78回転のレコード盤◎ ~社会人13年目のラストチャンス~

昨日の私よりも今日の私がちょっとだけ優しい人間であればいいな

◎POP物語物語(第1話)

2015-03-11 01:25:39 | ある少女の物語


【1話:肩を並べて】
 好きな人と肩を並べて歩くのが 小柄で人見知りな私の夢だった。
 放課後立ち寄ったコンビニに ほぼ同じ身長の店員(あなた)が居た。
 私のことを覚えて欲しくて 毎日同じ時間に同じヨーグルトを
 1個だけ、あなたの前で買い続けた。
 そんなある日、友達に怒られた。私がしゃべらな過ぎなのが理由だった。
 落ち込んだままその日もコンビニへ。
 カロリーとか気にしたくない気分で その日だけシュークリームを手に取り
 レジに向かった。
「今日はヨーグルトじゃないんですね」「えっ、あ、ハイ。友達が教えてくれて」
 初めて会話を交わすことが出来た。
 翌日からあなたは居なくなった。
 でも、その会話が自信に繋がり、今は友達と肩を並べて普通に話せる。
 それはそれで、わりと楽しい。
【カスタードシュー→コンビニエンスストア】



 とあるコンビニのトイレの扉を開け、便座に腰掛けると、眼前の扉にそんな文章の書かれた紙が貼られてあったら、人はどう思うのだろうか。
 それは、この4月でコンビニで働き始めてから丸3年を迎える僕の“挑戦”だった。

>『僕の小説で一人でも多くの人に純粋な心を取り戻して欲しい』
>学生時代から自己満足で書いてきた小説に、やっと理由が出来た。

 忘れもしない一年前の3月16日、『ストレート事件』で純粋な心を踏みにじられ、以後僕の目に映る人々、特にリア充の面々は純粋な心が欠けているようにしか見えなくなった。
「あれ、シャンプー変えた?」
「変えてねえし。いつも適当なんだから」
「わりぃわりぃ。ホラ、午後ティー買ってやるからさ」
「リプトンが良い!」
 リア充は軽い。傍から見て軽い人が多すぎる。
 僕の作る物語でリア充を見返したい。のんべんだらりとお花畑でカップルやっているだけのお前らにこんな話は書けるか。人の心を動かす話を考えられるか。
 そんな思いから始まった『POP物語』プロジェクト。2014年11月9日、記念すべきその1話が貼り出された。


 ***


【確認:POP物語とは】
短編小説に当店の商品が登場するPOP(登場しないことも)。
半径500メートル以内で実際に起きていそうな、ちょっとした身近でリアルなお話。
そこにはいつもコンビニの商品がある、という趣旨。

自ら追い込んだルールは
(1)A4用紙1枚で19字×20行に収まる話
(2)なるべく1話完結。無理なら三部作まではOK
(3)トイレの壁に貼り、「週一」で新作に貼りかえる
(4)主人公は男女交互にする(1話が女なら2話は男)
(5)一人でも多くの読者に純粋な心を蘇らせる「ちょっと良い話」を


 ***


 ただでさえ仕事が多忙なのに、誰の手も借りない僕個人のオリジナル作品を、しかも週一で新作。
 無謀な挑戦はこうして始まった。
 ネタを捻り出し、限られた僅かな文字数の範囲内でテキストに起こし、商品を宣伝し続けるその先には、一体何が待っているのだろうか。



【2話:B型の女】
『B型は誰にでも優しい』という科学的根拠の無い都市伝説を知った時、
 僕の心は冷めてしまった。
 君が笑顔で話しかけてくれるのも『B型だから』で片付いてしまうし、
 現に君は他の男子にも同じ笑顔を振り撒いている。
「家まで来ちゃった」
 ある雪の日、風邪で3日も学校を休んでいた僕の前に、君は突然現れた。
 両手には温かいコーヒー。
「ごめん砂糖入れ忘れた。苦いよね?」
 そのあどけない笑顔は、学校で皆に振り撒くそれよりも、輝いて見えた。
「いや……美味しい。ありがとう」
 誰にでも優しいのは悪いことではない。
 それが君の良さであり、男子にも女子にも好かれる所以であり、
(後でこっそりココア混ぜよう)
 僕は初めて、B型に恋をした。
【コーヒー×バンホーテンココア→コンビニエンスストア】



 2話までは置きに行った。コンビニ店員に恋をする女子、誰にでも優しいB型に悩まされる男子。ベタだけど身近でリアルな、少しだけほっこりする話を目指した。そして共通点は非リアが主人公であること。非リアの純粋で切ない心情をリア充に届けたかった。

 そして、多くのアニメで物語が転換すると言われている“3話”で、僕は攻めに出た。



【3話:万引き犯の末路】
 22歳の彼は今、大きな壁にぶち当たっている。
「もう80社は受けたかな」
 成績優秀、スポーツ万能、眉目秀麗(びもくしゅうれい)、
 それでも七年前の万引きが、彼の進路を阻んでいる。
「初犯なら就職に支障は無いんだけどね、
 面接で問い詰められると上手く答えられなくて……ああまた間違えた」
 私の部屋で81社目の履歴書を書き始めてからもう2時間。
「あの時パクらなければこんなことには」
 自業自得、因果応報、至極当然、
「じゃあ履歴書に前科って書かなきゃ問い詰められないんじゃない?」
 それでも私が彼を応援するのは――
「それは駄目だ。俺はあの日以来、自分に正直に生きるって決めたんだ」
 今度、履歴書に適したボールペンをプレゼントしようと思った。
【uniジェットストリーム0.7mm→コンビニエンスストア】



 どうだ。前2話のほっこりから突如、暗い話への転換。
 これは当店で実際に犯した幾人もの万引き犯へのメッセージでもある。
 いずれ起こりうる可能性の一つ。それを考えもせず平気で店の商品を盗む子供たち。
 リア充ではないが、それもある種の“軽い人”だと僕は見なしている。
 しかし、こうして3話まで上げたものの、お客様の反応は一切不明のまま。
 お読みいただいている人は少なからず居ると信じているが、店内でPOP物語について語る人は皆無だった。

(つづく)

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