【短編】季節限定な災難
六月と言えば梅雨。
この時期はシトシトと雨が降り続き微妙にテンションが下がる事もあったりする月だったりする。
だけど俺的には結構好きな季節だ。
まぁ、確かに学校行く時もいちいち傘をさしたりして面倒だったりもする。だけどそんなのは別に気にならない。
何せ、体育のマラソンが無くなるからな。
この季節、俺の通ってる高校ではマラソンをやってる時期だ。
短距離は得意でも長距離が駄目な俺にとってはハッキリ言って最悪な時期だ。いつもその時間が迫ると憂鬱な気分になる。
雨さえ降ってくれれば体育館で別のこと(バスケとかバレーとか)をすることになるのでありがたい。お天道様万歳だ。
あんまり表だって言いたくはないんだが、自分の部屋には逆さ吊りのてるてる坊主が五つほど居候していたりする。
それぐらいマラソンが嫌いで、迷信だろうとすがりつこうとしている。
将来的に借金まみれで絶望している時に、怪しい宗教団体とかにコロッと入っちゃいそうで心配だ。そのうち止めよう、そうしよう。
と、まぁ、俺の梅雨の時期というのは小学生レベル(あるいはそれ以下)の思いを抱くアホらしいモノなのだが、俺の隣人であり、学校では隣の席のそいつにとってはどうしようもないくらい最悪な時期だったりする。
特に今年の梅雨はそいつにとって最悪な時期となった。そして、それは俺にも降りかかったりする。
「――――もう、何でこう毎日毎日雨ばっか降るのよ! 何もこの時期だけピンポイントに降らなくてもいいじゃない。神様は私をはめようとしてるの? 気象庁も予報ばっかしてないで何とかしなさいよっ!」
「ったく、朝からそんなに騒ぐな。周りの視線が痛いんだぞ、こっちの気持ちも考えてくれ」
朝から俺と隣人のそいつ――――朝野 舞はマイクでも持っているかのような音量で俺に対して愚痴をこぼしていた。
愚痴というのは言ってる方はすっきりするのだろうが、聞かされてる方はストレスが溜まっていくだけだ。
正直ウザイ、本当に止めて欲しい。やっぱ、てるてる坊主を逆さ吊りしているのがお天道様の怒りに触れたのだろうか? 一度元に戻してみよう。
まぁ、何はともあれ、こっちも愚痴を聞かされているだけじゃあ、たまったものではないので舞の発言に突っこむことにする。
「ついでに言っとくけどなぁ、神様だってお前一人はめるのにわざわざこんな面倒なコトしないはずだぞ。それに気象庁だって自分の仕事はしっかり果たしてる。この天気をどうにかしたいんなら自分でしろ。ちなみに俺は手伝わんぞ」
「もう、人の一言一言に突っこむなんて馬鹿じゃないの!? 冗談に決まってるじゃない。それともユーイチはそれも分かんないくらい馬鹿なの!?」
「ハイハイ分かった、分かった。ほれ、さっさと学校行くぞ。こうやって呑気に喋ってるけど、遅刻寸前なんだからな」
「なっ! もうそんな時間!? じゃあ急がなきゃ行けないじゃんか、走るわよ!!」
「へいへい、了解しました」
こうして俺と舞は学校へ向けて突っ走ることになった。
この結果、さしていた傘は効果を失いびしょ濡れとなって学校に着くことになる。
まぁ、その前に色々あったんだがな。
ここまで来て言い忘れてたんだが、俺の名前は佐藤 祐一。別にこれと言ってスゴい特技がある訳じゃないごくごく普通の高校生だ。
舞とは古い付き合いで気が付けばいつも一緒だったりするいわば腐れ縁という奴だ。
あらかじめ言っとくが、コイツに対して恋愛感情という類は抱いてない。
コイツはどちらかというと可愛い部類にはいるのだろうが、長い付き合いのせいか見慣れているというのもあるし、コイツのことを知りすぎているということもある。
やっぱ人を好きになろうとする時は、ある一線を越えては行けない気がするのではないかと思っていたりする。
これをこの先の人生に利用して行ければ………、そう行きたい。………そういう時は来るのだろうか?
って、いかんいかん! ついつい憂鬱になってしまった。これもやっぱ、梅雨の所為なんだろうな。恐るべし、梅雨。
まぁ、そんなことはどうでもいいとして、話は登校中に戻る。
この日に限って神様の悪戯か、走り出した途端に雨足が強くなったのだ。
俺でも軽くムカついたのだ、舞が怒らないわけがない。
「なんで私が走り出したら土砂降りになってるのよ!! 神様は私にケンカでも売ってんの!?」
今の舞だったら本当に神様が出てきてもTKO出来る気がしてならない。
賭けてやっても良い。………まぁ、財布の都合上、五百円程度になるのだが。
怒りのボルテージをぐんぐん上昇させていく舞の少し後ろを走りながら、俺達は少し急な下り坂にさしかかった。
この坂は帰り道は疲れている学生にとって地獄の坂道となるのだが、行きは下っていく時にほどよく涼しげな風が全身をすり抜けていくようで気持ちがいい。しかし、今は土砂降りの状態だ。弾丸のように飛んでくる雨粒しかやって来ない。ホント、最悪だ。
しかし、冒頭でも言ったと思うが、今年の梅雨は舞にとってはかなり最悪なモノだった。
そしてそれは突然始まる。
「あ~~もうっ! 雨で前が見えないじゃない!! どーしてくれるのよ、気象庁!!」
「ったく、またそれかよ。気象庁は関係ないぞ」
「分かってるわよ、もう、この雨どうにかならないのかしらって――――!!」
こけた。
もちろん俺じゃない、舞だ。
それも、こけただけならまだ良い。不幸はここからだった。
まず、こける。そして、その先が水溜まり(それも深い)に全身でダイブだ。
とりあえず立ち上がった舞だったのだが、まだまだ悲劇は終わってない。
「うええ、なんで朝からこんな目に遭わなきゃいけないのよ………」
「オイオイ、大丈夫か? とりあえず、これ使え」
全身びしょ濡れの舞にとりあえず俺は鞄からもしもの為のタオルを手渡す。
舞の着ているセーラー服は濡れていて若干透けて見えるのだが、舞の方はそれどころじゃないらしく、素早く受け取って体を拭き始める。
ちなみに言っておくが、その時俺は目を逸らしていた。やっぱその辺は………な?
まぁ、こうして時間は過ぎて行ったのだが、そんな時それは起こった。
――――ガツン
石だ、石が飛んできたのだ。
それは小学生二、三人がサッカーっぽいことをしていて、その時使われていた石だった。
これまた被害者は舞で、後頭部に命中した石によって舞は軽く気絶。そのまま坂を転げ落ちていく。
「なっ!? ちょっと待て! くそっ、あの馬鹿っ」
呆然と立ちすくむ少年達を置いて俺は転げ落ちる舞を追い掛ける。
何でもいいんだが、舞、どうやったらそんな器用に転がれるんだ? ちょっと気になるぞ。
ちなみに事態は結構ヤバいモノだった。
この下り坂の終わった先はT地路となっており、その向こうは川が流れていたりする。
舞の転がるスピードは以外と速い。このまま行けば、自動車に轢かれるか川にドボンかの二択だった。
「このやろっ、間に合え!!」
これまた冒頭で言ったと思うが、俺は短距離には自信があったりする。
別に部活に入っている訳じゃないんだが、これだけは普通人である俺に託された唯一の特技だった。
火事場の馬鹿力という奴で舞を追い越した俺は舞の前に立ちはだかり、しっかりと受け止める。その時、俺のすぐ後ろではトラックが駆け抜けていった。あぁ、死ぬかと思った。寿命は二ヶ月ぐらい縮んだかな。
「おい、しっかりしろ、生きてるか?」
「え? う、うん………。ユーイチ、私って一体………」
「ったく、話は後だ。あそこで雨宿りするぞ」
「あ………うん、分かった」
とりあえず舞は無事だった。
俺はふらつく舞の体を支えながら、雨宿りもかねて少し行ったところにあったコンビニで雨宿りすることにした。
びしょ濡れの状態で中に入るのもアレなんで、とりあえず店の前で一息吐くことにした俺達は再びタオルで体を拭きながら休憩することにした。
ここまで来るとさすがに間に合うことはない。それに事情を話せば教師陣も分かってくれるだろう。
分かってくれなければ、暴動を起こす。もちろん舞中心で援護するように俺も加わってだ。
「――――でさあ、ユーイチ、私に一体何があったの?」
「ああ、実はな……………………………」
俺が先程のピンチをありのまま話そうとして口を開きかけた時だ。
それは起こった。何か俺、悪いコトしたか?
「――――! ユーイチ、ちょっとパトカー集まってきたんだけど………」
「は? そんなわけねぇだろ………って、ホントだ」
赤いランプを光らせながらサイレンを鳴らしてパトカーが三台ほどコンビニの前にやって来た。
そして中からは町の治安を日夜お守りするちびっ子のヒーロー、警察官が出てくる。
そして何やら俺達に対して何か呼びかけているようだ。しかし、ますます強くなった雨足の所為で何を言っているのか聞こえない。
とりあえず、こんな時にはコイツに頼むのが一番だ。
「なぁ、これじゃあ、あっちが何言ってるか分からんから、それを伝えてくれ」
「は? 何言ってんのよ、何で私が………」
今の俺には色々頼める理由がある。言いくるめるのは簡単なことだった。
「あれ? 俺はさっき、お前の命を救ったんだがなぁ………。それにタオルも貸してやってるぞ」
「う………あんた、以外に嫌な性格してるのね。………いいわ、やれば良いんでしょ、やれば!」
「おう、任せた」
やっぱ、貸しを作っておくというのも良いのかもしれない。今度、他の奴にも試してみよう。
舞の声の大きさは冒頭でも言ったが、愚痴でマイクレベル。本気を出せば、かなり凄いモノだった。
おまけに声の響きも良く、割と遠くからでも良く聞こえたりする。
舞は軽く深呼吸しながら、
「あの――――、すみませ――――ん! 良く聞こえないんで、メガホンか何か使ってくださ――――――い!!」
向こうもそれに気付いたらしい。
警官の一人は車内からメガホンを取り出して、
「お――――い、君達!! 今、そのコンビニには強盗が立て籠もっている! 君達もそこから早く出てくるんだ!!!」
「な………」
「え………」
ちょっと待て、朝から何なんだこの状況は! こうなるとドッキリじゃないかと疑うぞ。
それは舞も一緒だったようだ。何だか疑いの目を俺に向けている。考えていることは俺と一緒のようだった。
「………ユーイチ、せーので振り返るよ」
「分かった。これでドッキリの看板があったら、そいつ蹴り飛ばすぞ」
「ええ、その時は私も手伝う」
こうして意を決した俺達はくるりと振り返る。
そして、俺達の目に浮かぶモノはアレだった。
「ふ、覆面男………」
「二人組か、それにアレは店員さんか。喉元に刃物向けられてるな。結構ヤバいぞ」
「そうね、あのままだとちょっとヤバいわね。まぁ、とりあえず私達は………」
こんな時、自分達が出来ることはただ一つ。
それはあの強盗を倒してヒーローになることではない、もちろんアレだ。
「「逃げろっ!!!」」
一目散に俺達はその場から全速力で逃げた。
警察官が事情聴取のため、引き留めようとするのも無視してだ。
まぁ、仕方ないよな。大抵の人間はパニックになるって。
特にああやって安心してる時はな。
「ふぅ………なんか今日は色々あったわ。なんかもう、今年の不幸を全部使っちゃったんじゃないかな」
「全くだ。巻き込まれるこっちも大変だったからな」
放課後、一通り雨が降って雲が去り、茜色に染められた空を眺めながら俺達は帰路に就いていた。
あの後――――強盗事件があった後なのだが、学校に着いたのは一限目が終わった直後。
教室に着いたボロボロの俺達二人を見て教師、クラスメート一同が目を丸くしたのは言うまでもない。
満身創痍ながら、俺達、特に俺が全てを知っているので担任に話した。
担任の方も本気で驚いていた。当たり前だ。世の中でこんな立て続けにハプニングが起こることなどそうそう無い。あったら困る。
とりあえず、担任も俺達の苦労を分かってくれたようで、遅刻にはしないと言ってくれた。
それだけじゃ舞が暴動を起こしたかもしれないが、その後、熱い缶コーヒーと飯代をくれたので何とかなった。
担任になって数ヶ月も経つと生徒の性格も分かってくるものなのだろうか。
まぁ、舞の場合、表裏のハッキリした性格だから尚更なのだろうな。
俺だけだったら、「災難だったな」の一言で済まされたのかもしれない。
ここは舞に感謝しよう。………まぁ、恥ずかしいから口には出さないだろうけどな。
ちなみに、学校でも色々あった。
例えば、舞が雨漏りで滑りやすくなっていた階段でこけそうになるところを助けたり、
帰ってきた中間テストが赤点まみれでかなりしょげている舞を慰めたり(笑えない笑い話を十連発)、
梅雨の日恒例、舞の愚痴五十連発(いつもよりヒートアップ)をほとんど突っこまずに真摯に受け答えしたり、
突如、舞の上に降ってきた蛍光灯をジャンプして取ったり(多少、手に切り傷が)、
その他、普段ならどうとも思わない小さな不幸が舞の身に連発したのだ。
その小さな不幸一つ一つを全部俺が何とかしてきたのだ。
間違いなく、助演男優賞ものだ。賭けてもいい、今度は千円くらいだな。
「――――ホントに今日はありがと、何か今日はずっと付きっきりにさせてたんだよね」
「あぁ、そういやそうだな。まぁ、それはそれでなかなか楽しかったんだがな」
「え、でもユーイチってば結構怪我しまくってたよね。………もしかして、Mへの目覚めとか………」
そう言って舞は何だか引き気味の目で俺を見る。
止めてくれ、別に俺はそういう趣味はない。
さっきのは無かったことにしてくれ。
「フフ、大丈夫だって! 別にそんな事少ししか思ってないから。伊達に長い付き合いじゃないんだよ」
「少し思ってるのか。お前はそういう人間なんだな」
「冗談よ冗談! 私がそんなこと思ってるとでも思った?」
いや、全くだ。そんなこと思わん。たとえ恋愛関係でなくとも、長い付き合いで相手の心くらいは読める。
特にお前みたいな単純な性格だとな。
「何よ~、それって私が子供っぽいって事なの!?」
「あぁ、そうだ。それ以外何がある?」
「なっ!! もう許さないっ、って待ちなさいよ! そんな速く逃げるなんて反則よー!」
逃げるに決まってるだろ、お前に掴まったが最後、生きて帰れる保証は無いからな。
それに、今日のお前がそんなに焦って走ると、
「あいたっ!! もう、何で今日はこんなちょっとムカつくことばっかなの~~~!? 私、なんかしたの!!?」
やっぱりこけた。今日の舞はマンガとかにありそうなドジッ子の域を超えて単なる不幸少女になっている気がする。
込み上げてくる笑いを噛み殺しながら舞の下へと行く。
絆創膏、確かまだあったよな。
明日は晴れと告げるように太陽は茜色に燃えている。
明日は確か体育があったな。
舞のためにも今日ばかりはてるてる坊主を逆さに吊るのは止めておこう。
やっぱ小さな不幸よりは小さな幸せの方が素直に楽しめる。
………まぁ、もしまた舞に何かあったらフォローしてやるかな? 出来る範囲だがな。
――――梅雨が明けて、季節は夏。
「マラソン大会………………」
「あれ、ユーイチってこの時期にマラソン大会あるの知らなかったの? 楽しみだなぁ~、やっぱやるからには優勝目指さなきゃね」
そういえばこの学校は夏になるとマラソン大会が開催されるのを忘れていた。
先月とはうって変わってはつらつとした笑顔を見せながら張り切る舞と、それを見ながら深い溜息を吐く俺。
とりあえず、てるてる坊主の逆さ吊りを再開しておこう。台風でも何でも来いだ。
どうやら俺の場合夏の方がテンションが下がるようになっているらしい。
何だか蝉の鳴き声がムカつく。殺虫剤をまき散らして黙らせたいくらいだ。
………まぁ、そんなのはどうでもいい。俺はまず、こう思う。
――――――夏の方が梅雨より長いんだぞ、ちょっと不公平だろ。何とかしてくれ、気象庁。
<あとがき>
ども(^^)/ 今回は僕が時々投稿させて頂いているサイトにある小説をこちらに持ってきました。
あ、もちろん管理人さんには報告済みです。
今回のこれは、6月に投稿したもので、いわゆる季節ネタです。
これからも、暇があったら投稿していく予定です。
(尚、連載の方もしっかりやっていく予定なんで悪しからずw)
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