昭和・私の記憶

途切れることのない吾想い 吾昭和の記憶を物語る
 

戦陣訓 「是戦陣訓の本旨とする所なり」

2015年07月31日 17時57分54秒 | 9 昭和の聖代

戰陣訓


夫れ戰陣は、
大命に基き、皇軍の神髄を發揮し、
攻むれば必ず取り、戰へば必ず勝ち、
遍く皇道を宣布し、敵をして仰いで御稜威の尊嚴を感銘せしむる処なり。
されば戰陣に臨む者は、
深く皇國の使命を體し、堅く皇軍の道義を持し、
皇國の威徳を四海に宣揚せんことを期せざるべからず。

惟ふに軍人精神の根本義は、
畏くも軍人に賜はりたる勅諭に炳乎として明かなり。
而して戰闘並に訓練等に關し準拠すべき要綱は、又典令の綱領に教示せられたり。
然るに戰陣の環境たる、兎もすれば眼前の事象に捉はれて大本を逸し、
時に其の行動軍人の本分に戻るが如きことなしとせず。
深く愼まざるべけんや。
乃ち既往の經驗に鑑み、
常に戰陣に於て勅諭を仰ぎて之が服行の完璧を期せむが爲、
具體的行動の憑拠を示し、以て皇軍道義の昂掲を圖らんとす。

是戰陣訓の本旨とする所なり。

本訓其の一
第一 皇國
大日本は皇國なり。
萬世一系の天皇上に在しまし、肇國の皇謨を紹繼して無窮に君臨し給ふ。
皇恩萬民に遍く、聖徳八紘に光被す。
臣民亦忠孝勇武祖孫相承け、皇國の道義を宣揚して天業を翼賛し奉り、
君民一體以て克く國運の隆昌を致せり。

戰陣の將兵、宜しく我が國體の本義を體得し、牢固不抜の信念を堅持し、
誓って皇國守護の大任を完遂せんことを期すべし。

第二 皇軍
軍は天皇統帥の下、神武の精神を體現し、以て皇國の威徳を顯揚し皇運の扶翼に任ず。
常に大御心を奉じ、正にして武、武にして仁、克く世界の大和を現ずるもの是神武の精神なり。
武は嚴なるべし仁は遍きを要す。
苟も皇軍に抗する敵あらば、烈々たる武威を振ひ斷乎之を撃砕すべし。
仮令峻嚴の威克く敵を屈服せしむとも、服するは撃たず従ふは慈しむの徳に欠くるあらば、
未だ以て全しとは言ひ難し。
武は驕らず仁は飾らず、自ら溢るるを以て尊しとなす。
皇軍の本領は恩威並び行はれ、遍く御稜威を仰がしむるに在り。

第三 軍紀
皇軍軍紀の神髄は、
畏くも大元師陛下に対し奉る絶對髄順の崇高なる精神に存す。

上下齊しく統帥の尊嚴なる所以を感銘し、
上は大權の承行を謹嚴にし、
下は謹んで服從の至誠を致すべし。
盡忠の赤誠相結び、
脈絡一貫、全軍一令の下に寸毫亂るゝなきは、
是戰勝必須の要件にして、又實に治安確保の要道たり。
特に戰陣は、服従の精神實践の極致を發揮すべき処とす。
死生困苦の間に処し、
命令一下欣然として死地に投じ、
黙々として献身服行の實を擧ぐるもの、實に我が軍人精神の精華なり。

第四 團結
軍は、畏くも大元師陛下を頭首と仰ぎ奉る。
渥き聖慮を體し、忠誠の至情に和し、擧軍一心一體の實を致さざるべからず。

軍隊は統率の本義に則り、
隊長を核心とし、掌固にして而も和気藹々たる團結を固成すべし。
上下各々其の分を嚴守し、
常に隊長の意圖に從ひ、誠心を他の腹中に置き、生死利害を超越して、
全體の爲己を没するの覺悟なかるべからず。

第五 協同
諸兵心を一にし、己の任務に邁進すると共に、
全軍戦捷の為欣然として没我協力の精神を発揮すべし。

各隊は互に其の任務を重んじ、名誉を尊び、相信じ相援け、自ら進んで苦難に就き、
戮力協心相携へて目的達成の為力闘せざるべからず。

第六 攻撃精神
凡そ戦闘は勇猛、常に果敢精神を以て一貫すべし。
攻撃に方りては果断積極機先を制し、剛毅不屈、敵を粉砕せずんば已まざるべし。
防禦又克く攻勢の鋭気を包蔵し、必ず主動の地位を確保せよ。
陣地は死すとも敵に委すること勿れ。
追撃は断乎として飽く迄も徹底的なるべし。

勇往邁進百事懼れず、沈着大胆難局に処し、堅忍不抜困苦に克ち、
有ゆる障碍を突破して一意勝利の獲得に邁進すべし。

第七 必勝の信念
信は力なり。自ら信じ毅然として戦ふ者常に克く勝者たり。
必勝の信念は千磨必死の訓練に生ず。
須く寸暇を惜しみ肝胆を砕き、必ず敵に勝つの実力を涵養すべし。

勝敗は皇国の隆替に関す。
光輝ある軍の歴史に鑑み、
百戦百勝の伝統に対する己の責務を銘肝し、
勝たずば断じて已むべからず。

本訓其の二
第一 敬神
神霊上に在りて照覧し給ふ
心を正し身を修め篤く敢神の誠を捧げ、
常に忠孝を心に念じ、仰いで神明の加護に恥ぢさるべし。

第二 孝道
忠孝一本は我が国道義の精彩にして、忠誠の士は又必ず純情の孝子なり。
戦陣深く父母の志を体し、
克く尽忠の大義に徹し、以て祖先の遺風を顕彰せんことを期すべし。

第三 敬礼挙措
敬礼は至純なる服従心の発露にして、又上下一致の表現なり。
戦陣の間特に厳正なる敬礼を行はざるべからず。

礼節の精神内に充溢し、挙措謹厳にして端正なるは強き武人たるの証左なり。
第四 戦友道
戦友の道義は、大義の下死生相結び、互に信頼の至情を致し、常に切磋琢磨し、
緩急相救ひ、非違相戒めて、倶に軍人の本分を完うするに在り。

第五 率先躬行
幹部は熱誠以て百行の範たるべし。
上正しからざれば下必ず乱る。

戦陣は実行を尚ぶ。
躬を以て衆に先んじ毅然として行ふべし。

第六 責任 
任務は神聖なり。
責任は極めて重し。
一業一務忽せにせず、心魂を傾注して一切の手段を早くし、
之が達成に遺憾なきを期すべし。

第七 死生観
死生を貫くものは崇高なる献身奉公の精神なり。
生死を超越し一意任務の完遂に邁進すべし。
身心一切の力を尽くし、従容として悠久の大義に生くることを悦びとすべし。

第八 名を惜しむ
恥を知るもの強し。
常に郷党家門の面目を思ひ、愈々奮励して其の期待に答ふべし。

生きて虜囚の辱を受けず、死して罪禍の汚名を残すこと勿れ。
第九 質実剛健
質実以て陣中の起居を律し、剛健なる士風を作興し、旺盛なる志気を振起すべし。
陣中の生活は簡素ならざるべからず。
不自由は常なるを思ひ、毎事節約に努むべし。
奢侈は勇猛の精神を蝕むものなり。

第十 清廉潔白
清廉潔白は、武人気節の由って立つ所なり。
己に克つこと能はずして物欲に捉はるる者、争でか皇国に身命を捧ぐるを得ん。

身を持するに冷厳なれ。
事に処するに公正なれ。行ひて俯仰天地に愧ぢさるべし。

本訓其の三
第一 戦陣の戒

一瞬の油断、不測の大事を生ず。
常に備へ厳に警めざるべからず。

敵及住民を軽侮するを止めよ。
小成に安んじて労を厭ふこと勿れ。
不注意も亦災禍の因と知るべし。

 
軍機を守るに細心なれ。
謀者は常に身辺に在り。

 
哨務は重大なり。
一軍の安危を担ひ、一隊の軍紀を代表す。
宜しく身を以て其の重きに任じ、厳粛に之を服行すべし。

哨兵の身分は又深く之を尊重せざるべからず。
四 
思想戦は、現代戦の重要なる一面なり。
皇国に対する不動の信念を以て、敵の宣伝欺瞞を破摧するのみならず、
進んで皇道の宣布に勉むべし。

 
流言蜚語は信念の弱きに生ず。
惑ふこと勿れ、動ずること勿れ。
皇軍の実力を確信し、篤く上官を信頼すべし。

 
敵産、敵資の保護に留意するを要す。
徴発、押収、物資の燼滅等は総て規定に従ひ、必ず指揮官の命に依るべし。

 
皇軍の本義に鑑み、仁恕の心能く無事の住民を愛護すべし。

 
戦陣苟も酒色に心奪はれ、又は欲情に駆られて本心を失ひ、皇軍の威信を損じ、
奉公の身を過るが如きことあるべからず。
深く戒慎し、断じて武人の清節を汚さざらんことを期すべし。

 
怒を抑へ不満を制すべし。
「怒は敵と思へ」と古人も教へたり。
一瞬の激情悔を後日に残すこと多し。

軍法の峻厳なるは時に軍人の栄誉を保持し、皇軍の威信を完うせんが為なり。
常に出征当時の決意と感激とを想起し、遥かに思を父母妻子の真情に馳せ、
仮初にも身を罪科に曝すこと勿れ。
第二 戦陣の嗜


尚武の伝統に培ひ、武徳の涵養、技能の練磨に勉むべし。

「毎時退屈する勿れ」とは古き武将の言葉にも見えたり。

後顧の憂を絶ちて只管奉公の道に励み、常に身辺を整へて死後を清くするの嗜を肝要とす。

屍を戦野に曝すは固より軍人の覚悟なり。
縦ひ遺骨の遅らざることあるも、敢て意とせぎる様予て家人に含め置くべし。

 
戦陣病魔に倒るるは遺憾の極なり。
時に衛生を重んじ、
己の不節制に因り奉公に支障を来すが如きことあるべからず。

 
刀を魂とし馬を宝と為せる古武士の嗜を心とし、
戦陣の間常に兵器資材を尊重し馬匹を愛護せよ。

五 
陣中の徳義は戦力の因なり。
常に他隊の便益を思ひ、宿舎、物資の独占の如きは慎むべし。
「立つ鳥跡を濁さず」と言へり。
雄々しく床しき皇軍の名を、異郷辺土にも永く伝へられたきものなり。

 
総じて武勲を誇らず、功を人に譲るは武人の高風とする所なり。

他の栄達を嫉まず己の認められざるを恨まず、省みて我が誠の足らざるを思ふべし。
 
諸事正直を旨とし、誇張虚言を恥とせよ。

 
常に大国民たるの襟度を持し、正を践み義を貫きて皇国の威風を世界に宣揚すべし。
国際の儀礼亦軽んずべからず。

 
万死に一生を得て帰還の大命に浴することあらば、具に思を護国の英霊に致し、
言行を悼みて国民の範となり、愈々奉公の覚悟を固くすべし。


以上述ぶる所は、悉く勅諭に発し、又之に帰するものなり。
されば之を戦陣道義の実践に資し、以て聖諭服行の完璧を期せざるべからず。
戦陣の将兵、須く此の趣旨を体し、愈々奉公の至誠を擢んで、
克く軍人の本分を完うして、皇恩の渥きに答え奉れべし。

(陸軍省 昭和16年1月8日)

コメント