文淵の徒然なるかな

日々の徒然なるのを綴る

桃太郎 46 雉編

2017-02-10 00:16:50 | 日記
 桃太郎一向が鬼の潜む山へと向かう事一月半ばほど遡る話になるが、山間に鬼が住まうと知らせを受けて雉辰馬 涼【きたま りょう】は配下である九河間 千【くがま ぜん】と警固役十四名を連れ立ち山を巡り歩き鬼の姿を求め続けた。しかし一月経とうとしても見つけられずにいた。

「なぜ見つからんのだ!」

 涼【りょう】はもたれかかるようにして立木を拳で打ち据え吠えた。見つからない苛立ちが日々増し続け、供する者の疲労も限界に近づきつつあるなかで、どうにもならない現実に涼は吠えた。吠えるしかなかった。

 貴族として生を受け、父の姿を見て育った涼は自身の不甲斐なさを嘆き呪った。一月も探し歩き供を疲れさせたのは他ならない自身なのだと、伴う者の顔を見て胸中で呟く。父君ならばこの者達も笑顔であったのでは無いか、既に鬼を討伐し帰途にあるのではないかと涼は夢想したが、頭を振って夢想を追い払い、気を引き締めて鬼を探し山を歩き続けるのだった。
 周囲の貴族が大陸に傾倒する中で雉辰馬家先代当主は昔ながらの武を持って良しとする貴族であり、武家と同じく日々鍛練を欠かさず、荘園も必ず赴き一人一人の言葉を聞く父の姿を見て涼は育った。故に涼も同じく鍛練を欠かす事なく、同じく荘園も歩き見て回る。
 鍛練か生まれ持った才なのか、弓で並ぶ者が無いほどの腕前になったが鍛練する涼にいつも父はあまりよい顔をせず、なぜかたしなめる事が多かった。だが涼は父に反発し、父に認められるべく鍛練に励むのだった。いずれ父のようにと励むなかで先代の父が突然倒れ亡くなった。父の跡は自然兄が継ぎ、雉辰馬の当主となった。当主となった兄は荘園の管理の一切を武家に任せて、兄は大陸に傾倒する貴族達に混じり、白粉を塗り日々娯楽に興じるようになった。同じ血を引く事を未だ涼は信じられずにいる。確かに兄は病弱で武には向かず文の才はあったが、あの様な貴族連中と同じ姿になり遊びに興じる者になるとは涼は考えもしなかった。今でも白粉をつけた時に殴りつけてでも正すべきだったと涼は幾度も後悔した。今回の討伐ですら武家に一任せよと口にするばかりで何ひとつ動く様子を見せない兄に痺れを切らし涼は配下と警固役を連れ立ち討伐に来た。しかし徒に時と資金ばかり失うだけで鬼の姿は見つけられずにいた。本来ならば一度退いて情報を集めなおすべきだが、涼は兄の侮蔑する顔と言葉が過り正しい判断を下せずにいたが、いよいよ退くべきところに来たと理
解した。

「皆、すまない。俺が不甲斐ないばかりに苦労をかける」

 先頭を歩き皆を率いてた涼が皆の方に振り返り、深く頭を下げた。

 突然の出来事に驚く一同だったが、千は皆に訪ねるように問いかけた。

「そんな!涼様何を申されましょうか。各々方!まだいけるであろう?!」
「おう!」
「任せろ!」

 一同は疲れた顔から覇気を取り戻して応えたが、応えぬ者も涼は見た。面子に拘り退き時もはかれぬようでは、面子に拘る貴族連中と変わらないでは無いかと涼は胸中自嘲した。

「千も皆もすまない。だがこれ以上は無理だろう。応えてくれた者には悪いが、口にせぬが反対する者もいるだろう。これ以上は無理強いにしかならない。今日で探索を最後とする。今まで苦労をかけた。すまない」 

 深く頭を下げた涼には今できる事はこれしかなかった。皆は涼の姿に苦い顔で応えるしかなかった。結局その日も鬼の姿を捉える事はできず山を下る事となった。

 安堵する者や落胆する者様々であったが山中の張りつめた雰囲気が解れたのは誰もが感じていた。気の緩みを正すべき者である涼ですら徒労に終わった落胆から警戒を怠ったと責められても仕方ない中で、探し求めた鬼達と一行は不意に遭遇するのだった。

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