甘美な、優美な、艶美な、清美な

 

 私の母は可愛らしい、美しい人物画が大好きで、子供の頃、家には、母が美術館に行くたびに買ってきたその手の絵葉書がたくさんあった。そのなかに、いかにもフランス美人らしい、眼の大きい、顎の細い少女や若い娘を、よく見かけた。子供心に、それが美人の一つの基準であるように思っていた。
 あとから分かったけど、あれってブーグローの絵だったんだな。

 ウィリアム・アドルフ・ブーグロー(William Adolphe Bouguereau)は同時代、アバンギャルドだった印象派をことごとくサロンから落選させた画家として有名。絵画史の革命をもたらしたと言われる印象派の時代の流れにあって、アカデミックなブーグローの絵は、さほどの評価を受けなかったのかと思いきや、本人存命中は成功の一途だったそうだし、死後も、空白はあったらしいが、最近では大した人気のよう。

 通俗的だの陳腐だの、発展がないだの現実逃避だの、印象派の基準からすればボロクソに言われるアカデミズムだけれど、アカデミズムって、そう悪いばかりではないと思う。安定した構図、厳格なフォルム、絶妙なトーン、精緻な仕上げ。特に肌の滑らかさには凄いものがある、と肌色で苦心している絵描きの卵としては、単純にそう思う。
 そのなかでもブーグローの絵は、神話画、寓意画、風俗画、どれを取ってもただただ美しい。物乞いする女性すら美しい。私はより自然な、干草作り、羊飼い、水汲み、糸紡ぎなどする女性の絵が好き。

 ブーグローの絵には、アカデミズム絵画にありがちなこれ見よがしな、感傷的なけれん味があまりない。多少の含意はあるにせよ、彼はメロドラマを交えずに、人物そのものを描いている。甘いには甘いが、それは美しいから甘いのだ。きっとこの人は、ホントに美しい女性を描きたかったのだと思う。
 育ちが良くて、子供の頃から古典的教育を受け、敬虔な信者、実直な画家、良き教育者、その上、「絵を描いているときは幸福だ」とくれば、画家としても人間としても、特に文句のつけようもない。

 でも私生活は哀れだったそう。妻や子供に次々と先立たれているし、のちに、アメリカの女流画家エリザベス・ガードナーと出会うも、傲慢な母親に反対されて再婚できない。結局、この母親が91歳の長寿をまっとうしたのち、晩年でようやく結婚できたらしい。
 血縁の束縛って、やだね~。

 画像は、ブーグロー「羊飼いの少女」。
  ウィリアム・アドルフ・ブーグロー
   (William Adolphe Bouguereau, 1825-1905, French)

 他、左から、
  「落穂を拾う娘」
  「ボヘミア娘」
  「ザクロを持つ娘」
  「ファースト・キス」
  「天に運ばれていく魂」

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