どこの世界でも醜いものはあるのだが・・
日本の誇る木版画の世界は、ここ20年ばかり大分醜い事が多い。
醜い状況を読んで頂く前に、まず、版画エディションの定義を知って下さい。
版画の種類を大まかに分けると
【木版画】
凸に彫り進める作業が殆んどで色の調合さへ記録しておけば、時代が経ても摺る事ができる。(浮世絵は現在でも江戸時代の版で刷れる)
【銅版画】
銅板へ凹に刻み、刻んだ場所へインクを入れ、プレスしてインクを搾り出し、紙に刷る方法。
刻んだ線が腐食等で太くなる為、あるいはインクが固まる為に、制作枚数に制限が有る。
【リトグラフ】
フランス人マーグさんが開発した印刷方法で平版印刷。インクの乾燥が速い為、一気に印刷する限界は5~800枚位と言われる。又、マーグ社製ポスター作品には多く見られる。
【シルクスクリーン】
色に厚みを出せる平版印刷方法で近代発展した方法。リトグラフ同様に一気に印刷しますが枚数は3000枚程可能。
【ジグレー版画】
現在流行のPC処理による制作方法。1枚から何枚でも可能。
以上が大まかに判別される版画技法ですが
版画に於けるエディション番号とは、
この銅版画における制作枚数の制約から来るものでして、枚数も100枚以内の作品が多いわけです。中でも、緻密な作品に至っては10枚限定というような作品も多く見ます。
ですが、
最近はこの銅版画での限定枚数というエディションを、他の版画技法でも作者が取り入れています。ここに大きな問題があります。
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日本画家が作品を写真に撮らせ、彫り師、摺り師に木版画と称して作らせる作品は、本来許されるものではなく、我々、絵を扱うプロの間では、【単なる印刷物】としか評価しません。
この事への批判は後日としまして、本日は、木版画家親子と、宣伝商売ばかりで本業へは力を入れない静岡新聞への批判です。
3月12日、静岡新聞に大きく
静岡新聞創刊70周年記念、【牧野宗則・風鈴丸】版画特別販売。と、大きく宣伝が出ていました。
親である牧野宗則氏木版画2点。娘である風鈴丸氏木版画1点。同サイズ、エディション数、それぞれ175枚。
内、3枚セット120組・・55万円+消費税。
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エディション枚数がどうのこうのへの批判ではありません。あくまで、私個人として値段設定への批判です。
今回の値段は、人によれば、最適価格。と言う人もいれば、安すぎる。という人もいるでしょう。当然、商売として文句をつける筋合いではありません。
但し、私個人は非常に・・異常価格。と、決め付けています。
何故なら、価格は文化にとって重要なファクターであるからです。
別に買うわけではないから文句言うな。との声も聞こえそうです。が、
3作品で55万円。X 175 枚限定=9625万円。
親の牧野氏は版画家としてはキャリアはあるが、娘さんはまだ無名作家。
棟方志功は別格価格として、この棟方と同時代の作家に、日本を代表する木版画家・関野準一郎(故人)がいる。世界でも非常に有名な作家です。
この関野版画が実質10万前後で取引されている現在、牧野親子木版画3点のみで9625万円。
1作品当たり、3208万円である。
版画もプリント複製品であるにも拘わらず。である。
先日亡くなった平山郁夫氏の原画作品が10号位の大きさで実質6~800万円程度。
原画で発表する作者が余りにも惨めだ。
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既に亡き、世界的に評価の高い池田万寿夫氏も、この木版画の価格については非常に怒っていた事を思い出す。
木版画は刷ろうと思えば、何枚でも刷れる。AP(アーティストプルーフ)のエディションで何枚も市場へ出す木版画家もいる。
ヨーロッパに於いては、このエディション定義が厳しく、現在の日本で流通する版画作品の中では、刑務所行きに値する作家も見受けるのです。
銅版画は、一度インクが乾けば、版そのものの使用が不可。である。作者の手元にも作品は4~5枚しか残らない。
で、あるに関わらず、現在、有名作家の銅版画100枚エディション作品で、約5~6万円。
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報道機関を名乗る天下の?【静岡新聞】が、【牧野宗則・風鈴丸木版画家親子】に発注して?、9625万円。折半でも4812万円。
購読者へのサービスが創刊記念にふさわしいと思うのだが・・全く、非常に、異常に、酷く、呆れた商売をするものだ。
私の知る牧野版画。
技術は素晴らしいと思っています。が、私好みではありません。こればかりは個人的な嗜好ですから購入者、又は購入希望者へ文句は言へません。
かって、ミキモト画廊が1枚4万円で牧野版画を大々的に売り出した事を覚えています。
ミキモトが2回目に牧野氏個展をした際は8万円。それ以後、倒産した大阪春秋館画廊?でも扱っていたのを思い出します。
この二つの画廊が牧野氏から手を引いた頃の価格は約30万円ぐらい。
恐ろしい販売価格と思っていました。当時で、1作品が30万X120部=3600万円。
呆れ返っていました。
結局、牧野氏の作品購入者は、当時より30万前後を代価々値として支払っている人が多いので、彼としても、値段を下げる事が・・実質できない。と言った処が本音と思うのだが、文化作品とて、経済と連動するのである。
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世界的な銅版画家、長谷川潔、駒井哲郎、浜口陽三等より高価で驚きっぱなし。です。
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ちなみに、
版画というのは多くの人に見て頂きたい。という願望のあるプリント印刷の一種と考えて宜しいです。
メディアは、本来真面目に取り組み、苦労している絵描きを取り上げ文化の向上に目を向けるべき側面を持つはずですが、静岡新聞と私は意見が異なるようです。
こんな酷い価格をつけて大宣伝する連中。私は【メディアと作家の売名行為】と断じます。実に傲慢です。
牧野版画を誰が下取りし、後世へ残そうと考えるでしょう?
私は絵を扱っており、自身でも描きますが・・素晴らしい力量を持ち、誠実で苦労している作者達を多く知っています。
特定宗教のみを大きく宣伝し、挙句、版画家と結託して儲けだけに走る【静岡新聞】。
静岡新聞が報道機関として意見を押し付ける側面を持つ以上、私も言い分はありますので書きました。
投書で意見を述べたりするのは時代遅れ、ブログ上にて批判です。
以上。 by Yoh-M.