ゴン太の山行記録

首都圏で公共交通機関を使った山歩きをしています

○ 快晴の仙丈ヶ岳 仙塩尾根&地蔵尾根

2006年10月31日 00時26分31秒 | 南アルプス
【山域】 南アルプス
【山名】 仙丈ヶ岳(3032.7m)
【山行日】 2006年10月8日(日)
      2006年10月9日(祝)
      2006年10月10日(火)
【メンバー】 単独
【地図】エアリア43『甲斐駒・北岳』2000
    1/25000「仙丈ヶ岳」
【参考図書】『アルペンガイド 北岳・甲斐駒・仙丈』(図書館借)
【天候】快晴

【コース】

☆ 一日目 ☆
野呂川出合 12:40 - 15:00 両俣小屋(テント泊)

☆ 二日目 ☆
両俣小屋  05:35 - 06:25 野呂川越 
野呂川越  06:35 - 07:05 横川岳
横川岳   07:10 - 07:40 独標
独標    07:50 - 08:20 高望池
高望池   08:30 - 08:40 伊那荒倉岳
伊那荒倉岳 08:40 - 10:20 2755付近
2755  10:30 - 11:25 大仙丈ヶ岳
大仙丈ヶ岳 11:35 - 12:10 仙丈岳
仙丈岳   12:30 - 12:50 仙丈小屋(寝具無し素泊)

☆ 三日目 ☆
仙丈小屋 06:10 -(山頂経由)- 06:45 松峰分岐
松峰分岐 06:55 - 07:50 2422手前小平地
小平地  07:55 - 08:40 地蔵岳手前2400m圏峰(展望地点)
展望地点 08:50 - 09:45 松峰小屋分岐(松峰小屋往復)
松峰小屋分岐 10:10 - 11:15 松峰を巻ききったあたりの小平地
小平地  11:25 - 11:50 1900m付近
1900m付近 12:30 - 13:55 孝行猿
孝行猿  13:58 - 14:55 入野谷=伊那里バス停


【山行記】


自分でも神経質なタチだと思う。山へ行くときは、些細なことが気になったりする。
山行初日、甲府駅でバスを待っていたら係員が来て、順番が13番と言われたあたりからちょっと嫌な予感だと思っていたら、バスの中でポリタンから水が漏れているのを見つけ、こりゃ、大変と青くなった。

ポリタンクは購入してから7年ほどが経過しており、劣化の末にとうとうヒビが入ってそこから微量とはいえ水が漏れるようになっていたのだ。しかし、なにもよりによって2泊3日の秋のスペシャルに漏れなくてもいいだろうに。。。

幸い、着替えも濡れておらず、濡れたら一番まずいシュラフはザックの別室に二重にして梱包してあるので心配は要らない。食糧が少し濡れたが、それも包装紙がぬれたぐらいで、食べるのには何の支障もなさそうだ。ポリタンの他にplatypusという折り畳み可能な1Lの水筒があるので、今の季節であれば問題もないだろう。アクエリアスもあるので、1.5L分の水筒があるのと同じだ。不安だったら両俣小屋でポカリを買えばいい。夜叉神峠でポリタンの水を全部捨てた。

広河原で北沢峠行きのバスを待っていると、若い学生らしいグループがやってきて、その中の一人が私と同じように割れたポリタンをザックに入れて来てしまい、みんなから笑われていた。「ちゃんとチェックしてから詰めろって言ったじゃないかー」。。。苦笑いするしかなかった。

しかし、お昼御飯をすませ、風が強いので、自分のザックからウィンドブレーカー代わりにレインウエアを引っぱり出そうとして、ザックの外側に鋏んでおいたゴム草履が片方無くなっているのに気がついた。たぶんどこかで落としたのだろう。片方だけあっても何もならない。また苦笑いするしかない。

まぁ、100円ショップで買った超安物だから無くしてもそれほどダメージはない。たぶん、バスの中でポリタンの水漏れに気がついてザックを開けたときに落としてしまったのだと思う。停留所に行って落とし物に草履はなかったかいちおう尋ねてはみたが、ないという返事。ゴム草履の左足だけ持って二泊三日の縦走かよ、と自嘲気味に笑うしかなかった。

割れたポリタンと片方だけのゴム草履。何の役にも立たないものを二つも背負って縦走開始かと思うと我ながら情けないというか不甲斐ない気持ちだ。広河原ではたくさんの人たちが北沢峠行きのバスを待っていたが、スタート時点ですでに不要品を二つも背負っている間抜けな登山者は私ぐらいのものだろう。

バスの運転手の呼び名は北沢橋、野呂川出合でバスを降りたのは私の他に一組の若夫婦の3人だけ。こんなところで降りるのがお互い照れくさそうに、会釈だけしてそれぞれに歩き始める。

野呂川出合から両俣小屋までは標高差わずか200mほどだが、緩い登りばかりが続くのではなく、実際には大きな沢を越えるときに道が入り組んで、せっかく稼いだ高度を手放すかのように下りに転じてしまったりする。林道の途中に「両俣小屋まであと43分17秒」という妙に細かい指導標がある。

林道の終点近くには両俣小屋の小さなライトバンが停めてあり、まもなくで林道は途切れて沢沿いの径となり、ところどころ崩壊地をかわすようにして左奥の尾根が近づいてくるとテント場があって、そのまた奥に小屋がある。

小屋でテントの受付をしていると、途中で抜かした先のご夫婦が入ってきた。小屋の女主人が「あらあ、ずいぶんと久しぶりじゃないの」と言っていたので常連さんとわかった。

ビールを二本買ったが、結局一本だけで充分酔っぱらったらしく、夕食後、歯を磨くともう眠かった。沢の音がずいぶんと豪快だったが、6時半過ぎには寝入ってしまったらしい。


☆☆☆


夜中に寒さで目が覚めたものの、10時間近く眠れたので、翌朝は4時頃さわやかに目覚めた。まだ暗く、外に出ると星が瞬いている。風はなく、寒さもそれほど感じない。テントの中でお湯を沸かすとすぐに暖かくなった。ゆっくりと紅茶を飲んでから、シュラフやマットを畳み、薄暗い中テントを撤収する。コーヒーとメロンパンの簡単な朝食をとって5時半頃出発する。小屋でポカリスエットを買うと、野呂川越への道は薄暗いとわかりにくいから、あと十分ぐらいしてから出発したらとアドバイスされた。

しかし、もう昨日のうちに偵察してあったので、小屋を出るとすぐに野呂川越への道を歩き始めた。この時期は早立ちするのなら、前の日に1~2分でいいので下見しておくと翌朝の出だしがスムーズになる。山の朝独特の空気の中、平坦な道から急坂に移る前に周囲も明るくなってきた。急坂を登り始めた頃、遠くで鹿が鳴く声がする。一時間もかからずに、野呂川越の稜線に出る。

ひと休みしてから横川岳への稜線を辿り始める。朝の陽の光が差してきて、木々もうれしそうに見える。横川岳に着くと、エアリアに入り込まないようにと注意書きのある方向にロープが張ってあった。独標方向へ少し歩いたところに仙丈ヶ岳までの稜線が一望できる場所がある。そこからは遠く北アルプスの山塊も望めるのだが、北アルプスの峰々が真っ白に冠雪しているのを見て息を呑んだ。同じ日本アルプスでも北はもう冬山になっていて、数日前に起こった遭難のことを思うと、その美しさが皮肉でさえある。

下って大きく登り返すと独標。さえぎるものは全くない。雲ひとつない快晴。そして今日は昨日とちがって風もない。白馬から乗鞍まで北アルプスがすべて見えてしまっている。こんな展望を寒さに震えることもなく見られるのはよっぽど運がよいと思う。白馬の北にはさらに妙高らしき山塊も見えてここが山梨県であることを疑いたくさえなる。これから向かう仙丈ヶ岳がすぐそこに見え、その美しい曲線に惚れ惚れしてしまう。午前中に着いてしまいそうなほど近くに見えたが、実際はそう簡単にはいかないだろう。

展望に見とれていると、昨日野呂川出合のバス停でお会いしたご夫婦が登ってきた。

少し話をして、彼らと別れてまた独り歩く。再び樹林帯に入り高望池。池といっても水はなく、入らないようにロープが張ってある。手前にテントを張ったあともあり、ゴミも放置されている。水場を見に行こうとロープをくぐって踏み跡をたどろうとしたが、上から覗いたところ結局かなり下らないと水場はなさそうなので、行くのはやめにして引き返した。

ここで、ご夫婦二人組と出会う。少し登った伊那荒倉岳は三角点があるだけのピークで想像していたものとは違っていた。「テント禁止」の立て札がある。

苳ノ平へ向かうと周囲が黒木の森から様変わりして、もうすぐそこに森林限界があると感じる。草原状になった苳ノ平では紅葉が見られ、少し顔の筋肉が緩む。

ぽっかりと森林限界に出る。風もなく好天の稜線で森林限界に出たときの感じは言葉にできない爽快さと快感がある。自分の足で高度を稼いだことをしっかりと確認でき、もうここからは高度を下げない限り視界をさえぎられることはないのだ。雲ひとつない青空に仙丈ヶ岳の威容が見事に映える。やはり美しい山だ。もうすぐであの頂に到達できるのかと思うと嬉しくて仕方がない。

稜線を辿っているだけの時は快感なのだが、南アルプスの森林限界は高い。そのせいで、急な登りになるといつもより呼吸が乱れる。地上の3分の2ほどの酸素量では、呼吸を意識的に深くしても酸素が間に合わなくなるのだ。そのことが身体でイヤという位わかるようになるのは私の場合だいたい2600mあたりかららしい。

ペースを落とし、ゆっくりと登る。仙丈に行くのにこんな尾根を登る酔狂は他にいないので、周りを気にせず、自分のリズムで登っていけるのが幸いだ。何度も立ち止まり深く息をして呼吸を整え、休み休みではあるけれども確実に高度を上げていくと大仙丈ヶ岳に到着。

大仙丈ヶ岳では若い男性が一人お昼寝中。仙丈ヶ岳を見やると山頂らしき地点にたくさんの人がいるのがはっきりと見て取れる。もう時間のことは気にせずゆっくりと山頂まで行けばいいのだと思うと気が楽になった。大仙丈ヶ岳にも「テント禁止」の立て札。こんなところでテントを張ろうなんて思う人がいるんだろうか?

30分ぐらいあれば着くかな、と思ったが、やはり息が上がって、何度も立ち止まっては歩きで、仙丈ヶ岳の山頂には35分ほどで到着。やはり3連休最終日の好天で、山頂には大勢の人がいた。まあ、これだけ天気が良く展望も百点満点ではなかなか立ち去る踏ん切りもつかないのかも知れない。最終バスが何時だからという話があちこちから聞こえた。

自分もしばらく、そこからの展望に見とれ、何枚も写真を撮った。生まれて初めて標高3000mの地に立ったことになる。山梨百名山の標柱もある。そういえば、ここは山梨百名山の西端だ。東端と南端はもう登っているが、北端の赤岳は実はまだ登っていない。来年の宿題になりそうだ。

お昼御飯を食べるには落ち着かないので、お昼はすぐ下の仙丈小屋でとることにした。

お昼を食べる前に小屋で混雑状況を念のため聞いてみた。もし混むようなら、今から松峰小屋まで行った方が、金銭的にトクだし、小屋もそうしてくれる方がありがたいだろうと思ったからだ。しかし、今日はさすがに翌日が平日とあって20人も来ないだろうとのこと。心配していた高山病の症状も全くと言っていいぐらい無いので、標高2900mのこの小屋に厄介になることにした。

昼食後も、ずっと小屋前のベンチに座ってそこからの展望にぼーっと見とれていた。小屋のオヤジさんが「ノンビリして好いなあ」と声をかけてきた。「ノンビリぼんやりが一番の贅沢ですよ」というと、大きく頷いた。

3時近くなるとさすがに寒くなってきたので、小屋の中に入った。素泊まりなんて私一人だけのようで、4時頃から夕食の準備を始めた。フリーズドライの白飯にお湯を入れてぼんやりしていると、そこに見覚えのあるバンダナ青年が現れて仰天。周囲の宿泊客が一斉に振り向いてしまうほど二人同時に「あれー、なんでー?」と叫び、ここまでのいきさつを話す。明日の予定を聞かれ、「伊那里に降りるつもりだけど」と答えると「同じです。地蔵尾根」。お互い、ああやっぱり、という感じで頷きあう。

夜はさすがに冷え込んだが、山小屋の中はやはり暖かい。昨日のテントに比べたら、ぬくぬくという感じですらある。シュラフにくるまり、快適に眠れた。寝具ナシの素泊まりという選択肢を残してくれている南アの山小屋には感謝である。


☆☆☆


伊那里から新宿に行く高速バスの時刻は15:50なので、あまり早く出ても仕方がないと、朝はゆっくり出発。松峰分岐にザックをデポして仙丈ヶ岳の山頂へもう一度。道中の無事を祈って下山開始。

あとから小屋を出たkomadoさんが登ってくるのとすれ違い挨拶。「じゃ、お先に。すぐに追いつかれると思うけど」と言って私の方が先に地蔵尾根にはいることになった。

尾根の入口には「馬の背~北沢峠へ下る道ではありません」との注意書きがある。しばらくは森林限界の上の爽快な尾根。左手に昨日登った仙塩尾根のダイナミックな曲線が見え、われながらあんなところをよくもまあ登ったものだと思ってしまう。

やがて尾根を右手にはずれるように下っていくが、実際には地蔵尾根の主稜に向かっていることが地形図を見ればすぐにわかる。赤のマーキングが短い間隔でついているので踏み跡がやや頼りなくなるものの迷うことはないだろう。高度をかなり下げて地蔵尾根の主稜をとらえ直すと、そこは小平地になっていたので、時間もちょうど良いしと休憩をいれる。

このころから、左目のコンタクトレンズがはずれそうになったり見えにくくなったりするのが少し気になっていた。普段使い慣れていない使い捨てのソフトレンズなので、ひょっとしたら表裏が逆なのかも知れない。しかし、やはり高いところに長時間いたので軽い高度障害が起こっているのかもしれないのでもう少し高度を落とせば治ってしまうのかも、などとも考える。

休憩後、コメツガの雰囲気の良い森の径となって高度はあまり変わらないまま、ずっと歩いていくと一時間ほどで大きく登り返した2400m峰の展望地点に出た。目の前に地蔵岳が見え、ここでも休憩をとることにした。急いでも仕方ないし、とザックを降ろしたところで外側にくくりつけておいたテントポールがないことに気がつき、愕然とした。

確か、小屋を出るときにはあったはず。デポしておいた松峰分岐でもたぶんあった。しかし、前の休憩地点であったかどうかは定かではない。いったいどこで落としたのだろう? ここまでの道中を振り返る。と、前の休憩地点(小平地)からすぐのところで大きな倒木が道をふさいでいるところが思い当たった。たぶんあそこの倒木を越えるときにどすんと降りた拍子に落としてしまったのだろう。

戻ろうかとも思ったが、往復で約2時間は帰りのバスに間に合うかどうかかなり微妙だ。もうじきkomadoさんも追いつくだろうし、そのとき聞いて「見かけなかった」ということならこの際きっぱり諦めようと、ゆっくり先を歩くことにした。

地蔵岳を巻いて更に一時間ほどで松峰小屋分岐についた。松峰小屋を見に行って戻ってくるまでにkomadoさんはこの地点を通過するはずで、もしポールを拾ってくれているような幸運があれば、私のデポしたザックのそばにポールを置いていってくれるだろう。戻って来てポールがなかったら、たぶんkomadoさんもポールの存在には気づかなかったということだ。

松峰小屋は前日泊まったりしなくて良かったという感想だった。暗く、内部は少し荒れた感じでトイレもない。3500円であの暖かい小屋に泊まって正解だったな、と感じた。

松峰小屋から戻ってみると、やはりザックはそのままで、テントポールはもちろん置いてなかった。ああやっぱり、あの倒木の陰に落としたんじゃ誰も気づかないよなぁ。しかし、今回の山行はポリタンが割れるし、ゴム草履は片方失くすし、これでテントポールもなくしてじゃ、テントもフライシートも何の役にも立たない荷物になって、ゴミを背負って歩いているようなものだよなと、自嘲するよりほかなかった。

相変わらず原生林の美しい森は続き、松峰を巻ききったあたりの小平地でまた休憩をとる。誰もいない静かな森。komadoさんは今どのあたりだろうか。休憩後さらに歩みを進める。蜘蛛の巣が先ほどからしつこく、ちょうど目の高さにたくさんあって、まとわりついては、気になる左目にもからみついて、「ああもう」と声を上げる。が、しかし待てよ。これだけ蜘蛛の巣があるってことはまだkomadoさんは後ろを歩いてる?まさか?

でも、この蜘蛛の巣の状態からして、誰かが前を歩いていようはずがない。もしかしたら地蔵岳を巻かずに三角点を探しに行って少し遅くなっているのかも知れない、などと思う。もし、テントポールを拾ってくれていてそのまま背負わせているとしたら申し訳ないな、と考えるが、いやあの倒木地点では気がつかないだろうと期待を打ち消す。

とりあえず、お腹も空いてきたし、もうまもなく林道に出てしまうというところで、適当な日当たりの好い場所を見つけてお昼御飯にした。山行を振り返り、今回もずっこけっぱなしだったけれど、とにかく天候と展望は最高に良く、これはこれで思い出深い山行になるだろうなどと考える。2泊3日で仙丈ヶ岳ひとつだけっていうのも自分らしくて良かった。

お昼御飯を食べ終え、コーヒーでも煎れようかという頃、人の歩く音が聞こえ、ああ、やっぱりkomadoさんはまだ後ろにいたんだ、と思う。ニコニコして近づいてきた彼は私に「ゴン太さん、テントポール落とされませんでしたか?」と夢のようなことを言ってくれた。「ええ?、それじゃあ、ずっと。。。申し訳ない」そう思いながらも口にはうまく言葉がのらず、もごもごとお礼のようなことを口走った。 komadoさんは「いやよかったよかった」とまるで自分のことのように喜んでくれ、よけい申し訳ない気持ちになってしまう。

komadoさんの話によると、私が落としたと思った地点よりずっと前、なんと森林限界の上にそのテントポールは落ちていたそうで、彼は、そのほとんど道中全部を私に代わり、自分の荷物の重さだけでもかなりあるというのに、ずっと担いでいてくれたのだ。ネットの山仲間というだけでこんなにまでしてもらって、その感謝の気持ちをどう表したらいいのか未だにわからないでいる。

彼は、すぐに、「それじゃ、お先に」とまた笑顔を浮かべながら挨拶し下山していった。なんてさわやかな人なんだろう。自分もあんな風に人に接したいものだ、とほとんど尊敬の心持ちで、食後のコーヒーを飲み、テントポールをザックの中にしっかり仕舞い込んでから、自分も下山を再開した。

すぐに林道に降りたが、そこからが長かった。もう着くだろうもう着くだろうと思いながらも、なかなか「孝行猿の碑」が現れない。これじゃあ、伊那里に着いて時間が余りすぎるどころか、komadoさんに昨晩教えてもらった停留所そばの温泉にも入れないぞ、と足を速めて駆け下る。孝行ザルの碑は写真だけ撮って通過。なおも下っていくと舗装道路となって市野瀬の集落に着いた。ちょうど稲刈りをしているところで、農家の奥さんが「好い天気で良かったね」と声をかけてくださる。本当に最高の山行きでしたよ、そう思いながら「ええとても」と大きな声で返事をした。

温泉は諦めようかと思っていたが、下界は天気予報通り、夏のように暑い。汗がかなり出て、やっぱり温泉に入りたいよ、と懸命にスピードを上げる。すぐそこに車の音が聞こえるが、道は曲がりくねってなかなか大通りに着かない。

やっと大通りに着く。たぶんあの建物だという温泉へ急ぐ。立派な建物で本当に500円で入浴できるのかな、と思ったが、どうぞどうぞという答えだった。

浴場に行くとkomadoさんは上がったところで、入れ替わりに私はカラスの行水気味に汗を流し、髭を剃って、さっぱりしてから自動販売機のビールで乾杯した。