ザールの珠玉の田舎町(続々々々々々々々々々々々々々)

 
 橋まで戻ったときには、もう夕方だった。ザール川畔でのんびり過ごすはずだったこの日も結局、半日歩き回ってしまった。

 川辺に下りると、中学生くらいの男女が、橋の下で煙草を吸い、ビールを飲んでいる。ドイツ人の大人たちは大抵恰幅がよいので、ほっそりした体型の彼らがまだ子供だというのは、容易に見て取れる。暇を持て余してつまらなさそうにダベり、そのくせ大袈裟に大笑いしている。彼らのようなドイツ人たちは、東洋人旅行者を敢えて見ようともしない。
 より豊かで自由な環境のもとにあるドイツ人たちも、みんながみんな囚われていないわけではない。

 川辺のベンチに腰を下ろす。ドイツの川岸は広く、よく整備されていて、緑も多い。地元の人々はこうした川辺の環境を、目いっぱい利用する。犬を連れて散歩する人、ウォーキングやジョギングする人、ローラーブレードやスケートボード、キックボード、自転車に乗る人、などなどが行き交う。川ではボートを漕いでいる。
 川向こうの丘上のザール城をスケッチしていると、スケッチブックらしいものを携えて、黒人が一人、歩いてきた。私たちを見つけて、ハロー、と声をかけてくる。
「どこから来たんですか?」
「日本から」
「ホリデー?」
「イエス」
「僕はナイジェリアから。ザールブルクに住んでいるんです。美しいところでしょう?」
「本当に」
「僕も絵を描くんです。単なる趣味ですが。もしよければ、僕らのアトリエに来ませんか? アーティストらが集まるコミュニティなんです」
「あー、でも私たち、明日の朝には次の町に行くから……」
「OK、それならそれでいいです」

 外国人労働者だろうか。それでもこの時間にスケッチブックを持って散歩する、時間と心の余裕を持っている。

 To be continued...

 画像は、ザールブルク、旧市街の滝と水車。
   
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