Carry on!! ~旅のお供に音楽を~

アラカン過ぎてクラシックやオペラの旅が何よりの楽しみです。旅先で街の人たちと音楽談義をしたり、暮らすように旅したいです。

私のオペラノート68

2017年08月09日 | オペラ

          《待望のオペラ、レオ・ヌッチ出演の『椿姫』を観る》

 満を持して、というより随分気の抜けたころに、あれだけ感動したオペラのことを綴るとはわれながら信じられませんが、人生の一大事である引っ越しに追われたので、さすがにオペラノートどころではありませんでした。ですが、仕事に追われながらも念願だったあの感動的なヌッチのジェルモンパパの『プロヴァンスの海と陸(土)』を聴きに行くことが出来て、このアリアの場面では本当に泣かされました。   オペラに関心を持ったきっかけのひとつ、ディアゴスティーニ版のDVDゲオルギュー主演の『椿姫』を一気に観たことが今日につながるのですが、今回はヌッチも歳を重ね果たしてどんなジェルモンパパを聴かせてくれるのか、そして前回のハンガリー国立歌劇場公演でも同じ役のタイトルロールだった、デジレ・ランカトーレ(4人のタイトルロールの中で断トツの評価だった歌手ですね)を聴くことができるのでそれが本当に楽しみでした。それと何よりもパレルモ・マッシモ劇場という一度は行ってみたいオペラハウスの引っ越し公演ですからそれは何をさておいても行かねばならない公演だったのでした。オペラファンならば誰でも知っている『椿姫(ラ・トラヴィアータ)』の名アリアの数々、それでも毎回Liveの度に新たな発見と感動を呼び起こす不思議な魅力あるオペラを、ご覧になったファンの方々とずっと感動を共有したい!と思う素晴らしい公演となりました!!

          ☆2017年6月18日(日) 開演 15:00 東京文化会館大ホール

          ☆ヴェルディ 『椿姫』

          ☆出演 ヴィオレッタ:デジレ・ランカトーレ

              アルフレード:アントニオ・ポーリ

              ジェルモン:レオ・ヌッチ

              フローラ:ピエラ・ビヴォナ

              アンニーナ:アドリアーナ・イオッツィア

          ☆指揮 フランチェスコ・イヴァン・チャンパ

          ☆演出 マリオ・ポンティッジャ

          ☆演奏 パレルモ・マッシモ劇場管弦楽団・合唱団

          ☆オペラ難易度 A (音楽評論家・黒田恭一さんによるもの)

           鑑賞難易度 悲 中 (音楽評論家・加藤浩子さんによるもの)

 

     

            流石に佇まいが違う劇場です。一度はここで聴いてみたいです!!

 

 素人の私ですらLiveで5回は観ているこのオペラですが、本当に飽きることがありません。演出がひとつとして同じものはないということもありますが、やはり指揮者が違うと受け取る感動も随分と違いますし、ましてや私が超一流の歌手だと思っていて、この歌手のこの役を一度は聴いてみたかった!という思いがあるとまた別の感動に満たされて、夢をもう一度と足を運んでみたくなりますね。レオ・ヌッチは最初にミラノ・スカラ座で『ルイザ・ミラー』を聴いただけですが、コンサートや来日した時のファンとの集まりに参加する機会をいただいたことがあり、それですっかりその人となりにも魅せられてしまいました。ひとはヌッチの年齢を念頭に置いてあれは驚異だと言いますが、私は全盛期のヌッチの歌声は上記のディアゴスティーニ版DVDなどしか知りませんので、今がすべてと思って聴いていました。この日は決して本調子ではないようだったとの声もありましたが、『プロヴァンスの海と陸(土)』の一徹な父親の感情を強く表したかと思うと、次は自分の弱さも出して説得するような絶妙なコントロールは役者・ヌッチならではの真骨頂といえるのではないでしょうか。リゴレットの激しさともまた違った知性もうまく表現できる、まさに役者だわぁ…と感激ひとしきりでした。

 ヌッチの話ばかり書いてしまいそうですが、先ずは前評判の高かった指揮者のチャンパはオペラの達人たちもブログに書いていらした通り、出だしの静かな弦の波が本当に美しく揺らいで、そのあとイタリア感たっぷり(?)あのズンチャッチャのリズムをゆったり響かせて最初からわくわくさせてくれます。記憶が明確でないのですがどこかで一度聴いている指揮者のようですが、今回は記憶にしっかり残ると思います。何より音楽評論家の加藤浩子さんが今年の春のオペラ旅でアップされていた内容にチャンパはイタリアオペラ界の四天王の一人になるのでは、ということを書かれていましたので、それもあって指揮ぶりにも注目して聴き入ったわけです。最初の頃に合唱が入るところがばらついたりして、おやっと思いましたが緻密に修正を指示してまとまりのある演奏に変わっていくのが私にもわかりました。聴かせどころはゆったりと丁寧に鳴らしてくれます。だから、ぐっと胸に迫ってきたのですね。https://www.youtube.com/watch?v=jDWb56Z_NM0&index=8&list=RDEEAANmII_5s (コンサートでのヌッチの『プロヴァンス…』の歌唱ですが、やはり衣装を着けての歌声とは違うと感じますが、これはこれで少し若いころのつやのあるヌッチの歌声が楽しめます。

 そして、タイトルロールのデジレ・ランカトーレ。やっぱり病気があるという役どころにしてはいかにも健康的な見かけではありますが、歌や演技が良かったからそれで満足です。キンキンしていないですし、でもいろいろなヴィオレッタの声や演技が頭をよぎって、つい比べてしまうのが私の悪いくせ・・・やっぱり、デセイかなぁ・・・とか。でも、この役を得意としているランカトーレはにじみ出る明るさが却ってラストの悲劇を際立させて、なかなかやるものだわぁといっぱしに思ったのでした。’16に新国立劇場で聴いたベルナルダ・ボブロの地味なひっつめ髪のヴィオレッタよりも華があって私は良かったと思いました。

 

     

          やはりご当地歌手の強みを発揮されたようですね。

 そして、思った以上に感じたのがアントニオ・ポーリのうまくなったこと!!(いいのかしら私ごときがこういうことを言って・・・)新国立劇場で聴いた時にもそれほど悪い感想をあげておらず、「アントニオ・ポーリ覚えておきましょう」などと適当なことを綴っていますが、いや明らかに演技力も表現力全体もうまくなっていて実にアルフレードそのものでした。世間知らずなボンボンがだんだん誠実な一人の男性として成長してゆく、というような感じをうまく表していたと思います。この役を得意としていて、ちょっと出過ぎのような気もしなくはないですがちょうど同じころMETであまり好きではないプロダクションでアルフレードを演じていたマイケル・ファビアーノを聴くよりずっとらしくて素敵だと思います。やはり、オペラによってはラテン系の歌手の方が断然有利という気がするのは相変わらずの石頭の私だけの感想かもしれません。

  

     

     アントニオ・ポーリは11月の新国立劇場でもまたアルフレードを務めるそうです

 

 改めて、椿姫』は一番大好きなオペラだと思いました。そして当たり前のことですが、ヴェルディはやっぱり偉大です!!             理想のプロダクションはディアゴスティーニ版のものでアルフレードがポーリでジェルモンパパはヌッチで決まり、そしてヴィオレッタは?今回のヴィオレッタの最後もまた泣けましたが、演技力ではデセイを超える歌手にはまだ出逢っていないと言えそうです。ですが、このオペラはまた観ることになると思うので理想のキャスティングはしないでおきましょう。それにしても衰えを知らないヌッチの歌声ですが、ここ数年日本に来るのがしんどくなっているような印象を受けます。コンサートやワークショップも回避したり関西でのサイン会もしなかったり、と。長く歌い続けてもらうためには無理をしないでヨーロッパだけで活躍することになっても、その元気な姿を見せてほしいと願っています。

☆いつも勝手に師匠と思って勉強させてもらっている草間文彦さんのブログです。http://provenzailmar.blog18.fc2.com/

 

☆そしてこのところ平凡新書『音楽で楽しむ名画』などの著書で大絶賛されている音楽評論家の加藤浩子さんの楽しくためになるブログはこちら http://blogs.yahoo.co.jp/borosan14/31879879.html