デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジャズ・ストリートを横切っただけのドン・スリートはアスリートになれなかった

2016-09-18 09:18:49 | Weblog
 おそらくこのドン・スリートの「All Members」を所有されている90パーセントの方はサイドメンに注目しての購入だろう。小生もその一人でこのトランぺッターの名前も知らなかったし、リバーサイドの傍系レーベル、ジャズランド盤だけに本家で売れなかったアルバムを体裁だけ変えての再発盤だと思ったくらいだ。ケニー・ドリューやズート・シムズの再発ものをタイトルとジャケットの違いから別物だと思い飛びついた苦い経験がよぎる。

 ジミー・ヒースとウィントン・ケリーの共演盤といえばタイトル曲が決定的名演として知られる「On the Trail」があるが、これにはトランペットは入っていない。大抵ジミーのセッションは兄弟のパーシーとアルバートなのでロン・カーターとジミー・コブというのも珍しい。ということはスリートのオリジナルになる。経歴を見てみるとドラマーのレニー・マクブラウンのアルバムに参加しているという。ソニー・スティットやブッカー・アーヴィンのバックで叩いていたし、モンクと来日もしているので名前は知っているものの残念ながらリーダー作は聴いていないので、スリートのスタイルも力量も知らない。

 録音は1961年。マイルスが「Someday My Prince Will Come」を発表した年でケリーとコブが参加していた。なるほどマイルスに似ている。マイルスのリズムセクションを使ってそのラインを狙ったふしがある。更に見ての通り、映画俳優のようなルックスだ。録音当時、リバーサイドはチェット・ベイカーと契約が切れているので、イケメン・トランぺッターとして売り出す企画が持ち上がったとしても不思議はない。野次馬的な見方はさておき肝心の演奏だが、このアルバム1枚で消えたのが残念なほど筋が良い。「But Beautiful」のバラード・プレイはコントロールが利いているし高音もよく伸びるし歌心も満点だ。

 女性なら手に取りたくなるジャケットと質の高い演奏でキープニューズの作戦通り好評を博したことだろう。おそらく次はワンホーンでいこうか等のプランもあったのかもしれないが、その後はドラッグのために引退同然となっている。一流になるには高い音楽性は勿論のこと、抜擢された運を切り開く行動力、そしてどん底に落ちても目的を見失わない鋼の意志と這い上がっていく努力が必要だ。マイルスもチェットも麻薬癖から抜け出している。
コメント (10)
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