言葉のクロッキー

本とかテレビその他メディアから、
グッと感じた言葉・一文などを残してゆきたい。
その他勝手な思いを日記代わりに。

第52回野村狂言座

2010-12-03 | 能・芸能
番組
『引括』  夫:野村萬斎      妻:高野和憲

『木六駄』 太郎冠者:石田幸雄   主:竹山悠樹
         茶屋:野村萬斎    伯父:野村万之介

『唐人子宝』  唐人:野村万作   何某:野村万之介
        太郎冠者:深田博治  次郎冠者:月崎晴夫
          唐子:野村遼太  中村修一
          今若:野村裕基  熊若:山口圭太

『木六駄』は見ごたえがあった。牛12頭(木六駄分&炭六駄分)を連れて雪深い峠を目指す演技は、その情景がおもい浮かぶ、なにか絵を見るような感じがした。狂言の題材は色々あるけど、この演目はどこかユーモラスな牛、それが12頭もいるという設定とそれをたった一人で、掛け声と細い竹の棒で叩いて、牛達を騙しだましして運ぶという、難儀さを表現するという演技、加えて酒樽を片手に持ってのお話なのだ。今どきこのような理不尽な主人の言いつけをやる純朴な人間はいないと思うけど、嫌々ながらも承知してしまうというそれだけでもある種のノスタルジーを感じてしまう。もっとも峠で休息して酒でも飲もうとしたが茶屋にあっさり「無い」と言われ、堪忍の尾が切れてしまう。そこからが実に人間らしくて面白くなる。先ず届物の酒樽を無断で開けてしまう。「一寸一杯くらい飲んだって、水でも入れとけばわかりゃしない」というきっかけから、ついには茶屋と二人しての酒盛りとなって大いに盛り上がり、気がつけば空っぽの酒樽。全然反省の気配なく、その上あろうことか牛6頭分の積み荷の木を、これも主人に無断で売り払い、六分の一を茶屋の分けまえにし、残りを自分の懐に入れようと画策するのだ。萬斎さんと石田さんの酒盛りの演技も楽しめた。「鶉(うずら)舞」というのを演るのだ。茶屋が謡い拍子に合わせ太郎冠者が実に楽しくなんの屈託もなく舞う。そして舞うにつれて酔いが回っていい気持ちになってゆく様を演技する。上手いものだ。現実にあんな風に酔っ払いそして舞ってみたいものだと思った。やがて茶屋を出、届け先の伯父の所に雪だらけになって着く。書面通りではない届物にすぐに気の付く伯父。「木六駄」と名前を代えたので「木六駄など、はなから無い」ととぼける太郎冠者。「酒はどうした?」と詰問する伯父。逃れられなくなって告白する太郎冠者。で「やるまいぞ やるまいぞ」となる。太郎冠者の演技力が相当に要求される演目なのだ。