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田中くんの微笑 

 第88回全国高校野球選手権大会決勝戦、駒大苫小牧高早稲田実業高は延長15回を1-1で引き分け、再試合となりました。翌日の結果は、4-3で早実の初優勝でした。なにをいまさら誰もが知ってることを、ということですよね

 あれから3週間たっても早実・斉藤君へのフィーバーは続いています。駅構内のキオスクの夕刊紙の大見出しでは、斉藤君の動向が毎日一人歩き。大学進学が決まってもまだまだ彼のニュースは続きそうです。

 ここまでが前振りです


  駒苫の田中くんのファンになってしまったのです。彼は去年、高2で甲子園の決勝マウンドに立ち、駒苫2連覇の立役者になりました。そのときの印象はあまりよいものではなく、小生意気な高校生程度でした。

 延長15回裏、斉藤君が駒苫打線を三者凡退に抑え、熱闘は終了しました。

  ホームベース上を目指し、両軍ナインが集まってきます。整列した選手達に、審判が引き分け再試合を告げます。通常なら、この後選手らは互いに健闘を讃えあうために近づき、握手をします。肩を抱き合ったりします。

 この日は、それがありませんでした。

 駒苫ナインが、早実の選手達に半歩ほど歩みかけた気がしました

 早実ナインには、ダッグアウトにそのまま戻ろうか軽く握手しようかと迷っているかのような雰囲気が。悲願の初優勝への重圧か、早実の選手達に互いを讃えあうようなゆとりは感じられません。あるいは、スマートな都会っ子達の美学かもしれません。決着はまだついていないのだから、という。

 よく分かりませんが、一瞬、ホームベース上に間の抜けたような時間がうまれました。そのとき、狙いすましていたかのように、テレビカメラが田中くんの表情をクローズアップしたのです。本来ならもう十分にスターの斉藤君のはずなのに。

 田中くんは、細い目をさらにほそくし、おもしろそうにその様子を眺めていました。他人事ででもあるかのようなのんびりした表情で微笑んでいました

 彼の目つきは鋭い。闘っているときの眼差しは獰猛でさえあります。

  その田中くんが心から愉快そうに周りをちらちらと見ていたのです。精一杯やったからええやん、楽しんだからええやん、こんなことやれんの俺達だけやんとでも言いたげに。いや、そんな大げさな思いさえもなく純真に眺めていただけなのかもしれません。

 カメラによって映し取られた田中くんの笑顔からは、10代の頃特有のテレも邪気も感じ取ることができませんでした。田中くんは、ふだんはマウンドで生真面目に投げ抜きます。少しぎこちないフォームで(どうぞ、トルネードのように大成してくださいただ、ピンチになってマウンドにキャッチャーらチームメートが集まったときだけ、のんびりした表情をします。ピンチのはずなのに、あまり困ったような顔をしているようには見えないのです。

 精魂込めて野球に打ち込んでいれば、勝ち負けは時の運だから、負けることだってあるだろうけど、野球は必ず自分を良い方向に連れて行ってくれる素晴らしいものというような絶対的な信頼の仕方。そして、自分は精魂を込めて研鑽しているという自信が、田中くんの微笑の表れではないのだろうかと想像してみました


 延長再試合。

 駒苫最後の打者は田中くんでした。彼は斉藤君の渾身のストレートを空振り三振し、ゲームは終了しました。カメラは田中くんの表情を追いました。彼はいつもと違って唇を噛み、悔しそうな表情を滲ませました。しかし、そのすぐ後ニッと上空を見上げました。カメラはあっという間に、斉藤君の四股を踏むようなガッツポーズと早実ナインのダッシュに向けられ、テレビ画面はしばらく歓喜の映像に覆い尽くされました。

 彼がベンチまで帰るシーンを映してほしい。きっとそんなことは無理だから、保管のビデオでも見せてほしいと思いました。今年の田中くんだからこそ、どんな表情で戻って行ったのか見てみたかったのです。ふて腐れてでもいたのでしょうか。案外、とても凛々しかったのではないでしょうか。

 百万言よりも、顔つきはその人を語りつくしているときがあると言います。田中くんの成長を、あの微笑がいつまでも続くことを祈りたいものです(何回負けたってかまへん、かまへん)。

 田中くんにもっとも似合わない顔はふて腐れた表情です。

 
そんな表情を見ることがない限り、ずっとファンとして応援し続けたいと思います      

 

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
初コメント? (aoyama)
2006-09-17 11:04:55
私も田中君に魅了された一人です。

マウンドでは雄叫びをあげて相手を威圧していた彼が、「メジャー挑戦は?」と記者団に質問された瞬間ビクッと肩を震わせ、「アメリカは怖いんで・・・」と子犬のような瞳でうったえる姿に痺れました。

プロに入っても、ありのままの表情を見せ続けて欲しいですね
 
 
 
 (松田)
2006-09-17 22:04:59
aoyama様コメントありがとうございます。

田中くんの応援、これからもよろしくお願いいたします
 
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