雨過天青

のんびり更新中。

ナルサイ・8

2010-04-27 | ナルサイ(タイトル未定)
「あのな、今だから言うけどイルカ先生、前からお前のこと、アカデミーに来ればいいのにって言ってたんだぞ」
「え」
意外な事を言われ、思わず固まった。
教員試験を受けるために現役のアカデミー教師の推薦が必須と知り、駄目モトでイルカの所へ頼みに行ったのは昨年の冬の事だった。ナルトが言っているのはその頃の事だろうか、と問うと、ナルトは僅かに考え、
「や、違うって。そんな最近の話じゃねぇもん」
と、首を振った。
そして、煮物を口へ運んだ後の箸を行儀悪くねぶりながら、
「もっと、ずっと前。まだオレとお前とサクラちゃんとでスリーマンセルで任務してた頃」
あっけらかんと告げられ、益々混乱した。ナルトやサクラと共に任務をこなしていた頃というなら、それはまだ自分たちが十代の時の話だ。
「…何で、イルカ先生そんな事を言ったんだろう」
「うん、オレも不思議でさぁ、なんで?って聞いたら…」
遠い目で、恩師とのかつての遣り取りに思いを馳せていたナルトは、突然へにゃりと笑み崩れ、
「あ、そっか。そんときにお前のことを、かなりの熱血だから、って言ってたんだった」
「………」
うんうん、思い出した…と、至極満足げな様子のナルトに少々の脱力感を覚えながら、この様子では今日はもうこれ以上の事を聞き出すのは無理かもしれない、と悟り、
「そっか…『教師に向いてるから熱血』って事なのかな」
と無理矢理まとめてやると、
「や、そうじゃなくて、『熱血だから教師に向いてる』って………じゃなくてさ…」
折角話を終わらせてやろうとしたのに、ナルトはわざわざ自分から話題のループに嵌り直してしまった。
「…何で熱血?って話だったんだもんな…だからさ、えーと………あれ??」
酔いで鈍った頭で考え続けても、思考のための思考で更に迷うだけじゃないかという気もしたが、せっかくなので真剣な顔で考え込むナルトの様子を肴にして、残った酒をちびちび舐めていると、

ナルサイ・7

2010-03-13 | ナルサイ(タイトル未定)
それは、かつて属していた「根」から己に与えられた名だった。
与えられる名は任務の度に変わり、故に自分がいつ、誰に何という名で呼ばれていたかなどということは、今ではもうほとんど覚えていない。
不思議なもので、名を呼ばれた記憶が薄らぐと、一体自分は本当にあの時あの場所に居たのだろうか?と、己の存在ごと思い出が曖昧になり、やがては消えてしまう。自分の中で、過去の自分がしずかに死んでいく感覚。そうやって己を殺しながら任務をこなす。あの頃は、それが「生きる」という事だった。
数年前、根の実質的な支配者だったダンゾウが命を落とし、地下組織の色合いが強かった根は名実共に解体され、所属していた忍たちは正式な木ノ葉の忍として、戸籍上の名で改めて里のリストに登録された。
自分も、その時本来の名が返された一人だ。孤児であった自分に誰がその名を付けたのか今となっては知る由もない。けれど、どういうわけかいつまで経ってもその名が身に馴染まない。根に居た頃、どんな名で呼ばれても違和感など感じた事もなかったというのに、今になって皮肉なものだな、と思う。
「サイ」は、根の暗部としての最後の任務で、ダンゾウ自らに与えられた名前だった。その任務を通してナルトに出会い、サクラやシカマルや、たくさんの木ノ葉の忍と知己となった。
けれど、いまではもう自分を「サイ」と呼ぶ人はいない―――ナルトを除いては。
勿論、公の場や「サイ」を知らない人の前でその名を呼ぶような事はしない。はじめの頃、本当の名を呼び上げてはいちいち「なんか変な感じだなぁ」というような顔をしていたナルトも、最近ではもう当たり前のようにその名を口にする。
けれど、こうやって2人きりでいるとき、ナルトは迷いもせずに「サイ」と呼ぶのだ。あの頃より少しだけ低く、その分だけまろみを増した、その声で。

ナルサイ・6

2010-03-10 | ナルサイ(タイトル未定)
「………イルカ先生が…」
「あ、そっか。うん、そう、イルカ先生が…えーと………んー…?」
酔いのため思考が定まらないのか、上手く言葉が見付からずにうんうん唸っていたナルトだったが、ふと顔を上げ、
「っていうか、何でお前そんな真顔なの?」
ちゃんと飲んでるか?…と、微妙に痛いところを衝いてきた。
二人きりで差し向かいで飲んで酒を過ごしたりしたら、うっかり何を口に出してしまうか分からない、という自覚もあり、宴の供が度数の高い酒に切り替わってからは、場を白けさせない程度―――殆ど舐めるようにしか飲んでいなかった。
「飲んでるよ…」
ちゃんと、という程ではないけどね、…と、心の中だけで言い訳を付け足した。
「そうじゃなくて、熱血とか言われたの初めてだから、何でだろうって思って」
辛抱強く話の流れを修正する。ナルトは腕を組んで大仰に頷き、
「うん…そーだな、フツーお前相手に熱血って単語は出て来ねーよなぁ」
にしし、と、悪戯小僧の顔をして笑った。
ナルトの言う通りだし、自分だってそう思う。けれど、何故かとても―――嬉しかったのだ。自分をそんな風に評してくれる人がいたという事が。そして、どうしてそう言ってくれたのか知りたいと、心から思った。
真剣な気持ちが伝わったのかもしれない。酔いにまかせて話をはぐらかしてばかりだったナルトが一瞬黙ってこちらを見つめ、ややあって、姿勢を正すと真っ直ぐに向き合ってきた。
そして、
「―――なぁ、サイ」
懐かしい名で、呼ばれた。

ナルサイ・5

2010-03-07 | ナルサイ(タイトル未定)
「ね…熱血…?」
「うん」
手酌でクイクイと飲んでいたナルトが、会話の接ぎ穂に徳利を傾けたが、いつの間にやら空になってしまっていたらしく逆さにしてようやく二・三的が落ちてくるのを残念そうに眺めた。
「あれ…もう無い…」
すかさず追加を頼むナルトに、思わず、
「ちょっと、ペース早過ぎだよ」
と、声を掛けると、
「え…?そっかな…?」
不思議そうな呟きと共に、きょとんとした瞳を向けられた。
…そういえば、先だって木ノ葉の同年代の忍たちが集まって開いてくれた祝いの席で、どんな話の流れだったか、今や火影の懐刀として外交に手腕を発揮しているシカマルが、多忙につき不在の火影について、
『ナルトが潰れたところって見た事ねーな、ほろ酔いのまま無限に飲み続けんだ、アイツは。あれは…九尾のチャクラがアルコール分解してんじゃねーか、って、オレは思ってるんだけど』
などと、大真面目な顔で語っていたのを思い出した。
その時はそんな、まさか…と笑ってしまったが、今まさに目の前で上機嫌で酒を飲み干し続けるナルトを見ていると、シカマルの推測もあり得るかも、などと思えてしまう。
「なんかさー、今日の酒は、妙に美味いんだってばよ」
―――そんな無邪気に、昔の面影を残した姿で、子供の頃の口癖で笑い掛けないで欲しい。
長い時間をかけてやっとの思いで鎮めたはずの彼への想いが、その笑顔一つで簡単に心の真ん中まで戻ってきてしまうから。
思わず、遣る瀬無いため息を落としてしまいそうになって、ぐっと堪えた。
そんな自分の様子に気付く事も無く、ナルトは机の上に並んでいた漬物を指で摘まんで口に運びながら、
「で、えと…何の話してたんだっけ」
などと、呑気な調子で問い返してきた。

ナルサイ・4

2010-03-06 | ナルサイ(タイトル未定)
子供たちを導く役割のアカデミー教員に就くには、素質を問われる教員試験とは別に、厳しく素行が問われることになる。
里の昏い部分を担う組織である暗部の、ましてやその中でも深部に在る「根」出身の自分が志望してみたところで、その希みが叶う可能性は限りなく低いものだったに違いない。
「―――…」
驚いたように目を見開きこちらを見つめるナルトは、火影としてアカデミーの人事に於いて最終的な任命権を持ち、そしてその権利と同時に任命者としての重い責任を負っている。
―――多分、今回の教員人事について上層部からは強い反対があった筈だ。実際、試験中にはその反発を肌で感じていた。
それでも、ナルトは自分に教師という職を与えてくれた。身内びいきだ、という声もあっただろうに、そんな批判も責任も全てを引き受けて、自分を信じてくれたのだ。その事を思うと、身の引き締まる思いと同時に、強い歓びが満ちてくる。
「…バカ、オレのおかげとか言うなよ。オレは、お前なら子供らを任せられる、って思ったから…」
照れ隠しのためか、ふてくされたように早口でそう呟いたナルトが、ふ、と思い出し笑いを浮かべる。
「そりゃあ、昔のお前だったら、とてもじゃないけど無理! 止めとけ!! …って全力で止めるとこだけどさぁ」
ニヤニヤしながらそう揶揄され、今度はこちらが言葉に詰まる番だった。
「そ………そうだね…」
今にして思えば、「感情が無い」などとよく言えたものだと思う。
ナルトたちと出会い、自分には感情が無いのではなく、心の内の波のうねりを無理矢理抑え付けていただけなのだということを少しずつ知り、最近ではむしろ、自分は激情型の人間なのではないかとすら思える。
と言っても、自覚があるだけで相変わらず顔には出ないので、周囲からは穏やかな性格だと評されてはいるけれど。
などと思考の片隅でぼんやりと思っていたら、
「ま、でもイルカ先生はお前のこと、すげー買ってるぞ。ああ見えて、かなりの熱血だ、って!」
と、ドキリとするような事を言われた。