ガラパゴス通信リターンズ

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「丸山真男をひっぱたきたい」を書いた奴を「ひっぱたきたい」

2007-07-17 09:04:58 | Weblog
 「丸山真男をひっぱたきたい」というエッセイが評判になっている。32歳フリーター・赤木智弘氏が書いた戦争待望論である。平和な時代が続けば現状が固定され、フリーターにとって不利な状態が続く。だからフリーターにとっての希望は苦しみが等しく人々の上にふりかかる戦争である…。「論座」1月号に掲載されたこの文章は大きな反響を呼び、多数の識者からのコメントが同誌に寄せられた。それに対する著者のリプライが、6月号に掲載されている。

 読んでみて呆れた。タイトルと筆者の経歴をみた読者は、徹底的な丸山批判を通して、格差社会へと堕ちていった戦後民主主義を全否定する内容を想像するだろう。ところがそうではないのだ。丸山真男は軍隊のなかで無学な一兵卒にひっぱたかれた。軍隊=戦争がもつ平等性を赤木氏は賛美する。自分もエリートを「ひっぱたきたい」。それがタイトルの意味するところだ。馬鹿馬鹿しい。持てる者をいじめてうさをはらしたい。こんな低劣な欲望を語って、この人は恥ずかしくないのだろうか。

 続編のなかでこの人は、正規労働者の賃金をフリーター並みのそれに引き下げろと提案した学者の説を「誠実なもの」と支持している。フリーターの所得水準を正社員並に引き上げるのは不可能だから、正社員のそれを下げることが平等を実現する現実的な対処だというのだ。この人の怨念のベクトルは、「正社員」という自分よりワンランクだけ上の人たちに向けられている。そして「正社員」たちが自分と同じ苦しみを味わうことのみをただひたすら念じているのだ。「正社員」と「フリーター」という弱者同士が足を引っ張り合えば、富裕層・大資本にとって思う壷である。

 この人が社会にうらみつらみをもつのは理解できる。しかし、そのうらみつらみは、格差を生み出す経済構造に向けられるべきである。こんな私憤を語っただけで、何の建設的な要素もない文章は「言説」の名に値しない。これを掲載した「論座」の見識を疑う。この文章は、フリーターへの差別偏見を助長することになるのではないかと心配しておられる方がいた。私もまったく同感だ。

26 コメント

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意地が悪いかな? (まつもと)
2007-07-17 11:24:55
どこかの大学で、赤木さんを講師か非常勤で雇ってみたらいいんじゃないですかねえ。その上でどういう言説が出てくるか見てみるとか。

これらの文章は、一種の就職活動だったりするんじゃないかな。というのは邪推が過ぎますかね。
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永久就職? (加齢御飯)
2007-07-17 12:07:47
 こうした方向での「就職」を勧める方がいるようです。

 http://ameblo.jp/hiromiyasuhara/entry-10039530612.html

 この赤木という人より「論座」に私は腹をたてています。ネットでうだうだ言っている分には別にかまわない。大朝日の雑誌がとりあげるから、勘違いして舞い上がってしまう。とても言論でたっていけるような筆力と学識の持ち主ではありません。その彼をこうやってもちあげる人が出てくるから困ったものです。
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日本人はアホか (ひろの)
2007-07-17 13:35:43
フリーターの待遇改善は不可能といっている経済学者、自分の地位を守るためにそんなことを言っているのです。多分企業とつながっている人物でしょう。その程度のことも見抜けないんでしょうか。とにかく今の日本国の問題はゼロ成長経済に即した制度の再設計ができていないというだけの話なのです。その結果、うまく浮き輪を掴んだ者もいれば溺れてアップアップの者もいるという阿鼻叫喚の現状になってしまっている。制度は変化する現実に合わせて絶えず再設計する必要がある。そして設計する以上は、排除されたと感じる者を出さないようにする。これはモラルの問題ではなく、制度の安定性という問題です。だが日本人はどうも私小説的な人種で、制度の設計ということがよく分かっていないらしい。そんなアホな国民なのかと気が滅入ってきます。支離滅裂な憲法を持っているせいもあるでしょうが。
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国策じゃなくて国体 (加齢御飯)
2007-07-17 15:41:30
 ひろのさま。いまだに安倍首相が「改革なくして成長なし」と叫んでいるのには驚きます。経済成長の余地があるのは中国やインドのような国だけで、成熟した社会を作る努力を高度経済成長が終焉した30年ぐらい前からしていれば、こんな体たらくにならずに住んだはずです。成長の余地がなくなっているのに、それを続けようとするから無理がどんどんひどくなる。制度の設計にたずさわるはずの社会科学者が、「制度は変えられないから一人一人の心を変える」だとか変なことをいいだす始末です。これは経済成長が国策ではなく、もはや国体になっているからではないのでしょうか。何故そうなるのかはよく分からないところもあるのですが。
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やはりアホです (ひろの)
2007-07-17 16:11:55
こんな貧すれば鈍すみたいな現状を作った戦犯として橋本、小泉、経団連といった悪玉の名を挙げることはできます。しかし国民が制度の設計という問題を理解していたら彼等だって勝手なことはできなかった筈です。やはり日本人はアホで、制度というものが分かっていないのです。制度を設計する原則である憲法を戦争除け?の成田山のお守りと勘違いしていることもアホの証拠です。今の憲法は制度の設計に使えません。ところで制度というものは人間は利己的であることを考慮に入れても設計できるものです。制度が壊れてしまった社会は、競争社会などではなくて、この赤木という人に見られるようなサドとマゾのエログロ社会です。
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アホというよりも (加齢御飯)
2007-07-17 16:42:14
制度を設計する原則である憲法を戦争除け?の成田山のお守りと勘違いしていることもアホの証拠です。
 
 ひろのさま。アホというより呪術的思考にとらわれているとすれば、「未開」というべきかもしれません。「プロジェクトX」の惹句にも「思いはかなう」というのがありました。完全なオカルトです。アホであるとすれば、古代から制度というものは、中国や欧米のような外国で作ったものをもってくるということになれている。そして戦後もずっと制度は霞ヶ関官僚がおつくりになるものだと左派でも思っている。相当年季の入ったアホですから、とても一朝一夕には直らないでしょう。

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赤木さんの気持ちは理解できます。 (あい)
2007-07-17 20:34:20
先生方のおっしゃることは正論だと思います。
そして赤木さんの理論は支離滅裂です。

でも、私は少し理解できます。
人の幸せは自分の不幸を倍増し、人の不幸は自分の幸せを増やしてくれるような気がするんです。 私は制度の設計なんて、まったく分かりません。それより自分の時給が上がらないなら、人の時給が下がればいいんです。
すみません、アホで。

郵政、社会保険庁、教師バッシングなどは、政治がこういう庶民の気持ちを利用していると思います。

私は赤木さんは、反発を買うのは十分理解したうえでの、ある意味確信犯だと思います。

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偽善の衰退 (加齢御飯)
2007-07-17 21:49:02
 「人の幸せは自分の不幸を倍増し、人の不幸は自分の幸せを増やしてくれるような気がするんです」。
 「郵政、社会保険庁、教師バッシングなどは、政治がこういう庶民の気持ちを利用していると思います」。

 あいさま。卓見だと思います。制度の設計というのは大人の責任だから、若い人がぴんとこなくてもアホということにはならないでしょう。窮地に立たされると人はどうしても人の不幸を願う気持ちが出てくる。赤木さんは多くのフリーターの本音を語ったのだと思います。しかし本音だけで生きていたのでは人間禽獣と変わるところがありません。それをぐっとこらえるのが人間の矜持や美意識というものではないのでしょうか。その意味でも「論座」のような有力なメディアがこの文章を載せた罪は大きいと思います。本音を垂れ流せばメジャーな雑誌に書けるとなれば、誰が文章の技を練ろうとするでしょうか。人間のさもしい心を利用する政治は最低です。これのどこが「美しい国」なのでしょうか。
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みんなフリーターに (ひろの)
2007-07-17 23:08:51
あいさん、初めまして。同じ仕事をしているのにフリーターやパートと正社員では待遇が天と地ほど違う。この不正に憤るのは人間として当然のまともなことです。また正社員の待遇をフリーター並みにしろというのは、別の意味では正しいのです。もう経済成長期の完全雇用や定期昇給の時代は戻ってこないし、かっての社畜が望ましいものである筈もありません。だからすべての勤労者を揃ってパートやフリーターにしてしまって、その代わり例えば年収が二百万に満たない人には国が差額を出す「負の所得税」を実施するといったことを考えるべきなのです。これは空論ではなく、実際にオランダでは勤労者をみなパートにし十分な給与年休ボーナスを保証した国民的フレックスタイム制が実現しています。そういうフリーターをむしろ日本の社会を企業から解放するきっかけとするような論争をサボっているという点で、加齢さんや私は赤木氏より「論座」の編集部を問題にしているのです。
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日本文学史 (まつもと)
2007-07-17 23:39:59
小西甚一の「日本文学史」(講談社学術文庫)を読了しました。昭和29年に出て全く売れず、ドナルド・キーンが絶賛して「名著」と呼ばれるようになった(日本ではありがちな)本です。連歌作者でもあった著者らしく日本文学の盲目的な賛美に陥らず、中国文学の影響をきちんと評価して比較文学の視点も持った稀な本(だから売れなかったのか)ですが、その結語につぎの一節があります;

「日本文芸の歴史的特質・・・分裂とか対立といった性格が、あまり濃厚でないことである。精神と自然との分裂はもともと日本には無く、シナ文化の影響によって分裂現象を生じたのちでも、外国におけるような両極性が明瞭ではない。それはまた、貴族文化と庶民文化とが、はっきりした対立を示さない事実とも、関係づけて考えられよう。」

> 相当年季の入ったアホですから、とても一朝一夕には直らないでしょう。

どうもそうらしいですね。「制度」とか「法律」といったことばや概念そのものが、まだ輸入物を脱していないということでしょうか。たしかに、この2語に対応するやまとことばはなさそうです。

「人の幸せは自分の不幸を倍増し、人の不幸は自分の幸せを増やしてくれるような気がするんです」
「郵政、社会保険庁、教師バッシングなどは、政治がこういう庶民の気持ちを利用していると思います」

こういう人ばかりだと、管理する側は楽でしょうね。
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