横浜に住んでいるのだから東京には何時でいける…とそのままにしておいた懐かしいところを、はからずも再訪できた。理由は住んでいるアパートを、リノベーションのために5日は空けなくてはならなかったからだ。心臓の悪い僕には、エレベーターの昼夜連続停止からは逃げるしかなかった。
はじめは浅間のふもと、信濃追分と八ヶ岳へ、のんびりと行ってみようと計画していたのだけれど、雨の山はどうしようもない。ずっと天気予報を気にして見ていたのだけれど、予定の週は晴れる日は期待できない。がっかりしながら、「あさま」の指定券と、宿をキャンセルしたのは、キャンセル・チャージの発生する直前。
アパートはどちらにしても空けなくてはならないから、急きょ思いついたのは、東京エクスカーション、遠足だ。
僕のカスケットリスト(棺桶リスト)には、東京で訪ねておきたい場所はリストアップしてあった。宿題をやっつけておく時間が、向こうから強制的にやって来たわけだ。
東京スカイツリーには、行ってみたい気持ちと、混雑した中に身を置くことを嫌がる気持ちがせめぎあって、今まで行ったことがなかった。今になったら少しは落ち着いただろうから、行ってみる気になった。
本当の目的は、いつもテレビに映る白い東京ドームの先に見えるはずの大学のタワーを確認したかったからだ。スカイツリーからのテレビ映像を見ると、よく分からなくて欲求不満だった。
幸い、好天。さらに、余り混んでいなかった。富士山も見えて、目標の大学のタワーも確認できて、まぁ、目的は果たした。
かすんで見える大学のタワー
浅草に行ったら、煮込み横丁のなじみの店のおばちゃんの顔も見たかった。おばちゃんは元気だし、タンとハツの焼きものも、煮込みも、良心的な生レモンのレモンサワーも変わらずおいしい。おばちゃんのそっけなさも変わらない。
新装開店となった並木の藪にも行ってみたかった。が、藪にはがっかり。蕎麦の質が落ちたようだ。感激がない。もう行かないだろうなと思った。
東京スカイツリー
代官山ヒルサイドテラスは、僕が大学を卒業して間もなく第一期をオープンした東京では珍しくマスタープランに従って、30年も掛かって開発されたすばらしい街だ。丘陵の地形を生かし、さらには自然を生かすために、高さ制限を付けた都市開発で、住居と店舗、建物と町が一体化してプランされ、数期にわたって、開発された町。
何時だったか、友達とその中のレストランで飯を食っていた時、ジュディオングの美しい姿に見とれた思い出もある。古くから親しんだ街だ。
今回発見したのは、この土地を元々持っていた大地主、朝倉邸の建物、庭に入り込むことが出来たことだ。朝倉家は、最初からヒルサイドテラス・プロジェクトに貢献した家でもある。美しい庭には風が通り、広い縁側からは、額縁で切り取ったような景色が新緑の中にあった。美しい白人の女性の姿が、その庭の一部になって溶け込んでいた。
朝倉邸庭園
代官山の散策の狙いは、もう一つあった。それは元同潤会代官山アパートの近くに30年くらい前にあった、気にいっていたカフェを探すことだった。
同潤会アパートは取り壊されて、高層マンションになっていた。小川軒の方に坂を登っていくと右側にあるはずなのに、見つからない。もう時が経ったからなぁとあきらめて踵を返したら、そこに、オープンテラスがあった。店は改築されていたけれど、基本は変わらず。軽いランチを食べて、ご機嫌になった。
後は、元の勤め先I社の箱崎ビルの近くにあった汚い店で、僕が初めて食った「カツ煮」をもう一度食べることだった。この店以外では見たことのないメニューだった。
カツドンは、僕は嫌いだ。白いご飯が汚れてしまうからだ。しかし、カツ煮は、煮込んで柔らかくなった豚カツに、程よく火の通った卵とじを乗っけたシンプルな一皿。それに、ごはん、お味噌汁と一緒に出てくる。いい匂いの湯気。
30年前にこれを見つけた時は、汚い店で、昼飯のあわただしい中で急いで食って出てくる店だったけれど、今回、改築されてさまになっていた。調理人は前と変わらずだとおかみさんらしい人が教えてくれた。
久しぶりのカツ煮を食べて満足。このために、日本橋箱崎町まで足を運んだのだから。うれしいことに、I社の若い連中もお客としてきているとか…。
I社の箱崎ビルの下の隅田川の河岸は美しい。つつじが咲き、スズメが餌をねだり、疲れたSEが昼寝をする懐かしい風景に、時々水上バスが通る。豊海橋も変わらぬまま、すてきな構築物として存在感を見せていた。
スズメ
水上バス
田園調布の鳥のモモ焼きの店も、訪ねてみた。僕がI社に勤め始めたころ、先輩が連れて行ってくれた、備長炭で鳥モモを塩焼きにするすばらしい味。40年以上も前の店だが、健在だった。巨人軍の長嶋さんがひいきにしていた店だ。
店はきれいになっていたけど、相変わらず親父の機嫌は良くなく、店員に対するどなり声が聞こえた。でも味は秀逸。鳥皮は、炭火でパリパリ。モモ肉は柔らかく肉汁がしみ出てくる。
残念だったのは、六本木のサテンドール。数少ない昔からのジャズ・ライブの店だけど、店は手入れが悪くてボロボロ。しかも、狭いステージにクインテット+1で、せせこましく混雑。しかし、客はまばら。熱気が全くない。
昔、よく通った、この近くに在ったミスティーが懐かしい。しかし、もうない。ジャズは、ほかの店を探すしかないかと、宿題を貰った感じだ。
サテンドール
他にも美術館を2か所とか、新宿の古い飲み屋街を歩いたり、渋谷の博多ラーメン屋を訪ねたり、シュナウザーのなじみの店を訪ねたりと、僕の足は悲鳴を上げた。
予定通りアパートのリノベーションは終了して、ホッとしている。自分んちが一番いいと実感した東京への旅。一泊朝食付き5千円の連泊でした。