世界をスケッチ旅行してまわりたい絵描きの卵の備忘録と雑記
魔法の絨毯 -美術館めぐりとスケッチ旅行-
オランダ絵画によせて:雲の下の風景
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バロック絵画の時代、オランダでは市民階級が買い手となり、近代的な絵画市場が成立した。絵の主題も、現実への関心が高まり、静物画や風俗画と並んで、風景画も独立の絵画分野として分岐、発展した。
……という説明は、よく見かける。
でも静物画、風俗画はなお、象徴的意味が多分に含まれていて、この点、依然として中世的な価値観を引きずっているように見える。
例えば、四季の花々を生けた花瓶には、わざわざ枯れたり萎れたりした花や、昆虫が描き込まれている。これらは生と死を象徴するらしい。楽器は愛の象徴、割れた花瓶は失った純潔の象徴、など、やたら細かく象徴的意味があるそう。
対して風景画には、そうした象徴的意味があまりない。自然そのものが生命の一つの象徴と言ってしまえばそれまでだけれど、とにかく風景画は、主題に秘める意味というものからいち早く解放されていたように思う。
だから、見ていて説教臭さを感じない。私が風景画を好きなのは、そういう絡みもあるのかも知れない。
このようなオランダ写実風景画の開祖は、エサイアス・ファン・デ・フェルデ(Esaias van de Velde)という画家。彼の登場以降、風景画は独立したジャンルとして、一気に風景画らしくなってくる。
オランダの写実的風景画は、ハーレム派のものが有名。ヤン・ファン・ホイエン(Jan van Goyen)やサロモン・ファン・ライスダール(Salomon van Ruysdael)などが先駆者となって、起伏のない平坦なオランダ風景そのままに、砂丘、小屋、木立、水車、渡し舟など身近の単純なモティーフを描いた。背景に地平線と空を置き、地平線を低く、空を広く取る。ほとんどモノトーンにまで色味を限定し、光と影の微妙な移ろいを描いた。
叙情的で静謐な画面のなかで、唯一動的なものは雲の流れるさまだけ。
私はのどかな日和に公園に寝そべって、雲の行方を追うのが好きだから、こういうオランダ風景画を、いい感じー、と思うのかも知れない。
画像は、S.ライスダール「川景」。
サロモン・ファン・ライスダール(Salomon van Ruysdael, ca.1600-1670, Dutch)
他、左から、
E.フェルデ「渡し舟」
エサイアス・ファン・デ・フェルデ(Esaias van de Velde, ca.1587-1630, Dutch)
ホイエン「ドルトレヒト前のメルウェデの眺望」
ヤン・ファン・ホイエン(Jan van Goyen, 1596-1656, Dutch)
I.オスターデ「田舎宿の旅人たち」
イサーク・ファン・オスターデ(Isaack van Ostade, 1621-1649, Dutch)
ワウエルマン「馬の見本市」
フィリップ・ワウエルマン(Philip Wouwerman, 1619-1668, Dutch)
モレイン「砂丘の風景」
ピーテル・デ・モレイン(Pieter de Molyn, 1595-1661, Dutch)
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