悲鳴が聞こえた。
微睡んでいた大枝より眼下に広がる森へ意識を広げて諍いの気配を捉える。
森の切れた崖の先に、大きな獣に追い詰められたらしい人がひとり見える。
我(紅仙)は紅い鳳に姿を変え、翼を大きく広げて其処までを一気に飛んだ。
---------------------------
掻き折った松の枝を踏み散らして唸り、爛々と眼を怒らせ、引き絞られた弓の如く身を撓め、飛びかからんとする白虎。
その眼前に舞い降りて、仙師の洞へ疾く戻れ、と促した。
崖に誰かを追い詰めていた虎とは、我は旧知の仲なのだ。
渋々の虎を見送り、改めて崖縁に居るその人を振り返る。
折られた松の清々しい芳香が、場の乱れを静めてくれる。
涼しげな眼差しの…どこか見知った姿の若い武人である。
構えた剣を納め、丁寧に礼を尽くされて思い出す。
そうか仙師のところで見かけた客人だった、と。
怪我を負われましたか。いったいなんの無茶を?
その気性こそ激しいが、彼女は人など襲ったことのない賢い虎なのだ。
仙師が高く評する人に似合わない危難だったので、大層疑問に思った。
苦笑 いや我(わたくし)の仕業では無いのです。
あれは麓の者でしょうか? 先に逃がしましたが。
彼の虎の領域を侵したようで襲われておりました。
それでやむなく、と言いながらさほど表情は変わらないが傷は深いようだ。
その傷、手当致しましょう。
こちらへと流血の続く手をとり、両手で傷を挟んだ。
他の師のようにすぐさま跡形もなく、という訳には参りませぬが
止血は直ぐに。
あとは2日もあればおそらく。
すっかり傷も治るでしょう、そう伝え、血の止まった傷には懐中より
取り出した薬草を貼り袖を裂き、彼の腕を巻いた。
恐縮して何度も礼を述べる人に帰られる都の館までお送り致しましょう
というと、これ以上のご迷惑は…、と固辞された。
しかし、狩人でもなく虎と渡りあったのです。
お疲れでしょう、それに彼女は霊山に住まう者。
いわば身内の掛けた迷惑でございます故。
どうか。
そう言って無理を通し、変化した鳳の背に彼を乗せ、送っていった。
道すがら、この鳳の姿で都まで行かれますか?とおずおずと聞いてくるので
なに人家が増えてきましたら、隠形の術を使いますよ。
ご心配なく 笑
ゆったり飛びます。武人殿は風景でも楽しんでおいでなさい。
そんな話をした。
洞に戻り、雌虎から子細を聞いて些か気を揉んだらしい仙師に
事の次第を打ち明け終わる頃、月は夜空に高くかかっていた。
彼の名は、碧炎。
印象深い出会いでありましたよ。 笑
Fantasy chinois - Tigre Blanc -╱ 中華幻想 - 白虎 -
微睡んでいた大枝より眼下に広がる森へ意識を広げて諍いの気配を捉える。
森の切れた崖の先に、大きな獣に追い詰められたらしい人がひとり見える。
我(紅仙)は紅い鳳に姿を変え、翼を大きく広げて其処までを一気に飛んだ。
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掻き折った松の枝を踏み散らして唸り、爛々と眼を怒らせ、引き絞られた弓の如く身を撓め、飛びかからんとする白虎。
その眼前に舞い降りて、仙師の洞へ疾く戻れ、と促した。
崖に誰かを追い詰めていた虎とは、我は旧知の仲なのだ。
渋々の虎を見送り、改めて崖縁に居るその人を振り返る。
折られた松の清々しい芳香が、場の乱れを静めてくれる。
涼しげな眼差しの…どこか見知った姿の若い武人である。
構えた剣を納め、丁寧に礼を尽くされて思い出す。
そうか仙師のところで見かけた客人だった、と。
怪我を負われましたか。いったいなんの無茶を?
その気性こそ激しいが、彼女は人など襲ったことのない賢い虎なのだ。
仙師が高く評する人に似合わない危難だったので、大層疑問に思った。
苦笑 いや我(わたくし)の仕業では無いのです。
あれは麓の者でしょうか? 先に逃がしましたが。
彼の虎の領域を侵したようで襲われておりました。
それでやむなく、と言いながらさほど表情は変わらないが傷は深いようだ。
その傷、手当致しましょう。
こちらへと流血の続く手をとり、両手で傷を挟んだ。
他の師のようにすぐさま跡形もなく、という訳には参りませぬが
止血は直ぐに。
あとは2日もあればおそらく。
すっかり傷も治るでしょう、そう伝え、血の止まった傷には懐中より
取り出した薬草を貼り袖を裂き、彼の腕を巻いた。
恐縮して何度も礼を述べる人に帰られる都の館までお送り致しましょう
というと、これ以上のご迷惑は…、と固辞された。
しかし、狩人でもなく虎と渡りあったのです。
お疲れでしょう、それに彼女は霊山に住まう者。
いわば身内の掛けた迷惑でございます故。
どうか。
そう言って無理を通し、変化した鳳の背に彼を乗せ、送っていった。
道すがら、この鳳の姿で都まで行かれますか?とおずおずと聞いてくるので
なに人家が増えてきましたら、隠形の術を使いますよ。
ご心配なく 笑
ゆったり飛びます。武人殿は風景でも楽しんでおいでなさい。
そんな話をした。
洞に戻り、雌虎から子細を聞いて些か気を揉んだらしい仙師に
事の次第を打ち明け終わる頃、月は夜空に高くかかっていた。
彼の名は、碧炎。
印象深い出会いでありましたよ。 笑
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