ボーデン湖畔にて(続)

 
 ユーバーリンゲンの駅を出ると、旅行者らしい賑やかな人混みが広がっているのが眼に入る。駅前の広場はバス・ターミナルとなっているのだが、その広場全体に、旅行者たちが荷物を抱えて、点々と群がっているのだ。
 静かな湖畔の森の陰、なんてイメージを勝手に持ってやって来た私たちは、俄然、当惑して、そそくさと人混みを避けて通るのに精一杯。もしかしてユーバーリンゲンて、有名なリゾート地なのかな。駅を出て同じく眼に入った、感じのよい町を予感させる石造りの建物や緑の木々の好印象は、この群像に圧されて呆気なくどこかに飛んで行ってしまった。

 駅前地図を見ると、ユースホステルは湖沿いにかなり歩いたところにあるらしい。ので、先にユーバーリンゲンの町を見物するのが賢い選択だったのだと思う。
 が、駅前の人混みから逃れてしまいたいという気持ちと、すでに散々、ドナウエッシンゲンを歩いてきた疲れとで、二人して、まずユースに行って一休みしよう、という結論へと日和ってしまった。

 この辺りの家々はみんな、別荘なのらしい。緑滴る庭のある、瀟洒な建物が並んでいる。庭から庭へと、サササとリスが道路を走って渡る。別荘が途絶えた緩い傾斜には、数日ぶりに見る、まだ葉のないブドウ畑。
 ……とまあ、歩くのに退屈はしないのだが、それでも歩くのに遠すぎた。ユースはユーバーリンゲンの駅よりも、一駅向こうのヌスドルフの駅に近い。たっぷり一駅分歩いて、ようやくユースに到着。
「そうならそうと、前もって言っといて欲しいよね」と相棒がボヤく。
 
 ユースは合宿中の子供たちでワイワイと大賑わい。受付はアルバイトの学生らしい、一昔前のヨーロッパ映画に出てきそうな可愛らしい男の子。
 チェックインを済ませたところを、ボート小屋の陽気なおじさん風の初老の男性が声をかけてくる。
「トリベルクから来た日本人かい? 朝、予約の電話を受け取ったのは、この俺なんだ!」

 そう言えば、トリベルクを発つとき、次のユーバーリンゲンの予約を取ってもらったのだが、たかが予約のその電話で、トリベルクの受付の爺さんは、長々と10分も喋り続けていた。
 そのお喋りの相手が、このおじさんってわけ。……ドイツ人は勤労意欲に乏しくてよろしい。

 To be continued...

 画像は、ユーバーリンゲン、ボーデン湖畔の舟溜まり。

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     Bear's Paw -ドイツ&オーストリア-
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