比喩で伝えるということ

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少し前にテレビである７００人ほどしか人口のいない過疎の島で、水産会社を経営する若干３０歳のシングルマザーの話を見ました。
彼女はそれまで全然畑違いのことをしていたのだけれど、島でほとんどそれで生計をたてている漁師たちが１人１人バラバラで、苦しんでいるのをみて、なんとかせにゃあかん、と思ったらしい。
テレビは彼女のある日の１日ということの紹介で、島でも古参の（お見受けしたところ、７０歳くらいのおじいさんでした）漁師との打ち合わせを映し出していました。



話しの詳細はわかりませんが、どうやらその古参のじいさんが若手（といっても４０代くらいに見受けられました）に自分の仕事をある程度まかせるということのようでした。
しかし、任せると言いながら古参のじいさんは完全に手を引けないのか、全面的には任せないらしい。
それをして、女社長がいきなり言いました。
「それはおかしい！」
「いい？　私がアンタに仕事を頼んだとき、わたし、アンタになにか途中でああせい、こうせいい言ったか？
アンタに旗振らせるって決めたらもう途中では口だすまい、と心に決めてそうしてきたよ。
アンタもこの小西に旗降らせるちゅう決めたんなら、そら、もう徹底して旗降らせなあかん。」
ほほぅ。
３０歳の若い御嬢さんが自分の親より年寄りであろうじいさんにどううまくとりなすのかと思ってたら、まるで自分の息子を叱るかのように容赦ない。
まったく相手が自分よりうんと年かさの人間で立ててあげなくては、とか口のきき方に気をつけなくちゃというところがない。
丁々発止とやりあっている。
むしろじいさんの方がたじたじ。



さらに何の話かわかりませんでしたが、彼女が、
「そら毎日人参ばっか食べとったら人間、たまには飴もしゃぶりたかろう、肉も食いたかろう。それ、わかったらんとあかん。」
と言っているシーンもありました。
古参のじいさんはぐうの音も出ない、という呆けたような顔でじっと固まっていました。
勝負あり。
私はこの若い女社長に感心しました。
そして彼女がまさに海千山千であろう一匹狼の漁師たちをまとめあげてこられた意味がわかりました。



彼女は一言も具体的なことを言っていない。
めちゃキツイことを言っているようだけれども、すべて比喩で話している。
「自分で任せるゆうて決めたんなら旗振らせんかい」とか、
「人参ばっか食べとったらたまには飴もしゃぶりたかろう」とか。
それがゆえにズバリ相手の懐に切り込んではいるのだけれど、そしてキツイのだけれど、それが致命傷を負わせるほどのものにはかろうじてならずにすんでいる。
これが例えば
「自分で任せるゆうて決めたにもかかわらず、任せんってどういうことだい？　この前もこんだけの燃料費かけて出かけるんやったら、何百キロは魚をあげてこんと赤字になるからおまえその赤字分自腹切れるんか？とか言うてたやろ。あれはいかん。
任せるいうんならどれだけの燃料費かけようが、そしてその結果がどうであろうと文句言ったらあかんやろ。」とか、
「小西が自分がこれまで使ってきた撒き餌つかわんちゅうて文句いったってしゃあなかろ。魚だっていわしが食べたいときもあれば、ゴカイがいいときもあろう。」とか具体的に本当にあった事例で話せば、角がたつ。
古参のじいさんのプライドも傷つけられ、ここは１つ反撃もしないと顔がたたない、ということにもなろう。
それに何より、プロとして具体的に細かいところまでのことを指摘されるのは許せないに違いない。
しかし、彼女はいっさい古参のじいさんが行なったことの実際の例を持ち出してはいない。
だから勘のいい人ほど余計にズバリと自分の核心をつかれたような気持ちにもなるし、比喩のアローワンスのなかで自分の実際の言動をふりかえってみることもできる。
実際に仮に古参のじいさんが反撃に出たとしても、
「ちゃうちゃう！　私はそんなときのことを言ったわけではない。」と逃げることも可能だ。
この応戦の仕方は賢いなぁ、と思ったのです。



比喩を使う、比喩で話すということは、相手のプライドを守ってあげることにもなるし、相手が（これのことかな？　これをこうしろ、と言ってるわけかな？）という自分自身にその答えを問いかけさせることにもつながります。
つまり、勝手に相手が反省してくれたり、善処してくれたりするわけです。
そして、相手のプライドも守ってあげることが出来る。
だから、相手もぎゃふんとやりこめられた感じになっても耳を傾けて聞いてくれる。



占いが「当たっている」と感じるのもある意味、この比喩の力が大きいのではないでしょうか。（・・って、いきなり占いの話に持ち込むのも私もかなりの力技だすなぁ、って感じですが）
ノストラダムスの大予言が「当たっている！」と言われたのもすべてこのような比喩の表現によるものでした。
「空から恐怖の大王が降ってくる」なんて表現は、雷雨のことを言っているのか、原爆のような人の手による科学的な物質のことを言っているのか、これだけでは何もわかりません。
わからないだけに恐怖は増す感じがありますし、「これのことだとすれば言い得て妙だ！」と受け取るほうが勝手に当たったことにしてくれちゃう、という効果があるように思います。
どちらにしたって占いはクライアント自身が「じゃ、このことかな？」と自分で気付くことが大切でしょうし、クライアントがそのことだと思えばそれでいいわけですからより抽象的に、比喩で言ってあげたほうがいいのかもしれませんね。
この女社長が意図的に比喩を多く使っていたのか、単に話すときの癖なのかはよくわかりませんでしたが、３０歳にして、漁の経験もない女性がひとかどの男たちをまとめあげることができたのはこの比喩表現による力も大きな一翼をになっていたのではないか、と思ったことでした。



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