セカンド・ライフ

 
 私は残りの余生を、美術館をめぐりながら絵を描いて過ごしたいと思っている。
 
 が、考えてみると私は、もう若さ自体が武器となる歳ではないが、まだ隠遁生活を送る歳というわけでもない。私は金城武や藤木直人や竹野内豊らと同世代。彼らは感心なことに、まだまだバリバリの現役だ。
 私が社会的な野心や使命感を持てないのは、私の性格のせいばかりではない。多分私は、自分が社会的になすべき課題を、もうすでにやり終えたと思っているのだ。

 悪い男に引っかかって妊娠したとき、私はちょうど大学院受験だった。いろいろあったけれど、結局、相手の男を見限って、結婚せずに子供を産み、進学した。
 誰にも頼らずに一人で子供を育てなければならない。そうしたハンディやリスクに負けずに、研究上の実力をつけなければならない。……このときの切迫した気持ちは、今でもときおり夢のなかで、名状しがたい負荷となって私にのしかかってくる。

 そのまま研究者としてやっていくつもりだったのに、読み筋をはるかに超えた難事件が、これでもかとばかりに次から次へと襲いかかり、気がつけば、大学が嫌い、組織が嫌い、研究者が嫌い、社会全般が大嫌い、つまり適応不可能、人間が怖い、人間と接触するくらいなら死んだほうがまし、というふうになっていた。

 To be continued...

 画像は、サージェント「隠者」。
  ジョン・シンガー・サージェント(John Singer Sargent, 1856-1925, American)

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