スポーツライター・オオツカヒデキ@laugh&rough

オオツカヒデキは栃木SCを応援しています。
『VS.』寄稿。
『栃木SCマッチデイプログラム』担当。

悪癖の矯正は容易ではない@日本VS.ボスニア・ヘルツェゴビナ

2006-03-01 16:37:18 | サッカー
試合後の率直な胸の内。「4―4―2で臨む場合に世界を相手に時間帯によってはイニシアチブを握れるが、最終的に勝利を得るのは難しいのではないだろうか」。そんなことを思った。

海外リーグ所属の選手、特に中田英寿、中村は4―4―2のシステムを敷いた方が動き易く、攻撃のイメージが沸くのだろう。が、それが勝利に結び付かないのではどうしようもない。ジーコ監督がチームの核と考える2人が同時に招集できる機会はほとんどない。さて、どうしたものか。

“仮想クロアチア”と銘打たれて来日したフィンランド代表は、アジアカップの予選で戦ったインド代表よりもお粗末だった。強化試合にすらならなかった。

それだけに、日本がグループリーグ第2戦で合間見えるクロアチアと隣接する国、ボスニア・ヘルツェゴビナ(ボスニア)には相応のパフォーマンスが期待された。日本ではお馴染みとなったバルバレス(高原のチームメイト)を擁するボスニアは、期待に違わぬ試合を披露してくれた。

海外リーグ所属の選手計8人を招集したジーコ監督だが、スタメンに起用したのは高原、中田英寿、中村の3人だけだった。選手交代では6人枠一杯を使わずに4人に留めたことから、W杯を強く意識した戦いだったことが伺える。

擦った揉んだのあげくに組まれたボスニアとの強化試合。W杯でも使用する会場、ベストファーレン・シュタディオンのピッチに立ったのはGK川口、DFは左からサントス、宮本、中沢、加地、中盤の底に中田英寿と福西、攻撃的MFに中村と小笠原が入り、2トップには久保と高原が起用された。中盤をボックス型にした4―4―2を採用した。

所属クラブの日程との兼ね合い等があったにしても、呼び寄せた海外組を全員起用しなかったことから、おそらくジーコ監督はVS.ボスニア戦に選んだメンバーを初戦となるVS.オーストラリア戦の先発メンバーと決めているのだろう。

サリハミジッチ(バイエルン・ミュンヘン)が不在のボスニアはバルバレスをワントップに据えた4―5―1(4―3―3)をとった。

序盤からボスニアはラインを浅く設定し、前線との距離をコンパクトに保ちながら高い位置でプレスを仕掛けて来た。日本ボールになると両ウイングのバルトロビッチ、ミシモビッチが自陣に引き、中盤を5枚にして数的優位を作り、素早くボールホルダーへと身体を寄せた。日本はパスを繋ごうとするも、ボスニアの鋭い出足に戸惑う。

申し分のない入り方をしたボスニアは、試合に集中しきれていない日本に襲い掛かる。3分に右からのクロスにバルバレスが飛び込むが、ここは惜しくも空振り。日本は命拾いする。5分のクイックスタートは虚を衝いたものだったが、些かボールが長すぎた。日本は対応できず。

ボスニアの勢いに押された日本だが、小笠原のファーストディフェンスが効果を発揮し始め、2.5列目に位置した中田英寿のポジショニングとチェンシングも良く、前でボールを奪えるようになる。更に中田英寿から供給されたサイドチェンジのボールが有効だった。

ラインの大外(左サイド)に走り込んだ高原は中田英寿からボールを受けると、シュートにまで持ち込んだ。ボスニアの右サイドを付け狙った日本は小笠原もシュートを放ち、流れを引き戻す。

縦への勝負パスが入りだし、ボランチが追い越す動きを見せ攻撃に厚みが増した日本に対して、ボスニアもバルバレスが軸となりゴールへと迫った。

16分にはスルーパスを繰り出し、26分には潰れて味方のシュートをお膳立て、28分にはサイドからのクロスを落として再びシュートを導き出した。ブンデスリーガーのトップクラブでレギュラーを張っているだけのことはある。運動量はさほど多くはないが、懐深くボールを隠し、タメを作る技術は一級品だった。

有能なFW一人に振り回された日本だが、意図した形でのボール奪取には成功する。だが、ラストパスの精度が悪く、両サイドからのクロスもDFにひっかかるなど拙攻を重ねた。

41分に中村の裏へのボールに福西が3列目から飛び出し、GKと1対1のシーンを作り出すもループシュートは失敗に終わる。絶好機を逸したかに思われたが、前半終了間際にセットプレイから先制点を奪う。

中村がニアへと蹴り込んだCKに合わせたのは高原だった。同僚バルバレスのマークを外してGKのパンチングよりも、先にボールを叩きネットを揺らした。

アシスト、ゴールともに完璧だったが、CKを得るに至った過程も見逃せない。再三再四、中田英寿が狙っていた左サイドに高原が動き出し、サイドチェンジのボールが渡り手にしてものだった。執拗に相手のウイークポイントを突く。世界と渡り合うには必要な要素だ。

ビハインドを負った状態で迎えた後半。ボスニアは初っ端から猛攻を掛けてきた。中央のバルバレスを経由してからの攻撃ではなく、ショートパスで日本の中盤の守備ブロックを掻い潜りサイドを使ってきた。左からはムシッチ、右からはベシュリアが精度の高いクロスを上げた。

2分、右からのクロスにニアへと入り込んだグルイッチのヘディングシュートに、日本は冷や汗をかかされる。

窮地を脱した日本は6分にFKから低いボールを宮本が、右足アウトであわせるテクニカルなシュートを打つがGK正面を突く。残念ながらゴールにはならなかったが、身長の高い相手にニアを意識的に使うセットプレイは一定の成果を得られたといっても差し支えがないだろう。

後手に回りながらもセットプレイから好機を演出した日本だが、ワンツーであっさりと抜け出されたバルバレスを中沢が倒してしまいPKを与える。微妙な判定、いや正確にはバルバレスの芝居が勝っていたのだが、容易にPエリアに侵入されてしまったことには変わりはない。

ミシモビッチが右隅に沈めてボスニアが試合を振り出しに戻す。 

同点とされた日本は14分に先制点と全く同じ形――宮本と福西が前で相手DFを吊りその背後に高原が潜り込む――から高原がFKをドンピシャリで合わせるもGKハセギッチに弾かれてしまう。17分の久保のミドルシュートも枠をとらえていたがGKに再度、阻止されてしまった。

逸機した日本は、ボスニアの圧力に屈してしまう。中盤、ボランチのラインで相手の攻撃を止められなくなり、DFラインは裏を取られないようにとズルズル後退した。前半は小笠原、中田英寿のファーストディフェンスと、福西のディレイが効いていたため機能していたプレスが、全体が間延びしたせいで効力を失う。

前で止められなくなると途端に崩壊する日本の4バック。下がりながらの対応が目立つと同時に、サントスの背後のスペースを盛んに使用される。サントスが一人で応対できないから、必然的に宮本がカバーに回る。すると、中央の守備が薄くなり中沢にしわ寄せがくる。中沢が対峙しているのはエース格の選手。中沢が踏ん張っても引き剥がされるケースは増える。失点には繋がらなかったが、27分に右からのクロスをバルバレスにフリーでヘディングされてしまったのは最たる例だろう。

押し込まれた日本は22分に逆転を許す。FKからファーでバルバレスが落としたボールをGK川口が掴み損ね、詰めていたスバヒッチにプッシュされた。逆境を跳ね返せなかった。

流れを好転させようとジーコ監督は福西と小笠原を下げて、小野と稲本を投入する。中盤の構成は初陣となったVS.ジャマイカ戦と一緒になった。“黄金の中盤”とマスコミが書きたてた中田英寿、中村、小野、稲本の4人は輝きを放つどころか、チームに混乱をもたらした。つまり、状況は悪化した。結果的にこの交代は意味を成さなかった。

39分には嫌になるほど崩された日本の左サイドからのクロスを、イブリチッチに決められそうになる。相手のミスに救われるも、水漏れしている箇所を補修しようとしないジーコ采配にまたしても疑問符がついた。サントスを引っ込めて中田浩二を投入するという選択肢もあったのだが。どうしてそこまでサントスに拘るのか。

難を逃れた日本はロスタイムに中田英寿が珍しくダイビングヘッドで同点弾を挙げ、辛くもドローに持ち込んだ。ゴール前に上がったハイボールを途中投入の柳沢が競り落とし、セカンドボールを拾った中村のクロスをフリーで中田英寿がネットに突き刺した。

コンディション不良だったのか、流れの中では持ち味を発揮できずにいた中村だったが、2アシストの活躍。ハイクオリティの左足は代表に不可欠であり、最大の武器であることを知らしめた。

押し並べてどのチームにも当てはまることではあるが、プレスの掛かりが悪い時には成す術がなくなってしまう。とりわけ、指揮官ジーコの守備の基本が「一人を必ず余らせること」である日本は、間延びするとギャップが他チームよりも顕著となり、対戦相手にとっては利用価値が高まる。

90分間プレスを続けることは難しい。だから、勝負所を見極めて臨機応変に対処しなくてはならない。そのへんのゲーム運びが日本はまだ拙いと言わざるを得ない。本大会まで残り100日を切り、いまだに課題が克服されない現状に、歯痒さをおぼえずにはいられない。本番までに果たして間に合うのだろうか。

強化試合 日本2―2ボスニア・ヘルツェゴビナ ベストフェ―レン・シュタディオン

〈日本代表〉GK川口、DF宮本、中沢、サントス、加地、MF中田英寿、福西(→稲本)、小笠原(→小野)、中村、FW久保(→柳沢)、高原(→大黒)


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