きる事になるのだが、「愛」だけは奪い取らない。

聖書的にはこの愛は人間同士の愛ではなく「神の愛」を説いているのだけれど、映画では「善なるもののイメージ」として描いていた。

ホラーSF映画と思ったら、最後には全然別の方向の映画だという事がわかる。愛を高らかに謳い上げる映画でした。

それにしても黒沢清監督の細部へのこだわりが凄くて、背景の家具や食事の様子のリアルな事といったら驚くばかり。教会の牧師のデスクの上の籠にさりげなくイースターエッグが置かれていたのには唸りました。最後の日が来ても復活するだろうという暗喩だったのかもしれない。