ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

小さな柿の木(1)

2007-11-12 | 放蕩息子Part2
あるところに雑木林がありました。あまりにも乱雑としていたので、だれも目を留める人も、入り込む人もありませんでした。

その雑木林の中に、小さな柿の木がありました。あまりに小さいので、他の木や草に覆われて、そこにあることすらわからないほどでした。


ある日、その雑木林に、ひとりの農夫がなにげなく足を向けました。その農夫は特に目的があったわけではありませんでしたが、その雑木林の中をあちこちとぶらぶら歩き回っていました。

農夫は、他の木や草の間に埋もれている小さな木があることに気がつきました。覆っている枝や草をかき分けて、その木に近づいてみますと、それは小さな柿の木でした。

「これはいいものをみつけた。持って帰って、私の庭に植えよう。」

農夫は、ていねいにその小さな柿の木を根っこから掘り起こし、枝が折れたりしないように大切に持ち帰りました。


家に戻ると、農夫は庭に立って、しばらくあちこち眺めていました。

「よし決めた。ここが一番いい。」

そう言うと、農夫はシャベルを持ち出して、穴を掘り、小さな柿の木を自分の庭に植えました。


小さな柿の木は、とても驚いていました。生まれてこの方、ずっと雑木林の中で、他の木や草に覆われて、小さくなっていたのです。それが、まったく見も知らない庭に植えられたのですから。その驚きがどれほどのものであったか、わかるでしょう。

「いったい僕は、ここでどうなるんだろう。」

小さな柿の木は不安で仕方ありませんでした。

(つづく)