ゴン太の山行記録

首都圏で公共交通機関を使った山歩きをしています

○ のんびりアサヨ峰

2006年08月22日 22時58分14秒 | 南アルプス
 
【山域】 南アルプス
【山名】 アサヨ峰(2799.1m)
【山行日】 2006年8月5日(土)
      2006年8月6日(日)
【メンバー】 単独
【地図】エアリア43『甲斐駒・北岳』2000
【参考図書】『山梨百名山』(山梨日々新聞)
【天候】晴れ

【コース】
☆一日目☆

広河原  11:40 - 12:00 登山口
登山口  12:05 - 12:35 小尾根に乗る
小尾根  12:45 - 13:30 2130m付近
2130m   13:40 - 14:10 広河原峠
広河原峠 14:20 - 15:00 早川小屋(テント泊)

☆二日目☆

早川小屋 05:35 - 06:15 最初の展望地点
展望地点 06:25 - 07:05 ミヨシの頭
ミヨシの頭 07:15 - 07:55 アサヨ峰
アサヨ峰 08:25 - 09:15 栗沢山
栗沢山  09:30 - 10:55 北沢駒仙小屋
北沢駒仙小屋 11:45 - 11:55 北沢峠

【山行記】

甲府駅からのバスは大混雑。バスにはきっぷ係のおばちゃんが乗り込み、狭い車内を行き先を聞きながら、きっぷを販売する。それもそのはず。7月の三連休は悪天。先週末は土砂崩れで広河原までバスが通っていなかった。ようやく開通した広河原線。そして願ってもない好天とくれば混まないわけがないのだ。

最後に切符を切った私におばちゃんは、「混んじゃってごめんなさいね、でも夜叉神からは座れるから」と笑顔で言う。久々に混んだバスに乗ったけれど、これで緊張感が一気にほぐれる。

他のバスとの無線連絡が終わって、ひと息ついたおばちゃんが、「北岳へ登られるんですか?」と聞いてきた。口ごもりながら「あ、いや、アサヨ峰ってご存じですか?」と答える。一瞬、え、という顔をしたが、すぐに「ああ、あの甲斐駒の手前に見えるあれね」と返ってきて安心した。このバスで広河原までと言えば、大半が北岳。あとは北沢峠まで行って甲斐駒か仙丈と相場が決まっている。

「ふうん、じゃあ、広河原からバスで北沢峠まで?」「あ、いや、その広河原から広河原峠ってとこがあるんでそこまで登っていくんです」そんな会話をしてしばらくするとすぐ近くに座っていた人が桃の木温泉で下車。「どうぞお座りください」そう言われて素直に座る。一番前の席だったので、大きな荷物を抱えて座っても狭苦しい感じはなかった。

大声でしゃべっていたフランス人が夜叉神峠で降りると車内は静かになった。少々の停車時間があり、ゲートが開くのを待ってバスは広河原へ。ようやく着いた広河原は強い陽射しが降り注ぎ、夏山ムードそのものである。バスの待合所が日影になっていて涼しいので、待合所でお昼御飯を食べることにした。


ずらりと並んだバスの列を半ばあきれるように眺めながら、お昼御飯を食べ、トイレをすませたところで歩き出す。大樺沢の吊り橋は大勢の人で賑わっていたが、そこを過ぎてしまえば、途端に静かな山間の林道と言った雰囲気になる。標高1500mといえどもこれだけの陽差しがあると車道歩きはやはりちょっとつらい。行く手に山肌がNの字に崩壊したアサヨ峰が見える。

白鳳峠の入口を過ぎ、工事現場のような建物が見えてくると、右手に広河原峠と記された道標が見つかる。ストックを伸ばし、登山道を上がる準備をしていると、北沢峠から南アルプス市営バスが下ってきた。



登山道にはいると早速涼しげな小滝がある。ヤマホタルブクロは知っているけど、この白い花は何だろう? コマドリが啼き、夏の高山に来たんだなと思う。高度を上げていくとともにものすごい量の汗が噴き出す。水はたっぷりだが、このテント泊装備だと遅くならないうちに早川尾根小屋につけるかどうか心配で、なかなかペースをゆるめることができない。

小尾根に乗ったところで、さすがにくたびれて休憩した。プロトレックの表示が思ったほど上がっていないのは、やはりいつもより荷が重いからだろうか。しかし、ここらで休まないととても身体が持たない気がした。少し休んだだけで熱を持っていた身体がだいぶ冷やされてくるのがわかる。ポカリスエットを空にし、アミノバイタルを飲み干した。

小尾根に乗ってからも傾斜は緩まず、しかし、高度表示は遅々として進まない。もしかすると高圧部に入っているところなのかも知れない。高気圧の中心が近づき、相対的に気圧が上昇しているときは、いくら登っても高度計の表示が進まないというのはよくあることだ。しかし、一方で「ただ体力が落ちて足が上がらないだけなのかも」とも思う。

気温が一番高い時刻にさしかかってきたこともあり、汗の方はこんなに出て大丈夫かと思うぐらい出てしまう。登山道はコメツガ・シラビソの雰囲気のいい径で、もっとゆったり楽しんで歩きたいとも思うが、いかんせん高度計の表示が上がらないので、あまりのんびりもしていられない。1/25000の地形図を持っていれば、現在地の見当もつくだろうが、今日はナメたことをしてエアリアだけしか持ってきていない。
降りてくる登山者一人とすれ違った。


小尾根に乗ってから一時間ほどのところで休憩をとった。この時点で高度計の表示が2000m弱だった。あとでわかったことだが、このときもうすでに峠の下200mほどの地点に来ており、アクエリアスを空にしてから、この休憩地点をあとにすると、ほどなく青空が見えてきて広河原峠に着いた。



峠に着いたのは14時過ぎだったので、15時には早川尾根小屋に着けるだろうと目途も立って、峠ではのんびりとくつろいだ。峠から稜線に咲く花など写真におさめながらゆっくり歩いていくと、早川小屋に到着した。

小屋番さんにテントを張りたい旨告げ、ついでにビールも頼む。ビールは大好きなヱビスで、今年のものは600円だけれど、去年のもので良ければ400円だという。去年のを2本とテント代の合計1200円を支払い、テントを設営した。テント場は空いていて、まだ一張りだけ。それでも今日はかなりの人出なので、あとから移動しなくても好いように端っこの方に張っておく。



ビールを飲んで小屋の周囲をぶらぶらしているとまもなく7・8人の大学のワンダーフォーゲル部がやってきて賑やかになった。どうやら南アルプス北部をほぼ全山縦走するようだ。メンバのTシャツの背にその山名リストが書いてある。いったい全部で何泊するのだろうか。

山中泊は、この夕暮れ前のぼんやりしたひとときがなんともいえずいい。家にいればパソコンやテレビの前で無駄に過ごしてしまう時間だが、山の中では鳥のさえずりや虫の鳴き声に耳をすませ、周囲に咲く花を眺め、さて、そろそろ飯の準備だ、水でも汲んでくるか、という感じでゆったりとした時間が流れる。ついこの間まで、人間はこういう生活をしていたはずで、たぶん本来の人間という動物に少しだけ近づける、そのことが快感なのだと思う。

夕食を終え、歯を磨いてしまうと、もうやることなんてない。お腹がいっぱいになって、周囲が暗くなれば、昼間の疲れも出て、テントの中で横になる。大学のWVのおしゃべりは続いていたが、9時頃ピタリとやんで、いつの間にか深い眠りについた。


☆☆☆


以前はテントでなかなか眠れず、うとうとしても夜中に何度も目が覚めていたが、最近はそんなこともなくぐっすり眠れるようになってきた。この夜も3時頃、近くのテントの人が星見に起きて談笑しているのに起こされるまでまったく記憶がなく、寝覚めも良かった。

満天の星空を見るのに一度テントの外に顔を出したが、急ぐ行程でもないので、ふたたびシュラフにもぐって4時頃まで横になる。

4時過ぎに外も明るくなってきたので、もぞもぞと起き出す。テントの中でお湯を沸かし、シュラフやマットをのろのろと畳む。コンタクトレンズを入れるのに時間がかかる。いつものハードレンズではなく、使い捨てのソフトレンズは大きいうえにぐにゃりとなって目に入れにくい。

朝の5時ではなかなか食欲もわいてこないので、昨日買っておいたパンを食べ、フリーズドライのきのこごはんは、チャックをしたまま持って行く。お腹が空いた時点でまた食べればいいのだ。

5時半に小屋番さんに挨拶してから出発。山の朝の空気がいい。山の朝の独特のニオイがする。忘れかけていたニオイが鼻孔をくすぐり心地よくなる。ウグイスが控え目に囀っているなか、ゆっくりと登り始めた。

すぐに展望が開けて北岳の雄姿が見える。早川尾根の頭の三角点を見ていったん下り登り返す。先に出発した大学のWVに追いつく。最初の展望地点で大学生が展望を楽しんで談笑しているのを見て、先に行かせてもらった。少し先でご夫婦も道を譲ってくださり、あとはマイペースで先に進む。甲斐駒が目の前に大きい。

ミヨシの頭への登りはかなりの急傾斜で、ひとつ登ったと思ってもまたもう一つという感じでなかなか着かない。ようやく着いたミヨシの頭で水分補給のためひと休みした。遠くに八ヶ岳が見えるが霞んでいて写真には巧く収まらない。

ミヨシの頭からアサヨ峰の稜線は森林限界を超えているため、見晴らしのよい尾根道となる。ハイマツのいかにも高山という感じの稜線。この感覚はずいぶん久しぶりだ。
途中、前を行く男性二人組を岩場で追い抜く。いつもの調子でピッチをあげていたら、思ったより心臓がばくばく言って息苦しい感じになった。そうだ、ここは、もう2700mの稜線。下界の2/3ぐらいの酸素しかないのだ。高いところで空気が薄いということに妙な形で気がつく。



呼吸を整えながら、ゆっくりと登っていくとアサヨ峰に着いた。先客はおらず、三角点にタッチして、山頂の標識を写真におさめる。2800mにほんのちょっと足りない山頂。確か山梨百名山のはずだが、あの独特の標柱は見あたらなかった。

アサヨ峰で朝作っておいたフリーズドライのきのこ御飯を食べ、お茶を飲みながら、周囲の展望を楽しむ。ここから見る甲斐駒ヶ岳はなるほどみんながいうようにいい形をしているが、私がそれよりも「いいな~」と思ったのは仙丈ヶ岳の方であった。「女性的」という形容詞が枕詞のようにくっつくが、私の感想は、優雅でダイナミックではあるけれど、女性的な優しさといったものはあまり感じられない、というものだった。

アサヨ峰から栗沢山の稜線では仙丈ヶ岳が「今度はこちらにおいでください」と言っているかのように、その姿が印象に残った。不思議なことに、甲斐駒にガスがかかり始め、栗沢山では、北岳や稜線がガスに覆われ始めたのに、仙丈ヶ岳だけは、いつまで経ってもガスが湧かず、ずっとその美しい曲線をこちらに見せていた。



時間的に頑張れば甲斐駒を登って降りてもなんとか今日中に帰れそうだったが、この間リハビリ山行をしたばかりの身体には、このくらいのテント山行がちょうどいい気がした。栗沢山から、尾根道でダイレクトに北沢峠に降り、早めの昼食をとってバス停に向かうと、ちょうど臨時の広河原行き市営バスが出るところで、首尾良く乗り込めた。

帰りのバスの車窓から南アルプスのその巨きな山脈を眺めつつ、やはり暑い夏の日は夏山らしい高山を楽しむのも悪くない。そのためにバスが多少混雑しても、それはそれでまたいい思い出になるものだ、と今までの考え方に多少変化が生じたことに気がついた。