弱い文明

「弱い文明」HPと連動するブログです。 by レイランダー

事実が消えた

2012年06月09日 | 原発 3.11 フクシマ
事実が消えたようだ。この国で。

平成24年6月8日
野田内閣総理大臣記者会見


「福島を襲ったような地震・津波が来ても、安全は確保されている」というのは科学的に間違っているという事実、そして福島に「それ」が来る前も政府と電力会社は同じ「安全」を強弁していた、という事実が消えている。
そして事故はまだ「収束」などしていないという事実が消えている。

「IAEAや原子力委員会」は原子力推進勢力である、という事実が消えている。それら「専門家」の保証や、「40回以上にわたる公開の議論」など、なんら新しい安全への担保になっていない、という事実が消えている。

原発は常時3割の電力を担ってきたわけではなく、夏のピーク時だけそれに頼ってきただけだ、という事実が消えている。
原発があろうとなかろうと、政府と電力会社は停電や料金の高騰に歯止めをかける努力をする義務があるという、当たり前の事実が消えている。また昨年震災後の「計画停電」は、そもそもやる意味がなかった(電力はそれでも余っていた)、こけおどしの施策でしかなかったという事実が消えている。

「生活」を言うなら、まさに原発事故によって国民の生活は大なり小なり脅かされている、まだその最中であるという事実が消えている。その事実を言わないまま、「国民の生活」を心配するのは本末転倒である、という事実が消えている。
しかも、原発が動かないことで日常業務に影響が出ているのはもっぱら原発関連企業だけであり、普通は電気さえあれば、それが何で作られたものであれ関係のない国民・企業がほとんどである、という事実が消えている。

原発立地自治体は、いくら補助金を受け取っても財政が好転することなく、麻薬中毒のような状態になってさらなる原発の立地を受け入れて、気がついたら日本一の原発過密地帯になっていた、それが福井県であるという事実が消えている。

市場原理に則れば、いやがおうでもここ数年で再生可能エネルギーはシェアを拡大する、という事実が消えている。
逆にかかる経費を言うなら、これからフクイチ事故の収拾に費やされる費用や、(事故を起こさなくとも)老朽化した原子炉の廃炉にかかる費用、そして使用済み燃料の管理にかかる費用などが、気が遠くなるほど高額なものとなる、その事実も消えている。

原発をやるなら、石油を輸入しなければならないのと同じに、ウランも輸入しなければならない、という単純な事実が消えている。核燃サイクルが夢に終わった以上、まさにエネルギー安全保障という観点から、原発は不安定で不確かであるという事実が消えている。
いやそればかりか、「社会の安全・安心の確保」「産業や雇用」「地球温暖化問題への対応」「経済成長の促進」という目標のどれをとっても、それが原発に依らねば実現できない理由はないし、それどころか、原発はむしろそれらと対立し、それらを阻害する・捻じ曲げる、ネガティヴな要因である面の方が大きい、という最近になっていよいよ目に見えてきた事実が消えている。

結局首相会見でいうところの「国民の生活」とは、「原子力ムラの国民」を指しているだけであり、それこそまさに非論理的な、「俗情に媚びる」たぐいの「生活」への言及に過ぎない、という事実が消えている。
これらムラの上層部を一掃し、下部団体にも事業転換を進めさせ、再エネを中心とした日本という「構造改革」に着手する、今が絶好の機会であるという事実が消えている。そのためにこそ政治の力が必要なのに、むしろ出口のない現状を維持するためにその力が使われている、という事実も消えている。

そしてこれほどたくさんの事実が消えていることを指摘する記者が、会見場から消えている。あるいはいて、指摘していたのかもしれないが、ホームページからは消えている(僕は実際、その起こし文をにざっと目を通しただけ。それだけで精神的苦痛は許容限界ギリなので)。

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そのほかにも、僕がつっこみ切れていない、いろいろな事実の消失がこの会見のなかに見て取れるかもしれない。

ともあれ、なぜ事実が消えるのかというと、その行為の犯人が語っているからだ。
犯人がマイクの前に立ち、犯人がその脇にはべり、犯人が質問し、犯人が答え、犯人が録画・録音を編集し、犯人がアップロードしているからだ。
だからまあ、当然の結果。
そしてこれは、くり返されてきたことだ。
これからも、事実は消えていくんだろう。この国では。

これは批判ではない。ただの確認作業。やれやれですわ。

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2 コメント

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Unknown (井上 俊介)
2012-06-09 13:45:19
お久しぶりです。

野田は繰り返し、
再稼働に対して責任という言葉を使ってますが、
この国の責任者と呼ばれる人たちの誰一人として、
福島の事故の責任を取った人はいない。
という事実も何だか消えてしまっているような気がします。

自分勝手ですみませんが、
久々の記事にちょっと安心しています。
僕自身このブログはすごく励みになっているので、
更新が遅くても良いので、
これからも続けて欲しいと思ってます。
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>井上さん (レイランダー)
2012-06-13 21:20:02
ご無沙汰でした。

>この国の責任者と呼ばれる人たちの誰一人として、
福島の事故の責任を取った人はいない。
という事実も何だか消えてしまっているような気がします。

そのとおりですね。
揚げ足取りでも何でもなく、もうどこからツッコんだらいいのかわからなくなるくらい、でたらめのオンパレードの会見だったので、ブログを書こうなどと意気込むほどのこともなく、ほとんど反射神経の働きをそのまま文字にしてみたらエントリーになっちゃった、だけなんですが…。
しかしこれほど幼稚な言い訳に終始している政治家に対して、普通に正面からツッコむメディアが皆無というのも、マジで唖然とする光景です。いや、「唖然とする」なんて言葉では本当は追いつかないくらい。
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