ここにある一枚の写真・・・
ここにはこう記されている
「I went down the most dangerous road in the world ... and I survived (私は世界で最も危険な道を下り、そして生き残った)」
と・・・
そう、あの時、確かに私は「最も死に近い場所」にいたのだった・・・
2008.04.27(日)
この日、コパカバーナよりボリビア一の大都市ラ・パスに到着した。
ボリビアの憲法上の首都はスクレになるが、実質的な首都はここラ・パスであり、また高度3650mの場所に建てられたこの街は世界最高所にある首都機能を持つ都市となる為、"首都狙撃手"たる私にとっても訪れなければならない場所であると言えよう。
ラ・パスは盆地の中に造られた都市であり、その斜面の傾斜の隅々まで埋め尽くすように建物が建て尽くされている姿は圧巻である。
ミラドール・キリキリから見たラ・パスの全景と夜景
だが、私がここに来たのはただこの"実質上の首都ラ・パス"を見に来ただけではないのだ!!
ここには・・・
また別に挑戦しなければいけないものがあったのだ!!
通称「デス・ロード」
ここには世界一危険といわれる道があるのだ!!
ラ・パスから近郊の町コロイコに向かうこの道路は年間平均200名が交通事故(主には転落)で亡くなるという恐るべき道なのだ!!
中でも約300M続く恐怖の絶壁という場所がこのルートのハイライトと言えよう・・・
商魂逞しく、ラ・パスにある多数の旅行代理店がこの「デス・ロード」をマウンテンバイクで下るツアーを扱っており、素人でも気軽にこの"死の道"を自転車で下ることが出来るらしい・・・
私の宿泊しているホテルには既にこのデスロードを走ってきたツーリストもいて、彼らの話を聞くと断崖絶壁を自転車で駆け抜けるスリリングな体験が出来るということだ。
ツアーは朝食、昼食込み、4670mから1120mまで下る為、暑くなるので最後ゴールした後はホテルでシャワー、ビュッフェランチ、そしてプールまで楽しめるということだ・・・
ここは「プロフェッショナル」として、見過ごす訳には行かない、「人の死を弄ぶ死の商人共」に一矢報いてやるのが正解だろう・・・
2008.04.28(月)
午前中はラ・パスの市内観光バスに乗り手抜きで市内観光をする。
午後になり、サガルナガ通りにある、他の旅行者に聞いた代理店に向かう。
代理店の人によると明日はまだ申し込みがいないらしく、明後日なら既に4人申し込んでいるので確実だということだ。
私はポケットからドル札を取り出し、彼らに手渡す・・・
「賽は投げられた・・・」
もう後には引けない・・・
明後日・・・私はいよいよ"死の道"へ向かうのだ・・・
2008.04.30(水)
ピックアップは朝の0645時、幸いにして昨日ホテルに来た人も同じツアー会社で申し込んだため、私の宿泊先からは私と他に日本人3人が参加することになった・・・
以前聞いていた既に申し込んでいる4人に私、そしてこの新たに加わった3人で最低8人のグループとなる。
今日中止になるわけはないだろう・・・
車で彼らのオフィスに行き軽い朝食を摂る、我々以外にスイス人が一人。
朝食を摂り終え、さらにもう一人イスラエル人が加わる・・・
これで合計6人・・・・
んっ???
最初私に4人既に申し込んでいると言っていたが・・・
数勘定が合わない気が・・・
ってことは・・・いい加減なことを言っていたのか??
まあいい。ここはボリビアだ・・・
今日「デス・ロード」が下れれば何でもいいだろう・・・
ツアー会社のミニバスはラ・パスを出発して最初の地点であるクンブレへ向かう。
ミニバスの上にマウンテンバイクを満載している
ここは標高4670m。ここをスタートして21km、アスファルトの道路を走り標高3600mウンドゥアビまで、ここでもう一度ミニバスにのり標高2600mのコタパタへいき、再度マウンテンバイクで34kmのダートを走り標高1120mのヨロサまで向かう・・・
これが今日のコースだ。
標高が高いだけあって周りは雲で覆われているが、これも下るにつれ解消され、熱帯の雰囲気に近づくのだろう・・・
私はバイクに跨る時に一つ誓いを立てた・・・
「今日のレース、誰にも俺の背中を見せさせない」
と・・・
スタート地点付近、雲に包まれている・・・
安全の為のサイクリング用のヘルメットを被り、つなぎを着て、グローブを付け、マウンテンバイクは我々6人と、ガイドの2人を乗せて坂を下り始める・・・
そして・・・
異常無く"最後尾を走る私"がいた・・・
「だって、怖いんだもん・・・・」
しかし、背中を見せさせないと豪語はしたが、先頭と最後尾には安全の為にガイドがついている為に常に背中は見せっぱなしだ・・・
まあいい、彼らはレースの相手ではない・・・
あくまでも相手は他のツーリスト共だ・・・
途中から雨が降り始め、全身を濡らしていく・・・
視界がどんどん見えなくなっていく・・・
道路の脇は転落したら死が待ち受ける。
しかし何も見えないので不思議と恐怖心は湧かない・・・
だが・・・雨止まず・・・そして富士山頂以上の高度・・・
体温は徐々に下がり始めグローブをつけていても指先が凍え始める・・・
「ちゃっちゃむい・・・」
ウンドゥアビに到着、大体一時間ぐらいだ・・・
アスファルトの上はこれで御仕舞い。前座が終わったという感じだ。
標高はまだ3600mぐらい、降り始めた雨は未だやまず・・・
まだひたすらに寒い・・・
ウンドゥアビ付近
ミニバスに乗り次の地点のコタパタへ、標高は2600m。心なしか上よりは温かいがそれでも振り続ける雨にずぶぬれになったつなぎは乾く暇も無く、水分が体温を奪っていく・・・
「ひゃっひゃむい・・・」
マウンテンバイクは私を乗せ、今度はダートを下り始める。
視界は相変わらず何も見えないまま・・・
聞いた話では断崖絶壁の横を走るので少し下を覗けば切り立った崖が垂直に落ち込み、凄まじい怖さを発揮するという事だが・・・
見えなけば恐怖も何もあったもんじゃない・・・
途中、下を覗いた景色。これでは良くわからん・・・
マウンテンバイクは"恐怖の絶壁"で一度停車して休憩。
良く広告では晴れ渡った空にこの恐怖の絶壁に立つ人々を写しているのだが・・・
多分これが恐怖の絶壁。説明された訳ではないがこれぐらいしか思い当たらない・・・
この後さらに一時間ぐらい・・・
道中の景色
合計2時間のダートを・・・
雨の中・・・
服が全部びちょびちょに濡れながら・・・
「あひょぅ~・・・ちょってもおきゃむいのでしゅぅ~・・・」
何とかゴールのヨロサに到着・・・
ゴールのヨロサにて、
私は世界で最も危険な道路、この「デス・ロード」を走り終えたのだ・・・
これは走行後昼食を摂ったコロイコ付近から見たデスロードの眺め。
コロイコでの束の間の休息。
シャワーはぬるかったが、ランチはまあまあいけている。
だが、雨の為プールは論外だ・・・
結局走り始めてから雨は一度も止まず・・・
私はこの道「デス・ロード」をこう振り返る・・・
終始一貫雨の為何も見えず、殆ど恐怖心を感じることはなかったが・・・
雨に打たれて全身が冷えきった為、ただひたすらに"寒くて死にそう"だった・・・
と・・・