CELLOLOGUE

チェロローグへようこそ! 万年初心者のひとり語り、音楽や身の回りのよしなしごとを気ままに綴っています。

『生きる LIVING』を観て

2023年04月05日 | アート


桜がほぼ終わりになり、いつの間にか木々の若葉が目立ってきています。これからが外に出かけるのによい季節です。生命の息吹を感じる時季にこの映画を観たことは、感慨深いものがありました。


若い頃は、何かとやる気になり張り切るものですが、やがて周囲に順応して大人しくなって寂しい晩年を迎えることになります。特に、役所という、個性を殺して縄張り(部署とも言う)のために生きていかなければならない組織では、書類の山を砦として守りを固め、忙しいふりをして、極力、仕事はしないことにしているようです。いえ、イギリスでの話ですが(笑)。

笠智衆似の主人公、ウィリアムズ市民課課長(ビル・ナイ)も公務員として長い間そういった世界で生きてきました。しかし、がんの告知を受けて世界が変わってしまいます。紳士になろうとしてずっと人生を演技をしてきた男は自分の一大事を家族に話すことさえできません。しかし、そこはカズオ・イシグロ。取り乱したりはさせません。そして、組織の一部として生きてきた男が自分を生きようとした時、人が変わったように行動に出ます。

原作の黒澤明『生きる』を概ねトレースしながらも、あの時代の日・英で同時進行しているような印象を受けました。冒頭をはじめ何度か登場する蒸機列車が私の心を鷲掴み(笑)。リメイク版とは思えない気の利いた展開が飽きさせません。とは言え、私はオリジナルの『生きる』は観たことはなく、テレビで放映されたのをぼんやり覚えているだけです。DVDを観て比べてみようかと思ったりしますが、それも不粋かな…


ともすれば流されがちになる人生。それが自然と言えば自然な成り行きです。しかし、少しでも変えよう、変わろうとする人がいる限り、人の世はほんの少し希望があります。年々歳々同じ繰り返しにはならない、かも知れない。
新緑の山道をひたすら歩いてみたくなりました。


『生きる LIVING』
監督:オリヴァー・ハーマナス、脚本:カズオ・イシグロ、原作:黒澤明監督作品『生きる』
出演:ビル・ナイ(ウィリアムズ)、エイミー・ルー・ウッド(マーガレット)、アレックス・シャープ(ピーター)など.
製作:2022年.102分.
原題:LIVING
公式サイト
 https://ikiru-living-movie.jp/


イギリスつながりで、エルガーの『エニグマ』から「ニムロッド」をシェク・カネー=メイソン(1999-)のチェロで。

Elgar: Nimrod


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。