知識は永遠の輝き

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超能力おもちゃ箱

2017-11-10 06:46:51 | 架空世界
 "異次元世界へ(2016/03/13)"で少し触れたピアズ・アンソニイ(Piers Anthony)『魔法の国ザンス(Xanth)』は魔法が存在する架空世界での物語ですが、この世界の一領域であるザンスの住人(人間族の住人)は各人が何らかの魔法を使える力を持って生まれてきます。その力は魔法ですから実に様々ですが、その威力の程度は違っていて、最大級の力は「魔法使い級」と呼ばれています。「全く同一の魔法を使える者はいない」という法則は特に書かれてはいなかったはずですが、実際には登場人物には全く同一の魔法を使える者はこれまでいないのではないかと思います。まあシリーズの中で巻ごとに何かしら新しい魔法が登場してネタにもなるわけなので。

 「各人が固有の魔法を使える、そして各人が固有の魔法しか使えない」という設定は、『ワンピース』の"悪魔の実の能力"とか『僕のヒーローアカデミア』の"個性"などと全く変わりませんね。この設定で「全く同一の魔法を使える者はいない」[*1]という縛りを入れると、むちゃくちゃに多様な能力が生み出されることになります。いや縛りを入れなくても、むちゃくちゃに多様な能力が登場するのが作品の魅力のひとつになるので、作者としては能力をふり絞って色々な能力を考え出すことになります。で、アニメなどでは上記両作品の様に、冗談や語呂合わせみたいなネーミングでまさにおもちゃ箱をひっくり返したような楽しい能力であふれるというわけです。

 日本のアニメではこのような設定は非常に多かったような感じがしますが、初期の似たような設定というとキン肉マンの多様な超人たちでしょうか。読者からのアイディアも募集して、まさにおもちゃ箱全開ですね。それ以前の円谷プロのウルトラシリーズの怪獣たちも似たようなものかも知れません。

 さてザンスシリーズですが、第1・2作目の主人公ビンクは大人になっても魔法を使うことができません。なのでザンスを追放されることになるのですが、なんだか『僕のヒーローアカデミア』の主人公みたいな設定ですね。ところが「情報の魔法使い」が持つ杖はビンクに魔法使い級の力があることを示します。なのにそれがどんな力かを示すことができません。超能力ものを読み込んだ読者ならピンと来てしまうかも知れませんが、ビンクの力の謎の他にも様々な逆転劇が仕込まれていて読み応えのある作品です。楽しもうと思うならば、読む前にwikipediaの記事を全文読むなんてことはしない方がいいですね。

 ザンスシリーズもwikipedia日本語版では「大きな特徴は「駄洒落」である」などと評されていますが、多くは英米文化を常識とした人が英語で聞くことでわかる駄洒落のようで、私自身は読んでいてほとんど駄洒落の存在に気付くことができませんでした[*2]。世界設定はよくできているし、論理破綻は見当たらないし、むしろ非常によくできたハードファンタジー("Hard fantasy")として楽しんでいます。『ワンピース』や『僕のヒーローアカデミア』のように論理破綻など気にするのは間違っている作品とは違うのは不思議な点です[*3]。『植木の法則』もあまり論理破綻は目立たなかったような気もしますが、深く読んでいないだけなのかも知れません。


 ハードSFに対応してハードファンタジーという言葉もちゃんと存在していたようですが、詳しくは機会があれば書いてみましょう。


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*1) ちなみに"悪魔の実"は実質2音節の名前しかなく数が限られるのではないかという心配も生じるのだが、同じ名前でもモデルが違えば別の実になるので心配いらないようだ。悪魔の実情報局の一覧で「モデル〇〇」と但し書きのあるのがそれである。動植物系だけでも膨大な種(しゅ)の数があるから安心である。
*2) wikipedia英語版では「playful tone 」と表現されていて、「"Xanth" という名は("Piers Anthony")の下線部から取った」との例が紹介されていた。
*3) 『キン肉マン』の作者の「細かい設定にこだわっていると、結果として内容がつまらなくなる」ので「より良い設定を思いつけば、あえて過去の設定は切り捨てる」という姿勢は読者にはうれしい。

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