ハワイアン・ウェーブ誌173号に記事を載せましたのでご紹介いたします。
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The Music of George Helm/ A True Hawaiian
(Hana Ola Records, HOCD-3000)
最近では新進女性ファルセット・シンガーでリリースしたアルバム2枚ともナー・ホークーの各部門賞を受賞しているライアテア・ヘルムの「伯父さん」というかたちの紹介がされるようになったジョージ・ヘルムは、そのライアテアが誕生する前にこの世を去っている「幻の名歌手」なのです。
モロカイ島のカラマウラ生まれのジョージはホノルルのセント・ルイス高校に転校したことが契機となって、所属していた合唱団の指導者ジョン・レイクから彼の従兄弟のミュージシャンであったカハウアヌ・レイクを紹介され、カハウアヌの秘蔵っ子となりました。ジョージはカハウアヌから音楽理論はもちろんのこと、ハワイ語の歌詞の意味、さらにはハワイ語歌詞に隠されている裏の意味までも教わり、プロ歌手としての道を歩むこととなりました。
プロとなったジョージはホノルルのレストラン「ゴールド・コイン」に於いてギターの弾き語りもしくはベース奏者スティーブ・マイイとのデュオで毎晩演奏していました。(ちなみにジョージ亡き後このレストランでスティーブとデュオを組んだ若手女性歌手がテレサ・ブライトで、このデュオ「スティーブ・アンド・テレサ」のアルバムはそのジャジーなアレンジで大変注目されていました。)
ジョージはプロ・ミュージシャンとして活躍するかたわら、当時米軍の爆撃演習場と化していた無人島カホオラヴェにある昔からの神殿(ヘイアウ)や歴史的な場所を保護することを目的とした組織「カホオラヴェを守る会」の主要メンバーとしても活躍し、新聞に意見を発表したりカホオラヴェ島に不法上陸をしたりしていました。そして1977年3月はじめ、先行上陸していた二人のメンバーを連れ戻す為に、仲間二人と島にたどり着いたジョージは先の二人(実は米軍に拉致されていました)を見つけられないままマウイ島に戻る途中、一人の仲間とともに波に飲まれ、帰らぬ人となってしまいました。
一方、レストラン「ゴールド・コイン」の経営者は、レストランでのジョージの演奏を録音テープに記録していました。ただしあくまでも記録が目的であったため、テープ記録速度は普通のアルバム用レコーディングで使われる38センチ/秒の8分の1である4.76センチ/秒という超低速で、音質もよくない録音でした。しかしジョージの行方不明を聞いた経営者はジョージの歌声をなんとか残したいと考えて、これらの記録のなかからジョージらしい歌声をまとめた2枚のアルバムをLPとカセットで自費出版しました。曲によってはベースをあとからスティーブに重ね録音をしてもらったり、と心を込めて作成したことで、翌年発足したナー・ホークー賞の男性歌手賞にノミネートされ、その後登場する男性歌手達のお手本にまでなっていたようです。
そしてハワイアン音楽専門の放送局KCCNで古い名盤を発掘する番組「テリトリアル・エアウェーブス」を担当しているハリー・ソリア・ジュニアがこの2枚のLPに注目し、一曲だけを割愛することで収録容量限度いっぱいまで曲を詰め込んだCDとして1996年に復刻リリースされたことはジョージの歌声を聴く機会の少なかったハワイ音楽ファンにとって大変嬉しい出来事でした。このアルバムはライブ録音であるため不満足な部分が何箇所かありますが、それを上回る彼の歌の心が十分私たちに伝わってきますので、十分に「名盤」に加える価値のあるアルバムと言えましょう。
マット・コバヤシ
とても透明感のある美しいファルセットヴォイスですよね。