割れ残ったガラスの向こうの闇に薄緑の燐光が二つ浮かんでいる。
なんのことはない。 私の瞳だ。
あの男は深紅だったな。
お陰で生き延びられた。
右手で襟を掴みぶら下げていた奴を放りだし、左胸を貫通した細い矢を引き抜こうとした。
しかし、返しが付いていて抜けない。 先へ押し抜くしかないからこのままにする。
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着任して間もない頃、どうもこちらの情報ばかり流す連中が居るらしい
という噂の店があって、戦略部のリーダー数人が身分を隠さず客として入り
逆にどのように漏洩するか情報にマーカーを付け調べたことがあった。
およそ3日で細部まで含む相関図を掌握、諜報員らしい人物を特定した。
このネットワークはまだ気付かれていないと思わせておいた方が
今後も役立ちそうだと判断され、その娼館は重要監視対象となったが
表向きは白、なにも見つからなかったことになっていた。
怪しまれない程度に数名が客として通い、交互に監視にあたる。
それでも半年も続けたらやはり目立つ。
数カ月がいいところだろうと思っていた。
懸念は意外な形で早く当たってしまった。
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娼館の監視 という指令で来てみればこの有様はいったい何だ?
民間人に機器類(諜報用)を埋め込むのは禁止されていますね。
倫理上、と言うよりは管理が行き届かない為。
相手側によって発見された場合、こちらの手札が丸見えになる。
遊びが過ぎて逆にこちらがハッキングされていたという失態。
ガクガクと頭を小刻みに上下させながら、こちらへ振り返ろうとする女。
後ろから彼女の両眼を右手で覆った。
左手は首。 細い。
この娘の正気は、もう戻らないだろう。
なんにせよこれ以上情報はやれない。
そのままその若い娼婦の首を折った。
本件は、このまま報告いたします。
きびすを返して退出しようとドアに手をかけた刹那
うなじにぴりっと何かが走る感覚。
手にしたボードで頭部をかばうと
クロスボウの矢がビィンと突き立っていた。
チッと空気を焦がし3方から寄せてくる殺意。
役職は同じでも、経験はあちらがかなり上だ。
さて。 どう生き延びる?
2、3手を受けたところで至近距離からクロスボウで胸を撃たれた。
先端が傘の様に開く返しが体内で開いていたら即死だったろう。
距離が近すぎて貫通したため助かった。
しかし、浅傷ではない。
撃たれた反動で床を転がりながらそれだけ考えた。
壁に当たって止まり起き直りかけたとき
こちらへ投げられるナイフと別方向からつがえられたクロスボウの影。
避けられるか?
その瞬間、視界が二重映しになった。
放たれたナイフが見える。
考える間も無く体が先に動く。
刺さる直前、指先が軽やかに刃を捉えた。
クロスボウの矢も同じく捉えた。
速い。
意識しているゆとりは無い。
立ち上ると3人が怯んでやや退いた。
薄緑色した鬼火が全身からのぼるような気がした。
身体の前で交差した両手の
右手のナイフと左手の細矢。
身を沈め、跳ね上がり様に持ち主の顔へ返した。
中空で後転、壁の天井際に足を着いて半身をひねり
腰の短刀で油煙に曇ったシャンデリアを切り落とす。
暗転。
着地して眼を閉じ気配を伺う。
微かな息づかいの方へ顔を向けると
そちらからジグザグの光跡が走った。
寄せる魚群の腹の燦めき。
飛び退ると居た場所に突き刺さるニードルフィッシュ(投げナイフ
追われながら食卓を楯に物陰へ転がり込む。
当然、次は仕留める気で狙ってくる。
もたもた考えても一緒だ。
ならば。
正面から仕掛けた。 防具を身につけていないぶん身軽だ。
投げナイフを数度かわして間合いを詰める。
こめかみに蹴りを当てる。
相手は後方の出窓の縁柱まで吹っ飛んだ。
金の凝った装飾に色が付く。
ずるずると床へ垂れてゆく奴を引き起こして、息を確かめる。
とどめを刺すかとも思ったけれど、気が失せてしまった。
ずきりと矢傷が重く響き
私に私の感覚が戻った。
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これがグラディウスの能力を無意識にCALLした時の体感だった。
なんのことはない。 私の瞳だ。
あの男は深紅だったな。
お陰で生き延びられた。
右手で襟を掴みぶら下げていた奴を放りだし、左胸を貫通した細い矢を引き抜こうとした。
しかし、返しが付いていて抜けない。 先へ押し抜くしかないからこのままにする。
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着任して間もない頃、どうもこちらの情報ばかり流す連中が居るらしい
という噂の店があって、戦略部のリーダー数人が身分を隠さず客として入り
逆にどのように漏洩するか情報にマーカーを付け調べたことがあった。
およそ3日で細部まで含む相関図を掌握、諜報員らしい人物を特定した。
このネットワークはまだ気付かれていないと思わせておいた方が
今後も役立ちそうだと判断され、その娼館は重要監視対象となったが
表向きは白、なにも見つからなかったことになっていた。
怪しまれない程度に数名が客として通い、交互に監視にあたる。
それでも半年も続けたらやはり目立つ。
数カ月がいいところだろうと思っていた。
懸念は意外な形で早く当たってしまった。
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娼館の監視 という指令で来てみればこの有様はいったい何だ?
民間人に機器類(諜報用)を埋め込むのは禁止されていますね。
倫理上、と言うよりは管理が行き届かない為。
相手側によって発見された場合、こちらの手札が丸見えになる。
遊びが過ぎて逆にこちらがハッキングされていたという失態。
ガクガクと頭を小刻みに上下させながら、こちらへ振り返ろうとする女。
後ろから彼女の両眼を右手で覆った。
左手は首。 細い。
この娘の正気は、もう戻らないだろう。
なんにせよこれ以上情報はやれない。
そのままその若い娼婦の首を折った。
本件は、このまま報告いたします。
きびすを返して退出しようとドアに手をかけた刹那
うなじにぴりっと何かが走る感覚。
手にしたボードで頭部をかばうと
クロスボウの矢がビィンと突き立っていた。
チッと空気を焦がし3方から寄せてくる殺意。
役職は同じでも、経験はあちらがかなり上だ。
さて。 どう生き延びる?
2、3手を受けたところで至近距離からクロスボウで胸を撃たれた。
先端が傘の様に開く返しが体内で開いていたら即死だったろう。
距離が近すぎて貫通したため助かった。
しかし、浅傷ではない。
撃たれた反動で床を転がりながらそれだけ考えた。
壁に当たって止まり起き直りかけたとき
こちらへ投げられるナイフと別方向からつがえられたクロスボウの影。
避けられるか?
その瞬間、視界が二重映しになった。
放たれたナイフが見える。
考える間も無く体が先に動く。
刺さる直前、指先が軽やかに刃を捉えた。
クロスボウの矢も同じく捉えた。
速い。
意識しているゆとりは無い。
立ち上ると3人が怯んでやや退いた。
薄緑色した鬼火が全身からのぼるような気がした。
身体の前で交差した両手の
右手のナイフと左手の細矢。
身を沈め、跳ね上がり様に持ち主の顔へ返した。
中空で後転、壁の天井際に足を着いて半身をひねり
腰の短刀で油煙に曇ったシャンデリアを切り落とす。
暗転。
着地して眼を閉じ気配を伺う。
微かな息づかいの方へ顔を向けると
そちらからジグザグの光跡が走った。
寄せる魚群の腹の燦めき。
飛び退ると居た場所に突き刺さるニードルフィッシュ(投げナイフ
追われながら食卓を楯に物陰へ転がり込む。
当然、次は仕留める気で狙ってくる。
もたもた考えても一緒だ。
ならば。
正面から仕掛けた。 防具を身につけていないぶん身軽だ。
投げナイフを数度かわして間合いを詰める。
こめかみに蹴りを当てる。
相手は後方の出窓の縁柱まで吹っ飛んだ。
金の凝った装飾に色が付く。
ずるずると床へ垂れてゆく奴を引き起こして、息を確かめる。
とどめを刺すかとも思ったけれど、気が失せてしまった。
ずきりと矢傷が重く響き
私に私の感覚が戻った。
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これがグラディウスの能力を無意識にCALLした時の体感だった。