「とらや」の路地を50mほど奥に入ると、「オリオン」という映画館があった。
田舎の小さな街だけど、近所に銀映、日活、東映、オリオンという4つの映画館があった。
4つの映画館は、それぞれ役割というか、ジャンルが明確になっていて、
ザックリ言うと、銀映は怪獣、日活はポルノ、東映はヤクザ、オリオンは洋モノ。
小学生の頃、友達のI君のお婆ちゃんの家の壁に、オリオンが映画のポスターを
貼りに来て、そのお礼として、招待券を2枚置いていったようだ。
I君は新しい映画が来ると、いつも僕を映画に誘ってくれた。
そんなことで、小学生の頃は街にやってくる殆どの洋画を観ていた。
オリオンは、一階が200席ぐらいで、二階が劇場を囲むように桟敷席があった。
桟敷席には畳が敷かれていて、座布団と枕と大きな灰皿が置かれていた。
二階に上がると、怖そうなオッサンが寝そべってタバコを吸いながら映画を観ていた。
そこには、子供が入れないような、危険な空気が流れていた。
今では有り得ないけど、当時は映画館でタバコを吸うのは普通のことだった。
映写機からでる光の中に、モウモウとタバコの煙が立ち上っていた。
当時はブルースリー全盛期で、「燃えよドラゴン」、「ドラゴン危機一髪」、そして「ドラゴンへの道」。
昔は観客の入れ替えとかなかったので、必ず2回観ていた。
映画館から出てくる小学生は、みんなブルースリーになっていた。
目つきが違っていたし、心なしか口が尖がっていた。
誰も襲ってこないけど、周りに注意を払いながら、家に帰っていった。
翌日の小学校の校庭では、二人一組のカンフー対決が10組ぐらいいて、
「アチャー!」という叫び声が、薄暗くなるまで校庭に響き渡っていた。
あれから40年が経った昨年、「とらや」の後に、「オリオン」の前に行って見ると、映画館は閉じていた。
何年前に閉じたのか?、ブルースリーの大きなポスターが掛かっていた
トタンの壁からは赤い錆が浮き出ていて、映画館から血が流れているように見えた。
あぁ、一度、オリオンの桟敷席で映画を観たかった。
あぁ・・、あの怖そうなオッサンと並んで、映画を観たかった。