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H16年刑事訴訟法第2問

2004年07月20日 | ③H16年司法試験論文試験再現答案集
【問題】
 現住建造物等放火の共同正犯として起訴された甲と乙は,公判廷において,いずれも公訴事実を否認している。検察官は,甲が捜査段階で警察官Aに対して「乙と一緒に放火した。」旨を述べた供述調書の取調べを請求した。これに対して,甲乙それぞれの弁護人が異議を述べた。審理の結果,警察官Aの取調べ中,否認していた甲に対して,Aが「甲と乙が火をつけるのを目撃した者がいる。」旨の虚偽の事実を告げたため,甲の上記供述がなされたことが判明した。
 1  この供述調書を甲に対する証拠とすることができるか。
 2  公訴事実に関する甲の被告人質問が行われる前に,甲が死亡したとする。この供述調書を乙に対する証拠とすることができるか。

(出題趣旨)
 司法警察員が偽計を用いて得た自白調書を例として,自白法則と伝聞法則及びそれらの相互関係について,理解を問う。1は,自白調書に適用される条文の理解と,事例に即した自白法則の適用能力を試すものである。2は,供述者自身に対する証拠としては証拠能力に問題のある自白証書が,共犯者とされる他の被告人に対して証拠となり得るかどうかについて,問題点を整理して分析的に論じられるかどうかを試すものである。


【実際に私が書いた答案】(再現率80%~90%)評価A(7287人中2000番以内)

1 小問1
(1)本問供述調書は,「乙と一緒に放火した」という犯罪事実の重要部分を認めるものであり,自白である。
 そして,かかる自白は,警察官Aの虚偽の事実の告知によりなされたものであり,「任意にされたものではない疑のある自白」にあたり,自白法則(法319条1項,憲法38条2項)により,証拠能力がないのではないか。

(2)ア 「任意にされたものでない疑のある自白」の意味が問題となる。

イ 319条1項の趣旨は,自白採取過程の適正手続(憲法31条)の確保,及び司法の廉潔性・将来の違法捜査の抑止にある。
 とするならば,「任意にさてたものではない疑のある自白」とは,違法な手段により採取された自白をいうと解する。
 かかる解釈は,基準の客観化・明確化を実現し,また,憲法38条の列挙にも合致する点からも妥当といえる。

ウ 本問では,捜査官が「甲と乙が火をつけるのを目撃した者がいる旨」の虚偽の事実を告げ,自白を引き出しているが,かかる詐術による自白採取は,適正手続(憲法31条,法1条,規則1条)に反するし,乙の黙秘権(憲法38条1項,法198条2項)に基づく供述の事由を奪うものであるので,違法な捜査である。

エ よって,本問供述調書は319条1項により,証拠能力がなく,証拠として用いることはできない。

2 小問2
(1)ア 本問供述調書は,乙に対する証拠とできるか。
前述のとおり本問供述調書は,自白法則(319条1項)により,甲に対する証拠とすることはできないが,かかる自白法則は,共犯者乙にも及び,乙に対する証拠にもできないのではないか。自白法則は,共犯者に及ぶか問題となる。

イ 自白法則の趣旨は,自白採取手続の適正手続,司法の廉潔性の確保,及び将来の違法捜査の抑止であるが,この趣旨は,共犯者の手続きにおいても及ぶ。

ウ よって,本問供述証拠は,319条1項により乙に対する証拠とすることができない。

(2)また,本問供述調書は,公判廷での反対尋問を経ない供述証拠,すなわち,伝聞証拠であり,伝聞法則(320条1項)によっても証拠とすることができない。
 なぜなら,本問供述証拠は,甲が死亡していることから,321条1項3号により例外的に証拠能力が認められるようにも思えるが,欺罔行為によりなされていることから,特信状況もなく(321条1条3号但書),証拠能力が認められないからである。

以上


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