じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

服を着替えて待つ、じいたん(前編)

2005-07-30 11:16:17 | じいたんばあたん
昨日の未明から、夜中まで、せん妄が激しく大荒れだったばあたん。
なかなか感慨深い体験でした。


夕方、食事から帰ってきても、
玄関に張り付いて動こうとしないばあたん。
ドアのノブについて何か、気にかかることがあるらしい。
食堂から半ば、むりやり連れて帰ってきたじいたんに
腹を立てている様子。


「これじゃ、私でもじいたんでも、寝付いてくれないかもしれない」
そう思った私は、
私の彼氏=介助犬ばうに応援要請メールをした。

ほどなく、ばうばうから返信。
「到着予定時刻10時前になるよ。今日仕事遅いから」
悪いなと思いつつ、再度頼む。


*********************


昨日、未明のSOSに、祖父母宅へ自転車を走らせた。
帰宅したのが午前様だったのだが、まあこんなもんだ。
夕べなかなか寝付かなかったばあたんに、ちょっと嫌な予感がしていた私。
このまま泊まればよかった…。でも後悔しても始まらない。

到着してみると、ばあたんは、。家のあちこちに失禁しまくっていた。
そしてびしょびしょのパジャマ。

じいたんが目覚めたときは、ゴミ箱の中にしたおしっこを持ち歩いて
うろうろしていたらしい。
リハビリパンツにも、おしっこのあとはあるけれど、
彼女はどうやら、脱いで、家中におしっこしたらしい。
パジャマもおしっこまみれだった。

そしてひどいせん妄状態。

このままでもとにかく布団に放り込み、
次に目が覚めて落ち着いたときにシャワーで洗うか。
それとも、先にやはり身体を洗うか。
前者の判断の方が多分、正しい。それはわかりきっていた。
でも、それではじいたんが、眠れない。
じいたんだって、私にとっては、同じだけ大事なじいたんなのだ。


とりあえず風呂場へばあたんを引っ張っていく。
腕の抜けそうなくらいの、ものすごい力でばあたんは抵抗する。

「ぬれたままの服じゃ、眠れないよ」
何を言ってなだめても、動かざること岩の如しである。

言いたくなかったけど、とりあえず論理的な説明をしてみる
「おばあちゃん。その濡れているのは、おしっこなんだよ」

案の定ばあたん、
「わたし、おしっこなんかしてない。証拠を見せて」
…いや、その服も、体中から匂うアンモニア臭も全部証拠だから…orz
じいたんと、ばあたんの、おしっこの匂いは、
区別ついちゃうから…orz


ほとんど引きずり込むように風呂場へ入れ、全裸にして、
私もブラとパンティだけの格好で、ばあたんを洗う。

「お願いやから、頼むから、辛抱してや」
と声かけしながら洗う。
「このままにしてたら、かぶれるから」
泡だてた石鹸をばあたんの全身にまぶす。


ばあたんは激しく抵抗する。
「たまちゃん、なんで、こんなことするの」
「おばあちゃんは、たまちゃんの言うことはなんでも聞かないとだめなの!?」
「あたしは、おしっこなんてもらしてない。
 そんなことしたらもう、生きていけないじゃない」
「外へだしてよぉ。おじいちゃん助けてよぉ。
 たまちゃんがいじめるんだよぉ!」

ドアを思いっきりひっぱりながら
(私が足でストッパーかけているから開かない)
私の頭を、肩を、ぽかぽか叩く。泣き叫ぶ。

「たまちゃんは、いつもこんな風にするじゃないのぉ!」

…私自身の名誉のために言っておくが、
私は一度たりとも、こんな強引な方法でばあたんに接したことはない。
多分、じいたんと私のバトルが記憶にのこっているのだろう。
ばあたんに詫びたい気持ちと、なんでこういうときだけ、私なのかな、
という思いが交錯する。


それでもこのまま置いておくわけにはいかない。
ショックを受けてたって問題の解決にはならない。

「おばあちゃん、私を信じてくれへんと、何もでけへんよ」
「○○ちゃん(叔母の名前)に、会いにいけないよ?」
「おばあちゃんが嫌がることでも、しないと駄目なことは、駄目なのよ」

ばあたんが言う
「学校へ行けないじゃないの。子供たちが待っているわ」

…洗い終わった途端脱走しようとするばあたんを捕まえで、
ぼかぼか殴られながら、何とか身体を拭く。
でも、服を着せる段階で、激しく抵抗されたので、
じいたんを呼ぶ。

じいたんは起きてきてくれた。
そして、ばあたんの両手を捕まえて、支えてくれているすきに、
服を着せる。

「おばあさんに自分で、着させればいいだろう」
そういうじいたんに、
「いや、服をあげたらそれを、投げたり、振り回たりで…」
とわたし。

「また、根も葉もないことを言って」
ばあたんが、わたしを蹴飛ばす。
「さっきはこんなに、優しくなかったじゃないの」
事実ではない。
「おじいちゃんの前では優しいなんて」
…涙も出ない。認知症のせいだもの。
ばあたんが、再度私に体当たりして、蹴飛ばす。

じいたんが、
「おばあさん。たまを蹴るなんて、なんてことをするんだ。
 たまは、おばあさんのために、頑張っていてくれるんだよ。
 たまの言うことは、ちゃんと聞きなさい」
と、強い口調でばあたんを、いさめる。

そしたらばあたん、泣き叫んだ。
とても、とても悲しそうな、声。

認知症を生きるということは、これほどに辛いことなのか。

抱きしめてやりたいと思ったが、
まずは安全が先。
それに、じいたんをねかせてやらなければならない。
泣いている間にささささっと服を着せてしまう。


着せてしまい、居間に戻り、座らせて、りんごジュースを出す。
「これは、目を開けて飲んでもいいの?」
そういったことを、細かく細かく訊ねるばあたんに、
「うん、いいんだよ」
いちいち答えながら、ジュースを飲み終わったころ、

そっと、身体を抱きながら、
強引に身体を洗ったことを改めて、ばあたんに謝ったけれど、
ばあたんはもうすっかり、忘れていた。

…なんとか先にじいたんを寝かせ、ばあたんの不穏に延々と付き合う。
さっき私を罵倒したことなどすっかり忘れ、
「たまちゃん、置いていかないで」
そればかりを、繰り返す。
話し続けてからからの唇を、冷たい水を含ませた脱脂綿で、拭いてやる。

「ああ、気持ちいいわね」

朝五時、ばあたんは、やっと、深い眠りについた…


************************

日中はヘルパーさんに任せ、夕方、祖父母宅に向かう。
それで、冒頭の状態。

じいたんと私では、介護拒否の激しい抵抗にあう可能性がある。
私はかまわないが、じいたんが持たない。

それで、介助犬ばうに、やむなく連絡した。

(続きます)

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