小児科医が切望してきた「B型肝炎ワクチンの定期接種化」がようやく現実のものとなりそうです。
まず、B型肝炎の自然経過を紹介したイラストを;
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/07/ae16f376bbe8423085d02763067efd83.jpg)
(2014.9.2 東京新聞の記事より)
従来、日本では「母子感染」を重視し、母親がキャリアの場合のみに感染対策をしてきたので、一般の方には「他人事」に聞こえるかもしれません。
しかし近年、それだけでは済まないことがわかってきて、「水平感染」も視野に入れた下記方針へ変更されるに至りました;
■ B型肝炎ワクチン、厚労省が定期接種化提案- 早ければ2016年度にも実施へ
(2015.1.9:CB News)
厚生労働省は9日、B型肝炎ワクチンの接種対象年齢などの案を厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会に示した。同省は「国民に広く接種機会を提供するためには、副反応を含めた予防接種施策に対する国民の理解が必要」などと説明。同部会もこの提案を支持したことから、早ければ2016年度から公費による定期接種を実施したい考えだ。
この日の部会では、厚生労働科学研究の研究班が小児におけるB型肝炎ウイルス感染の疫学調査について報告。母子感染の予防だけでは防げない集団感染や家族内感染といった「水平感染」が小児の日常生活の中で起きている可能性を挙げた。
水平感染例のひとつに、佐賀県の保育所での集団感染(10年以上前!)があげられます。この例では、感染経路として皮膚疾患の滲出液が疑われています;
■ 保育所におけるB型肝炎集団発生調査報告書について
(佐賀県B型肝炎集団発生調査対策委員会、2004年)
B型肝炎ウイルスは血液のみでなく体液(唾液、汗、涙)も感染源になる可能性があります。下記スライドの13と14をご覧ください;
■ 「小児におけるB型肝炎の水平感染の実態把握と ワクチン戦略の再構築に関する研究」結果概要
(第12回 予防接種基本方針部会 平成27年1月9日)
さらに近年話題になっているのは「がん化学療法の際のHB肝炎ウイルス再活性化」です。
HB肝炎ウイルス感染の既往がある方、キャリアの方は、既に症状が沈静化していても肝臓に残っているウイルスががん化学療法による免疫不全状態になると再活性化して劇症肝炎を起こし命に関わることがわかってきました。がんの治療は成功しても、昔感染したB型肝炎ウイルスにより命を落とすことがあるということ。
HB肝炎ウイルスに感染すると、一生悩ませられるのです。
高齢化に伴いガンに罹患する日本人が増える昨今、今後大きな問題になると思われます。
■ B型肝炎ウイルス 成人感染、慢性化拡大の恐れ(2014.9.2 東京新聞)
■ B型肝炎、変わる常識 母子対策だけでは防げず 怖い再活性化(2014.06.17 共同通信)
■ がん化学療法中のB型肝炎ウイルス再活性化のリスクとその対策(国立国際医療研究センター病院、2012年)
このような問題が明らかになっているのに、なぜ他のワクチンの定期接種化が優先されたのか、厚労省の見識を疑います。
まあ、国の立場として「国民の危機感がないと対応しにくい」という事情もあるのでしょうが・・・皆さん、認識を新たにしてください。
<追記>
B型肝炎ワクチンに関して、中国は日本より進んでいます。
■ ワクチンにより肝臓がん激減、赤ちゃんB型肝炎ワクチン、30年間の調査 中国の研究グループが報告
(2015.1.14 Medエッジ)
赤ちゃんにB型肝炎ウイルスの予防接種をすると、若い人が肝臓がんにかかるリスクが低下するという結果が分かった。
中国科学アカデミーのがん研究グループが、オンライン科学誌プロスワン(PLoS One)で2014年12月30日に発表した。
◇ 30年間の効果を検証
中国ではB型肝炎の感染者が世界的にも高いと分かっている。
中国江蘇省啓東では1983年から1990年の間にB型肝炎ウイルス予防接種を推進してきた。
ワクチンの接種を進めてきた地域では、B型肝炎ウイルスに関連する肝臓癌などの肝臓病の発生率が高い農村地帯である。
このたび研究グループは30年間にわたる長期結果を報告した。
◇ 8割減った
ワクチン接種の予防効果は、肝臓がん発生率の減少率が84%、肝臓病による死亡率低下の割合が70%、子どもの劇症肝炎発生率の減少率が69%となった。
幼少期にワクチンを打つとB型肝炎に対抗するための免疫が7割近くで出ていたのに対して、10歳から14歳の間に成長してからワクチンを打った場合には2割程度に落ちた。赤ちゃんの時期にワクチンを打つのが大切と言えそうだ。
今回は若い時期での肝臓がんを調査しているが、その後にわたっても効果は続く可能性はある。
日本でも中国ほどではないがB型肝炎は問題になる。自費接種で保険は利かないもののワクチンの接種を検討してもよいかもしれない。
文献情報
・Qu C et al.Efficacy of Neonatal HBV Vaccination on Liver Cancer and Other Liver Diseases over 30-Year Follow-up of the Qidong Hepatitis B Intervention Study: A Cluster Randomized Controlled Trial. PLoS Med. 2014;11:e1001774.
まず、B型肝炎の自然経過を紹介したイラストを;
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0f/07/ae16f376bbe8423085d02763067efd83.jpg)
(2014.9.2 東京新聞の記事より)
従来、日本では「母子感染」を重視し、母親がキャリアの場合のみに感染対策をしてきたので、一般の方には「他人事」に聞こえるかもしれません。
しかし近年、それだけでは済まないことがわかってきて、「水平感染」も視野に入れた下記方針へ変更されるに至りました;
■ B型肝炎ワクチン、厚労省が定期接種化提案- 早ければ2016年度にも実施へ
(2015.1.9:CB News)
厚生労働省は9日、B型肝炎ワクチンの接種対象年齢などの案を厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会に示した。同省は「国民に広く接種機会を提供するためには、副反応を含めた予防接種施策に対する国民の理解が必要」などと説明。同部会もこの提案を支持したことから、早ければ2016年度から公費による定期接種を実施したい考えだ。
この日の部会では、厚生労働科学研究の研究班が小児におけるB型肝炎ウイルス感染の疫学調査について報告。母子感染の予防だけでは防げない集団感染や家族内感染といった「水平感染」が小児の日常生活の中で起きている可能性を挙げた。
水平感染例のひとつに、佐賀県の保育所での集団感染(10年以上前!)があげられます。この例では、感染経路として皮膚疾患の滲出液が疑われています;
■ 保育所におけるB型肝炎集団発生調査報告書について
(佐賀県B型肝炎集団発生調査対策委員会、2004年)
B型肝炎ウイルスは血液のみでなく体液(唾液、汗、涙)も感染源になる可能性があります。下記スライドの13と14をご覧ください;
■ 「小児におけるB型肝炎の水平感染の実態把握と ワクチン戦略の再構築に関する研究」結果概要
(第12回 予防接種基本方針部会 平成27年1月9日)
さらに近年話題になっているのは「がん化学療法の際のHB肝炎ウイルス再活性化」です。
HB肝炎ウイルス感染の既往がある方、キャリアの方は、既に症状が沈静化していても肝臓に残っているウイルスががん化学療法による免疫不全状態になると再活性化して劇症肝炎を起こし命に関わることがわかってきました。がんの治療は成功しても、昔感染したB型肝炎ウイルスにより命を落とすことがあるということ。
HB肝炎ウイルスに感染すると、一生悩ませられるのです。
高齢化に伴いガンに罹患する日本人が増える昨今、今後大きな問題になると思われます。
■ B型肝炎ウイルス 成人感染、慢性化拡大の恐れ(2014.9.2 東京新聞)
■ B型肝炎、変わる常識 母子対策だけでは防げず 怖い再活性化(2014.06.17 共同通信)
■ がん化学療法中のB型肝炎ウイルス再活性化のリスクとその対策(国立国際医療研究センター病院、2012年)
このような問題が明らかになっているのに、なぜ他のワクチンの定期接種化が優先されたのか、厚労省の見識を疑います。
まあ、国の立場として「国民の危機感がないと対応しにくい」という事情もあるのでしょうが・・・皆さん、認識を新たにしてください。
<追記>
B型肝炎ワクチンに関して、中国は日本より進んでいます。
■ ワクチンにより肝臓がん激減、赤ちゃんB型肝炎ワクチン、30年間の調査 中国の研究グループが報告
(2015.1.14 Medエッジ)
赤ちゃんにB型肝炎ウイルスの予防接種をすると、若い人が肝臓がんにかかるリスクが低下するという結果が分かった。
中国科学アカデミーのがん研究グループが、オンライン科学誌プロスワン(PLoS One)で2014年12月30日に発表した。
◇ 30年間の効果を検証
中国ではB型肝炎の感染者が世界的にも高いと分かっている。
中国江蘇省啓東では1983年から1990年の間にB型肝炎ウイルス予防接種を推進してきた。
ワクチンの接種を進めてきた地域では、B型肝炎ウイルスに関連する肝臓癌などの肝臓病の発生率が高い農村地帯である。
このたび研究グループは30年間にわたる長期結果を報告した。
◇ 8割減った
ワクチン接種の予防効果は、肝臓がん発生率の減少率が84%、肝臓病による死亡率低下の割合が70%、子どもの劇症肝炎発生率の減少率が69%となった。
幼少期にワクチンを打つとB型肝炎に対抗するための免疫が7割近くで出ていたのに対して、10歳から14歳の間に成長してからワクチンを打った場合には2割程度に落ちた。赤ちゃんの時期にワクチンを打つのが大切と言えそうだ。
今回は若い時期での肝臓がんを調査しているが、その後にわたっても効果は続く可能性はある。
日本でも中国ほどではないがB型肝炎は問題になる。自費接種で保険は利かないもののワクチンの接種を検討してもよいかもしれない。
文献情報
・Qu C et al.Efficacy of Neonatal HBV Vaccination on Liver Cancer and Other Liver Diseases over 30-Year Follow-up of the Qidong Hepatitis B Intervention Study: A Cluster Randomized Controlled Trial. PLoS Med. 2014;11:e1001774.