ギリシャ神話あれこれ:ギリシア遁走(続)

 
 逃げ遅れてもたもたしている老ネストル(……戦場に出て何してるんだろう?)を、ディオメデスが助けているあいだに、ヘクトルが猛追してくる。げげッ、ヘクトルめ! ディオメデスが槍を放って応戦する。
 と突如、ゼウス神の放った雷火がディオメデスの前に落ちる。鼻を突く硫黄の臭気とともに凄まじい火柱が大地から立ち上った。
 人間ならこの光景にたじろいで当たり前。ネストルとディオメデスも神意を悟り、あたふたと退散する。その背後から、獅子奮迅のヘクトルが挑発する。さっさと逃げろ、臆病なディオメデス!

 悔しさに地団駄踏んでディオメデスが撤退するうちにも、トロイア軍勝利の予兆を告げる雷鳴が何度も戦場を轟き渡る。

 この様子を見ていたヘラ神は、怒り心頭、歯軋りして悔しがる。テティスの願いごとを聞いてやるなんて、キィ~ッ!
 ヘラとアテナの両神は矢も楯もたまらず、戦車に飛び乗ってギリシア軍を助けに馳せ参じようとしたのだけれど……

 イデ山上のゼウス神はそれを見つけて、烈火のごとく憤怒する。大神の命令に逆らうか! 雷火に撃たれたいかーッ!!

 こうして、神々の加護を失ったギリシア軍は敗走し、徐々に海岸の船陣へと押し戻されていく。
 日没後、ヘクトルは自軍をスカマンドロスの戦場に野営させ、夜陰に乗じて敵軍が海上へ逃げ出さぬよう、夜通し火を焚いて見張り続けるよう命じる。
 トロイア軍のおびただしい篝火の群れは、まるで地上の星のように延々と続き、ギリシア軍を威嚇する。

 To be continued...

 画像は、ウエスト「アンドロマケとアステュアナクスに別れを告げるヘクトル」。
  ベンジャミン・ウエスト(Benjamin West, 1738-1820, American)

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