The Smiths と Morrissey

スミスとモリッシーについて。

自転車、オープンカー、タクシー、

2017-04-30 17:13:40 | 音楽
今回はモリッシーと乗り物について。

私がモリッシーから遠く離れていた30年近くの間の動画を、ここ半年ひたすら探して観ている。楽しい。

" Stop Me " で自転車に跨がり、サルフォード・ラッズ・クラブに乗り付ける眼鏡の青年は、数年後アメリカでロールスロイスのオープンカーに、新しいバンドメンバーを乗せてハンドルを握っている。(Morrissey " My Love Life "のMVより )
若き日のボズ・ブーラー( ギタリスト)もハンサム。

The Smiths " Stop Me "MV




Morrissey " My Love Life " MV


ロールスロイス!



モリッシー、良かったね…。学校はキライだったし、職はあったり無かったり、引きこもりがちな青春を過ごし、スミスであれやこれやあって、解散した時はもうダメだろうとか書かれてたのに、アメリカで立派になって…。
と、まるで近所の内気な男の子を長年見守っていた、おせっかいおばさんみたいな気分で涙が出そうだった。

それにしても、これ見よがしにロールスロイスに乗ってるように見えるのは私だけ?

スミス解散の時は「マーに捨てられた」「もうこのまま消えてしまうだろう」とさんざん言われてた。その後の紆余曲折、様々なスキャンダルの果てに辿り着いたアメリカ。

イギリスで自分のことをこき下ろしていた連中に、
「おあいにくさま、こっちで上手くやってるよ」というメッセージに感じる。見ていて痛快だ。

モリッシーはスミス解散後に運転免許を取ったとか。
ジャガーを運転してる姿は " This Charming Man " だ。



スクーター、ベスパに乗った姿も。

最近の歌詞の中にはタクシーが良く出てくる。

アルバム、You Are The Quarry 収録の " Come Back To Camden " は、もう去ってしまった人に、カムデン (ロンドンの地区) へ帰っておいで、と呼びかける切ない歌だが、

タクシードライバーはお喋りを止めない

とかちょっと笑えるセリフが入っている。先日タクシーに乗ったらそのとおりの運転手さんだったので、この歌を思い出して笑ってしまった。

前回書いた " Something Is Squeezing My Skull " では、

the motion of taxis excites me when you …

と、タクシーの中で何をしているんだ(汗)…と思ってしまう場面も。

世界を廻ってツアーしてると移動はタクシーとかになるから自然と歌詞に使われるんだろう。

マンチェスターで引きこもり気味だった青年は、今や世界を股にかけたセレブです。












Something Is Squeezing My Skull

2017-04-25 14:44:56 | 音楽
前回から一気に飛んで、2009年リリースの「Years Of Refusal 」から、" Something Is Squeezing My Skull "
モリッシー50歳の時の曲だ。


僕は元気にしてるよ
プレゼントも僕にかまうのもよしてくれ
僕は知ってる 死ぬ日まで
何かが僕の頭蓋骨を締め付ける
かろうじて説明できる何か
現代では愛なんか存在しないんだ

僕は良くやってるよ
それは奇跡だ、全くこんな遠くまで来て
タクシーの動きは 後部座席できみがそれを剥いて僕を噛む時 僕をとても興奮させるのさ

何かが僕の頭蓋骨を締め付ける
かろうじて説明できる何か
現代には希望なんてないんだ
何かが僕の頭蓋骨を締め付ける
何かが僕を戦わせなくする
現代には本当の友だちなんていないんだ


後刻みのギターもドラムもパワフルで、モリッシーも吠えるように歌う。
「僕」より「オレ」のほうが一人称はあってるかも。


ジアゼパム(バリウムのことだよ)
テマゼパム、リチウム
…HRT, ECT


Diazepam(that's Valium), Temazepam,
Lithium
いずれも精神科の薬。
バリウム (valium) はロシュ社の製品名でアメリカではよく知られている (胃のレントゲン検査で飲まされる、あのドロッとしたヤツとは別のモノです)。

HRTはホルモン補充療法のこと…ホルモンの乱れによる精神的症状に使用してるのかな。
ECTは精神科の電気療法…。


どれだけ長い間 僕はこの下らないものに頼らなければいけないんだ
もういらない、もういらない、もういらない、頼むからもういらない、
あんたはもうあげないって言ったじゃないか
もうあげないって
あんたは言った、
あんたは言った、
あんたは言った!
あんたはもうあげないって言ったんだよ


「朝目が覚めると黒い大きな犬がベッドサイドにやってくるのさ。そいつは必ずやってくる」
以前イギリスのテレビに出演した時、毎日憂鬱な気分で迎える朝を、モリッシーはこう言い現していた。やはりこの人は天性の詩人か。
ベッドサイドに毎朝訪れるなんて、主人に忠実な"犬"らしい。

憂鬱な雰囲気はスミスの頃から一貫して彼の歌詞の持ち味だ。
" Still ill " 「まだ病気なのだろうか」というタイトルの曲もある。
そして sick という言葉も頻繁にいろんな曲で登場する。
ill も sick も病気という意味だが、ill って授業で習ったっけ?と思ってたらイギリスでは使うがアメリカでは使わないらしい。イギリスでは sick はキモいというニュアンスがある。「あいつキモいな、ビョーキだよ」という感じとか。

また、「病気」について、彼は時々インタビューで訊かれているが、たいてい曖昧な答えかたをしている。さっきの黒い犬、とか憂鬱な気分だとか。
" Speedway " という曲では、
「いつも分かってもらおうとしてきたつもりだ。僕なりのキモいやり方でさ」
というフレーズが出て来る。
他人からキモいと思われてる、他人から受け入れられにくい生きづらさを、「 still ill 」「 sick 」と表しているんだろう。

しかし、そのせいで二次災害的に精神的症状がでたのかもしれない。
他人から受け入れられないって、やっぱり悲しいよね。うつ病にだってなるだろう。この歌に出てくる薬品名が具体的だし、幾つかはお世話になったのかも。

でもモリッシーはその数々の薬を「いらない」と拒絶する。
頭蓋を締め付けられる痛みをこらえながら。
彼にとって憂鬱、あるいは生きづらさは、もう長年付き合ってきた友だち、長年隣にいたペットのように、もう自分の一部になっているのかもしれない。
周囲の心配や憶測、医者の処方でいまさらどうなるものでもないし、まず、
「他人にどうこう言われたくないし、されたくない」問題なんだろう。
アルバムのタイトルどおり、refusal ( 拒絶 )している。
そして確かに、彼の持つ「ビョーキ」こそ、ファンが強く共感し、彼から離れられない魅力なのだ。
















Death Of A Disco Dancer

2017-04-16 22:06:43 | 音楽


モリッシーとの再会を果たして、同時にスミスの頃の聴いてない曲もあさりだした。
アルバム Strangeway Here We Come は全く聴いてなかった。スミスのアルバムのなかではあまり評価されてないようだったから( 最近は評価されだしたとか聞くけど )。
聴いてみると良い曲がたくさんある。
" Death Of A Disco Dancer " もその一つだ。

discoとはまた懐かしい言葉だ。80年代後半にはその呼び名はもう古かった。モリッシーがこの歌詞を書いた頃のイギリスではどうだったんだろう?
モリッシーは時々意図的に古いことばを使うらしい。Hamsome Devil とか Charming Man とか。これも敢えて使ったのか?

The death of a disco dancer
well, it happens a lot 'round here.
and if you think peace a common goal
that goes to show how little you know

The death of a disco dancer
Well, I'd rather not get I involved
I never talk to my neighbor
I'd rather not get involved

ディスコダンサーの死
そんなのはこの辺りではよくあることだ
もしきみがそんなありふれたゴールが平安だと思うなら
きみがいかにものごとを知らないか教えているようなものだよ

ディスコダンサーの死
ぼくには関係ない
ぼくは全然隣の人とも話さないのに
関わり合いたくないんだ

Love, peace and Harmony
Love, Peace and Harmony
Very nice, very nice, very nice
… but maybe in the next world

愛、平和と調和
愛、平和と調和
とても良いね とても良いね とても良いね
…だけどたぶん次の世界の話だよ


次の世界、つまり現世ではない。この世界ではあり得ないということだ。

テレビでトランプの大統領就任式が中継されていた時、この歌が頭から離れなかった。
トランプはイスラム教徒というだけで人を平気でテロリスト扱いする。
日本も核武装すべきだとも言う。
その彼が核ミサイルのボタンを持つなんて。
アメリカでは彼を支持するアメリカ中西部に住む白人労働者や貧困者層と、彼を支持しない都市部リベラル層 との間で摩擦が増えているようだ。仕事を奪う外国人を排除しろという人たちと、差別はいけない、外国からきた有能な人たちはアメリカにとっても必要不可欠だ、という人たち。

シリアではアレッポが自国の政府軍による空爆に曝されていた。反政府軍が市街地にひそんでいるという理由で、子ども達の頭上に、その国の政府が爆弾を落としていた。
ウクライナ、北朝鮮、ISIS…。
日本だってレイシストが不愉快な言葉を撒き散らしている。大通りで声高に、特定の国の人たちを、その国の生まれだというだけで差別し、出ていけと叫んでいる。


愛と平和と調和
とても良いね
だけどそれは次の世界の話だよ…

モリッシーの歌声が静かで、耳元で囁くようだ。それでいて、
「ラブ、ピース、ハーモニー、ラブピースハーァモニーーー」
と良く伸びる滑らかな声で歌う。
何度聴いても魅せられる。
女性的というか…いやちょっと違う。中性的な、性別を越えた声だ。
歌詞にあるように死の雰囲気を漂わせながらも、どこか官能的ですらある。

ボーカルが消えたあと、長い長い演奏が続く。最後はギターの刻むような音、それに忠実に従ったドラムとベース。少しずつギターがうねりながらエンディングを迎える。

愛と平和と調和、それがこの世界で望めないとしても、時代は変遷しながら続いていく。
でも人間がそれを諦めることは決してないだろうと信じたい。