アジア映画巡礼

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東京フィルメックス追加報告

2014-12-11 | アジア映画全般

10日前に終わってしまった東京フィルメックス。とっくの昔に受賞結果も発表されていますが、ご紹介できなかった3本の作品を追加でアップしたいと思います。

『プレジデント』 予告編

The President/グルジア、フランス、UK、ドイツ/2014年/119 分
 監督:モフセン・マフマルバフ
 主演:ミシャ・ゴミアシュウィリ、ダチ・オルウェラシュウィリ、ラ・スキタシュウィリ


モフセン・マフマルバフ監督にとって久しぶりの劇映画ですが、寓意と人間の強靱さに満ちた素晴らしい作品となりました。フィルメックスでの上映時には、「マフマルバフの最高傑作」という声も聞こえたほどです。

撮影は全編グルジアで行われ、言語はグルジア語。しかしながら、舞台は年老いた独裁者が治める架空の国、ということになっています。その老独裁者が7人のテロリストに対する死刑執行書類に署名し、街の灯りの点滅を命じて孫息子に自分の力を誇示していると、突然爆発音が響き反政府暴動が勃発します。次の日独裁者の妻子は国外へと脱出しますが、独裁者は事態を楽観視し、幼いガールフレンドに未練がある孫息子と共に国にとどまることにします。ところが妻子を見送った空港からの帰途、早くも車は反政府暴動に巻き込まれて立ち往生。SPを殺された独裁者と孫息子は、そのまま逃亡を余儀なくされてしまいます....。

この逃亡劇が見もので、独裁者の老人が思いがけないサバイバル能力を次々と発揮、わがまま言い放題の孫息子をなだめたりすかしたりしながら、旅芸人に化けて数々の危機をくぐり抜けていきます。その途中で、自分が死刑にしようとした人たちが帰郷するのに同道する羽目になってしまい、苦い現実に向き合わされるなど、「独裁者は悪」が描かれてはいるのですが、それと共にこの独裁者になってしまった男の人間性もまたにじみ出てくる仕掛けです。独裁者役の老俳優と、孫息子役の子役の演技も素晴らしく、映画を見る醍醐味を味わわせてくれました。配給会社が付いたとのことなので、来年公開されるのではないかと思います。

 

『数立方メートルの愛』 予告編 

A Few Cubic Meters of Love/原題:Chand Metr Mookaabe Eshgh/イラン、アフガニスタン/2014年/90 分
 監督:ジャムシド・マームディ
 主演:サイド・ソヘイリ、ハッシバ・エブラヒミ、ナデル・ファッラー


テヘラン郊外の小さな工場が物語の舞台となります。その地区はかつてアフガン難民が暮らしていたコロニーで、今も残されたバラックに不法滞在のアフガン難民たちが何家族か住んでいました。

工場主はもちろんイラン人ですが、アフガン難民たちを秘かに工場で雇い、低賃金で働かせています。工場で彼らと働くイラン人青年サベルは、アフガン難民の娘マロナと恋仲になり、昼休みに隣の敷地に置かれている荷物コンテナの中で会ったりしていました。しかしながら元軍人であるマロナの父は厳しい人で、また伝統を守る保守的なアフガン人でもあることから、恋に落ちた2人の仲を認めてもらうことなど不可能でした。

アフガン難民たちは、警察の取り締まりがあると下水道に逃げ込んで隠れ、警官が去るとまた働くことを繰り返していたのですが、ある時それがバレて全員が捕まり、アフガニスタンに送還されることになります。あせったサベルはとにかくマロナと結婚しなくては、と工場主に打ち明け、彼がマロナの父に結婚申し込みをしてくれることになりました。ところが結婚話を聞いたマロナの父は激昂し、2人を引き裂こうとします。結婚の取り決めより前に2人が恋に落ちるなど、父親にとってはみだらこの上もないことで、到底許すことはできなかったのでした。送還の時が迫り、別れに涙する2人。そこにさらなる悲劇が襲います....。


最初、若い2人のベタベタぶりにちょっと鼻白んでいたら、後半は引き裂かれる2人が今度はベソベソ泣き出し、「えーい、泣いてないで何とかしなさい!」とちょっとイライラ。しかしながら、主人公の青年がやっと「何とかした」と思ったら、これが思いもかけぬハズレ選択で、アフガニスタンの伝統文化を理解していなかった私も青年と同様の衝撃を受けました。こんな作品を作ったのは、アフガニスタンの首都カーブルの北にあるパルワーン州に生まれたジャムシド・マームディ(正しくはジャムシード・マハムーディー?)監督(上写真)。1983年生まれという若い監督です。


上映終了後、フィルメックスの林加奈子ディレクターの司会で、ジャムシド・マームディ監督と、プロデューサーのナウィド・マームディさんが登壇し、Q&Aが行われました。通訳は、イラン映画でお馴染みのショーレ・ゴルパリアンさんです。実はプロデューサーのナウィド・マームディさんは監督のお兄さん。2人は幼い頃に両親と共にアフガニスタンからパキスタンに移り住み、さらにイランに移住してそこで教育を受け、今日に至っています。


林ディレクター:お二人は兄弟でいらっしゃいます。まず、プロデューサーのナウィドさんから、この映画を作られたきっかけについてお話いただけますか。

プロデューサー:日本の皆さんに見ていただけて嬉しいです。自分は300回ぐらいこの映画を見ています。監督は見たくないというので、僕が代わりに見ているわけです。自分たちは国を出てから22年経って、やっとアフガニスタンに行くことができました。その時にある記事で、「コンテナの中で男女が死んでいた」というニュースを読んだのです。それがきっかけになって、この物語が出来ました。


林ディレクター:監督のジャムシドさんにおうかがいします。出演者の方は皆さんプロの方ですか? 

監督:映画祭に招いて下さって光栄です。あともう一つ、大きなプレゼントをいただきました。それは、アミール・ナデリ監督とお会いできたことです。いろんなお話もできて、まるで夢のようです。このフィルメックスという映画祭は、スタッフも観客も心を込めて映画を見ていて、感動的です。
出演者ですが、イラン人役の人はみんなプロです。ただし、演劇畑の役者や、あまり映画に出ていない人を起用しました。マロナの父親役を演じたのも、舞台の役者です。彼はイラン人ですが、しぐさもそして言葉の訛りも完璧にアフガン人になっていて、誰が見てもアフガン人だと思うはずです。
マロナを演じたのは花売りをしていた少女で、ストリートチルドレンだったアフガン人です。もちろん演技をするのは初めてです。他のアフガン人も、実際にああいう形で働いていた人々です。彼らの1日分のサラリーを払って、同じ仕事をやってもらいました。この、プロの俳優と素人の人とを一緒にする、というのが一番難しかったです。それがうまく行ったかどうかは、皆さんのご判断にお任せします。

 マロナ役の彼女は不法滞在者でしたが、イランの映画祭で主演女優賞を受賞しました。でも、パスポートがそのままだったので、今はアフガニスタンに送還されてしまっています。


ここで、会場からの質問に移りました。


Q:私は夫がアフガニスタン人で、結末を見てショックを受けました。どうしてこういう悲しいお話を作ろうとなさったのでしょうか。フィクションの中だけでも楽しいアフガン人を見ていたい、と私などは思うのですが、楽しいお話を作られる予定は?

監督:アフガン人は難民としてたくさん苦労しています。私たちも苦労していますので、このデビュー作ではとにかく1回だけでも、自分たちの心にしまっていたものを吐き出してしまいたかったのです。


Q:すごくいい映画でした。最後ですが、これとは違うエンド、ハッピーエンドは考えていなかったのでしょうか?

監督;希望を持たせるエンディングは考えていませんでした。さっき兄が言ったような話がきっかけでしたし。


プロデューサー:この映画はラブストーリーですが、我々の出身地アフガニスタンでは伝統というものが大事になります。ですから、自由恋愛は許されません。でも、ここに描かれたマロナやサベルのような人はたくさんいます。そういう恋を殺してはいけない、というのが映画のメッセージなので、ハッピーエンドはありえなかったのです。

Q:結末を最初に予感させるような形、つまり、2人のささやきを入れるとか、そういう形にはできなかったのでしょうか。あまりに唐突な悲劇がラストに来たので。

監督:私が映画を見る時は、いつでもハッと息が止まるような一瞬を探しています。この映画もそうで、ラストに至る以前からいろんなサインを出してあります。コンテナが古ぼけているとか、その敷地のガードマンは耳が遠いとか、そういったサインが潜ませてあります。それがキャッチできなかったのかも知れませんね。

林ディレクター:そうですね、緻密な伏線が張り巡らされている作品です。


Q:マロナの父親は「故国にいれば敬意を払ってもらえるのに」と言いますし、マロナも「父が恥をかかないように」と心配します。父と娘の間の深い情愛が見て取れますが、途中で父親がマロナのためにお香をたいてやったり、お腹が痛い彼女に温石をあげたりする場面もありますね。

監督:マロナの父はもと軍人です。とても誇り高い人で、自分の今の状況に対して怒りを持っていおり、それを沈黙することで表しています。ですから、必要最小限しかしゃべりません。でも、娘に対しては母親の役割も担っています。
イスラーム教では、女性は生理の時にはお祈りができません。でも、マロナはお父さんに見えないようにして、お祈りをしています。それをお父さんは知っていながら、黙っている。そして、お腹が痛い娘のために、温石を与えるのです。
お香をたくのは、娘の美しさのゆえです。美しいものに対しては、邪悪な眼差し、つまり邪視が生じる。それを払うためにお香を焚くのです。この父親も、寝ている娘の美しさを見て、お香を焚いたわけです。


Q:私は、この映画はある意味でハッピーエンドだと思いました。2人はずっと一緒にいられるわけですから。映画の主人公たちは閉じこめられてしまいますが、実際にイラン人とアフガン人が恋に落ちた時、どうなってしまうのでしょうか。駆け落ちをすることになるのか、それとも引き離されてしまうのか。

監督:それはプロデューサーから話してもらいましょう。兄のナウィドはアフガン人ですが、妻はイラン人なのです。

プロデューサー:私たち映画を作った側も、エンディングは暗いとは思いません。ハッピーエンドだと思います。2人は結ばれたわけで、たとえ何日かしか生きられなかったかも知れないけれど、愛の花が開いたということですよね。
私の妻はイラン人ですが、国籍が違うのでいろいろ書類を出さないといけなかった、というぐらいがイラン人同士の結婚とは違っていた点です。でも、それはどこの国でも同じですよね。
この映画で言いたかったのは、恋というものは国境を知らない、ということです。相手のことをいろいろ考える前に恋に落ちてしまう。それが本当の恋だ、ということを言いたかったのです。

監督:逆に皆さんに質問したいのですが、なぜ日本の人はハッピーエンドではないということを気にするのですか? 私はフィルメックスで日本映画もたくさん見ているのですが、日本映画だと冒頭から残酷なことや悲劇も起きるのに、私たちの作品は幸せなシーンで始まります。最後に悲劇がやっては来ますが、暗い映画だとは全然思いません。自分の映画は暗くない、ということを確認するために、私は日本映画を見続けています(笑)。

林ディレクター:ありがとうございました。では最後に監督、何かありましたら。


監督:この映画はアフガニスタン代表作品として、アカデミー賞に出て行っています。外国語映画賞の候補になるよう、皆さんでお祈りして下さい。

会場の外では、この回もサインを求める人が続出。そこに、アミール・ナデリ監督、そして『プリンス』の マームード・ベーラズニア監督も姿を現し、監督とプロデューサーは大喜び。ベーラズニア監督は早速カメラを回しており、次作のドキュメンタリー映画にこのシーンが登場する日も近いかも知れません。

 

『クロコダイル』 予告編1 予告編2

Crocodile /原題:Bwaya/フィリピン/2014年/88 分
 監督:フランシス・セイビヤー・パション
 主演:アンジェリ・バヤニ


『イロイロ ぬくもりの記憶』でメイドを演じたアンジェリ・バヤニが主演する作品で、実際にあった出来事をベースにしています。舞台はフィリピンの南部に位置するミンダナオ島の南アグサン州。水上に家を構えて、漁で生計を立てている一家が主人公です。一家には長女ロウィナのほか、5人の子供がいます。ロウィナは間もなく学校を卒業する、しっかり者の女の子。ですがある日、友だちと一緒に船で下校する途中ワニに襲われ、友人の女の子はそばにいた船に助けられたものの、ロウィナは行方不明となってしまいます。彼女を捜す両親と村の人々。しかし、ある日ロウィナは遺体となって発見されるのでした....。

お話自体もリアルに描かれるのですが、その合間合間に、実際にワニに襲われて亡くなった女の子の両親が登場して語ったり、遺体が掘り起こされてまた埋葬されるシーンなどが挿入されます。いわばドキュドラマで、その両者の融合に違和感があり、物語にうまく入り込めませんでした。結局この『クロコダイル』が本年のフィルメックスの最優秀作品賞を獲ることになるのですが、私にとっては『ディーブ』のような作品の方が魅力的だったので、ちょっとがっかり。まあ、いつもフィルメックスの賞当てレースはほぼハズレな私なのですが。


11月28日の最終回の上映で見たのですが、何と終了後にゲストによるQ&Aがあり、終了したのが午後11時半頃。登壇者は監督のフランシス・セイビヤー・パション、女優のアンジェリ・バヤニ、そして教師役で出演もしているプロデューサーのR.S.フランシスコの3人。


アンジェリ・バヤニは夜遅いためか眠そうで、ちょっと気の毒でした。お話をまとめてみると、この実際に起こった事件は2006年の出来事だそうで、ロケもその現場、ミンダナオ島の南アグサンで行われたとか。アンジェリ・バヤニは泳げないそうで、水上での撮影という挑戦と、この地方の方言をものにする、という挑戦を余儀なくされたそうです。


劇中ではラスト近くに大きなワニが登場するのですが、あれは本物ではないそうで、偽物を3つのパートに分けて撮影に使ったのだとか。原題の「Bwaya」には「ワニ」と共に「政治家」という意味もあるそうで、「今度Bwayaの映画を撮る」と監督から聞いたプロデューサーは、「ははーん、フィリピン政界の話を撮るのか」と思ったそう。また、監督は2作目を撮り終わった時に霊媒師から、「アグサン地方が見える」と言われ、それではとアグサン地方に行ってみたら、「幼い女の子がワニに殺された」という話を聞くことになって、それが映画に結実したそうです。


質問者の中には、「日本人はワニ映画が大好きなので、今日は一番感動した」と言う人もあり、遅い時間にもかかわらず熱気むんむん。通訳の方が慣れていないのか不備な点が多く残念でしたが、時々司会の市山尚三プログラム・ディレクターがフォローを入れて下さり、助かりました。

では、12月13日(土)より公開されるアンジェリ・バヤニさん主演の『イロイロ ぬくもりの記憶』(公式サイトはこちら)のヒットも祈りつつ、大変遅ればせながらのフィルメックス追加報告を終わります。

 



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