Carry on!! ~旅のお供に音楽を~

アラカン過ぎてクラシックやオペラの旅が何よりの楽しみです。旅先で街の人たちと音楽談義をしたり、暮らすように旅したいです。

私のオペラノート101

2022年04月14日 | オペラ

         《新たな気持ちで101本目のノート『ばらの騎士』を観る》

 昨年末に久々に家族と観た『マイスタージンガー』がことのほか良かったので、また新国立での鑑賞の機会を待っていたら、これまでオペラのことを殆ど指南してくださっている音楽評論家の加藤浩子さんからレクチャー付きのオペラ鑑賞(『ようこそオペラ』シリーズの4回目で私は2回目の参加です)にお声をかけて頂きました。それで、本当はライブでは初めて観る演目、というオペラに絞って観てゆく、という原則を一旦さておいて、11年ぶりにこのオペラを聴きに行くことにしたわけです。『ばらの騎士』はカルロス・クライバーがこよなく愛していたオペラとして有名で、私もそのCDやDVDの印象が強いのですが、2011年の12月にウィーンの国立歌劇場で観て以来の、あの大好きなオットー・シェンクのプロダクションに引けを取らない舞台となるのか興味津々、やや心配なところもありながら出かけました。

 コロナ禍にあってこのプロダクションも海外からの主要なキャストがキャンセルで日本人歌手がカバーすることになってしまいましたが、要の元帥夫人役でアンネッテ・ダッシュだけは来日を果たしてくれたのがものすごく楽しみでしたし、事前に映像を駆使して解説をしていただけるので、より鮮明にオペラの輪郭が掴めることがなにより贅沢な鑑賞方法だと、お洒落なマスクに不織布マスクで我が身の心構えもばっちり二重に対策して出かけていったのでありました。

      ☆2022年4月9日 14:00(土) 開演 新国立歌劇場

      ☆リヒャルト・シュトラウス 『ばらの騎士』全3幕

      ☆出演 元帥夫人:アンネッテ・ダッシュ

          オックス男爵:妻屋秀和

          オクダヴィアン:小林由佳

          ファーニナル:与那城 敬

          ゾフィー:安井陽子

          マリアンネ:森谷真理

      ☆指揮 サッシャ・ゲッツェル

      ☆演出 ジョナサン・ミラー

      ☆管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団

      ☆合唱 新国立歌劇場合唱団

      ☆オペラ難易度 B (音楽評論家・黒田恭一さんの著書によるものです)

 まずは今回の新国立劇場のプロダクションをダイジェスト版で知ることが出来ました。https://youtu.be/ZjDq5p4czM (出演者は今回とは違います)新国立のプロダクションもかなり美しい舞台だということが判るかと思います。

 

         

       ドレスデンで初演されたR・シュトラウスの一番解り易いオペラ(個人的見解です)

        

 頓珍漢なオペラノートを綴る私でも、R・シュトラウスが名前が同じだからと言ってあのワルツ王、ヨハン・シュトラウスと親戚でもなんでもないことは最近は良く解っております(最近まで怪しかったすが…)ですが、このオペラの台本を書いたフーゴ・フォン・ホーフマンスタイルについては前のオペラノートではかすりもしなかったと思います。ですから、今回のレクチャーでホーフマンスタイルが『ばらの騎士』について画期的な台本を書いた、それが小説のように美しい文脈で書かれていた、ことを知ればまた別の観方もできることを知りました。なぜなら、オペラの台本は通常”オペラ台本作家”によって書かれていたので、たいてい「愛だ!復讐だ!!」みたいなお決まりの内容になってしまっていた、ということだからです。また、印象的なアリアが少ない、と思っていたことについても、元帥夫人が歌う場面もそれは”アリア”というより”モノローグ(語り)”なのだから・・・だそう。これみんな加藤浩子さんのレクチャーのお陰で知りえたことです。

 このようなことは今回の予習で使ったCDの全曲盤やDVD(両方とも大好きなカルロス・クライバー指揮1979年ミュンヘンのバイエルン国立歌劇場公演のLIVEのもの)では学習しきれませんでした。ですので、レクチャーを受けて一つの演目について深堀することも大切だと痛感しました。CDについては日本語の対訳がついていないものでしたので、新たにカール・ベーム指揮、ウィーン・フィルのCDも加えDVDの解説といただいたレジメで補足しながら書いています。そしてこの私のお宝のDVDは今やYouTubeで全編同じものを観ることが出来ます(日本語字幕付き!!)ので、クライバーの優雅な指揮による、(晩年は頑として他のオペラは振らなかったのは何故か)ということを知るためにもこのオペラの全編を残しておこうと思います。https://youtu.be/nHSNPbZiwI

また、YouTubeにはカルロス・クライバー指揮のウィーン国立歌劇場のプロダクションの動画もアップされています。ウィーン版ではオクタヴィアンがアンネ・ゾフィー・フォン・オッター、ゾフィー役はバーバラ・ボニーが務めています。この二つをたっぷり観比べるのもまた『ばらの騎士』を知る近道かと思います。クライバーはウィーン・フィルが大好きなオーケストラだったようです。(ウィーン版には残念ながら字幕が付いていません)参考までに第1幕だけ添付しておきます。https://youtu.be/omFIvIqDhWo

 第1幕目は元帥の留守中に若いオクタヴィアンという青年貴族といわば不倫中、のシーンから始まります。これはウィーン以外の舞台では観ていませんので、ドイツ各地の歌劇場ならばもっと過激か現代的な設定に読み替えられていると思いますが、全体にトーンの明るい舞台ですので、そんないやらしさは感じません。オクタヴィアンへの想いは変わらないけれど、自分の年齢やおかれた立場を想うとその関係が危ういと思いながらの関係が続いていて、これはそんなに長続きはしないだろう、とも思っていますそれがずっと『元帥夫人のテーマ・・・』とか、解り易いアリアとして歌われないのでちょっとだれる、というか眠気が来るところはあります。それにしてもアンネッテ・ダッシュはさすがの安定感ある歌唱で衣装が良く映え美しい立ち姿です。ベルリンで10年前に観た『偽の女庭師』の女子高生のような若々しいコスチュームとは違い、元帥夫人、という役を身にまとってさすがの歌唱でうっとりしました。オペラグラスもってゆくべきでした。

 重要な役どころのオックス男爵はいい狂言回し役となって話を面白くしてくれる存在なわけです。そのオックスももっぱらモノローグ的な旋律で、歌い続けます。このあたりが素人には辛抱のしどころではあります。 この公演でもピンチヒッターと言っては失礼過ぎる日本を代表するバス歌手妻屋秀和がそつなく、おもろいおっちゃん的動きで舞台を楽しくしてくれます。(でも、そろそろなんでも妻屋秀和、というキャスティングでしのがなくても、他の歌手にもチャンスを与えたらいいのにと思いますが(これも素人の遠吠えです)実際はやはりこの人しかいなかったのだろうなぁ、と納得するのも事実なわけですが。

オクタヴィアン役はいわゆる女性(メゾ・ソプラノ)が務める”ズボン役”というものですが、これもキャスト変更で役を得た(これもとても失礼な言い方ですね。何しろ外国人歌手に歌ってほしかった、と思う役なので)メゾ・ソプラノの小林由佳が力を発揮して見応えのある歌声と動きでベテランのアンネッテ・ダッシュの元帥夫人と渡り合っています。もっと華奢な声かと思いきや、芯の通っている声でこれは良かったかと嬉しく思いました。私のノートを辿ってみると2017年の『椿姫』でフローラ役で出演していました。日本人歌手のことを頑として認めない部分がまだあり、あまりこの歌手を認識していないのです。申し訳ない限りです。

 このオペラはアリアらしいアリアがない、と書きましたが、唯一よく耳に残って知られている曲の一つは毎朝元帥夫人に謁見に来る一団の中の、”テノール歌手”の歌声CD9番目のアリア『厳しく武装せる胸もて(厳しさに胸をよそおい)』はちょっとしか登場しませんが、観ている人をほっとさせる歌ではあります。気が付けば東フィルの音はいつもその歌や登場人物の動きにふんわりとまとい続けています。カルロス・クライバーにばかり洗脳されて、今回の指揮者サッシャ・ゲッツェルにあまり、というかほとんど関心を持って聴いていなかったので、少しこのあたりで軌道修正、音にも集中することにしました。

 ということで、お話はオックス男爵の若い婚約者への使者として使わされことになった、オクタヴィアンへの切ない感情を秘めたまま、元帥夫人がいずれは身を引いてゆくであろうことを胸に刻み込みながら歌うCD10番目の『また来たのね(時のモノローグ)』がなんとも切ないメロディを奏でるのでした。

 わかったようなわからないような第1幕が思ったより早く終わってしまい、やっぱり、ウィーンのオットー・シェンクのプロダクションの方がいいわぁと、ない物ねだりな感想を持ったまま第1回目の休憩となりました。今公演よりテラスを使っての軽食やアルコール飲料の販売も再開され、(ホワイエでは飲食禁止のまま、おしゃべりも控えて、のプラカードを持って見回りされて、相変わらず感染対策きっちりしています)ひとりで参加の私は手持ちのおやつを口に入れ、SNSの情報をシェアして早々に座席に戻りました。同じ列には3年前にルツェルンに行った旅仲間の方々もいらっしゃいましたが、マスク姿のお互いを認識できないのか「どちらのご旅行でご一緒しましたっけ?」と聞かれ、「そりゃぁないでょ・・・」と拍子抜けしていじけた私は、だんまりを決め込んで次の幕に備えて目を休めることにしました。 

   

       

       上から元帥夫人のアンネッテ・ダッシュ オクタヴィアンの小林由佳

          ゾフィー役の安井陽子 そしてオックス男爵役の妻屋秀和です

 

 さて、第2幕目はいよいよ『ばらの騎士』オクタヴィアンが使者として銀のバラをオックス男爵の婚約者ゾフィーに届けに来て、運命の出逢いとなるのですが、そのゾフィーの登場シーンで私はまた悪い癖がでてしまい、どう見てもあの中央の椅子に座っているこの娘は、ゾフィーか?どうみても小太りのおばちゃんじゃない…と落胆してしまったのです。丸顔のぽっちゃりしたゾフィーを観るのは初めてなので、かなりのがっかり感に襲われて、その声に集中出来ません。ここからが第二幕の聴きどころ、恋に落ちるシーンの旋律が美しい!!、と言われていたのです。オクタヴィアンとゾフィーが一目で惹かれ合い『銀のばらの音楽』から二重唱『目に涙を讃え』へと音楽が高まってゆくのですが、どうしても邪念が首をもたげてささやいてきてしまいました。やっぱり、ここはモイツァ・エルトマンとかルチア・ポップとか華奢なソプラノの外国人で聴きたかった、というのが正直な気持ちでした。ならば海外で観なさい!という声もごもっともですし、「歌が良ければそれでいい、余計なことを言うな!」というファンの方の気持ちもわかります。それでももう少し世の中には見た目から入るオペラファンになる人もいるのだということを考えてキャスティングしてほしいと、その想いにとらわれてしまった私でした。冒頭に新国立のダイジェスト版をアップしていますので少しは私の気持ちも解って欲しいのですが、YouTubeのバイエルン版で観ると1時間30分過ぎにオクタヴィアンが使者としてやってきてゾヒィーと歌い上げる美しい二重唱がありますので、そちらでその美しい二重唱を聴いておこうと思います。はい、日本人歌手たちの大健闘は讃えます、が。https://youtu.be/nHSNPbZiwIo

 でも、この日二重唱をよく聴いている中であることに気が付きました。優しく歌いあげるその太めの丸いゾフィー(いつまで言うのか)のドイツ語が一番丁寧で、歯切れがよく美しく響いているのです。あの子音をシュッっと響かせるドイツ語の発音です。養育係や父親たちと歌っている声にも注意して、私の難聴気味の耳をそばだててみても、彼女の歌声のドイツ語だけが実にクリアーに歌われていることに気が付きました。はい、毎回申しますが私はイタリア語もドイツ語も英語も満足に話せません。が、しかしかつて藤村実穂子さんがドイツ語の子音まで神経を研ぎ澄ませて歌った時に、それがきれいに耳に入ってきて、まさしくこれはドイツ語のオペラだ!!と認識できたことを思い出したのです。その言葉を丁寧に発してゆくということをしているこのゾフィーも、丸いけど、身体のぽっちゃりさはおばちゃん臭いけど(くどい!)清潔感ある可憐な乙女という感じがしなくもないじゃないの、と私の心が丸く収まってきたのでした。そう思い込めばスリムなオクタヴィアンと急速に惹かれ合っての二重唱が続いても決して我慢がならないほどのことではないかと。ここはそつのない演奏を続ける東フィルと指揮者の派手さはないけれどシフォンケーキのような甘い演奏のお陰で落ち着きを取り戻してゆきました。 

 第2幕は後半ドタバタなので展開が早く「このオペラはオックス男爵も含めて、オペラブッファか(笑)・・・」と思わせるようなものでしたが オックス男爵が歌うこのオペラ唯一のだれしも解るフレーズ『オックスのワルツ』を耳にすると、たちまウィーンの香りがしてきます。私はお調子者のオックス男爵の歌うワルツがこのオペラでは一番耳馴染みがよいせいか好きです。ワルツとウィーンはやはりぴったりとしか言いようがないですから、素人にはとても心地よい旋律に決まっています。残念なのはオックス男爵がオクタヴィアンともめて傷を受けた後、酔っ払って調子がよくなり、召使のマリアンデルから恋文を貰って上機嫌になって歌う7番目のアリア『オックスのワルツ(こんなことになってしまった・・・)』がこのオペラの最大の聴きどころ、バス歌手の聴かせどころの低音部で終わるのですが、オックス男爵の妻屋秀和の最後のオクターブ下がる音が下がり切れず、伸ばしきれず歌声が切れてしまいとても残念でした。毎月出番があって新国立の男爵様もお疲れが出たのかもしれないです。その嫌なオヤジのオックス男爵には似合わない美しい『オックスのワルツ』をクライバーの優雅にワルツを踊るような指揮ぶりで!!(動画の2時間11分あたりからです。しつこくシェアしておきます。やっぱり未練がましいか)https://youtu.be/nHSNPbZiwIo

 第2幕が終わり本日二回目の休憩。前回のワグネリアンおじさんたっぷりの客席と違い、少し華やかな感じです。テラスもシャンパン飲んではマスクをかけて話す、といった光景も対策をして復活となっています。私は脳細胞の疲れをいやすために持参のチョコを頬張り、水分補給して再び客席へと戻りました。そのあとは1幕目と違い、元ツアーのお仲間のお姉さま方ともしばし声を潜め懇談、話題は「次、海外に良くご予定は?」ということでしたが、私以外は既に目的地を定め予約をいれているのだそうな。バーデン・バーデンとかヨーロッパ各地に思いを馳せているとのこと。私にはその話題を振ってこなかったので話しませんでしたが、私も家族と行くならばウィーンかな、と思っています。やはり、このオペラのようなオットー・シェンクの演出で陰影の深いウィーン国立歌劇場でのオーソドックスなオペラをもう一度堪能してみたいです。えぇ、そうしてみますとも!!

 あぁ、長い。私のノートはどうしてこうもくどいのか。これを全部他のブログに移すのは一大仕事となるでしょう。でもこのテンプレートも選べなくなったブログからは移さないと気持ちがハイパー維持できないでしょうね。でも、内容がこの程度ではこれで十分という陰の声もありますが。これから観るオペラの本数はぐんと少なくなりますのでまずはこれまでの100本分のノートをデーターとして残そうと思っています。

 第3幕目はこれまでと違い導入部に変化を匂わせるテンポの速い音の展開となります。舞台も大筋では変化がないのですが、いつものように大きな壁面を移動させて場面転換し、居酒屋?連れ込み宿?ふうに仕立ててあります。私はいつも新国立劇場に行ってオペラを観ると思うのですが、大胆で斬新な舞台づくりをしていて、世界のオペラ劇場に引けを取らない本当に美しい舞台が多いと思うのですが、もう少し照明を抑えるか照明の色調を変えるといいのにと思います。目を凝らしてみる、ぐらいの暗さの舞台ですが、これもウィーンでの薄暗い怪しげな居酒屋、という場面が印象深く頭にのこっているからなのでしょう。

 さて、最後はオックスが若い婚約者がいながら元帥夫人の召使い(と思っているが実はオクタヴィアンがマリアンデルの格好をしている)をくどこうと企んでいるところから始まります。ですが、ここからはオックスを懲らしめるためのオクタヴィアンの仕掛けが次々と出てきます。お化けやらオックスの子供たちだと言って引き連れてくる女やら、とっちめられて可哀そうなオックス男爵ですが、ここは経験値豊富な妻屋秀和の軽妙な動きがこの場面を盛り上げます。オペラブッファと言ってもいい、と思ったのはこの場面があるからです。ここでも『オックスのワルツ』がモチーフとしてふんだんに流れます。滑稽さと哀れさが漂う場面がオペラとして楽しめてとても好きです。

 ドタバタの挙句オックスは退場して、その場を収めるために現れた元帥夫人が再び登場。この時のアンネッテ・ダッシュの動きと歌唱が実にエレガントで横の立ち姿が凄く美しくて感激しました。大枚はたいてレクチャー付きのオペラに来て良かったぁ、と思った瞬間でした。(そこか!)そして元帥夫人はオクタヴィアンとゾヒィーの想い、関係に気づいて身を引く決意をするのでした。ここからが第3幕の聴きどころの三重唱CD8番目の『私が誓ったことは』が歌われます。元帥夫人が2幕目登場しませんので、この場面で歌うシーンを背筋正して待っていました。ここはやはりDVDと同じキャストでの動画がありましたのでそれを紹介します。グィネス・ジョーンズとブリギッテ・ファスベンダーのオクタヴィアンとルチア・ポップの過去最大の歌姫たちの三重唱です。これは本当に美しい三重唱の中の三重唱だと思います。 https://youtu.be/0O1ck18wbyo

 新国立版のはやはり元帥夫人の心情からすると、もっと陰影がある舞台だと雰囲気も高まったのではと思い聴いていました。(白内障の目には明るすぎる、だけのことかも)この作曲家のR・シュトラウスはモーツァルトをこよなく尊敬していたそうで『フィガロの結婚』をイメージしてこのオペラを作曲したということですから、その点からすれば明るさのあるしめくくりはフィガロ的ドタバタ劇とも言えてこのプロダクションの明るさ通りなのかもしれません。    そして、元帥夫人が去った後で歌われる最後の二重唱CD9番目の『夢なのかしら』で終わりを迎えます。でも、最後の最後に小姓(ウィーンでは黒人の子供、が扮していました)が忘れ物を拾いに来て・・・という演出はそのまま引き継がれていて、ウィーンのワルツの余韻を残しつつの小粋な終わり方でした。あぁ、やっぱり来て良かった『ばらの騎士』

 この日もカーテンコールもそこそこにダッシュで劇場をあとにしました。感染対策を万全にしているとはいえ、何千人もの人が一斉に退場するのはやはりまだまだ怖いのです。余韻は上記の動画でまた浸ることにします。ちなみに前にもシェアしましたが、新国立劇場には視聴覚室で画像(録画)を観ることが出来ます。今回のレクチャーで加藤浩子先生が解説で使われたのも2007年からのジョナサン・ミラーのプロダクションでした。コロナ禍ですのでこちらを観たい方は事前に確認をしてから行った方が良いかと思います。

 最後に、予習に使ったCDについて残しておきます。人生最大の断捨離でも手離さなかったクライバーのCDとDVD、そして図書館から借りて来たカール・ベームのCDともにこのワルツの演奏はどちらも流れるように美しく、うっとりと聴き入ってしまいます。オペラが苦手でわけわからん!という方にも、せめて『バラの騎士』のCDは一度聴いてみてほしいと思います。『加藤浩子と行くイタリア歌劇場めぐり』のツアーでご一緒したご夫妻の奥様の方が「私はこの『ばらの騎士』を聴かせながら子守りをしていたのですよ」との言葉が今でもわすれられません。お育ちの違いはもういかんともしがたい羨ましくも驚愕のエピソードです。

       

      

        これが大好きなカルロス・クライバーのライブ盤です、もう断捨離します

          https://item.rakuten.co.jp/naxos/c581083dr/

オペラノートと称しながら、音楽的要素が少しも書けない私にとって、楽しみは素敵な歌手たちの歌声をYouTubeで拾って、探して聴くことです。今回唯一の海外からのゲスト歌手、アンネッテ・ダッシュは本当に来日してくれてありがとうという気持ちですので、彼女に敬意を表して私が楽しんでいる『ベルリン・フィルのデジタル・コンサートホール』に出演した時の歌声を紹介しておきたいと思います。ベルリン・フィルの代表的アンサンブルの一つ、『12人のチェリストたち』のゲストで『ラヴィ・アン・ローズ』を歌っています。https://www.youtube.com/watch?v=B7iwJB4fRSU

       

 


私のオペラノート100

2021年12月02日 | オペラ

           《オペラLive100本目を迎えました!!》

 2011年に生まれて初めて観た海外でのオペラ鑑賞がきっかけで、なんとなくオペラが好きになり、音楽評論家の黒田恭一さんの音楽番組でパヴァロッティの『カルーソー』を聴いた辺りから私のオペラへの興味が深まりました。それ以来、手当たり次第に海外へのツアーなどで観始めました。  その後、2013年にどうやって見つけたのか定かではありませんが、音楽評論家の加藤浩子さんが同行される、郵船トラベルの『イタリア歌劇場めぐり』のツアーに参加したのをきっかけに、先生が講師を務めていらしたオペラ講座(現在は学習院の『さくらアカデミー』)でレクチャーを受けるようになり、個人的な旅のお供にもオペラ鑑賞を加えるようになりました。

 ですが、好きと解るとは離れすぎている素人の域を出るには、やはり音楽的要素が自身に備わっていないと無理ということは、このノートを書こうと思い立った時から現在までも変わりがありません。やれ、コロラトゥーラだのカンタータだの音楽用語を少しはちりばめればそれらしきオペラ愛好家のノートになるかも、と考えた時期もありましたが、所詮は付け焼刃、しったかぶりほどいやなものはありません。

 それで、途中から「もし、音楽的に素人の人が旅先でオペラでも観てみようか、と思った時に、どんな演目を選んだらいいか」とか、「その劇場に行くにはどうやって行ったらよいか」「劇場でチケットを買うのは?」「休憩時間の楽しみ方」など、かつて大好きな音楽評論家の黒田恭一さんがその著書『ぼくのオペラへの旅』で書いていらしたような、安心鑑賞ガイド的なものが楽しい、と思ってなるべく動画の情報など今だからこそオペラ的な要素を加えるようにしたのでした。

 ヤフーの今は削除された『私のオペラノート1~16』やgoo blogに移ってからの何年かは、かなり過去の演目をプログラムを頼りに書いたため、ほとんど主観、しかも音楽性ゼロの内容ではありますが、途中からはだんだんと身の程をわきまえた(それでも達人のブログに寄りかかっていたものもあるけど…)オペラを一度は観てみようかという人には足がかりになったかなぁ、と思います。

 ということでめでたくオペラLive100本目となった『私のオペラノート』の作品、ワーグナーのオペラ『ニュルンベルクのマイスタージンガー』全部観きれたかどうか、いざ、歌合戦へ!!

       ☆2021年12月1日(水)開演 14:00 新国立劇場オペラパレス

       ☆リヒャルト・ワーグナー 『ニュルンベルクのマイスタージンガー』

        全3幕 (休憩30分が2回、全部で約6時間!!)

       ☆出演 ハンス・ザックス:トーマス・ヨハネス・マイヤー

           ファイト・ボーグナー:ギド・イェンティンス

           クンツ・フォーゲルゲザンク:村上 公太

           ジクストゥス・ベックメッサ―:アドリアン・エレート

           ヴォルター・フォン・シュトルツィング:シュテファン・フィンケ

           ダーヴィッド:伊藤 達人

           エーファ:林 正子

           マグダレーナ: 山下 牧子

           ハンス・フォルツ:妻屋 秀和

           夜警:志村 文彦

       ☆指揮 大野 和士

       ☆演奏 東京都交響楽団

       ☆合唱 新国立劇場合唱団、二期会合唱団

       ☆演出 イェンス=ダニエル・ヘルツォーク

       ☆オペラ難易度 C (音楽評論家・黒田恭一さんの

              著書によるものです)

       ※個人的見解としては B に格上げしたいです!面白かった!!

 

   

       今回は予習の力を信じて、敢えてプログラムを購入しませんでした

 

 さて、今回のプロダクションが上演されるには私が書くまでもなく、何度もコロナ禍で上演が中止となり、私自身も’21夏のチケットは『おけぴ』でようやくゲットしたのに、それを返金処理やら譲ってくださった方とのやり取りなど手間がかかったので、今回の公演が実現にこぎつけたことは本当に嬉しいことでした。     私ごときの感慨よりも、公演にかかわった人たち、海外から何度も足を運んでくれた歌手の皆さんに、心からのねぎらいの言葉と、感謝の言葉を公演中もずっと唱え続けていました。

 今回、予習として聴いたのはサヴァリッシュ指揮のBRの全曲盤とバレンボイム指揮の”バイロイト音楽祭”のプロダクションによる全曲盤でしたが、これがすごく聴きごたえがあり、結果的にもバレンボイムの前奏曲などの鳴らし方にとても共感できました。100本目のオペラとして何としても生で聴きたかったので、このCDの前奏曲を何度も聴いて、脳にしみこませておきました。                  都響の前奏曲はマエストロ大野和士とのしっくりと安定感のある演奏でしたが、比べてしまうと後半に繰り返される冒頭の有名なフレーズに関してはバレンボイムの指揮が、重みがありたっぷりとしているのに対して、やや淡々とさらりと鳴らされているように思えました。

この重要な前奏曲に関して、全体のリハーサルやゲネプロの様子とともに動画がアップされていますので、それとバレンボイム指揮の音源を試聴できるサイトがあります(PCでは視聴不可ですのでググるしかありませんが)また、このCDは公立の図書館などでリクエストすると手にして楽しむことが出来るので、そちらをお薦めします。

新国立版(ザルツブルク、ザクセン、東京文化会館との共同プロダクションの新制作です) これは舞台の色彩もよくわかり、『マイスタージンガー』の輪郭を掴みやすいありがたい動画です。https://youtu.be/Ni1U0lqO0S0

 

        

 第1幕が開き、舞台全体は落ち着いた色彩で、突拍子もない読み替え演出の多いザルツブルクとの共同制作ということなので、演出も現代的でコスチュームや舞台装置なども意味不明になるのでは、と思っていましたが、違和感なく観ることが出来ました。背広姿のマイスターたちが劇場の客席に集まって新しく歌を披露したいヴァルターを待つ、設定です。

幕開けから始まる新国立合唱団も変わらず安定感がありますし、今回は二期会の合唱団も加わりより厚みを加えていました。ただ、どうしても”感染対策”のためにどのオペラも合唱団の立ち位置が同じ感じになってしまうのは仕方がないけれど、ちょっと音が束にならない分つまらないか・・と。『主は汝のもとに来たりて』なかなか美しいです。

 思わぬことで収穫だったと思ったのは、ヴォルターやザックス親方に絡み、結構な分量で歌を聴かせる徒弟のダーヴィット役 伊藤達人です。ワーグナー歌手のテノールにはフォークトのようにトーンの明るい歌手がいるのはわかりますが、この歌手もその明るさと茶目っ気のある表情がとてもチャーミングなテノールで、主役たちと堂々と歌い合っているのが、その後の彼のマイスターへの道を示しているようで先が楽しみになりました。意外だったのはいつも準主役級、或いは主役で出てくる妻屋秀和が脇にいたことですが、パンフをみればカヴァーとしてボークナーを歌う用意もしていたようですから、やはり何でも歌える実力者なのだということを改めて納得しました。

 ワーグナーのオペラに”あらすじ”を書くのは必要ないと思いますが、今回の『マイスタージンガー』はとても観て、聴いて解り易いと思います。最初にボークナーの娘エーファ(ドイツ語の訳ではエヴァ、となっています)に恋したヴォルターが、勝者に娘を嫁がせる、というオーディションを受けるのも落ちてしまい、ザックスの教えを受けて再度挑戦する、そして・・・ということなのですが。

 このオペラ最大の聴きどころのアリアはそのヴォルターの『朝はバラ色に輝きて』が知られています。第1幕では未完成のまま披露されて落選となってしまいますが、そのヴォルター役のシュテファン・フィンケは少し声が疲れているのか初めの頃は精彩がないように思いました。千秋楽でもあり万全を期して前半はセーブしていたのかもしれませんね。ザックス親方のトーマス・ヨハネス・マイヤーも落ち着いた響きでじっくりと聴かせてくれます。日本ならではなのかもしれませんが、演出にも小ネタを仕込んで舞台上にしつらえた客席を移動するたびアルコール消毒をしたり、長くなるであろう舞台をクスリ、と笑わせることをしたり、飽きさせません。また、ベックメッサ―役のアドリアンがなかなかの役者で笑かせてくれて、こんな楽しくワーグナーものが観られるとは思ってもみませんでした。

           

エーファ役・ソプラノの林 正子さんがスタイリッシュで抜群の安定感 そして小芝居うますぎベックメッサ―のアドリアン・エレート (新国立劇場のお写真から拝借しました) 

 

 ということで、第1幕が終わり休憩30分の間は外の空気を吸いながらおやつタイムです。喫茶のコーナーもドアの外に設置されて提供されています。5年ぶりに一緒にオペラを観に来ている家族によると、座席の周りはワグネリアンと思しきオジサマばかりで、連れの方にタブレットの楽譜を見せながら解説している人がいるそうな。私は先に座席を取っておいたので同じ3階の別席だったのですが、やはりお隣はワグネリアンのオバサマでザルツブルクにもよく行かれていたそうです。              全体的に舞台を観られるこの階は好きなのですが、やはり高いところはちと怖い。どうしても観たいオペラは4階の最前列、という時もありましたがこちらは早めに座席に着かないともっと落ち着かないのでこの頃はなるべく3階までの席で、座席は新国立のWebサイトで取るか、直前にありがたいサイト『おけぴ』で探すことにしています。

 はい、またまた寄り道が長い休憩話でした。

  第2幕は親方ザックス、その徒弟ダーヴィッド、ヴォルターの歌の審査の結果が気になるエーファ、そして何とかしてエーファを得ようと画策するベックメッサ―、ダーヴィッドの恋人マグダレーナが人間模様を歌いあげてゆきますが、この間の舞台が両端の劇場への入り口の柱はそのままに、中央の場面が回り舞台によって、シーンが変わり効果的に展開して行って、本当に飽きさせない演出となっています。    

余談ですが、以前に観た新国立の『セビリアの理髪師』の時は舞台の回転と展開が速くて本当に目が回るようでしたので、今回も舞台が回りだしたとき心配したのですが、歌手たちの動きも滑らかで、またそれをサポートする黒子たちも机をアルコール消毒したりと、感染対策万全に、ダーヴィッドたちが躍る場面では、手さえ触れない徹底ぶり、でもそこまでしなくてもいいんじゃないの、ではなくむしろ今時のオペラだわぁ、と健気な演出ぶりに感心したのでありました。

 それにしてもザックスにリュートを弾きながら、自作の歌を何とか認めてもらえるものにと画策したり、ザックスの詩を盗んでまで歌合戦の勝利者になろうとするベックメッサ―を見ていると、これはもうワーグナーの喜劇、(そう書いてある劇評もありました)というぐらい愉快で芸達者な歌手です。   長いけれど聴きごたえ、見応えたっぷりで本当に飽きなかったです。(余計なことながら、開演前に劇場の外で待っていたら、ザックス親方がコンビニで食料を買出しに行って戻ったところに出くわしました。「こんなさなか本当によく日本に来てくださいました」と感謝の言葉を言いたかったですが、出待ち禁止、楽屋見舞い禁止だそうですので心の中でお礼をいいました)

 二回目の休憩も外の空気を吸いに出ましたが、それほど風も冷たくなくてパティオから見上げるオペラシティの夜空がとてもすがすがしかったです。長丁場と思って沢山おやつを用意しておきましたが、気持ちが満足・満腹なので少しも空腹を感じず、何とかフィナーレまで行ける、と確信して座席に戻りました。私は今回だけの措置かわかりませんが、座席に備えてある『エアウィーブクッション』でも時折尾てい骨が痛くてもじもじしたり、のど飴を口にしたりしましたが、隣のワグネリアンオバサマは第3幕も微動だにせず聴き入っておりました。やはり、私などとはオペラ年季が違う筋金入りの方でした。

 第3幕は前夜のドタバタを経てヴォルターがあのアリアを完璧なものに仕上げ、それで歌合戦に再挑戦するまでが歌われます。ベックメッサ―に手ほどきをしたと見せかけて、ザックスはヴォルターがエーファへの想いを歌にして口ずさんだものを褒めたたえます。そしてあのアリアが完成するのでしたが、ここのところの背景の樹が書割?あっさりとした手描きの絵なのには拍子抜けしましたが、ともかく、ザックスはその証人とするため徒弟のダーヴィッドを職人に格上げし、舞台はフィナーレの歌合戦の会場である劇場へと移ってゆきました。このところの第8曲目『私はバラ色に輝いて』から完成した第10曲目の『朝はバラ色に輝きて』へ向かうと、第1幕目にテノールの声が持つのかしら、と心配していたところも丁寧に歌い上げて、コンビニで腹ごしらえしたザックス親方ともども、ドイツ語話せる人のドイツ語はやはり素晴らしい、ワーグナーのオペラだわという感動をもたらしてくれました(?)本当に家族とこのオペラに来られて良かったと心底思いました。そんなオペラは滅多にありませんから。

     

  

       上が何の木?というセットで、下が名調子のザックス親方の歌唱ぶりです

 

 それでは何とかYouTubeで見つけたこのオペラの名アリア『朝はバラ色に…』のアリアをここに残しておきましょう。https://youtu.be/tfw1_7h98HM

 

 何とか無事千秋楽を迎えられた劇場の方々、出演者の皆様に感謝しつつ、いつものように早めに座席から脱出し家路へと向かいました。満足したのでもう満腹気分で少しもお腹が空きませんでした。ちなみにこの夏に上演する予定だった上野の文化会館があるJR上野駅の発車の音はこの『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の音だそうです。聴きたいですよね?https://youtu.be/rrx6TKxk2AU

 そしてダメ押しで実際のハイライトシーンがアップされていますので、それも残したいと思います。出だしが第3幕からとなっていますが合唱の素晴らしさと、公演の成功の模様は十分伝わると思います。大野和士マエストロ率いる都響の『マイスタージンガー』もう、泣けちゃいますよ。https://youtu.be/Yebm105trtQ 

 私は新国立劇場を絶賛応援中です!! 

 あぁ、いつにも増して長いオペラノートとなりましたが、これまでの中で一番早く書き上げました。それが今回のオペラの素晴らしさを物語っていると言えるのではないでしょうか。

 久々、最後に専門家の劇評はこんなに文章が美しい、と思えたのでここまでオペラの何たるかを教えてくださっている音楽評論家の加藤浩子さんの本物のオペラノートをご紹介しておきます。https://www.facebook.com/100000483208898/posts/7332239940135373/

 


私のオペラノート99

2021年05月27日 | オペラ

        《新国立劇場応援『ドン・カルロ』を観る》

 前回のオペラノートで「これまで観たことのないオペラを観てゆく」と書いたばかりなのに、訳あってこれまでウィーンや引っ越し公演でみた『ドン・カルロ(カルロス』を観ることになったのですが、これは、コロナ禍にあり苦境を強いられている歌劇場や旅行会社の支援になれば、とのことで、新しいプロジェクトが立ち上がり、それにお誘いをいただいたということです。私のオペラ歴のほとんどはこの方のレクチャーなしには書けないし、語れない、というべき音楽評論家の加藤浩子さんたちが企画された『ようこそオペラ』のシリーズなのです。定員を40名に絞り、事前に『ドン・カルロ』に関する情報をシェアされてから良いお席を確保していただき鑑賞することが出来ました。加えて、一昨年に加藤浩子さんの同行ツアーでご一緒した旅仲間の方々も参加されるということで、”同窓会”も兼ねてのお楽しみもついていました。(次回は新シーズンの10月公演ロッシーニの『チェネレントラ』だそうです)←すでに満席とか。

    

         

                              表紙は地味ですが相変わらず中味は濃い内容です

   

     ☆2021年5月23日(日)14:00開演 新国立劇場オペラパレス

      ☆ヴェルディ 『ドン・カルロ』 イタリア語版 全4幕

      ☆出演 ドン・カルロ:ジュゼッペ・ジパリ

           ロドリーゴ:高田 智広

        エリザベッタ:小林 厚子

        フィリッポ二世:妻屋 秀和

          エボリ公女:アンナ・マリア・キウリ

        宗教裁判長:マルコ・スポッティ

          天よりの声:光岡 暁恵

     ☆指揮 パオロ・カリニャーニ

      ☆演出 マルコ・アルトゥーロ・マレッリ

     ☆演奏 東京フィルハーモニー管弦楽団

     ☆合唱 新国立劇場合唱団

     ☆オペラ難易度 C (音楽評論家・黒田恭一さんの著書

      『オペラへの招待』に記されている目安です)

 

 はじめに、このプロダクションは新国立劇場で3回ぐらい上演されているので“飽きた”という感想を持つ人もいました。それはさておき、私が一見して「色がない・・・」という感想を持ちました。これは『フィガロの結婚』でも感じたことですが、ヴェルディやモーツァルトにはもう少し明るい色があってもいいのではないかと思ったのです。二つのオペラともに人間模様が生々しい部分もあり、それは色によって実現できるのではと思ったからです。舞台の先端まで迫ってくるコンクリートの壁のようなものの真ん中に十字架のような切込みがあり、それが開いたりしてスペクタクルな感じを演出し、時に王の寝室だったり庭園での場面だったりと、凝った作りではありますし、解り難くはありませんが、私は前記のようにヴェルディのオペラにはやはりもう少し色が欲しいと。無機質、と、までは言いませんがあの圧迫感のあるコンクリートの壁は見ていて息苦しいと思いました。他のヴェルディファンの方々はどう思われたかは聞いていませんが、新国立劇場版のハイライトシーンがありますので、それで判断できるのではないでしょうか。https://youtu.be/qQP54LDswA4

さあ、いよいよ第1幕目です。と言っても解説によると本来の第1幕はカットされていて、いきなりドン・カルロがエリザベッタに振られて嘆き悲しんでいる様子からスタートします。本来ならば、ドン・カルロがエリザベッタに恋をしてどうしてその婚約者が自分の父親であるフィリッポ二世と結婚してしまったのか、が第1幕だったそうですがそれがカットされてしまっています。ですから、たいていは嘆き悲しみ続けそれでもエリザベッタを諦めきれない惨めなドン・カルロがいきなり登場してしまうということなのです。これまで3回ほどこのオペラを鑑賞していますが、「未練がましい男だわぁ」といつも思ったのはそのせいなのだ、と今されながら納得したのでした。

 何と言ってもこの第1幕聴きどころはドン・カルロとロドリーゴの二重唱と後半の合唱曲です。待ち遠しいのであまり印象のない前半を飛ばしましますが、いかにもヴェルディらしい高揚感が沸き起こる曲です。予習で使ったのはC・アバド指揮でドン・カルロがドミンゴ、そしてロドリーゴがレオ・ヌッチという豪華な顔ぶれのものです。(もう、声を聴いただけで上手い!!とうなります)新国立の顔ぶれはエボリ公女とドン・カルロ、宗教裁判長は海外から参加しましたが、肝心のフィリッポ二世役がキャンセルしてしまいましたので、どうなるか(前回観たウィーンや引っ越し公演のフルラネットを思い出しますから…未練がましいのはわたしか) 今回ピンチヒッターを務める妻屋秀和という日本ではトップクラスの歌手ですから、そこはきっと問題なく歌いきってくれるだろうと信じつつ待っておりました。

 そして、第2幕第1場の後半に最大のお楽しみのドン・カルロとロドリーゴの二重唱が歌われます。CD10番目『神よ、我らの魂に火が灯された』(『友情の二重唱』)これは本当に名曲だと思います。ロドリーゴのあまりの人柄の良さとアリアの最後に流れるオーケストラのフレーズ、五臓六腑に染みわたり、聴くたびに落涙しそうなほど感激するところです。そしてこのフレーズがモチーフとしてふたりの行く末を表すシーンに何度も流れてきます。その都度私はロドリーゴに同情して泣きそうになってしまうのです。今回のロドリーゴ役は日本人のなかでも最近実力を蓄えてきているといわれ、前回の『紫苑物語』で主役を歌って高評価を受けたバリトン歌手高田智弘です。今回もかなりの熱演で、海外の歌手にも引けを取らない力強い声の力と表現力で客席の拍手を受けていました。コロナ禍でありますからブラボーはありませんが、却って余計なところにタイミングの外れたブラボーがかかるより、気持ちの籠った拍手で私は十分だと思って、これからもそうあってほしいとロドリーゴの歌を聴きながら思ったのでした。ここでそのアリア、一般的には『友情の二重唱』といわれているものを、イケメンコンビ、カウフマンとホボロストフスキー(名前、合ってる?)がモスクワでのコンサートで歌った動画でシェアしておきます。(ほら、やっぱり海外の歌手への未練が経ちがたいと思われるでしょうが、やむを得ません)https://youtu.be/IsEtJ4Acql4

 さらに、どうしてもこのオペラで一番好き、ともいえる二重唱と合唱をちゃんと知っておきたいので2006年の新国立版の第2幕字幕付きをノートの最後に全部シェアします。このオペラを象徴する『友情の二重唱』のモチーフが流れた後、第2場後半に“火刑”を見物に集まった民衆の合唱が入ります。この時のコワリョフ、ドヴォルスキーがなかなか聴きごたえがあります。(全部このキャストで観たかった、と動画を見つけたときにはちらっと思いました、はい)15分40秒あたりからです。新国立合唱団ファンにはたまりません。

 余談ではありますが、この火刑の場面を観ると大スペクタクルな演出がなまなましく、若桑みどり著『クワトロ・ラガッツィ』を読んだ時の”26聖人の磔刑”のくだりを思い出しました。16世紀は日本も宗教弾圧がすさまじい時代で、この26聖人の中には、少年使節団に加わっていた少年もいたのです。宗教裁判長の権力や日本のキリスト教弾圧などについても思いを馳せるこの本も私にはなくてはならないものとなりました。

 今回のドン・カルロ役のジョゼッペ・ジバリの声は細くも強くもなく、前半は抑えているのかもしれませんが、それほど失恋して嘆いているような悲壮感はあまり感じられないと思って聴いていました。演技力も今一つですが、ウィーンでのお笑い系を思えば十分聴いていられました。でも、第1場の後半に修道士が歌うアリアの最後の一音がCDだと超低音を伸ばしきって終わるのですが、そこも残念ながら中途半端で残念なところでした。でもいいのです。前回まで聴き逃していた部分にも気持ちが届いていますので、この調子であの二重唱まで行ってくれればという想いでした。

 さて、もう同じオペラのノートを3回もアップしているのに、具体的な音楽的な感想は相変わらず乏しくおそまつな限りですが、第2幕は勘違いの女王、エボリ公女の出番です。MET版ではあのアクの強いメッゾソプラノのドロラ・ザジックの歌唱と悪の強い公女役が余りにも印象的ですが、第2場の2番目に歌われる『グラナダの王様のお伽話の…』ヴェールの歌が歌われ、エボリ公女としてはここが聴かせどころですが、今回のアンナ・マリア・キウリはフラメンコ調の歌いまわしがきめ細かさがでず、音程ももう一歩といった感じでした。でも、演技力でそれを補っていたようにも思います。海外からの歌手だからと言ってすべてがいい、というわけではないということを改めて実感したということです。あの「私は自分の美貌を呪う~」と歌って去るシーンは今回あまり印象に残りませんでした。

 ドン・カルロがこれまた勘違いで自分に愛の告白をしたことに気づき、復讐を誓うエボリ公女。とお決まりのパターンで話は進みます。

  今回は一回だけの休憩でしたが、2年前の旅友がお隣でしたので沢山お話したかったのですが、『会話はお控えください』のフリップを持った係員が目につきましたので、それを横目に早々に席に戻り、旅友とひそひそ声で再会を喜び合えたのがとても嬉しかったです。たまに外出しても他人様となかなか会話しにくいですので、同じ興味関心を持つことでお話が少しでもできたことは、今回のオペラ鑑賞会に参加した甲斐があったと思います。

 第4幕、第1幕の前にもう一つ幕があった、ということを書きましたが、それがあったらもっと長い!!と思われるのがこのオペラです。フランス語版のをウィーンで観たときは、休憩時にタキシードをきたフィリッポ二世夫婦とドン・カルロとエボリ公女が客席から舞台に上がり、『エボリ公女の妄想』シーンが入ったことは『私のオペラノート26』https://blog.goo.ne.jp/berlinerbororin63/e/1d25d6b603e0c5e2ca9f1594019ce343などに書いたのですが、それがあったらもっと伸びてだれたかもしれません。

 この場はフィリッポ二世のフルラネットの演技や歌声がすごく良かったと刷り込まれていますので、妻屋さんの声がやや弱く感情の起伏が十分に音で表現され切っていなかった、かと思いましたがそれでも地毛のロン毛を束ねて風格は十分な方ですので、退屈させられることはありませんでした。名アリア『ひとり寂しく眠ろう』は妻屋バージョンの動画がありませんので、やはり、というかフルラネットで聴いておきましょう。だって本当に世界的なはまり役ですし、この重低音の迫力は今のところ他に勝る人はいないと思うからです。https://youtu.be/kYxbZNxfVz4

 長丁場のオペラも第5幕になると、どうしてあんないい人ロドリーゴが死ななければいけないの、と突っ込みたいところですが、それはこの時代の宗教裁判長の権力が絶大なものだったことによるそうです。(平凡社新書 加藤浩子著『オペラでわかるヨーロッパ史』に詳しく書いてあります)今から考えると、おどろおどろしいこともその時代では当たり前のことだったのですね。火あぶりの刑を見世物にすることなど、現代では考えられないことです。ヴェルディがこの演出を観たらどう思うか聞いてみたい気がします。

 長いオーケストレーションの場面では本当はバレエが入るようですが、今までの経験ではバレエはどのプロダクションにもありませんでした。指揮者のパオロ・カリニャーニはこういってはなんですが、ドカン!と胃袋に響くようなヴェルディの鳴らした方が盛り上がるのに、と思うシーンでも終始サラっとまとめていたように思いました。あのどでかいキューピーが登場してブーイングが起きた『ナブッコ』の公演の時の指揮者も務めていたようですが。もっと鳴らしてー!!と思ったぐらいしか印象にありません。

 フィナーレは先帝の墓の前でエリザベッタとの天上での再会を約束してドン・カルロは修道士のひとりに連れ去られる、というシーンで終わるのですが、このオペラがまだコスチューム的に理解できる演出でしたので、連れ去られてしまうドン・カルロを哀れに思って涙する、という感じで終わりますが、歴史を知るともっと劇的に変わりますね。フィナーレに持って行く音楽の盛り上がりもやはりさらっとしていて少し物足りなさの残る舞台でした。でも、ヴェルディのオペラは何度か聴いているうちにその音楽性の力強さが際立っていることがわかるのですよね。『椿姫』『イル・トロヴァトーレ』『リゴレット』そして『ドン・カルロ』、ヴェルディものはきっとこれからも同じものを聴きに行くだろうと思います。

 長いうえに余談ですが、コロナ禍でのオペラ鑑賞は座席が通路に、出口に近い方が良く、カーテンコールで感激に浸ることなくサッサと退場しなければなりません。せっかく過剰なぐらいに神経を遣って入場させている新国立やコンサートホールでも退場の際はぐずぐずになってしまうことが多く怖いです。まだまだ、自己責任でびくびくしながらもLiveでの音楽に触れるにはリスクが伴いますね。心して出かけましょうぞ!! 

 

        

        今回のメインキャストです。カーテンコールもソーシャルディスタンスで

          

☆最後に同じ新国立のプロダクションでの動画が全幕揃って探せましたので参考までにシェアします。    オペラの達人(ライセンスのプロです)によるとこういう動画(YouTube)などを勝手に使うことは著作権の侵害にあたるおそれがあるとか、ですからあくまで個人の趣味の範囲で、勉強のために活用させていただきます。エリザベッタ役は『蝶々夫人』の名演でも知られる大村博美です。この舞台づくりは圧迫感があるので、あまり好きではない、と書きましたがこの顔ぶれの公演が残されていることはとても嬉しく、今こうしてオペラを観劇できることがどれほど貴重な時間で幸せなことかと、新国立劇場の努力に感謝するとともに、心配をかけながら外出させてくれた家族にも感謝の念を新たにしたのでした。

☆新国立劇場2006年シーズンの公演から 『ドン・カルロ』第1幕https://youtu.be/IddKZAvLjt                    『ドン・カルロ』第2幕https://youtu.be/zg_G8r0NgIY 『ドン・カルロ』第3幕、第4幕https://youtu.be/CnY9KJ-9GX8 

 なんとか今回は1か月以内に書き終えました。次はいよいよ100回目のオペラノートです!!初めて観る、ということにこだわって『マイスタージンガー』に挑戦しようと思っているのですが、果たして?

 

 

 


私のオペラノート98

2021年05月01日 | オペラ

      《初めてのオペラ『夜鳴きうぐいす』と『イオランタ』を観る》

 コロナ禍になってから特に思うことは、これまで以上にライブでオペラを観劇するときは、なるべく”初めて”観ることを条件にしよう、と久々に新国立劇場にこわごわ足を運んだのがこのダブルビルのオペラです。先ずは新国立のこのダブルビル(二本立てをこういうのだそう)のオペラ2本のダイジェスト版の動画が公開されていましたのでシェアします。そのあと、海外のプロダクションのをシェアするというのも自分の感想が既にバレバレではありますが、日本の劇場の公演開催に対する努力に敬意を表して、最初に日本のダイジェスト版をシェアします。https://youtu.be/PpjbL6iEd9Q

 『夜鳴きうぐいす』はだいぶ前にエクサン・プロヴァンスでの録画を観たことがあり、そのいかにも西欧の人から見ると中国はこうなるわね、という感じの京劇調の演出でしたが、うぐいす役が新国立やMETで『ルチア』を歌っていたペレチャッコであったり、短くも印象的な面白いオペラだという認識でした。海外版の代表なので、水上人形劇の演出のエクサン・プロヴァンス版の動画をシェアしておきましょう。https://youtu.be/eRMHcl0OZxk

 一方の『イオランタ』はまったく予備知識がなかったので、作曲がチャイコフスキーなのだから、きっとメロディが美しいだろうと期待を込め、動画などを検索したところ、クルレンツィスの素晴らしい演奏でのオペラ公演を探し出すことが出来ました! それといつも通りCDの全曲盤を聴きながらこのオペラノートに取り掛かることができました。(CDの到着が遅れ、結局オペラノートはいつものごとくひと月ぐらい遅れますが、CDはゲルギエフ指揮のあの素晴らしいバリトン歌手ホロストフスキーが参加しているCDが地元の図書館にありました!!)そのほか、ナタリー・デセイの『イオランタ』もYouTubeで聴き比べました。https://youtu.be/tcZJ_xamX1M

 また、『イオランタ』の動画はスペインのリアル劇場版でクルレンツィスが客演指揮者として振ってくれたものを見つけられましたので、本当に嬉しくて英語の字幕ですが、これも十分楽しめる内容だと思いますのでシェアしておきたいと思います。https://youtu.be/CSn0qvYJsCs

 

         

             感染防止対策に本当に神経を遣った対応でした

        ☆2021年4月4日(日) 14:00開演 新国立劇場オペラパレス

      ☆ストラヴィンスキー『夜鳴きうぐいす』

      ☆出演 夜鳴きうぐいす:三宅 理恵

          料理人:針生 美智子

          漁師:伊藤 達人

          中国の皇帝:吉川 健一

          侍従:ヴィタリ・ユシュマノフ

          僧侶:志村 文彦 

          死神:山下 牧子

      ☆演出 ヤニス・コッコス

      ☆指揮 高関 健

      ☆演奏 東京フィルハーモニー交響楽団

      ☆合唱 新国立劇場合唱団

      ☆オペラ鑑賞度 A  (これは黒田恭一さんの著書にもどこにも

       評価基準がありませんので、素人の私の感想によります)

 

    

      鮮やかな色彩の舞台と大健闘の女性歌手陣に拍手です

 もしかしたら、世界一短いオペラと言えるかもしれません。これはあのアンデルセンの童話をベースに書かれたオペラだそうです。50分ちょっとではありますがあらすじも明快で、とてもリモートによる演出であるとは思えないほど工夫を凝らした自然な流れで、指揮者とオーケストラ一丸となってまとまりのある印象に残るオペラになったと思います。座席は私の大好きな”ドレス・サークル”つまり3階の最前列の通路寄りですから、抜け出すにも便利です。海外からの歌手のキャンセルが多いため根っからの日本人歌手に対する感情(偏見がまだあるというべきか)が邪魔をしているため、念のためあまり歌手に目がいかない程度の距離感は大切だったのです。それを半分ぐらいは打ち消してくれたのが、この日の東フィルの演奏、なかでもクラリネットのアレッサンドロがいつも通り感情たっぷり込めての演奏する姿が見えたのが、先ずは何より嬉しかったです。そして、うぐいす役の三宅 理恵のよく伸びる細すぎない声がとても心地よく、ブランコに乗りながらの歌唱は難しかったと思いますが、3階の客席にもアリアの最後の弱音も良く振り返っての歌唱でも、客席までその声が伸びて届いてきたので感激しました。アリアの名前が頭に入っていませんが、このオペラの重要なモチーフとして『漁師の歌』が何度か流れていることは解りました。

 最後の幕(第3場というべきか)日本から贈られた機械仕掛けのうぐいすのせいで、調子を崩した中国の皇帝のそばにいる、死神。山下牧子が白塗りの死神を不気味さと摩訶不思議な存在感を達者に歌います。皇帝はいまひとつ存在感が薄いままでしたが、ここはソプラノとメッゾ・ソプラノの女性陣が抜群の安定感で舞台を成功させたと思いました。最後のシーンまで目にも楽しいオペラだったと思います。ストラヴィンスキーのオペラということで現代的な不協和音がいっぱいのオペラかと、身構えて劇場にきてしまいましたが、その予想をいい方に見事に裏切って楽しませてくれたオペラだったといえます。ナタリー・デセイのCDの情報があったので後日追記します。指揮者の高関 健については事前のオペラトークで急遽ダブルビルのオペラを振ることになったいきさつなどが音楽監督の大野 和士との対談がアップされていますので、初めて取り組むこのオペラへの意気込みや解釈について参考になりました。が、全体にそつなく、という感じでしたかね・・・

 あと、今回の新国立版は舞台の鮮やかさが特に印象的でしたが、やっぱりオペラそのものは男性陣の不振もあり、デセイが絶頂期に出演していた動画を観ると表現力や歌唱力が凄すぎて、嫌いな新演出でも魅せてしまうと思ったこと。これはどうしようもないことでした。動画だからこう歌声を編集できたのだ、としてもこれは観る価値があると思います。字幕はフランス語ですが参考までにナタリー・デセイの『夜鳴きうぐいす』をどうぞ。https://youtu.be/tcZJ_xamX1M

 

       ☆チャイコフスキー『イオランタ』

       ☆出演 ルネ王:妻屋 秀和

           ロベルト:井上 大聞

           ヴォデモン:内山 信吾

           エブン=ハキア:ヴィタリ・ユシュマノフ

           イオランタ:大隈 智佳子

           マルタ・山下 牧子

       ☆合唱&演奏は『夜鳴きうぐいす』に同じなので略します。

       ☆オペラ鑑賞度 A(これも黒田恭一さんの著書にはありません   

        が、観る価値ありのオペラだと思いますので

        同様に素人判断でAとしました)

 

     

      『夜鳴きうぐいす』にも出演の山下牧子さん(右側)安定感抜群の存在です

このオペラについては冒頭に書いたように、予習の際に見つけたクルレンツィスの動画のお陰と事前の新国立のプレトークのお陰で、最大のみどころ、聴きどころが解っていましたので、それを楽しみにまた東フィルの演奏にも集中して臨めました。これも、物語はヘンリク・ヘルツという童話作家の一幕ものの作品です。内容もいたってわかりやすく、いわゆる「あり得ないでしょ!」の突っ込みが入りそうなオペラです。CDの全曲盤もゲルギエフがキーロフオペラで振ったもので予習、参考にしましたが、なんとあのスーパーバリトンのホロストフスキーが、いいなずけのロベルト役を歌っていて、それはそれは見事な歌唱でしたので、なおのこと新国立版のテノールとこの役のバリトンにはがっかりさせられた、というわけです。でも、全編落ち着きのある舞台設定と照明とチャイコフスキーの美しい旋律がマッチしていて、時折アリアに寄り添うアッレサンドロのクラリネットの響きが物悲しく、その突っ込みを帳消しにしてくれます(ほめているのか、くさしているのか・・・)それにしても、自分が全く目が見えないことに気づかないまま大人になるという、けったいな物語をオペラにするにはチャイコフスキーも相当頭をひねったことだろう、等と思いながら観ていました。そして、『イオランタ』も『夜鳴き』と同じ、女性歌手陣大健闘という結果でした。でも、最後に結ばれるというイオランタ役とヴォデモンが夫婦です、というプレトークは余計でしたね。奥さんの方が大健闘で夫の方がトホホな歌唱では、これからもっと声を鍛えないと出演の機会がなくなるのでは、と心配しましたから。声が出せる環境でしたら、私でさえこのテノールの叫びでしかない声に「Boo~!!!」か親指を下に向けたでしょう。これからは、奥様を悲しませるような存在にはなりませんように。

 そして、話をオペラに戻すと、ルネ王役の妻屋秀和さん、いつもは安心して聴いていられる存在なのに、来日キャストがキャンセル続きのせいか、出番多すぎるせいか声が少し疲れているように思いました。ましてやこのオペラノートを書きつつ、いつもホロストフスキーを聴いていたので、なおのことその迫力の違いに新国立での歌声が残念に感じました。でも、やっぱり改めてこの方の実力が一番日本では安定感があるということなのでしょう。 5月に公演予定の『ドン・カルロス』でも海外からのキャストがキャンセルになった代役でフィリッポ王を務めることになったそうですから、フル回転でどうか公演の際に声が出ない、ということになりませんよう早くお疲れがとれますようにと願っています。(オペラ公演支援のため、レクチャー付きのこの公演を観に行くことになっています)

 このオペラは第9曲の6番目に『情けある、偉大な、誠実な神よ』というイオランタ、ヴォデモンそして合唱によるフィナーレを迎えますが、ここを聴いて「あっ、この曲は?」とチャイコフスキーファンならすぐに気づくことでしょう。(1時間39分辺りからを、Don't miss it!!)私の大好きなチャイコフスキーの交響曲です!!)そして、大感動となるに違いありません。最初にシェアしたクルレンツィスの動画ですぐに確認したくなります。イオランタの声と乳母のマルタは新国立勝利、と言いたいですがこの動画の全体のテンポ感はさすがテオ様、と言いたくなります。だからもう一度シェアしておきます。https://youtu.be/CSn0qvYJsCs

蛇足、ですが、このダブルビルのオペラはロシア語のオペラです。だからライナーノートの歌詞を見てもどこを歌っているのか拾えず、CDの曲順でアリアを確認しながら聴いています。日本人歌手がロシア語の発音が不明瞭でも一語でもわからないので、表現力に乏しい歌手は認められないというか、納得できずに不満ばかり募ってきくことになります。唯一両方のオペラに出ているロシア人の歌手はロシア語のプロ、ではありますが、まだ存在感が薄いので今回は言葉の響きが気になる、ということは関係なく音楽の面白さ美しさだけで楽しんで来たということです。

 はい、ひと月遅れでなんとか書き残しました。まともな感想はプロの音楽評論家の先生のブログを参考に、『私のオペラノート』は「これなら面白そうだから、新国立か上野の文化会館に行って見よっか!」と思えるものを目指し、100本アップまでグダグダ書き綴ろうと思います。はい、おそまつ様でした。

 

       


私のオペラノート97

2021年01月01日 | オペラ

          《9か月ぶりのオペラ『リナルド』を観る》

 ’20のうちに書き始めたオペラノートの最新版がどうしても書き終わらず、コロナに毒された気持ちはなかなかお気楽に文章を書かせてくれないみたいです。それでも、昨年の2月に聴いたセミ・ステージ形式のオペラ『カルメン』の際に、イタリアに帰国したクラリネット奏者のアレッサンドロが無事日本に戻ってこられて、10月に自分の初リサイタルを開くことが出来て、大みそかのカウントダウンコンサートでも感情豊かな腕前を披露していたことはとても嬉しいことでした。ですから、元日から想いを新たにして(このオペラノートも出だしは数年前に観たオペラを、「せっかく高いお月謝をはらって体験したものなのだから、書き残しておかねば」と始めたのですから)ほんの2か月前のことなら何とかなるか(いや、そういうもんじゃないよねぇ)いや、何とかしなければ身体を張ってオペラを届けてくれた方々に申し訳がありません。ドラマティックな『箱根駅伝』が終わっても、また私のオペラノートはつづく・・・

 

      ☆2020年11月3日(火)開演15:00 東京オペラシティ

      ☆ヘンデル 『リナルド』 セミ・ステージ形式

      ☆出演者については無料で配布されたプログラムを添付します

      ☆オペラ難易度 C (何時も参考にしている音楽評論家

       黒田恭一さんの著書にはこのオペラははいっていませんので

       素人のわかりやすさ、を基準にそう判断しました)

    

    

 このオペラを9か月ぶりに観るオペラとして選んだ理由は、先ずこれまでLIVEで観たことがない演目だということと、オーケストラがあの古楽器の世界的スペシャリストの職人軍団、バッハ・コレギウム・ジャパン(とても長い名前なのでいっぱしに皆さんが書かれているようにB・C・Jと略します)がオルガンの名手でもある鈴木優人の指揮振りであるということでした。また、5年前に病気をしたときにそのB・C・Jの『メサイヤ』を聴きに行けなかった悔しい思いが残っていたからでもあります。       それともう一つは、唯一このオペラの公演を『グラインドボーン音楽祭』の録画で観たときに、そのプロダクションが突拍子もない新演出で(暴力教室?荒れた学校生活がモチーフのようなものでした)果たしてそれでヘンデルのオペラを観た、と言えるのかという想いもよぎったからなのでありました。

 数年前にカルチャーセンターのオペラ講座で『バロックオペラ』をかじった時に、貴重なDVDや音源を聴かせてもらい、あの古楽器独特の少し乾いたような、素朴でノスタルジックな音がとても心地よかったことを思い出したので、出来れば古楽器でこのオペラを聴けたらいいなという気持ちでした。それと、出演者の中にウィーン国立歌劇場で歌ったというカウンターテナーの藤木大地が登場するというのですから、そりゃあ”荒れたハイスクール”ものよりはいいに決まっています。(『グラインドボーン音楽祭』は歌劇場の場所も劇場の中の雰囲気も良かったですが)予習はこのBSプレミアムの『リナルド』の録画は消去したので、CD全曲盤を数回繰り返しライナーノートや今回のプログラムに音楽評論家の加藤浩子さんが寄稿されたあらすじやヘンデルについての文章を参考にさせていただきました。上記のオペラ講座も加藤先生のご担当で、豊富なお手持ちのDVDなどから古い時代のとても面白いDVDを観せていただいたことが古楽器やヘンデル、そしてバッハにも耳を傾けることが出来るようになったきっかけであったと思います。

 いつも通り長い前置きはこのぐらいにして・・・

第1幕目の序曲が流れ始めると、その古い時代のオペラが彷彿とされて胸がわくわくしてきました。途中から曲調が変わってしまうので、もっとそのテンポ感に浸っていたいところですが、舞台上には何やらRのマークのまるで楽天の印みたいなTシャツを着たリナルド?オタクっぽい雰囲気で座り込んでいます。でもアリアの最初は十字軍の騎士ゴッフレードが歌います。このあとその兄弟エウスタツィオも今回のオペラではカウンターテナーで歌います。もともとそうなのかは定かではありません。観た感じは細身のゴッフレド役の久保法之はまだ歌い始めだったからかもしれませんが、見た目は騎士だけれど割と童顔で華奢な感じだったので、なかなかそのアリアには納得せず馴染めませんでした。              テンポは全く違いB・C・J の序曲の方がはるかに良かったですが、バロック時代のゆったりしたヘンデルのオペラの良さが解るかと音源を付けてみました。https://youtu.be/PU2Cg5FswHM         

と、うろ覚えの状態で待ち望んだアルミレーナ(森麻季)が登場CD第2番『勇者として戦ってください』は思いのほか情感あふれた歌唱で惹き込まれました。日本人のソプラノにいつも薄っぺらさを感じて難癖ばかり付ける私ですが、この時はその容姿、衣装を含めて美しい歌声に背筋が伸びる思いでした。CD版のバルトリはメゾ・ソプラノですのでアップテンポのこのアリアでは多難な恋の行方を歌う哀れさが足りない、と思ったりしました。

 舞台全体が現代と1099年のお話ということでミスマッチな感じになるかと思いきや、やはりチェンバロの響きやオケの演奏が良いので余計な感情の入る隙がなくて、われながら驚きました。そして7番目のアリアで遂にリナルド(藤木大地)の歌声を初めて聴きました。滑らかな音の流れ、無理のない発声、さすがウィーンで歌った人だ、と単純に感動しました。指揮は違いますが第1幕の29番目のリナルドのアリア『風よ、旋風よ…』を歌う藤木大地の動画をみつけました。勿論、演奏はバッハ・コレギウム・ジャパンです!!これを見つけたときホントにWunderbar!と思いましたので、貼り付けます!!他力本願オペラノートの極みです。   (2015年のNHK『ニューイヤーオペラコンサート』の模様です。NHKに初めて感謝です)https://youtu.be/NbU4ktHo_5c

 もう、コロナが怖いので本当は適当なところで引き揚げようかと思っていたのですが、予想以上にアルミレーナ、そしてもう一人の魔女役アルミーダのソプラノ中江早希もよく通る感情豊かな歌声だったのでもうちょっと観なくちゃ、と休憩時にひとりチョコをほおばりながら客席へと戻ったのでした。

 さて、なかなかきき覚えのあるアリアが出てこないし、例のアのアリアはどの辺りで歌われるかも定かではない状態ながら魔法使いのアルミーダに迂闊にも連れ去られたり、そのアルミーダがリナルドを好きになりアルミレーナに化けて誘惑しようとしたりと、オペラにあるある話が展開されます。このあたりはアリアはうろ覚えだけれどチェンバロの伴奏部分がとてもいい感じにつないでくれるので飽きない、本当に一度も眠気など起こさずに聴いていられたと(そこ?感動のしどころは?)アルミーダが魔法使いらしからぬ純真な声で歌うシーンが印象的でした。それと4番目に歌われた『二人のアリア(シレーナ達)』第19番のさわやかな二重唱も印象的でした。第2幕の最後(CD24番目第28番『私は闘いを挑み、怒りをもって』)でアルミーダが歌いだす前のチェンバロは私が書くのもおかしいけれど演奏が半端なくうまくて、親の七光りでも(大変失礼な言い方ですが)才能の花開かせる人もいるものだと、妙なところで感心ひと仕切りで制限のある中での見せ場を作り上げたバッハ・コレギウム・ジャパン、鈴木優人の実力を思い知ったのでありました。

 2回目の休憩時も日頃挨拶に駆け寄るべきオペラの先生にも声掛けできず、早めに席に戻り唯一知っていた有名なアリア『私を泣かせてください』を頭に甦らせていました。このアリアを聴きにきたようなものです、これしか知らないんですから。それが森麻季のアルミレーナが見事に歌いきって、魅せてくれました。心情が良く伝わるような素晴らしく愛情あふれる歌唱だったと思います。今回のものではありませんが彼女のアリアがありましたのでそのまま残させていただきます。でも、セミ・ステージの時の歌がはるかに感情がこもった良い歌唱であったことは行ったもん勝ちな見解で書いておきます。事前に聴いていたバルトリはメッゾなのではかなさのような表現より歌の上手さで聴き入りましたが、この日のアルミレーナは終始、純粋、透明感のある声が聴衆の想いを共有させるような、情感に溢れた素晴らしい歌声だったと思います。あぁ、9か月ぶりにこわごわ新宿まで来た甲斐があったというものです。CD12番目第22番『過酷な運命に涙を流し(通常『私を泣かせてください』で知られていますよね) https://youtu.be/jBYFmxGQCHQ

 古楽器のオーケストラだとその使われている楽器にも目が向きます。特に私と同じど素人仲間の家族がリコーダーをかじっていますので、木管楽器の音色にとても惹かれます。それとティンパニー、太鼓が実におもしろいし、ヘンデルの時代のオペラにはふさわしくて芝居小屋の裏手で大ざるを揺すって波の音を出すなどの効果音が楽しくて完全にひとりでその時代に行ってしまっていました。          

 第3幕目はゴッフレードとエウスタツィオの活躍でリナルドとアルミレーナを助け出し、エルサレムを総攻撃して陥落させ、魔法使いのアルミーダたちをキリスト教に改宗させ、二人はハッピーエンド、ということです(すべて解説とあらすじをプログラムに寄稿された音楽評論家・加藤浩子さんの受け売りしました)   何度もしつこく書きますが、このオペラは時代がかったスペクタクルな仕掛け(実はちゃっちいくて吹き出すようなものなのですが、当時は大うけしたことを彷彿とさせてくれて、私はその演出が好きですし、バロック音楽に関心を持った第一歩のラモーのオペラノートのくだりにそのあたりをぐちゃぐちゃと綴っています(ラモーの『優雅なインドの国々』https://blog.goo.ne.jp/berlinerbororin63/e/bb0a25fa981710589534a1ed1841c98d

 最後までゴッフレードとエウスタツィオの二人の歌唱にはあまり心が動かされませんでしたが、リナルドの声の奥行き(やはり声量が他の二人のカウンターテナーとは違うように思いました)豊かさが保たれて感情移入してしまいましたから、この日藤木大地を聴くことができたのはとても有意義なひとときだったです。出来れば”かつてウィーンでうたったことがある”だけで終わってしまわないで、もっと世界で活躍してほしいと願いました。コロナが終息しないことには無理な望みではありますが。          この幕ではCDの13番目第33番の『行進曲』がB・C・Jの上手さがきらめく演奏で心に残りました。帰宅後何回も全曲盤を聴きなおして、このオーケストラの上質さを思い知ったということです。バッハに全く疎い私でも、今度こそ『メサイヤ』や『ロ短調ミサ曲』を聴きに行きたいと思いました。

 『私のオペラノート』の定番、寄り道します。B・C・Jがオンラインで演奏をしたすごい『第九』がありますので、シェアしておきたいと思います。私が聴いたベートーヴェンの『第九』の中でもピカイチの演奏だと思います。指揮は第一人者の鈴木雅明先生です。当たり前ですがテノールのドイツ語がお見事綺麗です。この時代を踏ん張ってこのメンバーでぜひ『第九』を演奏してほしいと思いました。https://youtu.be/hyLw9NfzSLU 

 予習に使ったCDはやはり凄い歌手が揃っていたのでもう一度紹介しておきます。ゴッフレードにベルナルド・フィンクが名を連ねていました。バルトリとディヴィドにばかり気を取られて気が付きませんでした。 

   

      バルトリぐらいコロラトゥーラが回れば今回のオペラは完璧でした、か。

  と、まぁ音楽的センスは何か月かかろうとゼロのままですが、gooのブログサイトから「更新せよ!!」の催促の嵐なので、とにかく何とかアップしてオペラの師匠たちの文章をチラ見しながら訂正してゆきます。なんという体たらくでコロナのせいばかりではないことは明白なオペラノートでした。あと3本で100本のオペラノートになるのですが、大丈夫でしょうか・・・