CNET Japan にブログを書かれている江島さんよりe-Tetsuブログを紹介して頂いた。そのブログのテーマがSI(システム・インテグレーション)企業の今後に警鐘を投げかけるものであった。SI企業に身を置くだけに、今日はその議論を更に発展させてみたい。
システム・インテグレーション事業における対デフレ戦略 -- Kenn's Clairvoyance
SI企業の現在
最近SI企業の中間決算発表も相次いでいるが、江島さんも言うように景気の良い話はない。各社とも景気の回復に伴って売上高や営業利益に改善傾向は見られるものの、価格競争と単価の下落は決して緩んでおらず気を抜ける状況にはない。
では、景気が本格的に回復すればSI業界も浮揚するのであろうか?恐らくそうではない。なぜなら、今回のSI業界の低迷は景気減速だけではなく、構造的な変化を伴っているからだ。コモディティ化がいち早く進展したハードウェア・ベンダー、そしてインド・中国の低コスト・ベンダーが攻勢を強めるなか、SI業界は過当競争の状態にある。そこへきてテクノロジー面でもサービス志向アーキテクチャー(SOA)の流れが、いよいよソフトウェアのコモディティ化を現実のものとしようとしているのである。
これまでのSI業界
そもそもシステム・インテグレーションというビジネスは、オープン化の流れの中で多様なプラットフォームを連携させたシステムを構築するニーズから来ている。浮揚期においては、各社ともサポートするプラットフォームを増やし、システム開発からより上流のコンサルティング領域、あるいは下流の運用管理といった方向にもカバー範囲を拡大していった。いわゆる「トータル・ソリューション企業」の登場である。「なんでも出来ます」でビジネス規模を拡大するのである。
しかし、上流の仕事、下流の仕事は、求められるスキルセットもコスト構造も異なるため、不用意な拡大政策は決して成功には結びつかない。また、この拡大の過程は、各社の特徴を薄める過程でもあった。結果、中途半端に何でも出来るが、あまり特徴のないSIベンダー群が誕生した。しかし競争の激化した今、「なんでも出来ます」は顧客に響かない。顧客に「おたくは何が強いんだ?」と問われたとき、「昔は...」と余計な接頭語を付けたくなる人も多いのではないか。
これからの課題
そんなSI企業に対し、江島さんは以下の3つの選択肢があると言う。
1. M&Aにより規模の拡大を目指す
2. 得意分野のキーワードでマーケティングを行う
3. プロダクト開発に投資する
これを自分なりに解釈してみたい。第一の選択肢であるM&Aは価格下落をスケールメリットで勝ち抜く戦略である。しかし、個人のスキルへの依存度が大きいSI業界においては、SIそのものの規模拡大が必ずしもコスト競争力に繋がらない可能性があることには注意を要する。スキルによらない標準化、あるいはアウトソーシングなど設備投資によるスケールメリットなどを追求する必要があろう。
規模の経済への対抗としては、第二の選択肢である得意分野へのフォーカスである。ここでの留意点は、多くのSI企業が得意分野を拡大政策の過程の中で失っていることである。成長分野が必ずしも得意分野ではないことに注意しなくてはならない。
第三の選択肢であるプロダクト開発に成功例は少ないと江島さんは指摘する。確かに、SIとプロダクト開発は投資回収に考え方も異なるため、必要とされるマインドセットも異なるからである。この方向に進むとすれば、この相違を理解したうえで取り組むことが肝要である。
また、これらの選択肢をSOA化の流れの中で解釈し直すことも重要であろう。スケールメリット戦略ならば、SOA型サービスのプラットフォームをマーケットに対して提供するということも考えられる。また、得意分野戦略では、特定分野におけるSOA型のインテグレーション・ビジネスと位置づけることが可能だ。そして、プロダクト開発もよりコンポーネットに近い部分で取り組むことにより、リスクを押さえた参入というのが可能となるかもしれない。
最も重要なこと
江島さんは「いずれのアクションも起こさない」企業にとってSI事業は「斜陽産業」になると指摘する。その通りだと思う。もう1つ加えるとすれば、中途半端に3つの選択肢をそれぞれ実行する企業にとってもSI事業は「斜陽産業」になるということだ。トータルソリューションの時代は終わりである。戦略とは選択をすることなのだ。
それにしても書くことが全部自分に跳ね返ってくるのでつらい。。。
システム・インテグレーション事業における対デフレ戦略 -- Kenn's Clairvoyance
SI企業の現在
最近SI企業の中間決算発表も相次いでいるが、江島さんも言うように景気の良い話はない。各社とも景気の回復に伴って売上高や営業利益に改善傾向は見られるものの、価格競争と単価の下落は決して緩んでおらず気を抜ける状況にはない。
では、景気が本格的に回復すればSI業界も浮揚するのであろうか?恐らくそうではない。なぜなら、今回のSI業界の低迷は景気減速だけではなく、構造的な変化を伴っているからだ。コモディティ化がいち早く進展したハードウェア・ベンダー、そしてインド・中国の低コスト・ベンダーが攻勢を強めるなか、SI業界は過当競争の状態にある。そこへきてテクノロジー面でもサービス志向アーキテクチャー(SOA)の流れが、いよいよソフトウェアのコモディティ化を現実のものとしようとしているのである。
これまでのSI業界
そもそもシステム・インテグレーションというビジネスは、オープン化の流れの中で多様なプラットフォームを連携させたシステムを構築するニーズから来ている。浮揚期においては、各社ともサポートするプラットフォームを増やし、システム開発からより上流のコンサルティング領域、あるいは下流の運用管理といった方向にもカバー範囲を拡大していった。いわゆる「トータル・ソリューション企業」の登場である。「なんでも出来ます」でビジネス規模を拡大するのである。
しかし、上流の仕事、下流の仕事は、求められるスキルセットもコスト構造も異なるため、不用意な拡大政策は決して成功には結びつかない。また、この拡大の過程は、各社の特徴を薄める過程でもあった。結果、中途半端に何でも出来るが、あまり特徴のないSIベンダー群が誕生した。しかし競争の激化した今、「なんでも出来ます」は顧客に響かない。顧客に「おたくは何が強いんだ?」と問われたとき、「昔は...」と余計な接頭語を付けたくなる人も多いのではないか。
これからの課題
そんなSI企業に対し、江島さんは以下の3つの選択肢があると言う。
1. M&Aにより規模の拡大を目指す
2. 得意分野のキーワードでマーケティングを行う
3. プロダクト開発に投資する
これを自分なりに解釈してみたい。第一の選択肢であるM&Aは価格下落をスケールメリットで勝ち抜く戦略である。しかし、個人のスキルへの依存度が大きいSI業界においては、SIそのものの規模拡大が必ずしもコスト競争力に繋がらない可能性があることには注意を要する。スキルによらない標準化、あるいはアウトソーシングなど設備投資によるスケールメリットなどを追求する必要があろう。
規模の経済への対抗としては、第二の選択肢である得意分野へのフォーカスである。ここでの留意点は、多くのSI企業が得意分野を拡大政策の過程の中で失っていることである。成長分野が必ずしも得意分野ではないことに注意しなくてはならない。
第三の選択肢であるプロダクト開発に成功例は少ないと江島さんは指摘する。確かに、SIとプロダクト開発は投資回収に考え方も異なるため、必要とされるマインドセットも異なるからである。この方向に進むとすれば、この相違を理解したうえで取り組むことが肝要である。
また、これらの選択肢をSOA化の流れの中で解釈し直すことも重要であろう。スケールメリット戦略ならば、SOA型サービスのプラットフォームをマーケットに対して提供するということも考えられる。また、得意分野戦略では、特定分野におけるSOA型のインテグレーション・ビジネスと位置づけることが可能だ。そして、プロダクト開発もよりコンポーネットに近い部分で取り組むことにより、リスクを押さえた参入というのが可能となるかもしれない。
最も重要なこと
江島さんは「いずれのアクションも起こさない」企業にとってSI事業は「斜陽産業」になると指摘する。その通りだと思う。もう1つ加えるとすれば、中途半端に3つの選択肢をそれぞれ実行する企業にとってもSI事業は「斜陽産業」になるということだ。トータルソリューションの時代は終わりである。戦略とは選択をすることなのだ。
それにしても書くことが全部自分に跳ね返ってくるのでつらい。。。
先日私のBlogサイトにて当ブログを紹介させていただきました折、コメントをいただきありがとうございました。
今回の分析も非常に感銘を受けました。
特に「戦略とは選択をすること」の一文、非常に実感の湧く共鳴できる言葉です。
これからも、エントリーを楽しみにしています。
今後ともよろしくお願いします。
ご質問頂いた件ですが、IT業界でありながら、SIというビジネスはまだまだ個人スキルへの依存度が高いと感じています。特にプロジェクト・マネージメントは人と人のコミュニケーションを司ることが重要になり、そこは機械的なインターフェースと違って標準化が困難なエリアです。すると、どうしても巧拙が表面化しやすくなり、結果個人のスキルで結果に大きな影響が出ます。
欧米ソフト会社は、人の役割やドキュメント・レベルの定義が明確で、個人のスキルへの依存度を減らす努力をしているなと感じたことがあります。人の異動が激しい分、ノウハウの定型化にも余念がないということでしょうか。
コメントありがとうございました。
選択と集中はいろんな戦略本で語られていますよね。
SI業界は上り調子できたフェーズが終わり、単価の下げフェーズが続いてます。
ここでいち早く選択と集中を実行した企業が生き延びていくのでしょうね。
江島さん、e-Tetsuさんのおっしゃる通り、
プロダクト開発によるイノベーションはあまり期待できないですし。
今回の記事で初めて訪問させていただきましたが、これからいろいろと参考にさせて頂きます!
このエントリの中でも特に
「多くのSI企業が得意分野を拡大政策の過程の中で失っていることである。成長分野が必ずしも得意分野ではないことに注意しなくてはならない。」
は本質をついていて共感を覚える部分です。
本当にガラガラ・ポンした方が既存組織を変えて行くよりも結果が出るのが早いんじゃないかと思うこと多いですね。
SI事業者って社内のノウハウの共有や方法論の標準化で利益を出そうとしていますが、
一方である水準までは思い切って属人化した方が利益につながる局面もあると思います。
逆説的ではありますが、ドキュメンテーションによる形式知化がパワーを発揮する局面
って実はかなり大規模な案件に限られるのではないのかな?と。
人間にしかできないこと、即ち「創造」「判断」「例外処理」は、つきつめると主観的
なもの(創意工夫)ですから、例えばOJTのようにホットな空気を伴わなければ伝える
ことができない何か、ではないかと考えています。
そうすると、案件の小型化を前提とするなら、オペレーショナル・エクセレンスを実現
するには従来の先入観(例えば「ドキュメントは書くべきものだ」「品質は絶対だ」など)
を一旦捨てることを発注者にも働きかけ、双方にとってのコストミニマムを目指すとか、
そのあたりの「組織の価値観(ルール?先入観?)の変革」に鍵があるような気がします。
物理学における量子論と相対論のように、スケールが変わればルールも変わる。。。
分散拠点で大規模開発と小さなシステムの開発経験がありますが、大規模でロケーションが違うと、やはりプロセスの標準化がうまくいかないと手戻りばかり発生した記憶があります。その一方、少人数の小さなシステムでも大規模開発の価値観でシステム開発すると「こんな形式的なドキュメントなんか書かなくても、みんな頭の中でわかっているし、きれいにしなければ短期間で低コストで終わるのに。。。」と思ったこともありました。
e-Tetsuさんがおっしゃるとおり人への依存度が高い面は避けられないので、この点を考慮しつつシステム開発規模やプロジェクトに参加しているステークホルダーの数などのディメンジョンを考慮して、開発を進めることがオペレーショナル・エクセレンスにつながっていくのではというところでしょうか。。。
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