ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

放蕩息子Part2 (1)

2007-10-01 | 放蕩息子Part2
ある日のことだ。弟が、とんでもないことを言い出した。弟は、いつもちゃらけたことばかりやっている、不真面目なヤツで、前々から使えないとは思っていたが、それでも今度ばかりは、心底あきれてものが言えなかった。なんと、生きている父に向かって、「自分の相続財産分を今くれ」と言い出したのだ。

さすがの弟に甘い父親も、かなり動揺していたが、結局毎度のように、弟の言うようにしてやった。そう、財産の半分を弟に渡したのだ。そして弟は、それを全部金に換えると、挨拶もそこそこ、どこかへ行ってしまった。

弟を甘やかして育てた父、その結果と言ってしまえばそれまでではあるが、こんな道理に合わないことがあっていいものか。それ以来、俺は、今まで以上に仕事に精を出した。雇い人たちが休みの日も畑に出た。それまで楽しんでいた乗馬も止めにした。どこから誰にどう見られても、否、人目に付かない時でさえも、まったく落ち度のない、そんな生活を徹底した。弟はダメだったが、俺だけは父が納得して自分の財産を譲ってくれる、そんな人間になろう、そう務めたのだった。

やがて周囲の人々から、理想の息子、そう呼ばれるようになった。それでも、俺は、自分に満足しなかった。ひとつが済めば、さらにしなければならないことが見えてくる。怠けてはいられない。上に上がれば、次の上があることがわかる。もっと良い評価を得るために、自分を追い込み続けた。

(つづく)