【短編】ふたりの夏祭り(前編)
何かもう、季節が変わっていくのって早いものだよな。
三ヶ月前に高校に入学したと思ったらもう夏休みだ。
時間の感覚は人によっても違うのかもしれないが、俺は早かったなぁと思う今日この頃である。
………時間の感覚について話すのも良いんじゃないかと思ったが、とりあえず話を本題に戻そうかと思う。
ここは研究発表の場って訳じゃないからな。やるなら学校ででもやっていろと言う話だ。
さて、今はもう八月の中旬あたりとなっている。
この時期(いや、夏休み中か)はどの部活もうだるような暑さにも負けずにせっせと練習をして、たくさん健康的な汗を流している事だろう。
実際、俺だって汗を流している。そりゃあもうクタクタだ。
………なんせ、自転車の二人乗りで上り坂を全力疾走しているわけだからな。
「いや~、ゴメンね。私の自転車ぶっ壊れちゃってさ~……ホント、ユーイチには感謝、サンキュー、謝謝(シェイシェイ)だよ!」
俺の後ろで威勢良く喋っているのは先日、色々あって自転車を大破させた幼なじみにして家の隣人、果ては学校の座席も隣という腐れ縁の仲となってしまった元気はつらつバーサク少女――――朝野 舞だ。
ったく、適当に感謝の言葉のトリプルコンボを貰っても別に俺は嬉しくないぞ。
そんな事言うくらいだったら代わってくれよ。
こっちはお前に対して無料で買い物に付き合ってるんだからな。
「もう、いいじゃんか~。後で何か奢ってあげるからさ。それよりもユーイチ、もっとスピード上げてよね。早くしないと売り切れちゃうかもしれないんだからさ。 さ、アクセル全開よ!」
舞は『レッツゴー!』とか言いながら片手を前方に向けて振り上げる。
はぁ……あと少しだから頑張ってくれ、俺の足………。
知っている人は知っているかもしれないんだが、ここで自己紹介といこう(始めにやってしまえば良かったかもしれないが)。
俺の名前は佐藤 祐一。何処にでもいそうな普通の高校一年生だ。
別に特徴ってものはない。強いて言うなら走る事(短距離)が得意なくらいで、特筆すべき事は何もない。
そういえば『特徴がないのが特徴』って以前、友人に言われた覚えもあるな。それぐらい普通って事だ。
面白味が何にもないようにも聞こえるかもしれないがその辺はスルーの方向でお願いしたい。
さて、話を別の方に移そう。俺の事なんてそんなに紹介しても面白くないだろうからな、うん。
話はうって変わるのだが、別に舞に対しては恋愛感情を抱いた覚えはない。
一応、舞は可愛いかなって部類には入るのだろう。
実際、客観的に見るとそう思える。
一時期、ロングだった手入れの良かった髪を「暑苦しい」という女子高生にしては珍しい理由でバッサリ切ってショートカットにしてしまった訳なのだが、これまた舞本来の明るい(ここでは控えめ)性格と相まって違和感が無いに加えて似合っていたりする。
だがな、これも友人などによく使う言い訳なんだが、コイツとは付き合いが長すぎたわけだ。
いくら何でも親友であれ、恋愛関係であっても多少なりとも壁はあるはずだ。
しかし、舞とは付き合いが長すぎた所為でそんな壁と呼ばれるようなものがほとんど無い。
おそらく壁があったのだとしても、それはベニヤ板かプラ板、あるいは段ボール板程度のものに違いない。断言できる。
何だったら本当にそうなのか賭けてもいい。
九十二パーセントぐらいの確率で俺が勝てる。
ん? 残りの八パーセント?
そんなモノは万が一の保険ってヤツだよ。
さて、俺達が向かっていた目的地というのは着物屋である。
何でも舞が仕入れてきた情報によると、そこの着物屋はこの時期になると学生には相当優しい値段でまともな浴衣を売ってくれるらしく、近所では有名な店らしい。
そんなわけで俺達は朝早くから自転車をかっ飛ばしてそこへ向かっている途中なのだ。
そして、かっ飛ばし続けておよそ三十分、ようやく俺達はその店にたどり着いた。
舞は礼も言わずに自転車から飛び降りて店へと向かう。
はぁ、コイツに今度礼儀作法ってモンを教えてやるか。
やはり、親しき仲にも礼儀ありだ。アイツがこの言葉を知っているかどうかは別として、だ。
その店は木造の結構古めかしいものだった。
しかし、店内はしっかりと掃除が為されており、店内においてある着物や浴衣もとても状態がよく見えた。
舞は店内を見回しながらまさに目を輝かせるといった表情で、
「うわぁ……どれも綺麗……ねぇ、ユーイチ、私ってどれが似合うと思う?」
「おやまぁ、こんな早くから………いらっしゃい」
微笑みながらゆったりと店の奥からやって来たのは六十代後半と思われるお婆さんだった。
どうやら俺達のように早くやってくるヤツはそうそういないらしい。
当たり前だろうな。何せまだ九時半だ。いくら何でもこんな時間に人が来るわけ無い。
とりあえず俺は苦笑しながらも、
「ハハハ……すみません、朝早くからこの馬鹿が急かすもんで」
「誰が馬鹿よっ!ユーイチ、後で覚えときなさいよ」
ちょっとしたからかいに対して舞は明らかな殺気を放ちながら俺を睨む。
フフフ………伊達に付き合いが長い訳じゃない。
こんな事では動じないさ。
それよりも舞、お婆さんはこっち見て苦笑してるぞ。
そろそろこっちも恥ずかしくなってきたから大人しくしてくれ。
「え、あ……す、すみませんっ! ユーイチが馬鹿な事言うもんで………」
「いいんですよ。若い子はこれくらい元気なのが一番ですからね」
慌てて謝る舞にお婆さんは微笑みながらそれに答える。
やはり恥ずかしかったのだろう、舞はしばらく顔を赤くしていたのだが、こうなっては終わる気配を見せないので、俺は溜息を吐きながらも、
「おい、お前は今夜の花火大会に着ていく浴衣を探しに来たんだろ? こう突っ立ってても店の人にも迷惑だし、さっさと決めるぞ」
「もう、きっかけはユーイチじゃない……まぁ、いいわ。お婆さん、私にちょうど良い浴衣って無い?」
「う~ん、元気のいいアナタならこれがいいかしら」
そう言って棚から取り出してきたのは赤と白のチェック模様に色とりどりの花とウサギの入った明るい感じの浴衣だった。
お婆さん、ナイスチョイスだ。伊達に長年この仕事をやって来た訳ではないのだろう。
舞もその浴衣を見て、満面の笑みを見せながら、
「うん! これなら私が着ても問題ないかな。お婆さん、これ買うわ!!」
「はい、毎度あり」
速攻だ。浴衣購入の時間は本当にあっという間に完了した。
値段の方も普通なら結構しそうな値段の品だったのにもかかわらず、余裕で舞の財布で何とかなるほどの値段だった。
なんと良心的な店だ。今度、新聞部の友人に教えておこう。宣伝くらいしても問題無いだろうからな。
「それじゃ! お婆さん、ホントにありがとー」
「ええ、いってらっしゃい。いいお祭りになるようにね~」
再び俺達は自転車二人乗り(もちろん俺が運転手)で一旦家へと戻った。
その際に見送りまでしてくれたのだからあのお婆さんには本当に感謝しなければいけないのだろう。
とりあえず、舞には簡単な礼儀作法ぐらいは教えておかないとな。
せっかく買った浴衣が着崩れたりしたらお婆さんに悪い。
そう心に誓った俺は行きは地獄だった上り坂を今度は全力で下っていった。
え、舞は大丈夫かだって?
アイツが振り落とされる訳がない。
それどころか後ろでもっとスピード上げろとはしゃいでるくらいだ。
さすがは『校内最強』と色んな意味で呼ばれているだけの事はある。
まぁ、何でそう呼ばれているかだが………そのうち分かるだろう。
今説明するのは止めさせてもらう。長くなりそうで面倒だからな。
続く……
<あとがき(その①)>
ども(^^)/
今回はあまりの文字数の多さに投稿できなくなってしまい、とりあえず途中で区切って、前後編という形にしました。
続きの方は後半で!
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三ヶ月前に高校に入学したと思ったらもう夏休みだ。
時間の感覚は人によっても違うのかもしれないが、俺は早かったなぁと思う今日この頃である。
………時間の感覚について話すのも良いんじゃないかと思ったが、とりあえず話を本題に戻そうかと思う。
ここは研究発表の場って訳じゃないからな。やるなら学校ででもやっていろと言う話だ。
さて、今はもう八月の中旬あたりとなっている。
この時期(いや、夏休み中か)はどの部活もうだるような暑さにも負けずにせっせと練習をして、たくさん健康的な汗を流している事だろう。
実際、俺だって汗を流している。そりゃあもうクタクタだ。
………なんせ、自転車の二人乗りで上り坂を全力疾走しているわけだからな。
「いや~、ゴメンね。私の自転車ぶっ壊れちゃってさ~……ホント、ユーイチには感謝、サンキュー、謝謝(シェイシェイ)だよ!」
俺の後ろで威勢良く喋っているのは先日、色々あって自転車を大破させた幼なじみにして家の隣人、果ては学校の座席も隣という腐れ縁の仲となってしまった元気はつらつバーサク少女――――朝野 舞だ。
ったく、適当に感謝の言葉のトリプルコンボを貰っても別に俺は嬉しくないぞ。
そんな事言うくらいだったら代わってくれよ。
こっちはお前に対して無料で買い物に付き合ってるんだからな。
「もう、いいじゃんか~。後で何か奢ってあげるからさ。それよりもユーイチ、もっとスピード上げてよね。早くしないと売り切れちゃうかもしれないんだからさ。 さ、アクセル全開よ!」
舞は『レッツゴー!』とか言いながら片手を前方に向けて振り上げる。
はぁ……あと少しだから頑張ってくれ、俺の足………。
知っている人は知っているかもしれないんだが、ここで自己紹介といこう(始めにやってしまえば良かったかもしれないが)。
俺の名前は佐藤 祐一。何処にでもいそうな普通の高校一年生だ。
別に特徴ってものはない。強いて言うなら走る事(短距離)が得意なくらいで、特筆すべき事は何もない。
そういえば『特徴がないのが特徴』って以前、友人に言われた覚えもあるな。それぐらい普通って事だ。
面白味が何にもないようにも聞こえるかもしれないがその辺はスルーの方向でお願いしたい。
さて、話を別の方に移そう。俺の事なんてそんなに紹介しても面白くないだろうからな、うん。
話はうって変わるのだが、別に舞に対しては恋愛感情を抱いた覚えはない。
一応、舞は可愛いかなって部類には入るのだろう。
実際、客観的に見るとそう思える。
一時期、ロングだった手入れの良かった髪を「暑苦しい」という女子高生にしては珍しい理由でバッサリ切ってショートカットにしてしまった訳なのだが、これまた舞本来の明るい(ここでは控えめ)性格と相まって違和感が無いに加えて似合っていたりする。
だがな、これも友人などによく使う言い訳なんだが、コイツとは付き合いが長すぎたわけだ。
いくら何でも親友であれ、恋愛関係であっても多少なりとも壁はあるはずだ。
しかし、舞とは付き合いが長すぎた所為でそんな壁と呼ばれるようなものがほとんど無い。
おそらく壁があったのだとしても、それはベニヤ板かプラ板、あるいは段ボール板程度のものに違いない。断言できる。
何だったら本当にそうなのか賭けてもいい。
九十二パーセントぐらいの確率で俺が勝てる。
ん? 残りの八パーセント?
そんなモノは万が一の保険ってヤツだよ。
さて、俺達が向かっていた目的地というのは着物屋である。
何でも舞が仕入れてきた情報によると、そこの着物屋はこの時期になると学生には相当優しい値段でまともな浴衣を売ってくれるらしく、近所では有名な店らしい。
そんなわけで俺達は朝早くから自転車をかっ飛ばしてそこへ向かっている途中なのだ。
そして、かっ飛ばし続けておよそ三十分、ようやく俺達はその店にたどり着いた。
舞は礼も言わずに自転車から飛び降りて店へと向かう。
はぁ、コイツに今度礼儀作法ってモンを教えてやるか。
やはり、親しき仲にも礼儀ありだ。アイツがこの言葉を知っているかどうかは別として、だ。
その店は木造の結構古めかしいものだった。
しかし、店内はしっかりと掃除が為されており、店内においてある着物や浴衣もとても状態がよく見えた。
舞は店内を見回しながらまさに目を輝かせるといった表情で、
「うわぁ……どれも綺麗……ねぇ、ユーイチ、私ってどれが似合うと思う?」
「おやまぁ、こんな早くから………いらっしゃい」
微笑みながらゆったりと店の奥からやって来たのは六十代後半と思われるお婆さんだった。
どうやら俺達のように早くやってくるヤツはそうそういないらしい。
当たり前だろうな。何せまだ九時半だ。いくら何でもこんな時間に人が来るわけ無い。
とりあえず俺は苦笑しながらも、
「ハハハ……すみません、朝早くからこの馬鹿が急かすもんで」
「誰が馬鹿よっ!ユーイチ、後で覚えときなさいよ」
ちょっとしたからかいに対して舞は明らかな殺気を放ちながら俺を睨む。
フフフ………伊達に付き合いが長い訳じゃない。
こんな事では動じないさ。
それよりも舞、お婆さんはこっち見て苦笑してるぞ。
そろそろこっちも恥ずかしくなってきたから大人しくしてくれ。
「え、あ……す、すみませんっ! ユーイチが馬鹿な事言うもんで………」
「いいんですよ。若い子はこれくらい元気なのが一番ですからね」
慌てて謝る舞にお婆さんは微笑みながらそれに答える。
やはり恥ずかしかったのだろう、舞はしばらく顔を赤くしていたのだが、こうなっては終わる気配を見せないので、俺は溜息を吐きながらも、
「おい、お前は今夜の花火大会に着ていく浴衣を探しに来たんだろ? こう突っ立ってても店の人にも迷惑だし、さっさと決めるぞ」
「もう、きっかけはユーイチじゃない……まぁ、いいわ。お婆さん、私にちょうど良い浴衣って無い?」
「う~ん、元気のいいアナタならこれがいいかしら」
そう言って棚から取り出してきたのは赤と白のチェック模様に色とりどりの花とウサギの入った明るい感じの浴衣だった。
お婆さん、ナイスチョイスだ。伊達に長年この仕事をやって来た訳ではないのだろう。
舞もその浴衣を見て、満面の笑みを見せながら、
「うん! これなら私が着ても問題ないかな。お婆さん、これ買うわ!!」
「はい、毎度あり」
速攻だ。浴衣購入の時間は本当にあっという間に完了した。
値段の方も普通なら結構しそうな値段の品だったのにもかかわらず、余裕で舞の財布で何とかなるほどの値段だった。
なんと良心的な店だ。今度、新聞部の友人に教えておこう。宣伝くらいしても問題無いだろうからな。
「それじゃ! お婆さん、ホントにありがとー」
「ええ、いってらっしゃい。いいお祭りになるようにね~」
再び俺達は自転車二人乗り(もちろん俺が運転手)で一旦家へと戻った。
その際に見送りまでしてくれたのだからあのお婆さんには本当に感謝しなければいけないのだろう。
とりあえず、舞には簡単な礼儀作法ぐらいは教えておかないとな。
せっかく買った浴衣が着崩れたりしたらお婆さんに悪い。
そう心に誓った俺は行きは地獄だった上り坂を今度は全力で下っていった。
え、舞は大丈夫かだって?
アイツが振り落とされる訳がない。
それどころか後ろでもっとスピード上げろとはしゃいでるくらいだ。
さすがは『校内最強』と色んな意味で呼ばれているだけの事はある。
まぁ、何でそう呼ばれているかだが………そのうち分かるだろう。
今説明するのは止めさせてもらう。長くなりそうで面倒だからな。
続く……
<あとがき(その①)>
ども(^^)/
今回はあまりの文字数の多さに投稿できなくなってしまい、とりあえず途中で区切って、前後編という形にしました。
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