koshiのお部屋2

万年三歳児koshiの駄文のコーナーです。

傾(かぶ)いて御免

2009年05月16日 23時59分59秒 | 歴史

前田利貞という武将をご存知だろうか。
前田利家の間違いじゃないか,或いは前田利家の親類縁者ではないか,と思った方は正解である。
前田慶次郎-と書けば,あの傾奇(かぶき)者のことかと,ご存知の方も多いことだろう。
何せ,利大(としひろ),利太・利卓(としたか),利益(とします)等,幾つもの諱を持っているために,一般的には慶次郎の呼称が多く使われるようだし,何と言っても故隆慶一郎の小説「一夢庵風流記」と,それを原作とした原哲夫の「花の慶次-雲のかなたに」の影響が大きいのだろう。
それでもって,最近は歴女なるおねいさん方が激増中だそうで,「戦国無双」とか「戦国BASARA」といった格ゲーの影響も大きいらしい。
著書や書状も残っているので,間違いなく実在した人物なのだが,彼の行状や生涯のエピソードは,上記の作品に負うところが大きいと思われる。


確かに魅力的な人物である。
滝川一益の一族に生まれ(父は今尚確定していない),前田利家の長兄である利久の猶子となった経緯だけでも尋常ならざるものがあるし,前田家では家老クラスだったと思われるにも関わらず,天正末期~文禄年間に出奔している(しかも妻子-妻は前田利家の次兄安勝娘-を置いて)。
当主の利家自体が,信長の荒小姓上がりで,若い頃は槍の又左と称された程の武辺で,傾奇者と呼ばれていたくらいなので,前田家は武門として織田家中でも聞こえていただろうが,慶次郎の武勇はその中でも際立っていたらしい。
その後,京都において悠々自適の浪人暮らしをしつつ,里村紹巴や細川幽齋,古田織部といった当時の第一級の文化人と交流。
そして,かの直江山城守兼続の知遇で会津120万石の太守上杉景勝に仕官することになる。関ヶ原の役では,兼続とともに長谷堂城の合戦に参加する。
その後の余生は全く不明で,米沢に没したとも前田家から捨て扶持を貰ったのか大和で没したとも言われる。
一種の戦国自由人ともいうべき人生で,雑賀孫市とも被る気もする・・・。

 

私が読んだのは,上記「一夢庵風流記」と村上元三の「戦国風流」の二作で,あとは「花の慶次」を断片的に読んだだけである。
で,確か「花の慶次」の小田原の役の場面で,当代の傾奇者たちが一堂に会し,箱根の湯(底倉だったか?)に入るシーンがあったと記憶している。
メンバーは,慶次郎を筆頭に,兼続と真田幸村と伊達政宗で,後は誰だったか覚えていない。
可能性がありそうなのは,後藤又兵衛とか雑賀孫市とか渡辺勘兵衛・・・,後は誰だろう・・・。
で,ごつい傾奇者たちが風呂に入りながら「名刀鑑定」したのではなかっただろうか・・・(記憶は定かでない)。
山岡荘八の「伊達政宗」では,政宗が湯の傍の石の上にいた青大将に,自分の鎌首を見せる場面があったのだが・・・。


その慶次郎が,関ヶ原の役後上杉家の米沢移封に伴って京から米沢に行く際に見聞した道中の風物や自作の和歌を記したのが「前田慶次道中日記」で,米沢市内に現存している。
こちらを見ると内容が概観できるのだが,道中のエピソードがなかなかおもしろく書かれている。
朝鮮人の親子を助けで美濃の菩提山城(かつて竹中半兵衛の城だった)に預けたり,木曽路では怪しげなな女と遭ったり・・・と,ふむふむと納得しつつ読んだ。
傾寄者とは,傾いた者-つまり今で言えば人生や世間に対して斜に構えた洒落っ気のある者,といった意味であろうが,慶次郎は今のとっぽい兄ちゃんたちとは違って,硬骨な武辺者にして第一級の教養人でもあった。
それが,文中からも伺える。
・・・で,この「前田慶次道中日記」が,原文+訳+旅程図で発売されたのが8年前だそうだが,今年1月の再版以来あっという間に完売したという。
今月に1500部の増刷となるらしいが,どうやら買ったのは「歴女」のおねいさま方らしい・・・。


世の中変わったものである・・・。
ま,契機や理由はとうあれ,歴史に興味を持つ方々が(ましておねいさん方が)増えるのは喜ばしいことだが・・・。
で,毎度毎度の大きなお世話様をしてしまおう。


前田慶次郎利益(どうやらこの呼称が一番一般的なようだ)の生年は,天文2(1533)年とも同10(1541)年とも言われている。
ということは,上記作品で情けない体制順応派の年寄りとして描かれた利家よりも年上,若しくは同年代ということになる。
だから末森城攻防戦や前田家を出奔した時は完全に中年であったし,長谷堂城の戦いの時は老境に入っていた。
コミック版は傾いた若者として描かれていたので,そのイメージと史実は大きく違うと思う。
因みに前田家出奔の際に,慶次郎の理想の女性として描かれていた利家夫人於松の方(芳春院)と遂にえっちしてしまう描写があったが,フィクションだろう・・・。


さて,せっかくなので今から上記二作を書架から引っ張り出してみようか・・・。
前田慶次郎という人物を再認識するとともに,読んだ時代を懐かしく思い出すであろうから・・・。


(投稿ボタンを押したら,パスワード認証を求められ,再ログインしたら当エントリのデータをすべて失った。リンクは1つだけだったし,全文はワープロからのコピペだつたから最悪の事態は避け得たが,ひどい話である。サイトを開いた際に認証求めろよな・・・)


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5 コメント

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前田慶次 (小袖)
2009-06-11 00:58:51
こんばんは!

この記事を見つけた時ちょうど「一夢庵風流記」を再度しておりまして、何てタイムリーなんだ!と思いコメントしたいと前々から思っておりました。
すみません。すぐに書けなくて・・・。

大河を観ていて、兼続と慶次郎のからみってどんな感じだったかな?と思ったもんで…。
で、読みだしたら忘れてる部分が多々ありまして、夢中になってる次第です(^^)

「前田慶次道中日記」が出版されていたのですね。知りませんでした。読んでみたいです!
しかし、隆先生のこの作品はすごいですよね。
前田慶次郎をメジャーにしたのもこの作品だし、ゲームに登場するキャラもこの作品を元にしてると思われます。

まぁ~私としては隆先生の作品の中では一番という訳ではないのですが。
やっぱり「捨て童子松平忠輝」や「花と火の帝」がいいなぁ~。
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すみません! (小袖)
2009-06-11 01:01:35
ちょっと打ち間違えが…。

「一夢庵風流記」を再度しておりまして→再読の間違えです。
失礼しましたm(__)m
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コメントありがとうございます。 (koshi)
2009-06-12 20:48:37
小袖さん,今晩は。
この手のエントリにコメントは,非常に嬉しいものがあります。

私も「一夢庵風流記」,10数年ぶりで再読しました。
上杉氏の佐渡平定と,朝鮮役前夜の行状が中心で,原哲夫氏のコミックとはえらく異なる内容でした。

>「捨て童子松平忠輝」や「花と火の帝」

やはり良いですか?
氏の作品に疎い私としては,貴重な情報です。
前者は,確か横山光輝氏によるコミカライズ版があったように記憶しています。
横山氏の作品ですから,きっと原作に忠実なのでしょう・・・。

「前田慶次道中日記」は私も読んでみたいです。
でもって,久々に米沢を訪れてみたくなりました。
尤も,今は兼続一色でしょうけど・・・。

で,「一夢庵・・・」再読したので,村上元三の「戦国風流」読み返しています。
司馬遼太郎の「関ヶ原」にも慶次郎が出るくだりが有るらしいので(記憶にない),こちらも読み返してみます・・・。
返信する
横山版捨て童子! (小袖)
2009-06-13 00:22:25
「横山版捨て童子」あるのですか!!
早速チェックします。
が、横山作品は絵が硬い(動きが少ない)のであまり好きではないんです…。

隆氏の作品は全部面白いのですが、歴史好きな私としては
剣豪モノなどはいまひとつな訳です。
それらを抜くとこの2作が残るのです。
歴史なら「影武者徳川家康」はどうよ?
と思われるかもしれません。
確かに、凄い大作だし発想もいい。文句ないです。
しかし、主人公の二郎三郎に惚れないんです!!(^^)
家康の影武者だからあまりカッコよくないんですよね。
その点、忠輝には惚れましたからね(*^_^*)

あくまで私の主観ですので、あまり参考にならないかもれませんよ~!

私も記憶にないので関ヶ原を読み返してみます!!
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成る程,忠輝ですか・・・ (koshi)
2009-06-14 22:01:51
小袖さん,今晩は。
横山版「捨て童子・・・」,確かに出ていました。
ご指摘の通り,近年の漫画家の画風に比べると,横山氏のそれはシンプルすぎて陰影感や動きに乏しいかもしれませんね。
ただ,私は「家康」,「信長」,「政宗」,「信玄」と山岡荘八作品のコミカライズを読んでみて(「信玄」のみ新田次郎でした),考証の確かさと原作に忠実な作風は是と思いました(オリジナルの「平家」は考証的に今二つでした・・・)。
「影武者徳川家康」,お読みになったのですね。
私は,例によって原哲夫のコミカライズを読んだだけです。
世良田次郎三郎でしたっけ・・・??
主役は格好良く描かれていたと思いました・・・。
せっかくなので「捨て童子」,機会をみて読んでみたいものです・・・。
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