エスティマ日和

『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』2章まで収録の、エッセイ集です。独立しました。

朝倉南と番場蛮

2006年02月18日 | 雑記
トリノオリンピック。日本勢、ふるいませんねー。

いろいろと原因はあるのでしょうが、ひとつには若者の根性がスリム化してしまったのと、スポーツの裾野がすごくせばまった、ということにつきるのではないでしょうか?
いや。スポーツ評論家じゃないので、勝手なこと言ってるだけなんですが。

昭和40年~50年代は、いわゆる「スポ根」マンガが全盛でした。
これが少年少女に与えた影響は莫大で、私でさえ『巨人の星』を見れば魔球を生み出す練習をしましたし、『タイガーマスク』を見れば、新しい技の研究もしました。
共通している点は、いずれも「生涯でまったく役にたたないことをやっていた」ということですけど。

しかし、これを自分の役に立てた人だってたくさんいました。
『エースをねらえ!』でテニスを始めて、プロにまでなった人もおりますし、『アタックNo.1』とか『サインはV』で、バレーの選手になった人もおりますし、かの清原クンでさえ『巨人の星』の影響があったそうですし、『リングにかけろ!』を見て人生棒にふったやつもいます。

とにかく、この時代は「努力」と「根性」が認められていた時代で、それが実を結ぶと、かたくなに信じられていた時代でもあります。
少年スポーツ漫画は、おねーちゃんにヘラヘラした男や、勉強に熱中するよりはスポーツしていることがかっこよく、少女スポーツ漫画の主人公は、スポーツしているというだけで、一眼レフを持った「学校新聞記者」や、「生徒会役員」から勝手にモテまくっておりました。
結果として、そこに「憧れ」があったわけです。

でも、現在の若者、とりたてて申しますと『タッチ』以降の若者ですが、おねぇちゃんにも適当にヘラヘラして、さほどにうさぎ跳びやらランニングに汗を流すわけでもなくモテまくる、というのが理想になってきます。
特にそこには「根性」などという単語は消え去り「努力せずにもできる」のが最高なのだ、ということに変化してきました。
あげくのはてに、これはスポーツ漫画でさえありませんが、同あだち充先生が描きました『みゆき』に至りましては、部活さえやっている雰囲気がなくなり、それでも奇跡的な偶然が味方して、美人にモテまくります。
そりゃ、努力なんてしません。当時、男の子たちは、できれば血のつながっていない「美人な妹」が突如同居するはめになることを願ってやまなかったのです(思えばすごくムリなシチュエーション)。
「血と汗にまみれる」など「ダサイ」ことの典型となってしまいまして、みんなスマートに、さわやかにもてることを考え出しました。
これが日本のスポーツのターニングポイントだったと、私は思います。

だって上杉達也、魔球投げたりしなかったでしょ?
もし『タッチ』の主人公が「番場蛮(侍ジャイアンツ)」であったならば、南は、恋心を抱いただろうか?という疑問があります。
番場蛮は、マウンドで10mくらいは跳ね上がることができたので、そもそも野球よりは陸上競技にすべきではなかったか?という根本的疑問がありますが、巨人軍のエースでした。あんな投手がいたら、面白くてしょうがありませんから(別の意味で)、野球人気の低迷もなかったことと思われますが、どんな魔球を持っていようと「ミナミは、そんなバンちゃんが好き」にはならないだろうということは、容易に想像がつきます。

また、『タッチ』以前のいわゆる「スポ根漫画」は、どんな小さな地方大会にも「満場の観客と実況中継がつく」のが常識でしたが、本人がどんなに努力しても、実は「実況はつかない」ことに、少年少女たちは気づいてしまいます。

人間と水は低いほうへと流れますから、汗水流して努力して、大多数が「中継のつかない」地方大会で散って行くスポーツをするよりも、ヘラヘラと偶然にたよってモテまくる、ほうへと走りはじめました。
スポーツの裾野は、急激に狭まり出したわけです。

ピラミッドは裾野が大きくないと頂点は低くなります。このへんがオリンピックの低迷に関連があるのではないか?と、素人評論家としては思うわけです。

したがいまして、これを打開するためには、ここはひとつ、またあだち充先生にがんばっていただきまして
「ミナミ、そんな蛮ちゃんが大好き!」っていう漫画を描いていただくしかないか、と。

私。元作家ですんで、あだち先生のためにあらすじを考えました。
 

 この物語の主人公「番場蛮」は、ふたごの弟「文武文」(兄弟なのに苗字が違う)と、
 毎日魔球を生み出す特訓に明け暮れておりました。
 そんな彼らを、彼らの幼なじみで美人な少女「朝倉南」は、電柱の陰からそっと見守るのでした。
 しかし、ある日、二人は、高速道路でうさぎ跳びでトラックを飛び越す、という奇抜な特訓を思いつき、
 あろうことか文がトラックにひかれて死亡してしまいます。
 涙にくれる蛮と南。
 文の意思をついで、蛮はその日から、さらに猛烈な特訓を開始します。
 弟の失敗した高速道路での特訓を成功させ
 「やったよ!ミナミ!ついにトラックを飛び越したぜ!」
 「蛮ちゃん!」
 この特訓にどのような成果があったかよくわからないまま、舞台は高校野球地区大会決勝。
 地区大会であるにもかかわらず、5万人の熱狂的観客の見守る中、蛮はマウンドに立っていました。
 相手は須見高の天才バッター新田。9回裏の2死満塁。
 特訓してきたのに満塁というのが情けないですが
 蛮は、このときとばかりに弟と生み出した魔球にかけます。

 すでに蛮の左肩は限界。あと1球しか投げる力が残っていない。
 「文、見ていてくれよ・・・」
 血染めの白球を握りしめる蛮。

 「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 蛮の体は10mほども宙高く飛び上がり、超高速回転し出しました。
 おどろく新田と観客たち。そしてミナミ。
 
 「ボーク。」

 無情な審判の声に、蛮とミナミの夏は終わりました。



ああ・・・涙なしには見られない。
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3 コメント

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Unknown ()
2007-07-21 18:37:08
ホントに「元作家」さん?あれ?流すとこ?(私草食動物なので、何でも信じちゃいます。)でも、だったら納得です。いつも、いつも楽しいですモンo(^-^)o

この“お話”も言うことナシです。えぇ、なにも…
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Unknown (TAK)
2008-12-31 15:58:06
何もいえねぇ…
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Unknown (阪神タイガース)
2010-04-25 11:29:49
10メートル飛び上がる魔球投げるなら、浮き上がる体力を球にスピードを込めてをつけて投げればいいのでは。
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